イラスト担当は記憶を無くしました   作:大森依織

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その流れはもう、止められないぐらい強く。





194枚目 朝比奈家攻略会議

 

 

 

 

 

 夕方になって、私達は再びナイトコードに集まった。

 本当ならセカイで集まった方がいいのだろうが、まふゆの希望でナイトコードで話し合うことになったので、私とまふゆは美術準備室にいる。

 

 セカイで話したくない理由はたぶん、カイトあたりだろうか。

 まふゆの相談したい内容的にそれが近そうだ。本人には言わないけど。

 

 

「さてと。皆も揃ったし、まふゆの相談内容を改めて聞いてもいい?」

 

『ボクは準備オッケーだよ』

 

『わたしも大丈夫。まふゆ、聞かせてくれる?』

 

「わかった」

 

 

 素直なまふゆの返事と共に聞いた話は、概ね昼に聞いたものと変わらなかった。

 

 お母さんから調べ物をしている間にパソコンを壊してしまった、という話をされたこと。

 そしてお母さんが部活をやめたり、スマホの制限をした方がいいんじゃないかとお父さんに話しているのを聞いたこと。

 今は辛うじてお父さんの『まふゆの話を聞いてから』という言葉で実行されていないことも、わかることは話してくれたのだろう。

 

 それを聞いた上で、だ。

 

 

「──そもそも、自分がいない間に勝手にパソコン使って、壊されたってのが信じられないんだけど」

 

『パソコンだって安くないもんねぇ。なりふり構っていられなくなったのかな』

 

 

 瑞希の言葉が1番、まふゆのお母さんのやらかしの答えに近い気がする。

 奏の説得ができなかったので、まふゆのお母さんはまふゆとこちらの繋がりを物理的に断つことを選んだ。

 行動の理由は何となくわかったが、それでも信じられない気持ちの方が強かった。

 

 

「で、まふゆの相談って話し合いのことでいいの?」

 

「うん……お母さんとちゃんと話し合いたいと思ってる。皆にはその為の知恵を貸して欲しい」

 

(話し合う為の知恵、ときたかぁ)

 

 

 言うが易しだが、思い付くのは難しだ。

 もう少しまふゆの意見を聞きたい。そう言おうとしたら、先に奏が動いた。

 

 

『まふゆはカイトの言ってたように、噛み付くの? それとも、違う方法でいくの?』

 

「噛み付くのはしたくない。私は……お母さんにもできればわかって欲しいから」

 

 

 それはなんとも、難しい話だ。

 生半可な気持ちならやらない方がいいと、普段ならバッサリ捨て置く内容だけど。

 

 

「娘の言葉であろうが、人の考えなんて変わらないわよ? それでもお母さんにわかってもらいたいわけ?」

 

「うん。難しいのはわかってるけど、それでもお母さんは私にとって大切な人だから」

 

「……そう」

 

 

 まふゆの意思はわかった。

 本人がそうしたいと言うのであれば、こちらとしてもできるように考えるしかない。

 

 

『まふゆの意思はボクもわかったよ。でも、このまま話し続けても聞いてくれないよね?』

 

『わたしも難しい気がするな。何かきっかけというか、手があればいいんだけど』

 

 

 瑞希と奏の話を聞きながら、私は手を口の前に持っていく。

 

 

(あるといえば、1つだけ考えてた作戦はあるけど。まふゆのお母さんの説得をできる威力じゃないかな)

 

 

 私が考えたアイデアは防御としては役に立つ可能性があるものの、まふゆのお母さんが考えを変えるかと言われたら微妙なラインだ。

 もっと何か──まふゆの力になるものが欲しい。

 

 

『ねぇまふゆ、1つ聞いてもいいかな?』

 

「いいけど、何を聞きたいの?」

 

『まふゆがお母さんに話した内容って、お父さんに直接言った?』

 

 

 準備室に響いた声を聞いているだけでも、瑞希がニヤリと笑いながら口を開いているのが想像できた。

 瑞希の作戦は何となく理解できた。が、それが正しいのかは本人の口から聞かないとわからない。

 

 

「瑞希、もしかしてだけど……まふゆのお父さんを味方に引き込むつもり?」

 

「『えっ』」

 

 

 スマホと正面からそれぞれ驚きの声が聞こえてくる。

 どうやら私の予想は正しかったらしく、瑞希の自信満々な声が響いた。

 

 

『まふゆの話を聞いてる感じ、無理じゃない気がするんだよね。ほら、さっき言ってたでしょ? お父さんは『まふゆの話を聞いてから』って言ってるって』

 

「……言ってたのは聞いた。でも、それでお父さんが聞いてくれるかはわからないよ」

 

『いーや! 可能性はあるよ。まふゆ、目を瞑ってよーく思い出してみて』

 

 

 瑞希にしては珍しくハッキリと言い切る。

 まふゆも知恵を貸して欲しいと言ったのは本気だったのだろう。瑞希の言葉に従い、目を閉じた。

 

 

『まふゆのお父さんってさ、仕事は忙しい人?』

 

「うん。小さい時から帰ってくるのが遅くて、遊園地とかもお父さんと一緒に行った記憶はないよ」

 

『つまり、まふゆのことはお母さんに任せっきりってことだよね。じゃあ、お父さんがまふゆの話を聞く時って、大体、お母さんがいたりしなかった?』

 

「……いた。私がしたいこととか、お母さんがお父さんに話して。私の夢も、気が付いたら変わってた」

 

 

 まふゆも喜んでほしくて追従していた面もあったのだろうが、まふゆのお母さんが家のことをコントロールしていた線は強そうだ。

 

 話を聞いている限り、まふゆのお父さんは仕事で忙しいようだし、自分の奥さんを信じて話を聞いている要素が強そう……っていうのが瑞希の見解だと思う。

 

 まふゆ自身も内心はともかく、言葉では母親の方針に『是』と返してしまっていたのだ。

 そういう点も踏まえると、現状ではまふゆのお母さんよりは話が通じる可能性が高い。

 

 

「まふゆのお父さんを味方に引き入れるとしても、どうするか考えてるの?」

 

『2人っきりで話した方がいいのは、わたしでもわかるけど。瑞希は何か考えてるの?』

 

『ふふん、それはだね──ごめん、そこまでは考えてない!』

 

「それ、自慢げに言わないでくれる!?」

 

 

 奏の問いかけに対して自信満々にトンデモ回答をするものだから、思わずツッコミを入れてしまったではないか。

 

 

『ごめんってば〜。そう言われても、ポンポンとアイデアが浮かぶようなことでもないし!』

 

『確かに、思い付いてたらまふゆも悩まないよね』

 

 

 瑞希の叫び声に奏も納得している様子。

 だが、そこで諦めたらまふゆの相談には答えられなくなってしまう。

 お父さんと話すとしても、何かきっかけがあった方がまふゆも話しやすいだろうし……それを考えるのもこちら側の知恵の出し所か。

 

 

「まふゆに無理を言うかもしれないけど、それでもいいなら1つあるけど」

 

『おぉ、絵名ってばやるぅ! それで、その作戦は?』

 

「まふゆに病院に行ってもらう」

 

『……へ?』

 

『どういうこと?』

 

 

 瑞希と奏の困惑の声と、目の前で首を傾げるまふゆの内心は全く同じだろう。

 だが、まふゆのお父さんにまふゆの現状を伝えるのに1番効果的なのはこれだと、私は思うのだ。

 

 

「まふゆって、ストレスが原因で味覚がないでしょ。それをちゃんと病院に診断書で保証してもらうのよ。まふゆさえ良ければだけど」

 

 

 まふゆの気持ちを無視したら、悪い手段ではないはずだ。

 本当ならまふゆがどうしても追い詰められているのに、家から逃げ出せない時に叩きつける札の1つとして考えていたが、今切っても大丈夫。

 

 後は全て、まふゆの気持ち次第だ。

 そういう意味も込めて前を見ると、視線の先にいるまふゆがゆっくりと口を開いた。

 

 

「1つ聞きたいんだけど……どうしてお父さんと話すのにどうして診断書があったほうがいいの?」

 

「まふゆの話をスムーズに信じてもらうためっていうのと、どれだけまふゆが追い詰められているのかを目に見える形にするためよ」

 

 

 まふゆのお母さんに見せたとしても、自分の都合の良いように解釈して効果が今ひとつな可能性の方が高い。

 だが、まふゆのお父さんがこちらの解釈した人であるならば、診断書があればまふゆの話を無碍にすることはないだろう。

 

 

「あんたのお父さんが話を信じないとは言わない。でも、人間って目に見える証拠がある方が飲み込みやすいから、あった方があんたの力になるはずよ」

 

『あー、なるほど。怪しい人の無実を証明するなら、証拠はいるのと同じかぁ』

 

「瑞希のそれはズレてる気がするけど。少なくともあるのとないのとでは、相手の心構えが変わってくるでしょ」

 

 

 相手がちゃんと話を聞いてくれる相手だと仮定すればするほど、こちら側が出せる情報は多い方がいい。

 

 とはいえ診断書をもらうということは、ある意味そういうレッテルを貼られるということで。

 勧めた私が言うのもアレだが、まふゆが嫌なら行かなくても良いとも思う。

 

 

「後はまふゆ次第だけど、どうしたい?」

 

『お父さんのことも、病院のことも。これはボクと絵名の提案だから、最後はまふゆが考えて決めてほしいな』

 

 

 診断書という保険を用いてお父さんを味方につけて、お母さんとの説得に挑む。

 これがベストだとは言わないけれど、ただ闇雲にまふゆとお母さんが話し合うよりかは確率が高くなったはず。

 

 後はまふゆ次第だ。そういう意味も込めて、私は口を噤む。

 誰も声を出さない中、まふゆは伏せていた目をスマホとこちらに、それぞれ目配せした。

 

 

「──わかった。お父さんに話すのも診断書を貰うのも、両方する」

 

『まふゆ、いいの?』

 

「元々は私の我儘だから、できることは全部したい。ありがとう、奏」

 

 

 まふゆの決意は想像よりも固いらしい。

 病院あたりは断られると思っていたので、余計にそう感じる。

 

 

『とりあえずまふゆは近々、絵名同伴で病院に行って貰うとして……』

 

「私同伴って、必要?」

 

「できれば」

 

「あっそう」

 

 

 大きい病院で1人だと心細いのもわからなくもない。

 私が提案したことだし、提案者として時間を作ろう。

 

 

『……絵名ー。話、続けるよ?』

 

「あっ、ごめん。続きをどうぞ」

 

『はいはーい。それで、まふゆってお父さんの連絡先って知ってる?』

 

「知ってるけど、それがどうしたの?」

 

『まぁ、ちょっと色々とやりたくてさ!』

 

 

 何とも不安になる発言である。

 まふゆも同じ意見のようで、珍しく目を瞬かせる量が増えるという目に見えた違いで困惑を伝えてくれた。

 

 

「……わかった、任せる」

 

『ありがとね、まふゆ。ここはどーんとボクにお任せあれ〜』

 

 

 企む瑞希に不安があるものの、まふゆが選んだのなら私が言うことは特にない。

 瑞希はこの後、タイミングを見て動くらしいので、私とまふゆも時間を合わせて病院へ行く段取りをつける。

 

 ……さて、まふゆのお父さんを味方に引き込むのが吉と出るか、凶と出るか──できれば大吉あたりでお願いしたいところだ。

 

 

 

 






まふゆさんのお母さんが何故か早急なので、対応する側も急がなくてはいけなくなるという……
ナイトコードでの活動は見れたとしても、公式様のストーリーのように2度目のシンセサイザー発見事件がなかったせいでしょうか。不思議ですね。

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