イラスト担当は記憶を無くしました   作:大森依織

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分岐点は既に通り過ぎている。




196枚目 通り過ぎている

 

 

 

 

 

 4人揃って作業する時間がお昼であるせいか、そろそろニーゴが改名の危機にあるんじゃないかと思う最近ではあるものの。

 まふゆがお母さんと話し始めたはずなのに、驚くぐらい平和な時間が過ぎていた。

 

 私は追加で夜にも作業をしているが、4人揃っての作業は昼間のみ。

 昼に集まるように意識しているせいか、奏が健康的な生活を送れているという副次的な効果もゲットしつつ、作業を進めているのである。

 

 

『まふゆ、その後の調子をそろそろ聞いてもいいかな?』

 

 

 そんなこんなで今日もお昼に集まり、作業を始める……前に瑞希が問いかけてくる。

 気になる気持ちは私もわかるが、気が早いような。

 

 

『気になるのもわかるけど……そう簡単に解決するような問題じゃないし、急かしちゃダメだよ』

 

 

 そう思ったのは私だけではないようで、奏は気が早い瑞希を(たしな)めた。

 瑞希も心配が空回りしている自覚はあるようで、イヤホンから『あ、ごめん』と小さく聞こえてくる。

 

 奏と瑞希が気を遣っているが、まふゆは気にしていないらしい。

 私にしか見えていないのに首を振り、進捗を報告した。

 

 

「お父さんと今は話してる最中だけど、あまりいい返事は貰えていない」

 

『あっ……そうなんだ』

 

「……うん」

 

 

 気まずそうな瑞希の声と、目の前で俯くまふゆが目に入るせいだろうか。空気がとても悪い。

 

 瑞希や奏は声だけかもしれないが、こっちには本人がいるのだ。

 できれば空気を殺すような真似はやめてほしい。私が耐えられない。

 

 

「それは最初から予想してたことでしょ。今、大事なのはまふゆが自分の想いを貫けるかってところでしょうが」

 

「……そのことでも、伝えたいことがあって」

 

「伝えたいこと?」

 

 

 まだ暗い顔をしているまふゆを前にすると、嫌な予感が頭の中を占領してしまう。

 こういう時、まふゆの顔を見ずに済むボイチャ組2人が羨ましい。

 

 

「お父さん、来週から2週間出張らしくて。私とお母さんと家で2人きりになる」

 

 

 まふゆが口を開いて出てきた言葉は、嫌な予感通りのものだった。

 

 敵だらけの家で休むよりも、味方がいる方がまふゆの心も休まるだろうとお父さんに話を通したのがつい最近のこと。

 そのまふゆのお父さんが、2週間いなくなる。家には刺激してしまった後の母親とまふゆの2人きり。

 

 

『えっと、今日って何曜日だっけ?』

 

『奏、今日は金曜日だよー。もしかしてボケちゃった?』

 

『ごめん。家にいるとちょっと曜日がわからなくなっちゃって……それで、まふゆは土日の間にお母さんを説得できそう?』

 

 

 奏が瑞希にツッコまれつつ質問する。

 それに対して、まふゆは先に首を横に振ることで答えを教えてくれた。

 

 

「難しいと思う。出張がきっかけになってくれたら嬉しいけど」

 

「難しいなら2週間ぐらいウチか、嫌なら誰かの家に避難する?」

 

『わたしの家も大丈夫だよ。まふゆが来るなら家事代行の人にも話を通すし』

 

『ボクも……って言いたいところだけど、まふゆ次第かな。避難するならまふゆが安心できるところを選んでほしいもんね』

 

 

 瑞希が余計な気を回して取り消したので、主な避難先は我が家と奏の家だろうか。

 ウチの家だとまふゆが気にするかもしれないから奏の家がメインになるかもしれない。それも気になるのであれば、南雲先生辺りに泣きついてみようか。たぶんあの人なら空き家ぐらい用意できそうだ。

 

 

「……大丈夫。私だけでもお母さんと話すよ」

 

 

 私は避難前提で考えていたが、まふゆから出てきたのは『1人でも戦う』選択だった。

 

 

『えっ。まふゆ、それは大変なんじゃない?』

 

『迷惑とかを考えているのなら気にしないでいいよ。わたしの家なら1人だし……』

 

「ありがとう……でも、私はお母さんと向き合いたいから。皆の気持ちだけ貰うよ」

 

 

 まふゆの決意は固いようだ。それが良いことなのか悪いことなのか、非難するように説得するのが難しいのだけは確かである。

 

 

「まふゆ、私が言ったことは覚えている?」

 

「色々と絵名には言われてるけど」

 

「それはそう……じゃなくて!」

 

「私が考えて選んだ道なら尊重するって話?」

 

「……っも、あるけど。引き際は見極めなさいよってこと!」

 

 

 色々と言いたいことがあったのに、過去の己の発言が食い止めてきた。

 正直、1人で向き合うのは無謀に感じるのでできればやめて欲しいのだが。

 

 

(これを言ったら、カイトあたりに舌打ちされそうだよね)

 

 

 甘やかすなって怒られることは間違いなし。

 まふゆが話すというのであれば、それを尊重するのが友達としてできることだろう。

 

 

(それなのに止めたくなるのは、たぶん……スケッチブックのことが気になるからだよね)

 

 

 奴が姿を消してから随分と経つ。

 そのせいか、どうにも要らぬ心配をしてしまうのだ。

 

 

『まふゆがそこまで言うならわたしは何も言わないよ。頑張ってね』

 

『ボクらはいつでもまふゆの味方だからね!』

 

「……いざとなったらセカイに逃げるなりなんなりしなさいよ。馬鹿正直に向き合わなくてもいいんだからね」

 

「うん。皆、ありがとう」

 

 

 ……この時、心配を飲み込んでまふゆを見送ったのが正解だったのか。

 今の私には正しいと信じて解散すること以外、できなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【哀れだね……いくら足掻いたところで、君はあの時、時期でもないのに別の子を助けるという選択をしちゃったんだ】

 

 

【流れを変えた罪は重いよ? 欲張りなところは実に人間らしい罪で、こちらとしてはありがたいけどね】

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──嫌な予感が現実になったような気がした。

 

 

 土日の休み明け、学校に登校するとまふゆがいなかったのである。

 先生によると「朝比奈さんは体調不良でおやすみです」とのこと。1日ぐらいならまぁ、それもそうかと思った。

 

 だけど、2日目も「体調不良」で3日目すらも「体調不良で」と続けば、流石に鈍感だと身内で有名な私でも異変に気がつく。

 

 風邪は長引くかもしれないが、4日目も体調不良が続いているのだ。いくら何でも、はいそうですかと納得するのは難しい。

 最近では恒例になったナイトコードにで、私は自分の違和感の話と一緒に報告した。

 

 

「──ってわけで、担任の先生に話を聞きに行きたいの。だからお昼の作業は休ませてもらうね」

 

『4日も来てないと流石に心配になるよねー。出張のことも聞いちゃったし、変なこと考えちゃいそう』

 

『そうだね……うん、わたしの方でもミク達にまふゆのことを聞いてみるよ。そっちはよろしくね』

 

 

 瑞希も奏もすぐにわかってくれたので、ボイチャから抜けた私は職員室へと向かった。

 幸いなことに担任の先生は直ぐに見つかったので、早速、先生を逃さないように声をかける。

 

 

「先生、今お時間いいですか?」

 

「あぁ、東雲さんね。どうしたの?」

 

「最近はずっと朝比奈さんがお休みですけど、何か学校の方で連絡が来てませんか?」

 

「それは……個人の情報だし、東雲さんに話すのはちょっと」

 

 

 すっと下に視線を逸らす動作と吃る声。

 これは何か知っている人間の反応だ。ここは更に詰め寄ってみようか。

 

 

「朝比奈さんにメッセージや電話で連絡してみても、全く繋がらなくて心配なんです。何か知ってるのなら、教えてもらえませんか?」

 

 

 お願いします、という言葉も添えて深々と頭を下げる。

 高校に入ってからというものの、私とまふゆがセットで動いていることもあったのだろうか。

 

 

「連絡が繋がらないなんて……そうよね。それなら、心配になるわよね」

 

 

 頭を上げると、しょうがないと言いたそうな困り顔の先生が頷いてくれた。

 ありがとう、まふゆの優等生戦略。先生の好感度もあったおかげなのか、願いが通じたらしい。

 

 

「先生ももしかしたらインフルエンザなのかと思って、念の為にこちらから電話して聞いてみたのよ」

 

「それで、何と?」

 

「……残念ながら、家庭の事情としか。本当は風邪ではなかったみたいだけど、朝比奈さんがどうしてここまで休んでいるのかはわからないわ。力になれなくてごめんなさいね」

 

「いえ、こちらこそ無理を言ってすみません。ただ……最後に1つ、聞いてもいいですか?」

 

「答えられるものならいいんだけど……」

 

「それは大丈夫です。聞きたいのは電話してきた相手は誰なのかなーって、気になっただけなので」

 

 

 聞かなくてもわかっていることでも、やはり証言が欲しい。

 じっと先生の顔を見つめていると、眉をハの字にした先生が口を開いた。

 

 

「まぁ、それぐらいなら。電話をくれたのは4日間とも朝比奈さんのお母さんだったわ」

 

「っ! ありがとうございます! お昼休みなのに、無理を言ってしまってすみません。ありがとうございました、先生」

 

「いいのよ、東雲さん達にはいつも助けられてるから。そろそろテスト期間も迫ってるし、預かってる課題とかも溜まってるのよね……先生のためにも、朝比奈さんが早く来てくれるといいんだけど」

 

 

 そう言ってくれた先生と別れた私は、そわそわとする気持ちを抑えて午後の授業を乗り切った。

 ナイトコードのメッセージによると、奏達は既にセカイにいるようだ。

 

 早足で帰宅した私はすぐに自分の部屋に閉じ籠もり、曲を再生した。

 

 

「皆、お待たせ! それで、どうだった?」

 

 

 セカイに到着した瞬間に発したせいで、私は周りをまだ見れてなかった。

 

 

「あ、絵名……」

 

 

 ミクの小さな声が聞こえてくる。

 いつも通りにも聞こえたそれは、振り返ったら全く別のものであることをありありと伝えてきた。

 

 奏も瑞希、リンとレンもその場にはいたのだが、全員、あからさまに暗い顔をしていたのだ。

 ドッドッドッと、心臓が一層強く音を主張するようになった気がする。

 

 

「その、ミク……まふゆは元気だった?」

 

 

 気のせいでありますようにと祈り、うるさい心臓の音と手汗を無視して声をかける。

 

 

「わからない──もしかしたら、まふゆは家に閉じ込められてるのかもしれない」

 

 

 しかし、現実は無情だ。

 ゆっくりと首を横に振ったミクから告げられたのは、予想していた中でも最悪に近い情報だった。

 

 

 






この世界線ではまふゆさんはえななんを誘拐するけれど、まふゆさんはまふママに監禁されちゃいました。
これにはスケッチブック君もニッコリしてます。

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