イラスト担当は記憶を無くしました   作:大森依織

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それが届くかはわからないけれど。





199枚目 想いを曲に変えて

 

 

 

 

 

 

 早く歩いてもまふゆの家から自宅までの距離が縮まることはなく、家に帰った頃にはまぁまぁの時間が過ぎてしまっていた。

 

 家に帰っても急かす気持ちが抑えられないせいか、パソコンが起動する時間すらもどかしい。

 スマホならそんなことないのに、なんて本末転倒なことを考えてしまう自分に笑ってしまった。完全にスマホ依存症である。こんなの笑うしかない。

 

 己の不甲斐なさに呆れている間にパソコンも起動し終わったので、いつもの曲を再生する。

 普段はスマホを使ってセカイに行くのでほんの少しの違和感があるのだが、セカイには問題なく来ることができた。

 

 

「皆お待たせっ、遅くなっちゃった!」

 

 

 どうやらスマホお届け作戦は成功したらしい。セカイに来た瞬間、久しぶりに紫髪の存在が目に入った。

 久しぶりに見るまふゆの姿にホッとしつつ、私はミクを含めた4人が集まっている所へ駆け寄る。

 

 

「絵名、お疲れさま」

 

「お疲れ~。絵名が頑張ったから、まふゆも無事にセカイに来たよ!」

 

「うん、絵名がスマホを届けてくれたから来れた。ありがとう」

 

 

 奏と瑞希が労ってくれて、まふゆはこちらに向かって頭を下げる。

 推定・監禁生活を送っているせいか、まふゆの顔色はあまり良くないように見える。だが、無事な姿を見ることができただけでも安心した。

 

 

「まふゆがセカイに来れて良かった。それで、話しはもう始まってる?」

 

「ううん、まだだよ。まふゆも疲れているだろうし、絵名もいなかったからね。これから話を聞くところ」

 

「そっか、間に合ってよかった」

 

 

 奏達が私を置いて話を始めるとは思っていなかったものの、奏の口から直接聞けてさらに安心だ。

 とはいえ、これはあくまで私の都合。今のまふゆにとっては時間は貴重である。私が邪魔をしたら悪い。

 

 

「よーし。絵名も来たことだし、まふゆには嫌なことを思い出させちゃうかもしれないけど、この5日間のことを聞いてもいいかな?」

 

「……わかった」

 

 

 奏の問いかけに頷いたまふゆが話してくれた話は大体こちらの予想通りではあったものの、それだけに腹立たしい内容だった。

 相手が取った手段が手段なだけに、まふゆの嫌がりそうなことでも言わなくてはならない。

 

 

「まふゆはまだ、お母さんと話したいの?」

 

「……うん、できるなら」

 

「そう。でも、本当はわかってんじゃないの? あんたのお母さんが本当に話を聞いてくれるのなら、こんなことにはなってないってさ」

 

 

 私の言葉に思い当たるところがあるせいか、まふゆは私から逃げるように視線を下に向ける。

 閉じ込められていた相手に言うような言葉ではないのかもしれないが、きっと私が来るまでの時間で奏達に飴を貰ったはず。

 

 そう信じて、私は鞭役に徹することにした。

 

 

「そうやって私の目から逃げるんなら、お母さんとの話も難しいんじゃないの?」

 

「それは、わかってる」

 

「今のままだとあんた、お父さんが帰ってくる前に潰されちゃうわよ」

 

「それもわかってるよ」

 

「あんた、本当にわかってんの?」

 

「え、絵名」

 

 

 いつまで経っても下を向いたまま視線を合わせようとしないまふゆに詰め寄ると、ミクに間に入られてしまった。

 瑞希にも「どうどう、ちょっと落ち着こう?」と馬扱いされるし、頭に血が上っていると思われたらしい。

 

 ちょっと口調が荒れてしまったのは自覚しているが、こちらとしても言わなくてはいけないことがある。

 未だに地面と仲良くしている青い目と目が合うところまで近づき、まふゆが逃げ出さないようにじっと見つめた。

 

 

「まふゆの意思を尊重するとは言ったけど、あんたが衰弱するのを指をくわえて見てるとまでは言った覚えはないの。それはわかる?」

 

「……うん」

 

「あんたがこのままお母さんにされるがままになるのを見過ごすのなら、私はこんな面倒なことをしてまでスマホを届けてないのよ」

 

 

 それこそ強引にセカイに匿うか、出張中のまふゆのお父さんをとんぼ返りさせる覚悟で私は動いている。

 

 

「で、あんたはお母さんと話せる手段を何か1つでも考えた上で『お母さんと話したい』って言ってるわけ?」

 

「……考えてない、けど」

 

「けど?」

 

「少なくとも……お父さんが戻ってきたら、お母さんとちゃんと話せない気がするの」

 

「どういうこと?」

 

 

 まふゆはまふゆなりに話し合いを続行したい理由があったらしい。

 そのことに漸く気が付けた私は一旦、自分で決めた鞭役(役割)を脇に置いた。

 

 

「お母さんが私を家に閉じ込めたのは、家に誰もお母さんの味方がいなかったからっていう理由らしい」

 

「えっ、待って。じゃあ、まふゆが閉じ込められたのって……ボクがお父さんを味方にするように勧めたせいってこと?」

 

 

 まふゆの言葉に瑞希が目を瞬かせる。声は震えていて、誰から見ても挙動不審だった。

 震える瑞希の前に伸ばされたのはジャージを纏った手。我らがリーダーである奏が最も早く動いた。

 

 

「瑞希、落ち着いて。まふゆを少しでも守るためにお父さんを味方に付けようって決めたのは皆でだよ」

 

「で、でも。ボクが提案しなければ、まふゆが閉じ込められることはなかったんじゃ」

 

「起きちゃったことをはなしてもしょうがないよ。わたしだって予想できてなかったんだから、瑞希だけのせいじゃない」

 

「……そう、だね。ごめん、取り乱しちゃった」

 

 

 奏が断言したおかげか、瑞希も落ち着きを取り戻したようだ。

 瑞希が自分のことを責めないようでホッと一息。ここで瑞希まで落ち込んだら、暴力で意識を引き戻すぐらいしかアイデアが出てこないところだった。

 

 

「あ、あれ……急に寒気が」

 

「え、大丈夫なの? 瑞希?」

 

 

 視界の端で瑞希と奏がそんなやりとりをしていたが、今は時間が有限なのを忘れてはいけない。

 この調子だと錯乱して手が付けられない母親が待っている展開になりかねないので、早く話を進めなければ。

 

 

「つまり、あんたのお母さんは味方が誰もいない状態だからあんたの考えを変えようと必死になっていて、今しか説得のチャンスがないって思ってるってわけ?」

 

「うん。今ならまだ、お母さんも私の想いを受け入れてくれる余地があると思うの。でも、お父さんが帰ってきたらもう……それすらなくなっちゃう気がするから」

 

(そういう感覚が鋭いまふゆがそう思うのなら、そうなのかもしれないけど……)

 

 

 それは0.0~と続きそうな小数点以下の可能性が、小数点以下の確率すらなくなるような違いしかないのではないだろうか?

 そんな針の穴に糸を通すような真似を試してほしくないのが本音だ。しかし、尊重すると言ったのも嘘ではない。

 

 考えに考えて。溜め息とともに不安を吐き出し、まふゆと向き合う。

 

 

「今しかないっていうのはまぁ、置いておくとしても。私としては、まふゆがその『想い』とやらを伝える手段として『話し合い』を選ぶつもりなら反対だから」

 

「……理由を聞いても?」

 

「あんたは今、閉じ込められてるのよ? 自由を奪われてるの。そんな呑気なことを言ってる場合じゃないでしょ!?」

 

「でも、私も絵名をセカイに閉じ込めたけど、許してもらった」

 

「うっ」

 

 

 それを言われたら痛い。でも、言い返さなければ。

 

 

「そ、それに! 勝算のない強行突破はただの無駄死にだし、こっちとしても安心できないの!」

 

「それは……わかってる、つもりだけど」

 

 

 私に言い返せるようなアイデアがないのか、まふゆの発言はどうにも歯切れが悪い。

 そう思っている私も私で代替案を出せるわけじゃないので強気に出れないものの、本当に話し合い以外の策が出てこないのであれば……まふゆに嫌われたとしても、彼女が嫌がることをするつもりだった。

 

 

「──まふゆ」

 

 

 そんな覚悟も決めていたのに、今まで黙っていたミクが動いた。

 

 

「まふゆはもう、知ってるはずだよ」

 

「知ってるって……わからないから困ってるのに」

 

「そんなことないよ。だってまふゆはずっと、自分の想いを伝えることができる方法で自分の想いを探してきたから」

 

 

 ここまで言われたら、外野の私でもミクが言いたいことがわかった。

 それはまふゆも例外ではなく、震えた声がセカイに響く。

 

 

「お母さんに、曲を聴かせるってこと? 確かにそれなら私の想いを伝えられるかもしれない、けど」

 

「問題はまふゆのお母さんが聞いてくれるかだよね」

 

 

 まふゆの懸念を難しい顔をした瑞希が引き継ぐ。

 私も瑞希達とは同意見だ。ミクのアイデアは『まふゆの想い』という点では最善だとしても、まふゆのお母さんに届くかは微妙だった。

 

 

「他に思いつかないのなら、やってみるしかないんじゃないかな」

 

「奏……」

 

「まふゆが不安なのはわかるよ。でも、やれることをやらないのは後悔すると思うから」

 

 

 ミクの言うこともわかる。

 今までのまふゆを見ていたら、彼女が想いを外に出すのにふさわしいモノが曲──というか、詞であるのは私も同意だ。

 

 奏の言っていることも正しい。

 あれこれ考えて何もできないのであれば、思いついたことをやる方が良いだろう。やらない後悔よりもやる後悔なのは、私も好ましく思う。

 

 ただ、私が心配なだけなのだ。

 ──あのまふゆのお母さんがまふゆがお母さんに向けて作った曲を聴いてくれるのだろうか? という、不安が心の底で燻っているだけ。

 

 

「今の状況だと、私は歌詞しか作れないと思う。だから、奏にお願いしたいことがあるんだけど」

 

「うん、まふゆのイメージと歌詞があれば、わたしがまふゆの代わりに曲を作るよ」

 

 

 不安な私を他所にまふゆはやる気を出しているし、奏もそれに寄り添う姿勢を見せている。

 

 

「じゃあ、できた曲をまふゆのお母さんに届けるのがボクらの仕事かな。ね、絵名!」

 

 

 瑞希もやる気のようで、ここで水を差すような杞憂を言うのも自己満足な気がしてきた。

 底にちらちらと見えている感情も私の思い過ごしかもしれない。

 

 

「そうね。やるだけやってみよっか」

 

 

 まふゆのやろうとしていることが正しいのか、正解なのかはわからない以上……きっと世の中には万人が満足する正解なんてないのだから、信じて進むしかない。

 自分も相手も傷付けて、それでもお互いが何とか落とし所を見つけることができるのであれば、私はそれに協力したいと思うのだ。

 

 そうやってとんとん拍子で流れが決まったことにより、作詞はまふゆ、作曲を奏、お届け係が瑞希と私という『まふゆのお母さん説得作戦2』を実行するのが決められた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──それがどのような結末に至るのか、嫌な予感は無視したままで。

 

 

 

 







次回の話はえななん視点を追う皆様だからこそ、観測できる結果です。
日曜日の更新は記念すべき200話目だというのに、スケッチブック君成分マシマシですので覚悟してください。

具体的にどれぐらいって言われると、次回の話は暫く時間を置いてから読んだ方がいいかもしれません……ってぐらいです。
(更に言うと、まふゆさん編が解決?するのは後4話かかります)

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