イラスト担当は記憶を無くしました   作:大森依織

195 / 254


作者の中でのまふママの曲者像が強過ぎるせいか……捏造してもなお執筆に苦戦してます。(投稿はちゃんとします)




195枚目 1歩、進んで?

 

 

 

 まふゆの予備校もなくて部活も休めそうな日に予約を入れて、数日ぐらい2人で病院に行った。

 こちら側は予定通り『ストレスが原因の味覚障害』という診察結果を貰い、証拠の診断書も書いて貰った。

 

 精神的なものが原因なせいで、診断書を貰うのに日にちがかかったものの……それがちょうど良かったのかもしれない。

 瑞希の方もやりたいことができたらしく、診断書を貰った今日──瑞希から『セカイへ来て欲しい』という呼び出しの連絡が来たのである。

 

 

「やっほー、絵名! 今日は集まってくれてありがとう!」

 

「その様子だと、瑞希の企みは上手くいったみたいね」

 

「企みだなんて失礼だなぁ。悪いことはしてないよ?」

 

 

 どうやら私が最後のようで、奏もまふゆも並んで立っていた。

 小走りだ駆け寄ったこちらの姿を確認した瑞希は、嬉しそうに両手を広げる。

 

 さて、瑞希はまふゆから聞き出した連絡先で何をしたのやら。

 予想はできているが、企んでいる本人の口からちゃんと聞かなければ。

 

 

「それで? 皆は瑞希が何をしてたのか、もう聞いた後だったりする?」

 

「ううん、まだだよ。わたしはさっき来たところだし」

 

「私も揃うのを待ってたから聞いてない」

 

 

 奏とまふゆが首を横に振るので、今もニコニコと良い笑顔を見せている瑞希へと視線を向ける。

 私達の注目が集まったのを確認したのか、瑞希は大仰に頷いた。

 

 

「この前の作戦会議でまふゆのお父さんを味方に引き込もうって話をして、実際にまふゆと絵名にはその手札の1つを取りに行って貰ってたよね?」

 

「そうね。ちょっと時間がかかっちゃったけど、最近診断書を貰えたから、こっちは目的を達成してるよ」

 

「うんうん。その間にボクはまふゆのお父さんに接触してみたんだ。ボクが提案したのに根本的に無理でしたーって作戦なら、まふゆを傷付けちゃうだけだしね」

 

 

 やはり、瑞希はまふゆのお父さんと接触していたらしい。

 自分が提案したことだからという理由で瑞希が自分も会いに行こうとするとは思っていなかった。

 

 こちらの予想していた人物と違っていたらと考えたら、接触して確かめるのが1番なのは理解できる。

 だが、ここまで積極的に動くなんて今までの瑞希を考えると、予想を超えた行動力だ。

 

 予想外ではあるものの、その行動のお陰で瑞希は満足のいく結果を得られたらしい。

 ニコニコとしていた瑞希の顔は控えめな微笑みに変わり、まふゆへと向けられる。

 

 

「結論から言うけど──まふゆ、安心して話してきなよ」

 

「ということは……」

 

「うん。まふゆのお父さんはまふゆの話をちゃんと聞いてくれるよ。だから、2人っきりで話してみてほしいな」

 

「そう、なんだ」

 

 

 まふゆは瑞希の言葉を吟味するように、ゆっくりと目を閉じた。

 その瞼の裏に何が浮かんでいるのか。私にはわからない。

 

 わからないもののその姿と少しの付き合いの年数から、まふゆが『お父さんと話す』という行動に思うところがあるのぐらいは理解できた。

 

 

「……まだ怖いけど、瑞希が確かめてくれたから。私も頑張りたい」

 

 

 数分ぐらい目を閉じて出したまふゆの答えがこれだった。

 決意したようにも見えるが、まだ顔には怯えの色が残っている。

 

 

(それもそっか。いくら大丈夫と言われたからって、お父さんからも否定されたらって思うと怖いよね)

 

 

 赤の他人からの否定でも結構心に来ることがあるのだ。それが血の繋がった家族であればダメージは計り知れない。

 

 

(いつもなら無理することじゃないって止めるところなんだけど……カイトにも『甘やかすな』って言われちゃったし)

 

 

 私の方から口を開くわけにはいかないだろう。まふゆの言葉を信じて見守る以外に選択肢はない。

 奏もカイトと話をしたのか、まふゆを見守っている。

 唯一、カイトとそこまで話していないであろう瑞希だけは心配そうに口を開いた。

 

 

「まふゆ、無理なら無理って言ってね。まふゆのお父さんとならボクも一緒に付き添えると思うし」

 

「……ううん、1人で話してみる。そうじゃないときっと、お母さんとも話せない気がするから」

 

 

 まふゆの予感はきっと、正しいものだろう。

 だからこそ黙って見守っている私も、話を聞いた瑞希も納得したのだ。

 

 

「そっか……わかった。まふゆがちゃんと話せるように、友達として応援してるよ」

 

「ありがとう。いつ2人で話せるかわからないけど、それでも話すよ」

 

 

 どうやら瑞希の言葉は効果的だったらしい。

 小さく頷いたまふゆの顔にはもう、怯えた感情もなくなっていた。

 

 これならばまふゆのお父さんとの話は上手くいくだろう。

 

 

(ここを乗り越えられたら、問題はこの先に待つまふゆのお母さんだけ)

 

 

 朝比奈家が亭主関白な家庭で、父親の鶴の一声で状況が一変する……とかに近い状況なら、話は早いのだが。

 こればっかりは始まってみないとどうなるかはわからない。

 

 私達が今、思いつく手段でできるのはこのぐらいなので、上手くいってほしいところである。

 

 

「皆、集まってくれてありがとね! まふゆも余裕があるわけじゃないし、ひとまず今日は解散しよっか」

 

「私の方こそありがとう。また進展があったら昼休みに報告する」

 

「そうだね。またナイトコードで知らせてくれたら嬉しいな」

 

 

 瑞希の声で、まふゆと奏もセカイから消えた。

 残っているのは笑顔で手を振っていた瑞希と私だけである。

 

 

「お疲れさま、瑞希。動いてくれてありがとうね」

 

「まぁ、ボクができることなら動きたいからねー」

 

 

 瑞希は浮かべていた笑みを消し、真顔でこちらを見た。

 

 

「できる限りのことはやったつもりだけど、これでどうにかなってくれるかな?」

 

「それ、甘い言葉が欲しいの? それとも本音?」

 

「……その質問で大体わかっちゃったよ、もう」

 

 

 肩を落とす瑞希に私は苦笑するしかない。

 みずきには申し訳ないけど、大丈夫だなんて無責任なことを言うつもりがない人間に聞いたのが悪いと思ってもらおう。

 

 暫くの間、背中を丸めて左右に揺れていた瑞希がピタリと止まる。

 苦笑以外のリアクションを返さない私に焦ったくなったのか。こちらに振り向き、口を開いた。

 

 

「奏も最近、上の空なことが多いみたいだけど……絵名は大丈夫? 今、勝手に消えないでよ?」

 

「今のところ、そんな予定はないっての。どこかに行くとしても、行き先は皆が知ってるところにするし」

 

「えぇー、灯台下暗しってこと? 絵名ってば性格わる〜い」

 

「はいはい、そうですねー」

 

 

 奏が上の空だというのも気になるが、あれはどちらかというと曲のことを考えている時の奏に近いので、私はそこまで心配していない。

 私も私でほんの少し種を蒔きつつ、その日は解散した。

 

 

 

 

 

☆★☆

 

 

 

 

 

 

 何日目かの昼休みにて、上手いこと先生やクラスメイトの手から逃れた私達はナイトコードにログインした。

 

 

「お待たせー。ちょっと遅くなっちゃった」

 

「絵名の遅刻は私のせいだから。遅れてごめん」

 

『ボクもさっきログインしたところだから、全然待ってないよ〜』

 

『うん。2人とも、今日も来れてよかったよ』

 

 

 私とまふゆが順番に声をかけると、瑞希と奏から反応が返ってくる。

 

 今日はまふゆから報告があるということで、作業のために集まったのではない。

 話の内容は何となく予想できるものの、私達はまふゆが話し始めるまで静かにその時を待った。

 

 

「……瑞希達のお陰でお父さんと話せた。ありがとう」

 

『おーっ、ちゃんと話せたんだ。やったね!』

 

『まふゆ、話は聞いて貰えた?』

 

「うん。お父さんと話して謝られたけど……私も、お父さんとちゃんと話してなかったんだなって気が付いた。だからきっと、お母さんともちゃんと話せばわかって貰えると思う」

 

 

 お父さんと話してわかって貰えたことで少し自信が付いたのか、まふゆはかなり難しいことを口に出してた。

 

 

(それは無理なんじゃないかなって言えればいいんだけど。皆が喜んでいるところで、出鼻を挫くようなことは言えないよね……)

 

 

 そう簡単に人の価値観や考えが柔軟に変化するのであれば、人間関係で悩んだり病んだりするような人もいなければ精神病院ももう少し暇になるわけで。

 まふゆのお母さんがまふゆに対して『自分の理想の娘になる』と期待を押し付けているように、まふゆもお母さんへ『ちゃんと話し合えば自分のことをわかってくれる』と期待しているのかもしれない。

 

 

(まふゆの味方を作るためにお父さんを味方にしようと思ったけど、ちょっと悪手だったのかな)

 

 

 お父さんはわかってくれたという前例のせいで、まふゆが引き際を見極められないということが無ければ良いのだが。

 

 お父さんがまふゆの味方になってくれるのであれば、彼女の心も守ってくれることを期待するしかない。

 上手くいけばお母さんも折れてくれるかもしれないし、そちらに期待した方が精神衛生上よさそうだ。

 

 心配な気持ちは一旦脇に置いた私は、僅かに笑みを浮かべているまふゆを見る。

 

 

「それで、お母さんとはいつから話すの?」

 

「今日は早く帰れそうだから、早速話すことになると思う」

 

「今日って、あんたは大丈夫なの?」

 

「うん……色々と条件があるかもしれないし、受験生で活動できる時間が少なくなるかもしれない。それでも、皆と一緒にいたいから」

 

「そっか……ま、引き際は見誤らない程度にね」

 

『まふゆ、頑張ってね』

 

『何かできることがあったら、協力するからっ! 応援してるよ、まふゆ!』

 

 

 奏と瑞希の声もあり、私は胸の中にあるモヤモヤを言うのをやめた。

 私の杞憂であればいいのだ。家庭の事情だし、こちらは2で相手は1。思っているよりもすぐに解決してくれるかもしれない。

 

 

(……けど、この胸騒ぎは何だろう。気持ち悪いというか、落ち着かないのよね)

 

 

 この感覚の例えは思い浮かぶけれど、それを当て嵌めるのはまふゆに申し訳ない。

 必死に考えないように集中しても効果がないので、強引に思考を切り上げる。

 

 

(悪夢を見てる時に似てるなんて、いくらなんでも……って、思うけど)

 

 

 ……奴が見せてくる悪夢みたいだなんて。

 

 心構えはしておこう。

 誰か1人ぐらい、過剰なぐらいに警戒していてもいいはずだから。

 

 

 

 






家に味方が誰もいない状態って物凄く神経を擦り減らしますよね。休める場所が休めない場所になるという……
皆様は上手に休んでくださいね。お休み、とても大事です。






あと、映画を映画館で久しぶりに見たのですが、やっぱり映画館は映画館の良さがありますね。
土地勘ないところだと雫さん並みの方向音痴なので、映画館周辺をグルグルしてる不審者になったりしてましたが……映画館に辿り着くのも冒険でしたよ、はい。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。