ナイトコードでのことですが。
作業中→HN(対面のまふゆさんはまふゆ)
真面目な話→お名前
となってます。
昼休みになり、誰かが乱入してこない上に誰かの邪魔にならない場所──ということで選ばれたいつもの
「絵名、病み上がりなのにごめん」
スマホを机の中心に置いて準備をしていると、どこかしょぼくれたように見えるまふゆが頭を下げる。
無視するわけにもいかないので、私は適当に手を振りながら部屋にあったノートパソコンを移動させた。
「あんたが謝ることじゃないでしょ。私も納得したことなんだから、頭上げなさいよ」
私が喉を痛めて風邪をひき、元気になったのがつい最近のこと。
復帰してすぐのナイトコードで瑞希から『お昼の活動』を提案され、了承した結果が今の状況である。
(皆が納得してるのなら反対するわけないんだから、早く立ち直ればいいのに)
パソコンを起動させつつ、チラリと視線を横にずらす。
病み上がりの私を気にしてくれているのか、視線の先にいるまふゆは今も無表情のままどんよりとした空間を生成していた。
(わー。これ、加湿器いらないんじゃない?)
そんな馬鹿なことを考えてしまいつつ、私は席の前を軽く叩いて、しょぼくれたまふゆを座らせる。
「ほら、準備できたからそこで頭下げてないで。作業しましょ」
「……うん」
せっかく皆で久しぶりに作業できるのだ。ずっと落ち込んだままなのは勿体無い。
そうやってまふゆと問答したり、考え事もしていたせいで時間が経っていたのだろう。
ボイチャにはもう、
「おまたせー。時間がかかってごめんね」
『あ、やっほー、えななん。雪もちゃんといる?』
「うん、いるよ」
Amiaは外からログインしてくれているのか、イヤホンから聞こえてくる音に風っぽい何かが混ざっている。
ここまで風の音が聞こえてくると、Amiaの作業環境が気になってしまった。
「Amia。それ、作業できるの?」
『あぁ、ごめん。今日は結構、風が強い日みたい』
「お互い、外で作業してるのならトラブルはあるでしょ。ボイチャも難しいなら抜けていいんじゃない?」
『その辺はそろそろ解決するからダイジョーブ! ボクよりもさっきから全く反応がないKを心配した方がいいよ』
「え、そうなの? K、いるー?」
Amiaに言われて声をかけてみた私の頭に過ぎるのは、病院で会った時の姿。
ただ、心配しているのは私だけであり、イヤホンからはいつも通りに感じるKの声が聞こえてきた。
『大丈夫、いるよ。譜面が崩れ落ちちゃったから纏めてたんだ』
『わーお……唯一の家の中にいるKもトラブルかー、大変だねぇ』
病院での姿を見ていなければ全く違和感のない会話だ。
ただ、いらない知識がある私の顔には不満が出ていたのだろう。
目の前にいたまふゆが口だけを動かして『どうしたの?』と尋ねてくるので、黙って首を横に振った。
Kのお父さんの件は現状、私達にできることはない。
まふゆに負荷をかけるのも本意ではないし、今は自分の胸に仕舞い込んだ。
「こっちは昼休みの時間が限られてるし、さっさと始めましょ」
『あぁ、そうだった。えななんも雪も予鈴には戻らなきゃいけないもんね』
「……あんたも学校にいるなら、こっち側のはずなんだけど?」
『今日は午前の授業の調整に来ただけだからねー。午後の授業は自習に決めたし、そろそろ帰宅できるから心配御無用だよっ!』
つまりサボると。許されるのなら私だってサボって作業したいのに。
(いや、待って。いっそのことサボっちゃう?)
「……絵名?」
「はい、すみません」
『ははっ! えななんってば雪に怒られちゃって。サボろうかなって考えてたんでしょ〜!』
おかしい。目の前にいるはずのまふゆにバレるのはわかるのに、何でAmiaまで連鎖してバレているのか。
考えただけで実行してないので許してもらえないだろうか。
……無理? まふゆの目が細められたので無理っぽい。
「サボらないから許して。ほら、時間は有限でしょ」
「その有限を無碍に扱ってるのは絵名だけどね」
『はは。雪もそろそろ許してあげてね、作業を始めよう』
「……わかった」
Kの一声のおかげで許された。
許された分は作業に反映させなければと、私は気合いを入れる。
風邪をひいていた時に描いた絵はそれはもう見ていられない線だったが、復活したらこの通り。
全く進まなかった作業の遅れを挽回するように、スラスラと絵ができていく。
自分の思うように線が描けるって、素晴らしい。
お母さんに見つかって「そんなんだから風邪が治らないのよ!」とご尤もなことで怒られないのも素敵だ。
「絵名、ニヤニヤしてて怖い」
「ちょっと! そんな言い方はないでしょ!?」
「私は正直に言ってるだけだよ」
「こっちはそれでダメージを受けてるんだけど!? 言い方を考慮してって言ってるの!」
『ふ、くふふっ! えななんは面白いなー』
「Amiaは笑わないの!」
こっちはコントをしてるんじゃないぞとAmiaに詰め寄りたい。
Amiaには物理的な理由で詰め寄れない苛立ちを抑えることなく前を見ると、私とは正反対の感情を抱いてそうなまふゆと目が合った。
見慣れた人間ならわかるぐらい穏やかな顔だ。
そんな顔を視界に入れたせいで、抑えれなかった苛立ちがみるみるうちに萎んでしまった。
「……まぁいいや。いくつか絵を描いたから、送った絵を確認してくれない?」
『もう? 復帰したばかりなのに早いね』
「まぁね。Kも目を通してよ」
各々抱えている問題を無視したら、ここまで穏やかな作業も久しぶりかもしれない。
そう思いつつも画像データを送り、私は再びペンタブへと向き合う。
(Amiaが提案してくれた案に乗ってよかったな)
私とまふゆにとっては昼休みという短い時間かもしれないけれど。
少しでも楽しく作業できる日が過ごせて、胸が弾んでいるのはきっと……私だけではないだろう。
…………………………
そうしてニーゴという名前を改名した方がいいんじゃないかと思うぐらい、健全な時間に作業をする日が続いたある日のこと。
「おはよう、まふゆ」
「……」
「まふゆ?」
「……あぁ、絵名か。おはよう」
教室だというのに優等生モードが貫通してるんじゃないかと思うぐらい、テンションの低いまふゆが現れた。
最近はお昼休みの作業もあって調子が良さそうだったのに、どうしたのだろうか。
クラスの皆もまふゆの異変には気が付いているようで、一部からは何故か私にエールを送ってくれる人もいる。
(原因は……考えなくても家のことよね)
まふゆが調子を崩す理由として思いつく第一候補はやはり、家庭の事情だろう。
果たして今、聞き出した方がいいのか。悩んでいる間に朝の予鈴が鳴ってしまった。
(一応、瑞希達にも連絡しておこうかな)
授業の合間にスマホを操作して、瑞希と奏にそれぞれ連絡を入れる。
昼の作業は聞き出しタイムになるだろう。その許可ぐらい先に取っていた方がいいはずだ。
(まふゆ、今度は何を言われたの? それとも、何か捨てられた?)
その思考の答えは複数出ても纏まらず、気がついたら昼休みまで悩んでしまっていた。
ノートは何とか取っていたものの、授業の内容は殆ど覚えていない。
……これは後々面倒なことになりそうだ。具体的には絵の時間を少し削ることになりそうである。
先のことを思うと嫌になるが、今は目の前のことに集中しよう。
さっさとお昼ご飯を食べ、朝からまともな反応がないまふゆを美術準備室へと連れ込んだ。
「──2人とも、おまたせ」
『ボクは全く待ってないから平気だよー。今日は午後からの授業を受けなきゃいけないから、お喋りぐらいしかできないけどさ』
『わたしも待ってないよ。それで、話したいことって?』
「話したいことというか、まふゆに聞きたいことがあるから2人にも時間を取って欲しかったの」
未だにぼーっとしているまふゆに視線を向ける。
こっちには聞きたいことがあるのに、まふゆはずっと上の空だ。
「まふゆ、聞いてる?」
「……聞いてるよ」
「じゃあ返事しなさいよ」
「それは難しかった」
「はぁ? 難しいって何よ?」
『まぁまぁまぁ! 絵名、怒ってズレたらダメだからね!』
瑞希の声で切り替わりそうだったスイッチが食い止められた。
ここで怒ったって仕方がないのはその通り。落ち着かなければ。
「あんた、今日は朝から上の空で調子があからさまに良くないでしょ。だから家で何かあったんじゃないかと思って、時間を取ってもらったのよ」
「そうなんだ」
「いや、そうなんだじゃなくて」
「……皆には申し訳ないけど、今すぐには無理。できれば夕方に時間が欲しい」
どうせ言えないとか言われると思っていたのに、返ってきた言葉は予想外のものだった。
私がフリーズしている間に、瑞希の声がスピーカーモードにしたスマホから聞こえてくる。
『それって夕方に集まった方がいいってこと?』
「……できれば。皆にも、話したいことがあるから」
『うーん……まふゆさえよければ、先に言える範囲で相談したい内容をざっくり言うことってできる? あ、無理にとは言わないからね!』
瑞希の予防線を張り詰めた質問のおかげか、まふゆの口から議題になるであろう言葉が飛び出す。
「お母さんにパソコンを壊されて、部活もやめるように言われた。スマホもお母さんが許可したもの以外は触れないように全部制限するって言ってたの。そのことで、お母さんとちゃんと話したいから……皆の知恵を貸してほしい」
「パソコンを壊して、部活とスマホも制限って……」
『それ、話だけでどうにかなるのかな?』
私の頭に更なるフリーズ要因を突っ込まれ、瑞希も困惑した声を出している。
唯一、奏だけは息を呑むような音を出したものの、ちゃんとした言葉を発した。
『まふゆがそう言うのなら、わたしも夕方に時間を取るよ。でも、まふゆはお母さんと話せるの?』
「話せるかどうかは、正直わからない。けど……お母さんと話せるのは今しかない気がするから。だから私は──ちゃんと向き合って、わかってもらいたいの」
カイトと言い合っていた時とは違う、意志を感じる目だ。
夕方まで、という時間制限は自分に発破をかけるためのものか、考えをまとめるためか。或いはその両方か。
どちらにしても覚悟を感じる眼差しを見れば、私もあれこれ言う気持ちが消えた。
「わかった、夕方は覚悟しなさいよ」
『絵名、言い方〜。ま、まふゆが頼ってくれるのは嬉しいし、夕方はちゃんと時間を取るよ』
夕方程度の時間でどこまでいけるかわからないけれども。
まふゆが助けを求めてくれたというのなら──私も自分のできる限りのことをするのみである。
【オリイベ『朝日へ羽ばたく蝋の羽』がある世界線のイベントの特徴】
・瑞希バナーではあるが、あらすじはまふゆの問題解決回っぽい……?
・タイトルロゴの蝶がロゴから離れて飛び立とうとしている。
・タイトルロゴにあるニーゴのマークに一部分だけ罅が入っている。
・蝶ではなく蝋の羽……?
【追加情報】
・読者じゃない人はえななんの視点がわからない。
・(作者はキティも好きですが)提供曲は確実にキティではない。