イラスト担当は記憶を無くしました   作:大森依織

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今回は久しぶりの瑞希さん視点です。





177枚目 【暁山さんが見つけた尻尾】

 

 

 

 

 ……やっぱり、学校に行くのは色々とめんどくさいな。

 

 世の学生はどうやってこの気持ちに打ち勝ってるんだろうね? ボクには全くわかんないや。

 

 今日も変わらず好奇の目に晒されるし、ヒソヒソと喋られている内容が聞こえちゃうと、やっぱり気分が悪い。

 そういうものだと思っていても、積極的に行きたい場所ではないな~って改めて思っちゃう。

 

 

「瑞希ーっ」

 

「あ、杏じゃん」

 

 

 先生に捕まってしまう前に帰る準備をしていたら、なんとビックリ! 杏から声をかけられた。

 

 最近は委員会がある日以外は練習のために真っ先に帰るらしいのに……もしかして先生に「暁山を呼べ!」って言われたとか?

 ……うん。バカなことを考えてないで、ちゃんと答えないと。

 

 

「放課後に声をかけてくるなんて、珍しいこともあるんだね~」

 

「今日は練習がない日だからさ。そんなところに珍しく瑞希がいたから、声をかけちゃった」

 

「むむむ、確かにボクが教室にいる方が珍しいか。悔しいけど、これは1本取られたなー」

 

 

 ボクが大袈裟に肩を落としてみせると、何かがツボに入ったらしい杏は笑った。

 

 

「あはは。そこ、悔しがるところなんだ? ……ところで瑞希、今日ってこの後時間があったりする?」

 

「特に用事はないけど、どうしたの?」

 

「この後一緒に遊べないかなーって思ってさ。どう?」

 

「行く行く! それで、どこ行くの?」

 

「こういう時に行く場所といえば、やっぱりカラオケだよね!」

 

「えっ、カラオケ? それって色々と大丈夫?」

 

 

 一瞬、聞き間違えたのかと思ったが、どうやらボクの耳はしっかり機能しているみたい。

 まさか練習がお休みの日まで歌いたいとは、このボクの頭でも理解が追い付かなかった。

 

 何のためのお休みなのかボクにはわかんないけれど、まぁ、それで杏が休めるっていうならボクは友達として付き合うのみだ。

 

 

「杏が良いなら、まぁいっか。それで……カラオケってどこに行くの?」

 

「近くにいいところがあるから案内するね。それじゃあ早速、行こっか!」

 

「そうだね、早く行こ~っ」

 

 

 最近は学校に来ている方なので、たぶん捕まることはないと思うけど……それでも学校にいたら声をかけられる可能性は、低確率でも存在するわけで。

 杏も乗り気なうちに、ボクらは学校を後にした。

 

 

 

 

 

☆★☆

 

 

 

 

 

 カラオケに向かう途中で、見慣れた茶髪が目に入る。

 宮女の制服を着ている時は割と紫の髪──というか、まふゆもセットなことが多いのに、今日は珍しくおひとり様らしい。

 

 

(絵名が1人だなんて、今日は珍しいことが重なるな~)

 

 

 そう思いつつも、ボクは隣にいる杏に声をかける。

 

 

「ねぇねぇ、杏。ちょっとボッチな知り合いを見つけたから、一緒にいかない?」

 

「えー? ……あぁっ! もしかして、あそこにいるのって絵名さん?」

 

「そうそう。寂しそうだし、声をかけてあげようかな~って思ってさ」

 

 

 そう言ってる途中でふと、絵名の顔が目に入る。

 

 

「……」

 

 

 そんなに唇を噛んだら血が出ちゃうよ、とか。

 せっかくの可愛い顔が台無しになっちゃうぐらい怖い顔してるよ、とか。

 

 普段出てくる軽口は悔しそうに顔を歪める絵名を見ていたら消えてしまった。

 

 

「瑞希? 声、かけないの?」

 

「……えっ。いや、かけるよ! あはは、ちょっとぼーっとしちゃった」

 

 

 杏に声をかけてからもう1度絵名の方を見ると、歪んでいた絵名の顔はいつもの可愛い顔に戻っていた。

 

 

(気のせい? ……ううん。絵名は『隠れるのが上手』なんだっけ)

 

 

 いつかまふゆに言われた言葉を思い出したおかげで、さっきの顔は気のせいじゃないと確信した。

 

 絵名が何を考えてあんな顔をしていたのかはわからないけれど、ちょっとぐらい気分転換になる手伝いをするのはボクの得意分野だからね。

 いつもお節介な子に、お節介のお返しだ。

 

 

「やっほー、えなな~ん! 暇? 暇そうだね! ということで今から杏と一緒にカラオケにレッツゴー!」

 

「は? え、ちょっと!? 急に現れて掴まれても困るんだけど!?」

 

 

 口ではそんなことを言っているのに、引っ張っても抵抗はないし、杏の前まで連れて来た絵名はおとなしい。

 えななん検定持ちのボクの見立てだと、この反応は『特に用事もなし・乗り気』なパターンの時のモノだ。

 

 これは押せばいける。絵名は基本、知り合いからの押しには弱いからね。

 

 

「ボク、絵名とも遊びたいな~って思ったんだけど、ダメかな?」

 

 

 ダメなら諦めるから、と付け加えればこの通り。

 

 

「……ダメとは言ってない。白石さんも良いなら、別に行ってあげてもいいけど」

 

 

 今日も絵名はちょっぴり素直じゃないけれど、折角お許しが出たのだ。気が変わらないうちに事を進めよう。

 

 

「杏ー! 絵名を捕まえたから3人で歌お~♪」

 

「オッケー! 案内するから今度はよそ見しないで付いて来てね!」

 

「えぇ? 飛び入り参加でもいいの、これ……?」

 

 

 絵名がボクと杏のやり取りに困惑している間に、すたこらさっさと連行する。

 楽しくなれば、ちょっとぐらい気が緩んで口が軽くなるでしょっていうのがボクの予想だ。

 

 

(疲れちゃうぐらい歌わせても良いし……うーん、今日も楽しくなりそうだな~)

 

 

 この時はまだ、楽観的な気持ちのまま楽しく歌のことを考えてたんだけど……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分の部屋まで戻ったボクは誰も見ていないことを良いことに、可愛くない溜め息を零した。

 

 

(参ったなぁ。思ったよりも簡単な話じゃなかったみたいだ)

 

 

 ちょっとガス抜きしたらまたいつもの調子に戻るかな~っていうのはあまりにも楽観的だったらしい。

 絵名はあまりそういうのを態度に出してくれないから困る。

 

 調子を崩せば崩す程、偽装も上手くなってるみたいだし。

 変な所だけ上達させるんじゃないと訴えたいところだよ、ほんと。

 

 

(家まで送ってみたけれど……たいした情報はゲットならず、かぁ)

 

 

 唯一、得られた情報が「ごめん、私の口からは上手いこと言えない」だし、お手上げだ。

 

 ボクら、結構深入りした付き合いだと思うんだけどな。

 あんなあからさまな躱し方をされても、絵名が自分のことで悩んでるってことぐらいは手に取るようにわかる。

 

 絵名が他人のことで悩んでいた場合、塞ぎ込む時間があったら動いてると思う。

 そういうことから推測しても、絵名の悩み事は自分自身のことだと予想できた。

 

 

(自分のことなのに、自分の口から言えない……ねぇ。だったら、他の人なら聞いてもいいよね?)

 

 

 ボクが聞いてアレが答えだったのだから、奏やまふゆが聞いていたとしても似た答えになっているはず。

 その場合、何か聞けそうな可能性があるのは弟くんと愛莉ちゃん、そしてセカイの皆だ。

 

 

(リンだったら何か知ってるかな)

 

 

 今、気軽に会えるのはセカイの皆の方だ。

 弟くんに会うのは学校じゃないと難しいし、愛莉ちゃんに確認するのは高難易度だから後回しにするしかない。

 

 

(善は急げと言うし、絵名がセカイに来る前に用事を終わらせないと)

 

 

 瀕死気味だったスマホも復活したので、ボクは急いで曲を再生する。

 

 

 

 

 

 

 

 

「──瑞希、いらっしゃい」

 

 

 セカイに来たボクを迎え入れてくれたのはミクとリンだった。

 

 

「やっほー。2人とも、周りを見渡してどうしたの? 何か探し物?」

 

「スケッチブックを探してるの」

 

 

 リンの答えにボクは首を傾げてしまう。

 絵名じゃあるまいし、何でスケッチブックなんかを探してるんだろう?

 

 ……いや、もしかすると。

 

 

「それって、絵名が悩んでることと関係あったりする?」

 

 

 今日のボクは冴え渡っているみたいだ。

 明らかに知ってそうなミクとリンの反応に、ボクは上がってしまう口角を手で隠した。

 

 

「……うん。わたし達が今、探してるスケッチブックがその原因みたい」

 

「スケッチブックが?」

 

 

 リンが嫌そうな顔で答えてくれたのに、イマイチ頭の中で繋がらなかった。

 

 何か絵を描いていて嫌なことがあったとか?

 それとも、また厄介な奴に絡まれた?

 

 色々と考えが出てくるんだけど、多分全部近いようで遠い気がするな。

 

 

「それ、もう少し詳しく聞いてもいい?」

 

「わたし達も詳しくは知らないけど……」

 

 

 そう言って話してくれたミクの話は、どうにも受け入れるのが難しいモノだった。

 

 ある日、絵名が処分しようとセカイに件のスケッチブックを持ってきたのが、ミク達もソレを知ることになった始まりらしい。

 

 危害を加えようとしたら絵名がすっ飛んでくる上に、傷つける事すらできないらしいソレ。

 切ろうにも弾かれて、火を近づけたら見えない壁に遮られるように火の方から避けるという。

 

 それだけでも冗談か何かにしか聞こえなかったのだけど、ミク達の様子を見ている感じ、そうでもないようだ。

 

 

「──それで、そのスケッチブックのせいで、絵名は肝心なことを喋れないの?」

 

「この前、話してくれようとした時は……首を絞められたみたいになってたよ」

 

「首を……」

 

 

 リンの話を聞いた瞬間、頭の中で浮かんだのは首を抑えた絵名の姿だった。

 あの時のボクは『喋れない呪い』とか言いながら、絵名に相談して欲しいって言っていた記憶が残っている。

 

 

(あの時にはもう、本当に『喋れない呪い』にかかってたって? ……笑えない冗談だね、それ)

 

 

 ボクの秘密と交換するように、絵名も秘密を交換してくれたと思っていたんだけど……その秘密が2段階になってるっていうのは予想外だ。

 

 

「ミク、リン、他にも何かないの?」

 

「絵名がスケッチブックのことを『私の全ての始まり』って言ってたよ」

 

「わたしはそれに関係しそうなノートを持ってる」

 

 

 ミクの情報と、リンから借りた落書きにしか見えないノート。

 これらを見てもやっぱりよくわからなくて、悪戯ですと言われた方が納得できてしまう。

 

 

「……これ、奏やまふゆにも話した?」

 

「ううん。まふゆは家族のことで大変そうだし、奏も……眠れてないみたいだから」

 

「奏が? この前もそれっぽいことを言ってたけど、いつもの徹夜癖じゃないの?」

 

「うん。寝ようとしてるけど、難しいみたい」

 

 

 ミクの話を聞いていると、何だか物凄く嫌な予感がしてきた。

 まるで足場をゆっくりと削られているような、じりじりとした感じ。

 

 

「今の状況だと2人の負担になる、か……ボクの方でもそれとなーく絵名に聞いてみるよ。奏達に話すかどうかはミク達に任せるね」

 

 

 聞き出したボクでさえ、イマイチよくわからなかったのだ。

 絵名がおかしいかもって前提がなければ、スケッチブックの話を聞いても訳がわからないこと以外の感想が出てこないだろう。ボクもそれに近いし。

 

 

(絵名の秘密といえば記憶喪失だけど、それとスケッチブックが関係あったりするのかな?)

 

 

 そう思ったものの、記憶喪失は事故が原因だと聞いている。

 傷付けられないし、絵名の言動を操作しているらしいとはいえ……流石に別件だよね。繋がる要素がないし。

 

 セカイって場所を知ってるボクでも信じ難いアイテムが、絵名を苦しめてる原因かもしれない……か。

 

 

(もしもミク達の言ってるような摩訶不思議なスケッチブックがあるのだとしたら……すっごい嫌な予感がするし、今度はボクが頑張らないとね)

 

 

 現状、わからないことが多いけれど、それでも動きたい。

 絵名が動いて掴んでくれた手を、奏とまふゆが優しく受け入れてくれた場所を守りたいって、思うから。

 

 

(話せない呪いの詳細はわかんないけど、穴だってあるはず……まずは絵名から上手いこと聞き出そうかな)

 

 

 

 

 

 

 ──そう決意したものの……絵名が抱える問題の尻尾を掴むよりも先に別の問題が噴出してしまうことを、今のボクはまだ知らなかった。

 

 

 

 

 

 

 






ヒントが少な過ぎて、瑞希さんに気が付けと言う方が酷なレベルですね。
現段階では、えななんのヒントで気が付くことは難しいようです。


Next──『願いは、いつか朝をこえて』


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