イラスト担当は記憶を無くしました   作:大森依織

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今は笑われていても、最後に笑っていればいい。



(まふママの捏造成分マシマシです。原作様では現時点で語られてませんので、原作様の設定とは全く異なります。ご注意ください)





205枚目 一発逆転狙い

 

 

 

 

 

(はぁ。今日も何とかなったぁ)

 

 

 まふゆのお母さんとの話し合いの後、中学の時に取っていた日記等の記録をできる限り頭の中に叩き込んだ。

 半分で済んだおかげなのか、叩き込んだ成果が出てしまったのか。まふゆのお父さんも合流した話し合いでは誰もこちらを気にすることなく無事に終了。

 

 それが本当に良かったのかどうかはひとまず置いておくとしても、だ。

 

 

(まふゆがお母さんとちゃんと話せてよかった)

 

 

 部活は時期が来るまで継続。パソコンは修理に出しているし、スマホは返却済み。

 ニーゴの方は時間制限付きで、成績が下がればさらに制限を強くするものの継続許可を貰った。

 

 進路も医者ではなく、まふゆが考える方へ進んで欲しいという話になった。

 その話をしている時はやっぱり、まふゆのお母さんが残念そうな顔をしていたものの……もう、まふゆに強要することはなさそうだってことはわかる。

 

 

(マナーとかそういうのに厳しいなって思うところもあったけど、まふゆのお母さんの家系の事情だったとはね)

 

 

 まふゆの進路が看護から医療にズレたのも、まふゆのお母さんが医者の家系だったということもあったようだ。

 自分が『女の子だから』という理由で医者になれなかったから、まふゆにはなって欲しかったということをポロリと零していた。

 

 自分の夢だったものを娘に重ねて見てしまったからこそ、あんなことになったらしい。

 血が繋がっているとはいえ、子供と親は他人であって同一人物ではないのだ。歪んでしまうのも納得である。

 

 

(まふゆの件も解決したし……帰ったらまた、日記を見返そうかな)

 

 

 絵を描いたりしたいこともあるはずなのに、どうにも乗り気になれない。

 過去の記録から空いた穴を埋めないと、まるで記憶を無くした頃のように不安になるのだ。

 

 

(しかも、まだ制限は残ってるみたいだし……本当に、これで良かったのかな)

 

 

 もしかしたら、奴の口車に乗らなくてもいい道があったのかもしれないし、なかったのかもしれない。

 私も納得して選んだつもりなのに、記憶を失った不安のせいか、選択した結果にすら不安が伝播していた。

 

 

「──あら、絵名じゃない」

 

「え……わっ、愛莉じゃん」

 

 

 声が聞こえた方へと振り向くと、愛莉が小走りでこちらに来ていた。

 

 夜も遅めなのにこんな時間まで愛莉が1人で外にいるなんて珍しい。

 そんな気持ちが顔に出ていたのだろう。私の隣に並んだ愛莉は苦笑を浮かべた。

 

 

「わたしは練習の帰りよ。そんな珍しそうな目で見ないでちょうだい」

 

「あー、そんなに出てた?」

 

「親友だからこそわかるのかもね。それで、絵名は絵画教室の帰りかしら?」

 

 

 どちらかが言い出すまでもなく、自然と会話しながら2人並んで帰路につく。

 

 

「いつもならイエスなんだけど、今日は別件。さっきまでまふゆの家に行ってたの」

 

「朝比奈さんの? そういえば、長い間休んでたってウチのクラスでも噂になってわよ」

 

「えっ、単位制でも噂になってたの?」

 

「それはもうね。雫もすっごく心配してるし、朝比奈さんは大丈夫そうなの?」

 

「うん、明日からまた学校に来れるぐらいにはね。休んでた原因も解決したし、もう大丈夫だと思う」

 

「解決したのなら良かったわ。雫にも伝えておこうかしら」

 

 

 特に何事もなく世間話をしていたはずなのだが、笑みを浮かべていた愛莉が神妙な面持ちで口を開いた。

 

 

「それで、絵名は朝比奈さんの家で何かあったの?」

 

「え? 今日は話し合っていただけだし、何もなかったけど」

 

 

 あの繰り返しの時間を考えれば、今日なんて上手く行き過ぎて怖いぐらいに順調だった。

 

 

「……そう」

 

「どうしたの?」

 

 

 ただ、愛莉はそう思っていないようで、釈然としないと言わんばかりに顔を顰めている。

 明らかに何かがあると言わんばかりの態度に私も尋ねてしまったが、藪を(つつ)いてしまったかもしれない。

 

 

「絵名の雰囲気が変わった気がしたのよね。だから気になったのよ」

 

 

 流石は親友、と驚けばいいのだろうか。

 思わず驚きの声が出そうになったのに、それすらも声に出すことができなかった。

 

 やっぱり私は、まだ言うことができないらしい。

 申し訳なさでいっぱいになりながらも、私は思い当たる節のある顔を作る。

 

 

「嘘っ、もしかして──顔が丸くなってる?」

 

「いや、それは違うから安心して」

 

 

 ペタペタと顔を触る私を心配してくれる愛莉に申し訳なさを隠しつつ、私は軽口を叩く。

 

 

「最近、チーズケーキを食べ過ぎた自覚があったから、もしかしたらと思ったんだけど」

 

「ふふ。じゃあ、わたしと一緒に運動する?」

 

「いやぁ、アイドルの愛莉と一緒だなんて……恐れ多いし前向きに検討しようかな~って」

 

「それはやらない時の常套句なのよ」

 

 

 やれやれと呆れた顔を見せた愛莉だったが、すぐに顔は真剣なものへと戻った。

 

 

「……わたしに言えなくても、誰かには相談しなさいよ」

 

「聞き出さないの?」

 

「気にならないと言えば嘘になるけど、今の絵名には相談できる人が沢山いるでしょう? わたしには話せなくても、誰かには話せるかもしれないじゃない」

 

「……うん、そうだね」

 

 

 わたしにも相談して欲しいのが本音だけどね、と笑う愛莉を見ていると。

 中学の時の自分が親友と思うのと同時に愛莉に憧れていた気持ちもあった理由が、何となくわかるような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

……………………

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前、ここ数日そんなに絵を描いてないよな」

 

 

 まふゆの家から帰ってきて、ふと、彰人から声をかけられた。

 

 

「はぁ? 彰人の前で描いてないからそう思うだけじゃないの?」

 

「……意識してなくても絵を描いてる姿をこっちは見てんだ。そんなに描いてた奴が時間を減らしだしたら、気になるだろ」

 

 

 こっちが晩御飯を温めていると、彰人はこれ見よがしにパンケーキを食べ始める。

 ……こんな時間からパンケーキとは怖いもの知らずか。それとも、男子だからできる所業なのかもしれない。

 

 

「最近は振り返ってる時間をとってたから、そう思うだけじゃない?」

 

「反省はそこそこに、練習の物量でどうにかするタイプじゃなかったのかよ」

 

「……あんたって実は、私のこと好きだったりする?」

 

「は? 真顔で変なことを言うなよ、気持ち悪りぃ」

 

「あー……今のは悪かったわ」

 

 

 普段は喋りかけたら嫌そうな顔をするのに、今日に限っては理解してそうな発言をしてくるから困る。

 思わずらしくない茶化し方をしてしまったし、頭を冷やした方がいいかもしれない。手に持った夜ご飯は温め過ぎて熱いけども。

 

 

「で、何で絵を描く時間を減らしてんだよ」

 

「さっき言ったじゃん。振り返ってる時間を増やしてるって」

 

「お前が絵を描く時間を減らしてまで振り返ってるって、何かありましたって言ってるようなもんだろ」

 

「やっぱりあんた……」

 

「繰り返すのはやめろ。こっちは真面目に聞いてんだよ」

 

 

 どうやら冗談は許してくれないらしい。

 

 そうは言われても彰人に思わせぶりなことを言ってもしょうがないし、素直になろうにも奴がそれを許さない。

 

 2枚目を描いたのだから少しは制限が緩くなっているかもしれないと思っていたのだが、代償を値切った影響なのか首の違和感は変わらない。

 

 

「言えないけど、今のところは大丈夫」

 

「……お前のそれ、病院に行って治るようなものならよかったんだけどな」

 

「まぁ、精神的なものは薬でポンと解決できないって言ってたしね」

 

「そうだな。精神的、精神的って言って、今まで全く好転してねぇんだから、病院も医者も頼りにならねぇよ」

 

 

 彰人はとんでもない無茶振りのようなセリフを吐き出す。

 そのまま私が晩御飯を食べるよりも早くパンケーキを平らげ、席を立った。

 

 

「冷蔵庫の中、見ておけよ。明日までに食べてないのならオレの腹の中だからな」

 

 

 彰人がそのまま自分の部屋に戻ったので、リビングには1人、私だけが残される。

 

 食べてる途中で立ち上がるのは行儀が悪いかもしれないが、誰も見ていないしいいか。

 言い訳もそこそこに冷蔵庫の中を確認すると、パンケーキの入った箱があった。

 

 

(しかもこれ、まふゆの問題の前あたりで気になってるって言ってた店のヤツじゃん)

 

 

 彰人もその場にいたものの、お母さんと少し話していた程度にしか触れていなかったはずなのに。

 それを覚えていた上に買ってきてくれるなんて、かなり心配してくれていたようだ。

 

 

(はぁ……どうしようもないことで心配させたいわけじゃ、ないんだけどな)

 

 

 諦めることができたのなら、違っていたのだろうか。

 

 まふゆのことでふと、考えていたことがある。

 ……そういえば、あの絵を描いてからあっさりと願いが叶った訳ではなかったな、と。

 

 確かに、曲を聴かせた後の反応は違っていたかもしれない。

 しかし、それでもあのやり取りの中には少しでも間違えたらあの絵に描いた未来には辿り着かなかったのではないだろうかと、そう思うのだ。

 

 

(じゃあ、記憶の為にまふゆを見捨てるのかと聞かれたら、絶対に嫌だし……結局、描いたんだろうけどさ)

 

 

 それでも、つらつらと考えてしまうのだ。

 

 そもそも、描いて願いが叶わなかったら記憶が無くならないというのも、私の予想に過ぎない。

 まふゆのお母さんのことだって、あの時に失敗しそうになったら私にかかってるような強制力が働いて、強引に願いが叶うかもしれない。

 

 まふゆの家の問題の件は、あの状態にまで行ってしまった時点で奴との勝負は私の負け。

 『成功体験』という嫌な流れができてしまった以上、こちらとしては逆転勝利ができるように虎視眈々と狙うしかないように感じる。

 

 

(こっちとしては制限がそこまで緩まなかったのが予想外だけど、まだ許容の範囲内……後は、流れと今までの行動を信じるしかないかな)

 

 

 今はただ、その時が来るまでの時間を無駄にしてしまわないように。

 この一歩外したら負けるしかない賭けに勝つために、動き続けるしかないのだ。

 

 

「それはそれとして……最近まで動いていたご褒美デーということで。頭の糖分が足りないし、パンケーキはいただきまーす」

 

 

 さて……難しいことをつらつらと考えるのは、甘味の後にしよう。

 

 

 

 

 






《ぷちメモ》

えななんの日記:宵崎さんによると記録に残すように詳細な内容らしい。これを暗記すれば、表面上は違和感がないようだ。

えななんの演技力:自分の演技だけはカンストレベル。ただ、一部の人は雰囲気とかで異変を嗅ぎ取れるらしい。それに気が付けたら或いは……?

えななんの悪い癖:ちょっと良くなった(本人談)とのことだが、他人から見たら嘘にしか見えない。だから今も、その癖は出ている。

えななんの目的:画家になりたいは消えてないものの、今は緊急対応が必要なスケッチブックとの決着に集中している。
奴も彼女自身も、目的の為なら手段を選んでいない状態である。それが吉と出るか凶と出るか、今までの絆が試されるだろう。




ここから他視点が増えます。
次回はまふゆさん視点です。

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