イラスト担当は記憶を無くしました   作:大森依織

179 / 254


フィーリングで決めてるので、そろそろサブタイの被りがあるんじゃないかとビクビクしてる今日この頃です。




179枚目 東雲家の食卓

 

 

 

 

 

「はい、パジャマはこれ使って」

 

 

 お母さんに報告してからまふゆと揃って部屋に戻り、早速パジャマを手渡した。

 パジャマを受け取ったまふゆはまじまじとそれを見ている。

 

 

「言っとくけどそれ、最近買った新品だから。心配しなくても綺麗だからね」

 

「……うん。ありがとう」

 

 

 口では感謝を言っているのに、視線はパジャマに釘付けだ。

 そんなに好みじゃないものだったのだろうか。何も言わないまふゆに首を傾げていると、「絵名ー、ご飯よー」とお母さんの声が聞こえてきた。

 

 

「はーい、すぐ行く! まふゆ、行くよ」

 

「……うん」

 

 

 パジャマを見ているまふゆの手を引きリビングに行くと、ほぼ同じタイミングで彰人も中に入ってきた。

 

 

「ただいま……げ」

 

「あ、彰人。おかえり……後、その態度は無いんじゃない?」

 

 

 何故か声をかけただけで彰人の目が泳いでるし、あまりにも失礼ではないだろうか。

 そう思いつつも視線を下に向けると、最近見た覚えのある紙袋が目に入る。

 

 

「それ、駅前に新しくできたパンケーキ屋さんのやつ?」

 

「あー、めんどくせえのに見つかっちまった」

 

「めんどくさいのって、あんたねぇ。ま、その言い方だと私の分はなかったんでしょうけど」

 

「何で毎回お前の分も買わなきゃならねえんだよ」

 

「そこは同じものが好きな者同士、協力しても良いと思うんだけどねー……ただ、今日はまふゆもいるし、ちょうどよかったのかも」

 

「は……?」

 

 

 私の言葉で、やっと彰人の視線がまふゆの方へと向く。

 どうやら私からパンケーキを守ることに意識が向いていて、いつもリビングにいない存在に気が付かなかったらしい。

 

 彰人の視線が向いたのを見計らったのか、まふゆは学校の中の様に笑みを浮かべて会釈する。

 

 

「おじゃましてます。えっと……彰人くん、だったかな?」

 

「あぁ、どうも。すみません、変なところ見せてしまって」

 

「いえ、私の方こそ急にごめんなさい。今日は色々あって泊まらせてもらうことになったんです」

 

 

 この猫の皮の頂上決戦みたいな状況は何なのだろうか。

 彰人も外面を使い分けるタイプなので、両者の本性を知ってる側からすると「うわぁ」という声以外に出てこない。

 

 

「……なんだよ」

 

「別にー。あっ、お母さん。私も手伝うよ……まふゆはそっち座ってね」

 

 

 このまま彰人とまふゆの様子を窺っていたらいらぬことを言ってしまいそうなので、早々に戦線から離脱する。

 

 

「絵名、友達が来てるのにこっちに来なくていいわよ。ほら、お箸持って席に戻って」

 

「うぇっ。はぁい」

 

 

 しかし、娘が記憶を失ってから初のお泊り会を決行したのが嬉しいのか、ニコニコと笑うお母さんの好意によって猫の皮戦線へととんぼ返りさせられてしまった。

 

 お箸を机の上に配膳し、私もおとなしく席に着く。

 もう殆ど準備は完了していたようで、すぐにお母さんが夕飯を机の上に並べた。

 

 

「さぁ、どうぞ。まふゆちゃんも食べてちょうだいね」

 

「ありがとうございます……でも、すみません。突然、泊まることになった上に晩御飯までいただいて」

 

「気にしなくていいのよ。絵名がお友達を連れて来たんだもの」

 

 

 そんなに私がまふゆを連れて来たのが嬉しいのか、お母さんはとても良い笑顔である。

 きっと、今の私の顔はとんでもないしかめっ面なのだろう。彰人の同情するような視線が見えない私の表情を物語っていた。

 

 私は「いただきます」と言ってから、皿を眺める。

 ハンバーグと……ふむ。

 

 

「ねぇ、彰人」

 

「……なんだよ」

 

「同情するなら〜って言葉があるじゃない?」

 

「あるが、それで?」

 

 

 勘の良い弟は何かを察知したのか、嫌な顔をしている。

 しかし、既に私の中でやることは決まっている。彰人には申し訳ないが、代わりに犠牲になってもらおう。

 

 

「ふふふ──同情するなら私の人参を全部食べてね!」

 

「は? 食わねぇぞ……って、早速人参を皿に移してんじゃねえっ」

 

「まぁまぁ、私は残りをいただくし。彰人は遠慮しなくていいから!」

 

「してねぇよ! 自分で食べろって言ってんだよ!」

 

 

 彰人の手によって、押し付けた人参のグラッセが1つずつ戻されていく。

 本当なら更にここから人参を押し付けたいところだが、引き際を見極められないほど人参が嫌いなわけではない。

 

 

「……まったく。好き嫌いしないでよね」

 

「してるのはそっちだろ。後、オレに押し付けられないからって、朝比奈さんに押し付けんなよ」

 

「やらないっての」

 

「あぁ、朝比奈さんは無理して食べなくてもいいですからね」

 

 

 私の態度が悪いのだろうけど、生意気な弟である。

 まふゆには猫を被って対応しているのに、姉にはあの反応だ。

 

 

(……日頃の行いの差、かなぁ)

 

 

 もう少し優しくしたら多少、人参を押し付けても許されるのだろうか。

 一瞬、真剣に検討しそうになったものの、お母さんがこっちに来たのでやめておいた。

 

 

「まふゆちゃん、遠慮せずに好きなだけ食べてちょうだいね」

 

「ありがとうございます。ハンバーグ、とってもおいしいですね」

 

 

 ニコニコと笑うお母さんに対して、まふゆは綺麗な笑顔で応じている。

 こっちとしてはまふゆが味もわかっていないことを知っているので色々と複雑な気持ちが渦巻いているが、思っても仕方がないので嫌いな人参と共に飲み込んだ。

 

 ……うん、やっぱり変に甘くて土っぽく感じて美味しくない。

 

 

「そういえば、ハンバーグって久々だな」

 

「そりゃ、今日は絵名のお友達を連れて来たんだもの。どうせなら喜んで欲しいし、張り切っちゃった」

 

「突然だったのにありがとうございます。私、ハンバーグは好きなので嬉しいです」

 

 

 彰人とお母さんの会話にまふゆが笑みを浮かべる。

 今日作ったご飯が唐揚げなら、好きな物も『唐揚げ』になってしまいそうなぐらいステキ(・・・)な感想だ。

 

 

(こうやって自分のお母さんにも、猫を被り続けたのかな)

 

 

 四六時中猫を被った結果、自分の隠していた顔がわからなくなったなんて、笑えない話だ。

 

 

(明日は我が身かもしれないんだけどね)

 

 

 自分自身、人のことは言えない思考をしているのもわかっているつもりなので、私は黙ってハンバーグを口に入れる。

 そのタイミングを狙ったかのように、お母さんがまふゆに話しかけた。

 

 

「そういえば、まふゆちゃんって絵名と同じクラスなのよね? この子、迷惑をかけていないかしら?」

 

「確か、音楽サークルで一緒に曲作ってるとかも聞いたような……」

 

「あ……えっと」

 

 

 お母さんはともかく、彰人が呟いたソレは今のまふゆには痛い話題だろう。

 その証拠にわかりやすくまふゆは言い淀んでいる。

 

 言葉にし難いまふゆの代わりに、私は質問へ答えた。

 

 

「音楽サークルのこと、あんまりよそでは言わないでね。まふゆのお母さん、そういうのに厳しい人だから」

 

「そうなの? 曲を作ってるなんて素敵なことじゃない」

 

 

 お母さんはきょとんとした顔をしているが、そんな考え方をしているタイプならまふゆは家族のことでも悩むことはなかっただろう。

 私が何かを言う前に、いかにも困ってますと言いたげな顔を作ったまふゆが苦笑いを浮かべる。

 

 

「ありがとうございます。でも、勉強をしなくてはいけないので」

 

「あぁ、そろそろ受験生だものね。まふゆちゃんのお母さんの気持ちもわかるわ……でも、悪いことじゃないんだから、息抜きぐらいはいいんじゃない?」

 

 

 そんなことを言ったら怒られるかしら、と笑う母さんにまふゆは一瞬だけ目を丸くしていた。

 

 自分のお母さんと比べて驚いている、といったところか。

 すぐに笑顔を取り繕っていたので気が付ける人は少ないだろうが、まふゆにしてはわかりやすい反応だ。

 

 

「私はいつもそう思ってるんだけど、絵名は溜め込んじゃうのよねぇ……溜めて溜めて、パァンッて破裂しちゃいそうで、親としては心配なのよ」

 

「そこで私のことを言わなくてもいいでしょ」

 

 

 まふゆから急に矛先がこちらに向けられたので、視線で不満を訴える。

 が、お母さんの方が1枚上手なので、私の不満はあっさりと受け流された。

 

 

「こうやって言い返してくるから、心配したところでしょうがないのよね。絵名には絵名の人生があるし、好きにさせるのが1番ね」

 

「言われなくても絵に関しては好きにさせてもらってますー」

 

 

 スケッチブックの件に関しては、迷走気味だけど。

 自分が我慢したり動けば解決する問題なら好きにできるのに、他人が傷付くかもしれないと思うとどうにも動けない。

 

 ご飯を食べている最中なのに、つい自分の悩み事に頭の中が引っ張られてしまった。

 こんなところで考えることではないと強制的に思考を中断し、戒めとして人参に手を伸ばす。

 

 ……やっぱりまずい。

 水で味を中和している私の横で、お母さんの話の矛先が彰人に向かっていた。

 

 

「個人的には好きなことをしていていいとは思うけど、もう少し勉強もしてほしいのよねぇ」

 

「お、オレはちゃんと勉強会をして赤点も回避してるからな……」

 

「本当は平均点ぐらい取って欲しいんだけど?」

 

「うぐ、それは……練習が早く終わる日があったら……」

 

 

 哀れ、彰人。

 普段は何も言わないお母さんによるお気持ちの集中砲火を受けてタジタジだった。

 

 彰人がどうにかしてくれと言わんばかりの目を向けてくるが、私は笑顔で知らないフリをする。

 私だって巻き込まれたくない。素知らぬ顔でやり過ごそうとしていると、私の耳が小さな声を拾った。

 

 

「……人参、食べてやる」

 

「交渉成立ね」

 

 

 自主的に人参を回収してくれる彰人に、私のやる気が急上昇した。

 

 そもそも、今回のメインはまふゆであり、誘ったのは私だ。弟を生贄にするなんてよろしくない。

 突然湧いてきた正義感の皮を被った何かのために、私はお母さんの矛先を引き受ける。

 

 

「もう、お母さん。まふゆを置いて勉強の話ばかりするのはやめてよね」

 

「あら。じゃあ、まふゆちゃんと絵名の話をしてもいいのかしら?」

 

「はいはい、どうぞご自由に。まふゆの迷惑にならないように監視しとくから」

 

 

 そんなに私が友達を連れてきたのが嬉しかったのか。

 彰人と取引をしてからハンバーグを食べ終えるまで、お母さんの話は止まらなかった。

 

 

 






東雲姉弟の距離感が現実の兄弟に近いか、仲が良い方に感じるんですよね。
天馬兄妹は可愛過ぎるので、あれはファンタジーだと思います、ええ。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。