イラスト担当は記憶を無くしました   作:大森依織

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まふママ接触編、始まります。
(ただしこの時点でのえななんは接触させてもらえないこととする)





186枚目 不穏な夜に

 

 

 

 

 金曜日の授業を乗り越えると、明日から休みだと少しだけ浮ついた気分になる。

 きっと、人間というのはちょっとしたきっかけでも前向きになれてしまうのだろう。

 

 ……それはつまり、後ろ向きになるのも同様なのかもしれないけれど。

 

 

『……ごめん、暫く一緒に作業ができなくなる』

 

 

 今日も今日とて25時に集まると、まふゆ()がそんなことを言ってきた。

 

 

『歌詞は作れるけどログインはできないって、どうして?』

 

『私がいないうちにまたパソコンを見られてて……お母さんに隠していたデータが見つかって。たぶんニーゴの作業のこと、気が付かれた』

 

 

 恐る恐る尋ねる瑞希(Amia)によって引き出された雪の言葉は最悪な状況と言ってもいいもので。

 直接は言われていないけれど、遠回しに作業をやめるように言われたとのことだった。

 

 

「雪は本当にそれでいいと思ってるの? 思ってるのなら止めないけど」

 

『今、暫くの間だけ来れないかもしれない。だけど、ちゃんと戻ってくるよ』

 

「……そう、わかった」

 

 

 お母さんに言われたからやめようとしているわけでもなく、本人がはっきりと戻ると言っているのなら現時点での対応に何かを言うつもりはない。

 

 ログアウトする雪を見送ってから、私は先程聞いた話をテーマに思考の海に潜り込んだ。

 

 

(それにしても、パソコンを覗いてた……か)

 

 

 この前、まふゆを家に泊めた時も探りを入れていたし、直接的な情報収集のためにパソコンを見た可能性が高そうだ。

 隠していたとしてもパソコンの中身は見れる。ナイトコードでの作業がバレていないなんて楽観的な思考はやめるべきだろう。

 

 

(まふゆも本心では私達との活動をやめるつもりがないっていうのも、母親なら何となく察してるでしょ。なら、次の行動は……)

 

 

 予想できるのは、サークル活動している誰かに接触して娘は音楽活動をやめますと代理で言うか、やめさせるように誘導するか。

 

 

(娘の為なんですーって、誰かに接触してきそうね)

 

 

 その対策の為にも、(K)達と作業前に話した方がいいかもしれない。

 色々と考えていた私が口を開く前に、Kのアイコンが輝いた。

 

 

『今日、相談しようと思ってたんだけど──まふゆのお母さんから、連絡が来たんだ』

 

「『えっ?』」

 

 

 まさか考えていたことが既に起きてるなんて予想外もいいところだ。

 私と一緒に驚いていたAmiaは少し震えた声で尋ねる。

 

 

『まふゆのお母さんからって、どういうこと? なんて言ってきたの?』

 

『えっと。まふゆと音楽をするのは控えて欲しいって。それと──』

 

 

 私が予想していた答えを言ってから、何か言いたげな言葉をボイチャに乗せて黙り込むK。

 

 

「それと、どうしたの?」

 

『あっ……ううん、何でもない』

 

 

 気になって聞いてみたが、Kの口からその続きは語られなかった。

 

 

『まふゆのお母さんには『まふゆが望んでいることだから、わたしからは何も言えない』って返信したんだけど……そしたら、1度会って話さないかって返事が来て』

 

『え、まふゆのお母さんと会う!?』

 

 

 その代わりに更なる爆弾が投げ出されて、Amiaの驚く声が鼓膜を貫いた。

 確かに会うのも驚きだが、私が気になるのはそこじゃない。

 

 

「K、会うのって何時なの?」

 

『今週の日曜日。だから明後日かな』

 

「明後日ねー……って、もうすぐじゃん!?」

 

 

 流石に会って危害を加えるなんてことはないだろうけれど、娘のパソコンを勝手に触って交友関係を調べるような親だ。何を言われるかわかったもんじゃない。

 

 

『わたしも迷ってたけど……まふゆのお母さんの言いたいことも知っておきたかったんだ──これから先の、まふゆのためにも』

 

 

 どうやらKも似たような考えで迷っていたらしいが、さっきの雪の言葉もあったのだろう。Kは覚悟を決めているようだった。

 Kが『これから先』と言っているのを考えると、雪のお母さんは『娘の将来のために~』とかそれらしいことを言ってきたのかもしれない。

 

 

(下手したら相手のペースに乗せられて面倒なことになったりするんじゃないの?)

 

 

 相手は私達よりも長く社会に揉まれてきた大人だ。

 Kは口喧嘩がとんでもなく強い印象がないので、1人で対峙させるのは心配だ。

 

 

「Kが会うつもりなら、私も付いて行くから!」

 

『え?』

 

「このまま黙って待ってるなんて性に合わないし。電話じゃあ猫を被る対応しかできなかったから、ハッキリいってやらないと」

 

 

 付いて行けばKとの話の内容や雪の行く末のことを無駄に心配することもないし、文句も言えるしで一石二鳥。

 何なら偶然を装ってその石を頭にぶつけても、許される気がする……というのは流石に言い過ぎか。

 

 うん、暴力は言い過ぎた。

 その点だけは反省するとしても、黙って待ってられないのは私だけではないようで、Amiaのアイコンも輝いた。

 

 

『えななんが行くならボクも行くよ。ボクだってまふゆのこと、心配だからね』

 

 

 2対1で味方なし。

 普通の人であればここで折れて頷いてしまってもおかしくないシチュエーションだ。

 

 だが、そこは我らがリーダー。

 Kは折れることなく、自分の意見を述べた。

 

 

『ありがとう、2人とも。でも、私だけで大丈夫だよ。ちゃんと話してくるから安心して』

 

「でも、Kだけ向かわせるのは心配だし」

 

『えななん達の気持ちはわかるけど、話し合いが上手くいかなかった時も考えた時に……2人は行かない方がいいと思うんだ』

 

(言いたいことはわかるけど)

 

 

 つまり、Kは3人同時に行って全員が雪と会えなくなるよりも、1人だけ会いに行って自分だけ会えなくなる方がいいと言いたいわけだ。

 

 話を聞いてくれそうにない雪の母親相手なので、Kの意見もわかる。

 しかし、それではいそうですかと引き下がるには感情的な面で納得できない。

 

 

『あー、確かに。ボクはともかく、えななんが行くのだけはダメだろうね』

 

 

 私の不満がナイトコード越しでも伝わったのか。

 先ほどまで味方側だったはずのAmiaがKの援護をし始めた。

 

 

「は? 何で私だけはダメなのよ?」

 

『えななんってまふゆのお母さんに唯一、身元を把握されてるでしょ。まふゆが学校でもえななんと関われなくなるのは問題だよね』

 

「うぐ」

 

 

 電話で話した時も私の名前を出しただけでころりと態度を変えてきたぐらいには、まふゆのお母さんはこちらのことを知っているようだった。

 そういうのも踏まえると、Amiaの言っていることは反論が咄嗟に出てこないぐらいには正しい。

 

 

『まふゆがセカイにえななんを誘拐した事件の発端は、えななんとの関係が切れるかもしれないって思ったところにあるでしょ』

 

「……そう言ってたわね」

 

『今回のKとの接触で成功する見込みが低いのに、最終兵器をツッコむのは違うでしょ。相手の弱点も情報もない中での全力攻撃は無謀ってことだよね、K』

 

『そこまで考えてはなかったんだけど……とにかく、まふゆの拠り所は1つでも多く残したくて』

 

 

 KやAmiaの言いたいこともわかるので、Kのように己の意見を貫き通すのも憚られる。

 また雪によってセカイに連れてかれて閉じ込められるのも嫌なので、ここは引き下がることにした。

 

 

「……そこまで言うならKに任せる。でも、何かあったら連絡してよね。いつでも駆けつけるから!」

 

『そうだね。まふゆを想ってるのはボク達も同じなんだ。無理だけはしないでよ、K』

 

『うん、ありがとう』

 

 

 そう話した後、Kは珍しく作業を続行することなく、一旦ログアウトしていった。

 

 私とAmiaだけが残るナイトコード。

 何となくログアウトする気にもなれなくてその場に留まっていると、Amiaから声をかけられた。

 

 

『Kにはあぁ言ったけど、気になっちゃうよね』

 

「……Kの味方をしていたあんたが何を言ってるんだか」

 

『そう言われても、えななんが会うのも不味いって思ったのも本音だからね。あの場ではKの味方をしちゃうでしょ』

 

 

 ボク1人なら言い包めてたよ、と呟くAmiaに溜め息が出た。

 私だって言い分に納得してなければKを言い包めていたし、お互い似たもの同士だったらしい。

 

 

「ねぇAmia。漫画みたいにKの追跡をして会話を盗み聞きできないの?」

 

『話す場所がボクらが入ってもおかしくない所だとは限らないし、バレるリスクや個室で話す場合とかも考えたら無理なんじゃない?』

 

「やっぱり?」

 

『えななんにもボクにもそういう技能はないからねぇ』

 

 

 日曜日の件は私にもAmiaにもお手上げ状態。

 他のアイデアが思い浮かばない私は黙り、Amiaも良い考えが出てこないのか無言だ。

 

 何とも言えない沈黙が訪れ、秒針の音と自分の呼吸の音だけが響く中、最初に沈黙を破ったのはAmiaだった。

 

 

『……ねぇ、えななん』

 

「何?」

 

『明日、暇?』

 

「特に予定はないけど、それがどうしたの?」

 

 

 Kが動くのは明後日であって、明日に何かあるはずもなく。

 首を傾げる私の耳に、Amiaの抑えるような笑い声が届いた。

 

 

『じゃあ、明日は2人で遊びに行こうよ』

 

「はぁ? 今はそれどころじゃないでしょ」

 

『でもさ、こうやって悶々と悩んだってしょうがないじゃん。だったら、ボクらはKのことを信じてパーッて遊んで気を紛らわそうよ!』

 

 

 わーい、と喜ぶAmiaに対して、画面に薄らと反射している私は呆れ顔だ。

 

 

「えぇ……ビックリするぐらい呑気じゃん」

 

『呑気っていうか、思い詰めたっていいことないからさ。それに……ボクは考え過ぎて潰れちゃうところなんて、見たくないよ』

 

 

 誰がとは明言しなかったものの、話の流れ的にAmiaが誰に向かって言ってるのかは鈍い私でも理解できた。

 

 こんな時に何を呑気な、ではなく。

 こんな時だからこそ、力を抜いて欲しいという気持ちがはっきりと伝わってきたせいだろうか。

 

 

「しょうがないわね。いつから遊ぶ?」

 

『10時半からでどう? えななん、遅れないでよ〜?』

 

「遅れないっての」

 

 

 ケラケラと笑う瑞希と明日の遊ぶ約束を取り付けている間に、身構えていた体から自然と力が抜ける。

 

 

(ありがとね、瑞希)

 

 

 ……直接口には出さないけれど、気が利くAmiaに感謝した。

 

 

 






正直、類さん巻き込んでも良いのなら盗み聞きできそうですけど……ギャグ時空に突入しそうですよね。思いつかなかったことにしましょう。


というわけで連続更新終了です。今週はお付き合いくださりありがとうございました!
また来週からは元に戻りますので、よろしくお願いします。
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