イラスト担当は記憶を無くしました   作:大森依織

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カウントダウンはもうすぐに。




188枚目 誰も間違ってない

 

 

 

 

 まふゆのことや奏のことが気になったとしても、今の私にできることはない。

 念仏のように自分に言い聞かせて部屋にいるものの、やっぱりそわそわしてしまって落ち着かなかった。

 

 明日は話し合いがあるので、25時からの作業はなし。

 決戦が控えている奏の為にも各々、作業を進めていこうという話になったのはついさっきのこと。

 

 なので私も作業を進めた方がいいのはわかっているのだが、25時になる前だということもあって、乗り切らない。

 心配事で何も手が付かない時は、別の心配事……というか、対スケッチブックの為のノートを書き進めるのが丁度いいだろう。

 

 

(よし、そうと決まれば早速行動っと)

 

 

 充電されて息を吹き返したスマホを手に取り、セカイに向かう。

 光が消えた先には、運よくリンが立っていた。

 

 

「こんばんは、リン。丁度いいところにいたのね」

 

「丁度いい? ってことは、今日も?」

 

「お察しの通り、ノートに書き残しに来たよ」

 

「そう。向こう側はちょっとうるさくなりそうだし、ノートはあっちにあるからついて来て」

 

「え、向こう側って……って、待ってよ!」

 

 

 気になったことを聞く前にリンが進んでいくので、私は慌ててその背中を追いかける。

 この静か過ぎるセカイでリンから「うるさい」と言われることがあるなんて、一体向こう側とやらでは何が起きそうになっているのやら。

 

 気になるけれどリンを置いていくわけにもいかず、好奇心を抑えてリンの背中を追いかけた。

 

 

「はい、ノート。今日は何を書くの?」

 

「実は決めてなくて、今まで書いたものを見返してから決めようかなって思ってるよ」

 

 

 リンからノートを受け取り、記載済みのページに目を通す。

 書ける内容を思いつく限り書いたせいか、落書きとしか思えない代物になってしまっているノート。

 

 これだと伝わるものも伝わりそうにないし、似たような内容を比較してわかりにくい方は消していくか。

 ノートの中身を吟味していると、前から視線を感じた。

 

 

「リン、どうしたの?」

 

「……1つだけ、聞きたいことがある」

 

「聞きたいことって?」

 

 

 リンは口をへの字にしたまま、視線を下に向ける。

 

 

「絵名が進もうとしている道以外に、何かいい方法はないの?」

 

「あれば良かったんだけどね……落書きみたいな形でしか伝えられないんだし、方法は無いんじゃないかな」

 

 

 ノートを小さく横に振ると、リンの顔が険しくなった。

 

 ……私だって本音では皆を巻き込むような道を進みたくない。

 でも、メイコ達は「スケッチブックを傷付けることは誰もできなかった」と言っていたし、仮に傷付けられれても今では奴も行方知れずだ。

 

 ならば、用意された道を今は進むしかない。

 そんな私の内心が伝わってしまったのか、リンはキッと睨みつけてきた。

 

 

「……っ。諦めるなんて、絵名らしくないんじゃないのっ」

 

「そう思わせてごめん。でも、何も言えない私も悪いから」

 

「そんなこと……!」

 

「そんなことあるよ。まふゆのことだって、あいつが言ってくれないと動けないでしょ……私も結局、あいつに偉そうに言えないし」

 

 

 どうすればいいのかわからないことに対して動くなんて、全てを見通して知ることができる超常的な力を持つ存在じゃない限り不可能だ。

 

 だからこそそういう無茶は言いたくないと思っているのに、後々無茶振りするしかないのだから笑えない。

 

 

「リンをそんなに心配させてる私の方が、よっぽどタチが悪いよね」

 

「そんな風に言わないで」

 

 

 首を横に振るリンに、私は笑うことしかできない。

 言わないでと言うのなら、今はもう少し……問題を先送りにしてもいいだろう。

 

 

「……ま、今は私よりもまふゆや奏の方が大変だし。先のことで落ち込むのはやめよっか」

 

 

 再びノートに視線を戻そうとすると、リンの目と目が合う。

 小首を傾げたリンはきょとんとした顔のまま口を開いた。

 

 

「まふゆと奏に何かあったの?」

 

「ざっくり言うと、まふゆはお母さんにニーゴのことがバレて、しばらく活動の方は休むことになって。奏はそれ繋がりでまふゆのお母さんから連絡があって、明日に会うことになったの」

 

「まふゆも心配だけど、明日会う奏は大丈夫なの?」

 

「私と瑞希が気を紛らわせるために今日、遊んでストレスを発散させようとしたぐらいには」

 

「それ、大丈夫じゃなさそうだけど」

 

 

 リンの感想には否定も肯定も返せなかった。

 大丈夫かどうかわかるのは、明日の奏のみ。私や瑞希では杞憂かどうかすらわからない。

 

 

「でも、今の話でわかった」

 

「わかったって何が?」

 

「……向こうでまふゆとカイトが言い合ってる理由」

 

「えっ、言い合ってる!?」

 

 

 そもそもカイトっていうのはあのカイトなのか、今までいなかったのにいつから現れたのか。

 様々な言葉が頭の中を駆け巡ったものの、私の中で厳選されたのはコレだった。

 

 

「いや、今の状態のまふゆが言い合うのはまずいって」

 

「それは、そうかも?」

 

「だよね!? なら、こんなところで話している場合じゃないって。2人はどこにいるの?」

 

「……こっち」

 

 

 期日不明な問題よりも、今は目先の問題だ。

 再びリンに案内してもらって現場に急行すると、リンの言う『向こう側』から叫び声が聞こえてきた。

 

 

「──だってもう、どうしようもないじゃない……!」

 

 

 まふゆの声だ。私はリンの手を掴んで物陰に隠れて様子を窺う。

 視線の先にはまふゆと青い目と髪の男が言い合っていた。

 

 

(ベルトとレースのコーデなんてなかなかの上級者ね……じゃなくて、あれがカイト?)

 

 

 目と指でリンに尋ねると、首肯された。

 このセカイに来るバーチャルシンガーの皆は個性があるとは思うが、新しく来たカイトも今までセカイにいなかったタイプだ。

 

 薄っすらと聞こえてくる話を聞く限りでは、このセカイに来たカイトはまふゆにガツンと隠すことなくモノを言うタイプらしい。

 私もズカズカと言っているつもりだが、カイトはそれを上回る。

 

 まふゆが『お母さんが話を聞いてくれないのに、どうしろっていうの!?』と叫べば、カイトは『それで諦めるのならその想いはその程度だが、違うだろう。自分に嘘をつくな』と発破をかける。

 

 劇薬のような詰め方だ。

 本当の自分は見つからないという言葉も投げているのも、まふゆへの劇薬ポイントが高い。

 

 

「想いを殺して生きることができないのなら、今みたいに噛み付け」

 

「そんな、お母さんにそんなこと……」

 

「相手はお前を、お前の想いを殺そうとしてるのに、情けをかける必要があるのか?」

 

(うっわぁ、まふゆよりズバズバしてるじゃん)

 

 

 まふゆもズバズバ言葉を使ってくるが、カイトのそれはまふゆを上回っている。

 カイトの言っていることが理解できてしまうだけに、私はまふゆが逃げ出すまでそれを見送った。

 

 

「絵名、止めないの? カイトのあれは言い過ぎだと思うけど」

 

「言い過ぎ、か。それはどうなんだろうね」

 

「……絵名はそうは思わないってこと?」

 

「劇薬だとは思うけど、カイトの言ってることは間違いじゃないから」

 

 

 正しさは人を傷付けてしまうこともあるけれど、いつか必ず向き合わなくてはいけない時が来てしまう。

 それを限界が来て壊れてしまう前にハッキリと突き付けてくれるのは、カイトの優しさであるとも取れるだろう。

 

 私がそこまで言えたら良かったのだが、それを突き付けるにはまふゆとの距離が近くなり過ぎてしまった。

 

 

「思っていた言い合いとは違ったみたいだし、行こっか」

 

「いいの? そこに奏もいるけど」

 

「いいの。奏にも思うところはあるだろうし」

 

 

 あそこで私が声をかけたとしても、できることはあまりない。

 そう思ってまふゆ達がいた場所から離れたものの……ふと、できることが頭の中に降ってきた。

 

 

「否定はしないけど、劇薬だったのは間違いないよね」

 

「劇薬って、さっきの話のこと?」

 

「そ。今、メッセージを入れておいたから明日にまふゆと話そうかなって」

 

 

 まふゆのお母さんも奏に会うので家にはいないだろうし、まふゆさえよければ話すのには絶好のタイミングだ。

 私的にはそこまで悪くない対応だと思っていたのだが、険しい顔をしたリンと目が合った。

 

 

「えっと、何かマズかった?」

 

「別に。行動そのものはいつもの絵名だと思うから何とも。ただ……」

 

「ただ?」

 

「自分も大変なのに、誰かを優先するんだなって」

 

 

 咎めているような、呆れているような。複雑な色を宿したリンの瞳に、私は首を横に振る。

 

 

「自分を優先してないってわけじゃないよ。私は私のためにしか動けてないし」

 

「……どうだか」

 

 

 肩を竦めるリンは私の言葉を信じていないようだ。

 

 ここで強く否定したところで、気を遣わせてしまうだけだろう。

 私は私なりに、真っ直ぐ向き合うしかない。

 

 

「誰とも深く関わらずに生きていない以上、誰かを傷付けないのは無理なんだろうね」

 

「……どういうこと?」

 

「本当は誰も傷付けたくはなかった。でも、私にはそれが無理だったってだけ」

 

 

 誰も傷付けたくないという条件を優先するのなら、ニーゴとして活動すること自体が間違いだったのだ。

 誰とも深く関わらず、内側に入れず。ずっと1人で空っぽのまま彷徨うのが正解だった。

 

 ──それができなかったからこそ、私は選ばなくちゃいけない。

 

 

「さて、ここで問題です」

 

「瑞希みたいな事を言うんだね」

 

「違うから! ……こほん。不思議な力で傷付けることも燃やすこともできないものを、どうにかする方法は何だと思う?」

 

「それって……」

 

「私がこの道を選んだ理由はこれって言ったら、リンは考えてくれる?」

 

 

 恐らく、奴が姿を消したのも『そういうこと』なのだろうから。

 

 

「諦めたわけでもないし、どうしても皆を傷付けてしまうのなら──可能性も責任も全部取ってやるつもりで進みたいんだ」

 

「……わたしはその問題を考えたらいいの?」

 

「うん、お願い」

 

 

 リンは溜め息だけ漏らして、わざとらしく肩を竦めた。

 何を言っても聞かない頑固だから、と呆れているのかもしれない。

 

 

(本当に、嫌になるな)

 

 

 全部言えない自分にも。

 そろそろ、問題を出すことになりそうだという、この予感を伝えられないことにも──嫌になる。

 

 

 






ま、まずい。マイセカイから抜け出せない……これは本当にマズイですね。

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