映画は見ずに原作の小説を買うタイプなので、映画館とかは無縁なんですよね……なので映画系のネタはスルーです。
どう切り出せばいいのか迷っている姿が別の何かに見えてしまったせいか、まふゆは私に対してとんでもない作戦を実行してきた。
無言で自分のスマホを机の前に置き、レンの目も見えるようにしたのだ。
「絵名」
『絵名ちゃん』
(うっ……これ、ズルくない?)
私がまふゆのことをある程度はわかっているように、まふゆも私のことをよく理解している。
逃げる場所もなくて、逃げる正当な理由も思いつかない現状。
4つの目にじっと見つめられたら、私は降参するしかなかった。
「最近、このままでいいのかなって迷うことが多くてさ。できることはやってるつもりだけど、できないことの方が多くて……それが態度に出てたんだと思う。ごめん」
「ふぅん。絵名ならとりあえず動きそうなのに、考えるなんて珍しいね」
「珍しいって、私だって色々と考えてるんだけど?」
「色々と考えてるなら……他校の後輩から制服をその日に借りて、他校の屋上まで侵入しないと思う」
「あ、はい。その通りです……」
まふゆが切り出した手札の火力が強過ぎて、言い返したくても言い返せなかった。
正直に打ち明けるのも奴のことで悩んでいるせいで、首を絞められるような感覚で遮られる。
(どうしよう。話してと言われてもラインが難しいんだけど)
まふゆの好意で話を聞くと言ってくれているのに、そのせいで私が苦しむ姿を見せてしまうのは嫌だ。
そんな私の葛藤を楽しんでいるのか、言おうと思っても私の首はじわじわと絞められて息苦しくなるばかり。
「……やっぱり、言えない」
「言いたくないじゃなくて『言えない』の?」
「聞いてくれるって言ってくれてるのに、悪いんだけどさ」
結局出てくる結論がそれで、申し訳なくてまふゆの顔を見ていられない。
自然と視線が下に向いてしまうものの、まふゆの様子も気になってほんの少しだけ目線を上に向ける。
怒っているのか、悲しんでいるのか、それとも何とも思っていないのか。
相変わらず何を考えているのかわかりにくい顔をしていて、まふゆの内情が読み取れない。
そのせいか、次に飛び出してしか言葉も私の予想から外れたものだった。
「絵名が言えないのなら、私が話してもいい?」
「えっ?」
「話していいか悪いかで答えて」
「……悪くはないけど」
言葉の真意は不明だが、話すこと自体が嫌というわけではないので、私は首肯する。
その反応を待っていたと言わんばかりに、まふゆは口を開いた。
「私の印象だと、絵名は
「無謀って、間違ってはいないけど。それで?」
先程、屋上の話を掘り返されたせいだろうか。
まふゆの話の切り出し方が気になるものの、己へのダメージの方が大きい。
過去の自分がやらかした行為のせいで胸が痛いものの、言い返せない私は話の続きを促す。
「絵名が動かない時は大体、動いても解決できない時とか、まだ時間を置こうと決めた時。後は動き方が思い浮かばない時かな……ここまで、間違ってることはある?」
「どうだろ。間違ってはいないと思うけど」
自覚がないので断言はできないが、まふゆの言ってることは見当外れとも言えない。
「良かった。それを踏まえて考えると、絵名の悩み事は『自分のこと』で。それも『解決方法が思いつかないぐらい厄介なこと』なの?」
「あぁーと、まぁ……」
「──その反応だと、誰かというよりは私達なんだろうね。自分のことで私達を巻き込んでしまうから悩んでそうな気がする」
「……」
……いや、こっっっっっわっ!!!
こうも真面目な話をしている時にする反応ではないのだろうが、何を見てその結論が飛び出て来たのか、全く理解できなくて鳥肌が立った。
まふゆの頭の中はどうなっているのだろうか。
真剣な顔をしているまふゆには申し訳ないが、どうしても私の中で恐怖心が勝ってしまう。
「その顔、怖くて力が抜けた?」
「……あのさ。話を遮って悪いんだけど、私ってどんな顔をしてるわけ?」
「わかりやすい顔」
「は? 馬鹿にしてたりする?」
「ううん。予想をそれっぽく並べて話したら、絵名が『自分のことで皆を巻き込んじゃうのが嫌だから、悩んでいる』ってことがわかったから、助かってるよ」
「えっ、嘘でしょ」
顔をペタペタと触ってみたけれど、自分の顔なんて鏡がなければわからない。
そういう感情も顔に出ているのか、まふゆが目を細めた。
「普段の絵名は顔に出るから、結構わかりやすいよ」
「……参考にしとくわ」
瑞希辺りなら「むしろ助かるから参考にしないで~」とか言ってきそうだが、まふゆは素っ気なく「そう」と呟き、話しを続ける。
「何を巻き込むのかは『言えない』って言われそうだから、詳しい話は別にいいんだけど」
「あっさりしてるけど、気にならないの?」
「最初に聞かないって言ったから。それに……私は詳しい話よりも、絵名が巻き込んじゃうのを嫌がる理由を知りたい」
「理由って言われても。誰だって友達に迷惑をかけて、相手を傷付けるのは『嫌なこと』でしょ」
当然のことを言ったつもりだったのだが、まふゆは心底わからないと言いたげな顔で首を傾げる。
「……絵名。そんなに嫌だったのなら、私を家に泊めない方が良かったと思う」
「はい? 今、そんな話をしてたっけ?」
「でも、絵名が言いたいことってそういうことでしょう?」
いや、どういうことなんだ。
話が繋がりそうで繋がらなくて、私は首を傾ける。
すると、対面に座っているまふゆも不思議そうにこちらの真似をしてきた。
「家に帰りたくなかったのは私の事情だよ。それなのに、私は絵名と家族の人達に迷惑をかけてここにいる。それが『嫌なこと』だって言うのなら、絵名は私を泊めちゃダメだよ」
「はぁ? 私がやりたくてやったんだから、迷惑も何もないから。今度そんなこと言ったら、ぶっ飛ばすわよ?」
「……絵名の悩み事も、そういうことでしょ」
さっきとは違う例えを出しつつも同じ言葉で問われたら、いくら自分のことには鈍感だと言われる私でもまふゆの言いたいことはわかった。
頭ではわかっていても、感情的な部分はそれを理解したくないと叫んでいて、私は黙って首を振ることしかできない。
「迷惑をかけたくないって言ってた奏には『奏のことで迷惑だなんて思わない』って、言ったらしいね」
私が認めないのは予想していたのだろう。
まふゆは動じた様子もなく、首振り人形のような反応しか見せない私に淡々と言葉を並べてくる。
「後は傷付けるのが嫌って話だっけ?」
「……そう、ね」
「私は絵名に対してとんでもないことをしてるって、奏や瑞希に言われてるんだけど。絵名は私と一緒にいて、傷付いたって思ったことは1度もなかったの?」
「それは……思ったけど。それでもまふゆの力になりたくて」
「そう。絵名がそう思ってくれたのなら、私や奏達も同じことを考えるって思わなかった?」
「ぁっ」
ガツンと頭を殴られたような衝撃が私に襲いかかる。
ちょっと待って欲しい。少し整理をさせてくれと頭の中が悲鳴をあげているが、まふゆは更に畳み掛けてきた。
「それとも、絵名の目には私達が絵名を都合よく利用するような存在に見えてたの?」
「……そんな風に思ったことなんて、1度もない」
「うん、よかった。ここまで言ったらもう、私が言いたいことをわからないなんて言わないよね?」
「…………言えないっての」
ここでわからないなんて言えば、皆を貶すことになってしまう。
皆を違う意味で傷付けるような行為をできるわけがない。
ようやく認めた私に、まふゆは満足そうに目を細めた。
「私には、絵名がどうしてそこまで悩んでるのかはわからないけど」
「うん」
「それでも、さっきの話は私も皆も、きっと同じことを言うと思うから」
まふゆがチラリと視線を下に向けると、示し合わせたようにレンがコクコクと頷いた。
下げた目を再びこちらに向けたまふゆもまた、力強く頷く。
「だから、迷惑とかそういうことは考えなくてもいいよ」
「……その。ありがとね」
「私はただ、絵名がしてくれたことと同じようなことをしただけ」
だからお礼はいらないと、まふゆは首を横に振った。
まふゆも私も、それからずっと黙っているレンも次の言葉を話さないせいか、時計の針が動く音だけが部屋に響いていた。
チラリと時計を盗み見ても、時間は0時にすら届いていない。
(話は終わっちゃったみたいだし……絵の続きでも描こうかな)
私はそう思ったのだが、どうやらまふゆは違っていたようで、じっとこちらを見てくる。
「まだ、何か話があったりする?」
「別に」
「あっそ」
鉛筆を握り直して描きかけの絵に向き合ってみたものの、正面から注がれる視線が痛い。
「……やっぱり何かあるでしょ。丁度いいし、あんたも吐き出しなさいよ」
「別に何もないよ。ただ……絵名も動けなくなっちゃうこともあるんだなって思っただけ」
「人間なんだから、あるに決まってるでしょ。我儘だったとしても、自己中じゃあるまいし」
全く立ち止まらない人間なんて、全知全能や完璧超人か。それこそ自分に馬鹿みたいに自信があるタイプとかそんなのだろう。
ただし、それは私が思っている印象の話であり、まふゆから見た景色は違っていたようだ。
「あの日の絵名はお父さんに否定されても、やりたいことに真っ直ぐ向き合ってて……すごく、眩しく見えた」
「それ、シブヤアートコンクールの時のこと?」
「うん。大切な人に対しても自分を貫いてる姿が強く見えて、眩しかったの……今思うと、私とは全く違っていたから、そう見えたんだと思う」
いつもの声よりもワントーン下がった声に、私の頭の中の警鐘が止まらない。
まふゆが私に対して踏み込まなかったのだから、こちらも踏み込まないのが筋だろうとは思う。
だが、どうしても伏せられた青い目が聞いて欲しそうな、迷子を彷彿とさせる色を帯びていたせいで、私は放っておけなかった。
「あんた、家で何かあったんじゃないの?」
「うん──私も、お母さんにやりたいって言ったの」
逡巡した末に、結局絞り出した言葉。
結果的にそれは間違いではなかったようで、まふゆは暗い表情のまま、こくりと頷いた。
一足早いのですが、今年も本作を読んでくださりありがとうございました。皆様の応援のおかげで今年も無事に更新できました。
今年の感謝の意を込めて、来週の1/1〜1/5までの5日間、毎日25時に更新します。
よろしければどうぞ、ご覧ください。来年もよろしくお願いします。