イラスト担当は記憶を無くしました   作:大森依織

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コラボが始まりましたね。
プレライブは延期しちゃいましたが、ガチャに挑む皆様の結果が良くなりますよう、お祈り致します。

それでは、わぁって言いたくなるまふゆさんの視点をどうぞ……





198枚目 【その頃の朝比奈さん】

 

 

 

 

 

 

 

「──まふゆ、今日から2週間はお父さんがいないから……その間、お母さんとゆっくり話しましょう?」

 

 

 目が覚めた私に待っていたのは、怖いぐらいニッコリと笑ったお母さんだった。

 今日はお父さんが出張に行く日であり、私も警戒をしていたせいだろうか。目覚めたこの瞬間からも頭の中の警鐘が鳴り響いている。

 

 異常と感じる1つ目の理由は、当然のようにお母さんが私の部屋の中にいること。

 2つ目は、今日がお父さんの出張日だと考えると……部屋の中も多少は明るくなっていてもおかしくはないのに、夜かと思ってしまうぐらい暗いことだ。

 

 机の上に置いていたはずのスマホが無くなっていたり、定位置にあった時計が無くなっているのもおかしい。

 

 

「……えっ?」

 

 

 他にも異常はないかと笑っているお母さんから周囲へと視線を移せば、信じられないものを見つけてしまった。

 

 昨日、眠った時は何もなかった窓はリフォームで使われてそうな板のようなもので塞がれていて、まるで閉じ込めようとしているみたいな仕様になっているのだ。

 私が唖然とする理由だってわかっているはずなのに、お母さんは不思議そうに首を傾げた。

 

 

「もう、まふゆったらまだボーッとしているの? お薬のせいとはいえ、お昼まで寝ちゃったせいかしら。やっぱり夜中に何かをするのは体に悪いのね」

 

「……薬、って」

 

「まふゆったら、ずっと夜中に遊んでいたんでしょう? 夜もちゃんと眠れるように、昨日の飲み物に寝つきが良くなるお薬を入れておいたのよ。まふゆも疲れていたみたいだし、ぐっすりと眠れたわよね。ふふ、頭もスッキリしたでしょうし、良かったわ」

 

 

 まるでとても善いことをしたかのように語っているお母さんに、私の体はブルリと震えた。

 目の前にいるのは確かに私のお母さんのはずなのに、どうしてか悍ましい何かに見えてしまう。

 

 私の見え方は置いておくとしても、今の状況から抜け出さなければ。

 震える体を抑えつけた私は辛うじていつもの仮面をつける。

 

 

「お、お母さん……寝過ごしちゃったみたいだけど私、学校に行かなきゃ。だから──」

 

「必要ないわ」

 

 

 食い気味に否定したお母さんの顔から、表情が抜け落ちた。

 が、それは一瞬のことだったようで、すぐにまたあの笑みが戻ってくる。

 

 

「まふゆは今、迷子の状態だからわからないのよね。そんな状態で学校に行ったら心配だもの。だから、まふゆが答えを見つけてくれるまで、お母さんも手伝ってあげるわ。それまではこの部屋でゆっくりしていましょうね」

 

 

 ……目の前で笑う相手は、誰なのだろうか?

 ふと、私のお母さんであるはずの女性を見て、1人の声が頭の中に木霊する。

 

 

 

 ──まふゆのお母さんは味方とは限らないっていうのは、わかる?

 

 

(……っ! ううん。向き合うって決めたんだから、弱気になっちゃダメ)

 

 

 今更になって絵名の言葉が重たく響く。

 だけど、今更弱気になったら昨日まで一緒に話してくれていたお父さんや、ここまで色々とやってくれた皆に悪い。

 

 弱る心に叱咤している間に満足するまで語ったのか、お母さんは部屋から出て行った。

 ガチャリと閉まる扉に近づいてみたものの、外から鍵をかけられたのか部屋の扉は開かない。

 

 窓も開かないし、パソコンは壊れていて使えず、スマホもない。

 時計もないので、時間の感覚は偶に『お話』や『ご飯』のために訪れるお母さん以外に頼れるものは何もない。

 

 その情報ですら、外の様子も全くわからない私では本当のことなのか判断ができなかった。

 部屋の外に出るのはトイレと入浴の時のみであり、それもお母さんの監視の元。誰かに現状の連絡をすることもできない私にできることは勉強ぐらいだ。

 

 その勉強だって部屋の外から感じるお母さんの気配で集中できそうにないし、不安だけが心の中を支配する。

 

 

(絵名もこんな気持ちだったのかな)

 

 

 だとしたら、とんでもなく悪いことをしてしまった。

 2週間という期限がある私でもこんなに不安になるのだ。

 

 絵名はもっと不安だったはずなのに……どうして絵名は、あの生活を受け入れてくれたのだろうか?

 その点だけは、この数日だけではわからなかった。

 

 

 

 ……

 

 

 …………

 

 

 

 

 ……そんなことを考えたり、勉強などで気を紛らわせながら、どれぐらいの時が過ぎたのだろう?

 

 

(お母さんの話と体感的に、たぶん今日は金曜日か土曜日だと思うんだけど)

 

 

 時計もなければお母さんの話もそこまで信じられないけれど、それでも『そろそろ折り返しなのに』とかの言葉の断片から予想できる要素はあった。

 だけど、思ったよりも監視のある自由のない生活というのは、削られてはいけない何かが確実に削り取られていく。

 

 本来なら信じなければいけない自分の感覚すらも、信じられなくなっていた。

 

 

『──まふゆ、入るわよ』

 

 

 最低限のノックもなくなってしまった部屋にお母さんが入ってくる。

 また『お話』が始まるのだろうか。胸の中が再び黒い何かに覆われそうになっていると、お母さんの手に封筒が握られているのが目に入った。

 

 

「お母さん、その封筒は?」

 

「さっき、東雲さんがまふゆに届けてくれたのよ。授業を休んだ分の課題や遅れた分のノートが入ってるみたいだから、渡しておくわね」

 

(東雲さんって、絵名のことだよね……?)

 

 

 ついさっき、僅かにインターホンの音が聞こえてきたのは気のせいではなかったらしい。

 私は浮足立ちそうになる気持ちを抑え、お母さんから封筒を受け取る。

 

 

(あ……中身、見られてる)

 

 

 手渡されたのは開封した形跡のある封筒だ。

 封筒を渡した後も特に反応もなく、部屋を出ていくお母さんの姿を見るに……中身は大したものはないと判断したのだろう。

 

 絵名という言葉に期待していた分、落胆が胸の中を支配した。

 

 

(いくら絵名でも、中身を見られることを想定してないよね)

 

 

 私の中で勝手に絵名達に対するハードルが上がってしまっていたが、皆も私もただの高校生。

 セカイという特別な場所があっても、スマホが無ければどうしようもないのだ。絵名達であっても、大人であるお母さんの目を騙すなんてことは無理だったのかもしれない。

 

 

(あれ、これって……)

 

 

 半分諦めながら課題の中身を物色していると、1つだけほんの僅かにおかしい参考書が混ざっていた。

 

 パッと封筒の中身を確認した程度では見逃しそうな、偽装された参考書。

 ページの最期の部分に『これは付録のCDです』と言わんばかりに、苦し紛れに画用紙っぽいもので偽装された長方形の物体が貼り付けられている。

 

 

(今ならお母さんもいないかな)

 

 

 扉の近くで耳を澄ませてみても、音も気配もない。

 今なら、この物体の中身を確認しても部屋に乱入されることはないだろう。

 

 鋏をカッターに見立てて少し厚い長方形の物体を切ると、出てきたのは自分のスマホの次に見覚えのあるスマホだった。

 

 

(もしかして……絵名の?)

 

 

 絵名がお気に入りだと言っていたものとほぼ同じスマホケースに、ニーゴの皆で撮った写真が壁紙として設定されているロック画面。

 間違いない。絵名のスマホだ。だけど、どうして参考書の中に偽装して入れていたのだろう……?

 

 首を傾げつつもスマホを隠していた紙をどこかに隠そうと手に持てば、下の方に小さな文字が書かれているのが目に入った。

 

 

(これであなたもセカイへ行けるように! ……これも偽装かな。手が込んでる)

 

 

 大仰過ぎる参考書の煽り文句と考えたら、許容範囲のメッセージだろう。

 どうやら皆は課題を届けることを口実に、家から出れない私にスマホを届けてくれたらしい。

 

 絵名のスマホにはロックがかかっているものの、パスワードは知っている。

 記憶を手繰り寄せてスマホのロックを解除し、私はセカイへ行くための曲を再生する手段(チケット)を手に入れることができた。

 

 

(お母さんは私が課題をしていると思っているはずだから、暫くは部屋に来ないはず)

 

 

 部屋の中に入ってくる前に戻ることができたら、お母さんが荒れる可能性は潰れるはず。

 念のために課題を広げて絵名曰く『やってる感を出す構成』を机の上に作って、準備は完了だ。

 

 ここまで対策したらもう、お母さんが私がいない間に部屋に入ってきたりしない限りは大丈夫だろう。

 

 

(……考え過ぎたら『フラグ』になるって、瑞希が言ってたような)

 

 

 これ以上考えるのはやめよう。

 現実になってほしくない思考を打ち切り、私は絵名のスマホから見慣れた曲をタップする。

 

 他人のスマホから移動できるのか少し不安だったものの、意外とどうにかなるらしい。

 久しぶりに眩い光に包まれて目を閉じると、背後から違う声質の呼び声が3つ、聞こえた。

 

 

「まふゆ!」

 

「よかったぁ、作戦は成功したんだね!」

 

「まふゆ、セカイに来れて良かった」

 

 

 振り返ると珍しく大きな声を出す奏や、ホッとした顔をする瑞希。

 いつものようにも見えるけど、薄らと笑みを浮かべているミクが駆け寄ってきた。

 

 

「皆、久しぶり。課題と一緒にスマホが届いたよ……皆がやってくれたんだよね? ありがとう」

 

「主に絵名が動いたんだけど、まふゆにスマホが届いて良かった」

 

「うん……それで、絵名は?」

 

 

 安堵する奏達に対して、今回の功労者である存在の行方を尋ねる。

 私の疑問に答えてくれたのは苦笑いをしている瑞希だった。

 

 

「絵名は自分の部屋のパソコンからセカイに来るらしいから、遅れるって言ってたよ。といっても、その話を聞いたのも昨日のことなんだけど」

 

「絵名、スマホが使えなくてちょっとソワソワしてた」

 

「あれはちょっと依存だよねー……ま、ボクもスマホを全く触らない日はないし、あぁなっちゃうのかもしれないけど」

 

 

 どうやら瑞希が苦笑していたのは絵名の姿を思い出してのことらしい。

 

 ミクまで口に出すのだから、絵名のスマホ断ちは周りから見ても気になるものだったのだろう。

 そこまでして私の元にスマホを届けてくれたのだから、絵名の行動には感謝しても仕切れない。

 

 

「じゃあ、来てからちゃんとお礼を言わないと」

 

「ボクと絵名で『まふゆのお母さんのことだから、絶対に中身は確認するはず!』って、色々と対策したからさ。その辺も含めてお礼を言ってあげてね」

 

「うん、そうする。瑞希も対策してくれてありがとう」

 

「どういたしまして!」

 

 

 ニッコリと笑う瑞希の隣に、神妙な顔の奏が並ぶ。

 

 

「まふゆをセカイに呼べたとはいえ、状況はそのままだから……絵名が来てから改めて作戦を立てたいんだけど、いいかな?」

 

「うん……私も皆と話したい」

 

 

 奏の提案に頷き、一先ずは絵名がセカイに来るのを待つことにした。

 

 

 







Q…どうしてまふゆさんのお母さんは娘を監禁してしまったの?

A…犯人はスケッチブック君です。えななんに干渉した時と同じように、まふゆさんに対するほんの少しの疑心感や不安を煽りに煽って視野狭窄に陥らせ、疑心暗鬼にさせたコイツが悪いです。

今頃、奴はえななんには通じなかった干渉が思い通りにできて、喜んでるんじゃないですかね……
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