イラスト担当は記憶を無くしました   作:大森依織

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197枚目 お届け大作戦

 

 

 

 

「──もしかしたら、まふゆは家に閉じ込められてるかもしれない」

 

「は?」

 

 

 ミクの口から出てきた言葉は、思わず聞き返してしまうぐらい嫌な事実だった。

 

 学校に休んでいた時点で、その最悪を予想していなかったわけではない。

 予想していたとしても、それが現実となった破壊力が筆舌に尽くし難いものだった。

 

 だからこそ、私はぐるりと皆の顔を見る。

 

 

「嘘だって言いたいところだけど、それって本当なの?」

 

「うん……ミク達がまふゆのスマホから様子を見ようとしてくれたんだけど」

 

「全員、真っ暗な箱の中に出たんだってさ。まふゆがスマホを箱の中に入れるとは思えないし、取り上げられたんじゃないかって話になったんだ」

 

 

 奏と瑞希の情報で凡その内容は理解した。

 2人も直接、まふゆのスマホから様子を見たわけではないので、詳しく知っているであろう3人へ目を向ける。

 

 

「ミク、もうちょっと詳しく教えてくれない?」

 

「うん。わたしもあまり、わかっていないんだけど……」

 

 

 奏に相談されてまふゆのスマホへと向かったミクは真っ暗な所に出たらしい。

 スマホの光に照らされて何とかそこが『箱の中』であることはわかったものの、それ以外のことはわからなかったようだ。

 

 念の為にリンやレンにもまふゆの様子を見てもらおうとしたものの、いつまで経っても箱の中のまま。

 両手で数えられるぐらい様子を窺ってみたものの、スマホの充電が切れたのか。最終的にまふゆのスマホには入れなくなってしまった……とミク達は口を揃えて言う。

 

 

(これは確かに、まふゆが閉じ込められたって結論に至ってもおかしくないか)

 

 

 仮にまふゆがウイルス性の風邪で寝込んでいるとしても、風邪という理由でスマホを箱の中に入れっぱなしにするとは思えない。

 そんな不思議な行動を考慮するよりも、まふゆのお母さんにスマホを取り上げられたと考える方が自然だ。

 

 

「本当にまふゆを家に閉じ込めているのだとしたら、まずはまふゆのお父さんに連絡するべきでしょ……瑞希!」

 

「あー、その。先に謝ってもいい?」

 

 

 いつもの元気な瑞希の姿からは想像できないぐらい小さな声でそんなことを言うものだから、何となくその言葉の意味を察してしまった。

 

 

「はぁ? まふゆから連絡先を聞いたんじゃないの?」

 

「聞こうとしたんだけど、まふゆから「知らない電話番号から電話しても出ない可能性があるから、私が仲介する」って」

 

「……それで連絡先は聞いてないと」

 

「うん……ごめん」

 

「そういう理由なら瑞希が悪いってわけじゃないでしょ。別に謝らなくていいって」

 

 

 ただ、こちらの当てが外れたというだけで。

 理由が理由なので、瑞希が知らないのは仕方がないと割り切ったとしても……さて、どうしようか。

 

 

「本当に家に閉じ込められてるのなら「もしもしおまわりさ~ん」って、できないかな?」

 

「瑞希、あくまで閉じ込められてるかもっていうのは私達の予想でしょ。交番に行ったところで取り合ってもらえないんじゃない?」

 

「家庭内ってことになると、動いてくれないかもって話もあるよね」

 

 

 瑞希のアイデアは悪くはないだろうが、それは確定した状態で取れる最終手段だろう。

 奏も私と同意見らしく、不安そうな顔をしている。

 

 証拠もないのに学校に来ないから家に閉じ込められているかもしれないんです! と駆け込んだところで、まともに取り合ってくれないのがオチだ。

 何か別のアンサーを出した方がいいのは考えなくてもわかる話だった。

 

 

「ベストは出張中だっていうまふゆのお父さんに連絡を取れることだけど、それは現状は無理よね」

 

「ん~。でも、まずはまふゆの安否の確認が優先じゃない? 何とかまふゆと接触できないかなぁ」

 

「……なんとか、ね」

 

 

 何かが頭の中から出かかっている気がするのだが、どこかに引っかかっているのか中々出てこない。

 

 

(こう、喉元まで来ている気がするんだけど、言葉にならないというか……)

 

 

 何かヒントがあればこの気持ち悪さから解放されるかもしれない。

 

 

「絵名? 唸ってるけど大丈夫?」

 

「大丈夫じゃない。だから瑞希がテキトーに喋ってて」

 

「えぇー、雑過ぎない?」

 

 

 心配して声をかけてくれた瑞希に無茶振りをして、私は頭を悩ませる。

 

 1人で考えても出てこないのであれば文殊の知恵だ。

 3人どころか倍以上の人数なので、何かアイデアの1つや2つぐらい出てきてもいいはず。

 

 

「まふゆの様子を確認するとしても、どうやって接触するかだよね」

 

「わたしは難しいと思う。まふゆのお母さんに会ったとしても、警戒されそう」

 

「ボクも他校の、しかも後輩だからなぁ……繋がりが不明過ぎて、門前払いされそう」

 

「同じ学校の同学年なら、絵名がまふゆの家に行ってもおかしくないよね?」

 

「それはボク達的にも切りたくない手だけどねぇ」

 

 

 瑞希は注文通りに奏と話している。

 かなり雑な振り方をしたのだが、話は意外と盛り上がっているらしい。

 

 唸る瑞希をちらりと見たリンが小首を傾げた。

 

 

「なんで絵名がまふゆの家に行くのはダメなの?」

 

「絵名との関係に『サークル活動の仲間』っていう繋がりが見えない状態なら問題ないんだけど、少しでもそれが見えたら絵名との関係が絶たれちゃうかもしれないんだ」

 

 

 瑞希が理由を述べると、隣で聞いていたミクが珍しく目に見えて動揺した。

 

 

「それは困る……まふゆがまた、絵名をセカイに閉じ込めようとしちゃうかもしれない」

 

「とっ、閉じ込めるっ……!?」

 

 

 更に隣で聞いていたレンが信じられないモノを見るような目で震えた。

 

 どうやらレンはあの件を知らなかったらしい。冗談か何かだと思いたいようだが、残念ながら全て事実である。

 ただちょっと、まふゆが頼れると思う相手が極端に少なくて、追い詰められていただけなのだ。

 

 冗談を言っていないと悟ったレンがバイブレーション機能を外付けされたかのように震える中、瑞希はレンの様子を見て苦笑いを浮かべた。

 

 

「そういうこともあって、絵名にまふゆの家に行ってもらうとしたら。音楽活動を匂わせないようにしつつ、まふゆと接触してもらわないといけないんだよね。学校関係の話で家に行けたら最高かな」

 

「それ、無理難題なんじゃないの?」

 

「スマホも使えないし、そのせいで連絡もセカイに来てもらうこともできないし……はは、リンの言う通り過ぎて言い返せないや」

 

「まふゆの手元にスマホかパソコンがあればいいのにね」

 

 

 学校関係の話で、セカイに来てもらえば良くて、手元にスマホがあれば良い。

 瑞希とリンのやり取りで出てきたワードから、私の頭の中に天啓が舞い降りた。

 

 

「それよ!」

 

「うわっ、ビックリした……絵名、急にどうしたの?」

 

 

 目を丸くした瑞希達を落ち着かせることなく、私は思いついたことを口に出した。

 

 

「学校関係の話でまふゆの家に尋ねつつ、まふゆの手元にスマホを届けてセカイに来てもらえばいいのよ!」

 

「あぁ、さっき言ってたことね。でも、そんな都合の良い話はないでしょ?」

 

「それがそうでもない可能性が出てきたの! さっき思い出したんだけど……」

 

 

 セカイに来る前に私は担任の先生と話していた。

 その会話の中で1つ、気になったことを言っていたのである。

 

 

「先生、預かってる課題とかが溜まってるって困ってたみたいなのよね。だからそれを私が立候補して届けようと思うの。それで……」

 

「その荷物の中にスマホを上手く紛れ込ませたら、まふゆがセカイに来ることができるかもしれないってこと?」

 

「奏、大正解!」

 

 

 言いたいことを引き継いでくれた奏にグーサイン。

 

 そう、これならば私は『長い間休んでいる朝比奈さんを心配して来た学校の友達』だし、上手くいけばまふゆもセカイに呼び出せるステキな策になり得るのだ。

 私が自信満々に宣言すると、瑞希は1歩引いた状態から指摘した。

 

 

「絵名の作戦は悪くはないと思うけどさ。スマホを紛れ込ませるって言っても、誰のスマホを紛れ込ませるつもりなの?」

 

「そこはバレた場合の言い訳も考えて私のスマホを入れる予定。スマホが無くても家のパソコンからセカイに来れるしね」

 

「それ、不便じゃない?」

 

「…………そこは断腸の思いで我慢する」

 

「……あー、うん。その間で本当に『断腸の思い』なんだなって伝わってきたよ」

 

 

 こっちはスマホに依存している現代人である。

 片時であってもスマホを手放すなんて、断腸の思いでもなければ決行しない。

 

 顔にも出てしまうぐらい苦しむ私に、瑞希も奏も苦笑していた。

 

 

「創作みたいに窓から侵入〜とかできるとも思えないし、絵名の作戦が今思いつく限りでは1番現実的かなぁ」

 

「何をするにしてもまずはまふゆと会わないと始まらないし……絵名には負担をかけちゃうけど、1番大変なことを任せてもいい?」

 

「当然、提案したんだからやるわよ。ただ、私だけで考えたら穴ができると思うから、皆も考えて欲しいの」

 

「ボクに任せてよ、いい感じのアイデアを出すよ!」

 

「わたしも自信はないけど、考えるね」

 

 

 瑞希も奏もやる気だし、ミク達も協力的だ。

 

 そのおかげで作戦や小細工もとんとん拍子で決まり、後は私が先生からまふゆの課題を受け取るだけになった。

 

 

「明日も学校があるから、その時に先生から課題を受け取って、まふゆの家に届ける……そこから先はどこまで小細工が通じるか、かな」

 

「できれば表面上だけ見てまふゆの手に渡ればベストなんだけどねー」

 

「家にいるまふゆがどういう状況なのかわからないから安心できないけど、今のわたし達にできるのはこれぐらいだよね」

 

 

 作戦の最終確認をしてから、私はぐるりと周囲を見渡す。

 

 

「絵名ちゃん、頑張ってね」

 

「無理だけはしないで」

 

「作戦、上手くいくといいね」

 

 

 レンやリン、ミクもそれぞれ応援してくれている。

 

 はたしてまふゆの手元にスマホが届くのか、不安は残るもののこちらでできる小細工はこれぐらいしか思いつかない。

 まふゆの手元にスマホが届くことを願って、今は動くしかないだろう。

 

 

「じゃあ、また明日に報告するから。まふゆの件はちょっと待ってね」

 

 

 上手くいくかは運次第。

 動くと決めた後は行動して、祈るしかないのだから……今のうちに成功を祈っておこうか。

 

 






映画にて3枚画面の奏さんに感動したり、まふゆさんは本当にノートパソコンだけでどうにかこうにかしてるのかと驚いたり、奏さんがパソコンで曲を再生してもセカイに行けるのを観測できたので。
えななんにもスマホじゃなくてパソコンからセカイへ行ってもらいます。



《これからのお話について》

原作様は1人1人の子達を大切にしており、本作のような露骨なキャラクター贔屓をしたりはしてません。とある人物が苦しんだりすごい行動をしているのも異物乱入させた作者が原因です。(つまり犯人はヤツ)
まふゆさんのお母さんも少々共感力や理解が足りてないだけで、本作のような突拍子もないことはしてません。
1人の登場人物が過剰に苦しんでいたり、負荷があったり、悪者になっているのは異物とそれを混入させた作者が悪いので、そこはよろしくお願いします。



次回はまふゆさん視点です。
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