イラスト担当は記憶を無くしました   作:大森依織

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作者のマイセカイ、夕方に出やすいという木材が何故か、夕方よりも夕方じゃない方が出てくるんですよね。夕方の方が出ないという不思議。

こちらもスケッチブック君の不思議な力に翻弄されてますが、今回はまふゆさん視点です。





206枚目 【朝比奈さんと前準備】

 

 

 

 

 

 お母さんと話せたとしても、急に自分のことがわかるようになるはずもなく。

 

 自分を見つけることに関しては急速な進展もないまま、休んでいる間の補習や課題で忙しくしている間に日々が過ぎ。

 漸く落ち着いた日のお昼休み、絵名が隣にいない状態で廊下を歩いていると鳳さんと出会った。

 

 

「あっ、朝比奈センパイ! お久しぶりですっ!」

 

「久しぶり、鳳さん。今日も元気だね」

 

「はい! 今日もニコニコわんだほーいです!」

 

 

 相変わらず『わんだほい』というよくわからない言動をしているが、鳳さんは楽しそうだ。

 今日は笑顔を作っても怖がらせることなく、鳳さんと話せている。

 

 こういう面ではお母さんと話せたお陰で、少しは私も成長したのかもしれない。

 そう思っていたのに、鳳さんは急に表情を曇らせた。

 

 ……成長したと思っていたのに、何かしてしまったのだろうか。心当たりが全くない私は固まってしまう。

 

 

「鳳さん?」

 

「あ、えっと。すみません!」

 

 

 いつものように怖がらせてしまったのかと思ったが、いつもの反応とは違う。

 

 

「何かあったの?」

 

「その、あたしが何かあったというわけじゃないんですけど。朝比奈センパイを見てると思いだしちゃって」

 

 

 言うかどうか悩む素振りを見せる鳳さん。

 唸る彼女を観察してみても言いたいことがわかるはずもなく、私は首を傾げた。

 

 

「私でよければ話を聞くけど……」

 

「朝比奈センパイのことじゃないんですけど、いいですか?」

 

「うん。力になれるかどうかはわからないけれど、聞かせて欲しいな」

 

 

 私の後押しで意を決してくれたらしい鳳さんは、真剣な顔で口を開いた。

 

 

「最近、絵名さんに何かあったんですか?」

 

「えっ、絵名に……?」

 

 

 何かあったかと聞かれると、私のことでかなり迷惑をかけたことが思い浮かぶものの、それじゃないのはわかる。

 

 最近は少し調子が悪そうだけど、本人からは『ちょっと詰め込みたくて、徹夜した』と聞いていた。

 理由を即答されたので深くは聞かなかったのだが……その『徹夜』という言い分が違っていたら?

 

 嫌な予感がするのに、鳳さんに答えられるレベルのものを脳内で纏めきれず、私は素直に聞くことにした。

 

 

「鳳さんはどうしてそう思ったの?」

 

「言葉にするのは難しいんですけど、絵名さんを見てたら怖くなっちゃって」

 

「怖くなる?」

 

 

 変だな、とは私も思ったけれど……怖くなるというのは新しい視点だ。

 聞いてみても鳳さんの感覚がわからないので鸚鵡返しをしてみれば、鳳さんがコクリと頷いた。

 

 

「はい。最近の絵名さん、薄くなったというか。幽霊みたいに消えちゃうんじゃないかって、そう思っちゃったんです」

 

 

 

 

 

 

☆★☆

 

 

 

 

 

 

(──幽霊みたいに消えちゃう、か)

 

 

 放課後、部活に向かった絵名を見送った私は教室で1人、鳳さんの言葉を考えていた。

 瑞希とか私が偶に感じる消えそう、というのは絵名がそういう準備をしてる節があるからこその鎌かけなのだが……どうにも、鳳さんのソレは毛色が違うように感じる。

 

 

(どうして鳳さんはそう思ったのか、言語化できないのも拙いな)

 

 

 自分のことも含めて、何か物事が急激に進んでいるような。

 そのまま手遅れになってしまいそうな焦燥感が、胸の中で燻っていた。

 

 

(それに……鳳さんがヒントをくれたのに、私だと鳳さんと同じ感覚に至らなかったのも問題かな)

 

 

 言われて観察してみても、絵名の『消えそう』という異常に気が付けなかった。それがとてつもなく恐ろしい。

 

 

「どうして、言ってくれないんだろう」

 

 

 思わず呟いてしまった言葉が誰もいない教室に響いた。

 呟いてみると蓋をしていた気持ちが沸々と湧き出てくる。

 

 だって、絵名は瑞希のことでも学校に侵入してまで首を突っ込んで、私のことだって家に閉じ込められていたとしても家庭の問題に乗り込んできたのだ。

 だからこそ、絵名だけ1人で何も言わずに苦しまないで欲しい。こういう時こそ言って、関わらせて欲しいのに。

 

 

(……もしかして。話せないって言っていたのは『呪い』って瑞希が言ってたモノのせい?)

 

 

 頭の中でつらつらと考えている時にふと、瑞希と話していた時に自分が言った言葉を思い出した。

 呪い。荒唐無稽にしか聞こえないソレに、瑞希が命名した名前は確か──喋れなくなる呪い、だったはず。

 

 

(絵名は『言わない』じゃなくて『言いたくても言えない』状態なの……?)

 

 

 証拠も何もないものを信じるのはどうかしているんじゃないか、とも思う。

 でも、そう考えた方が……あの素直じゃなさそうで素直なところがある絵名が、誰にも何も言わない理由になるのではないか、と納得しかけている自分もいて。

 

 

(絵名が抜け道を探さないはずがないし、直接聞くのは悪手かもしれない)

 

 

 鳳さんのように絵名の異常に気が付けているのなら、話は別なのかもしれないが……今の私には異常(それ)がわからないのだ。

 訴えようにも詰め切れないのは明白。そんな準備不足な状態で絵名に挑んでも、躱されるのがオチだ。

 

 

「──あっ、朝比奈さんがいたわ!」

 

 

 そんな声が聞こえてきたので扉へと目を向けると、本来ならこの教室に来ることもないであろう単位制の2人──日野森さんと桃井さんが立っていた。

 

 

「久しぶりね、朝比奈さん!」

 

「うん、久しぶりだね。もしかして、心配してくれて教室まで来てくれたの?」

 

 

 日野森さんが私を見つけて嬉しそうに駆け寄ってくるのを見るに、部活で会う前に日野森さんが会いに来て、桃井さんはその付き添いだろうか。

 そんな予想を立ててみたものの、桃井さんから出てきた言葉がそれを否定した。

 

 

「それもあるんだけど、今日はわたしが朝比奈さんに聞きたいことがあってね。雫はその付き添いよ」

 

「心配してるっていうのも本当だからね。朝比奈さんが元気に学校に来てくれて嬉しいわ」

 

 

 日野森さんも心配してくれているのはわかるが、私は何故か桃井さんの方が気になってしまった。

 

 

「桃井さんが聞きたいことって?」

 

「最近、絵名の調子はどうかと思ってね」

 

 

 そんなことを聞くために、態々絵名がいないタイミングでこの教室に来るのだろうか?

 ……もしかして、だけど。

 

 

「桃井さんも、絵名に対して何か変わったって感じたの?」

 

「! まさか、朝比奈さんも?」

 

「ううん。後輩の子──鳳さんから話を聞いたの。私の方でも考えてみたんだけど、鳳さんが話してくれた違和感がわからなくて困ってたんだ」

 

「えっ、えむちゃんが?」

 

 

 鳳さんのことを2人が知っているのかは怪しかったが、反応を見るに2人共顔見知りだったらしい。

 何なら桃井さんは親しそうにも見えるので、鳳さんを話に出しても大丈夫そうだ。

 

 

「桃井さん達さえ良ければ、絵名に感じたことを聞いてもいいかな。私だと、ちょっと調子が悪そうだとしか見えなくて」

 

「わたしが知ってることなら話せるわよ。でも……」

 

「朝比奈さん、ごめんなさい。私も絵名ちゃんの変化がわからなくて、力になるのは難しいかもしれないの」

 

 

 日野森さんの言葉に少し驚いてしまったが、彼女が絵名の変化をわからないのも納得だ。

 私だってわからないとさっきまで頭を悩ませていたのだ。私だけがわからないと考えるのも変である。

 

 

「それにしても、鳳さんと桃井さんの共通点って何だろう?」

 

 

 2人だけが絵名の変化を察知しているなんて、何かあるはずだ。

 顎に手を当てて考えていると、日野森さんがハッとした顔を見せる。

 

 

「2人の共通点かぁ……あ、2人とも髪の毛がピンク色だよ」

 

「いや、今の流れで外見の共通点が正解なわけないでしょ!?」

 

 

 すかさず桃井さんがツッコミを入れているが、日野森さんの顔を見る限りでは恐らく本気の発言だ。

 まさか本当にピンクパワーで絵名の異変を感じ取ってるはずがない、のだが。

 

 

(ピンクか。一応、瑞希にも確認しておこうかな)

 

 

 ありえないとは思うものの、僅かな可能性があるのなら試してみてもいいのではないかと思う自分もいた。

 そんな僅かな可能性の話は放置することにした桃井さんは、仕切り直すように咳払いをする。

 

 

「雫の言うことは置いておくとしても……その共通点っていうのは、絵名のことを探る手掛かりになるかもしれないわね」

 

「それって絵名ちゃんに直接聞いたらダメなの?」

 

 

 普通の人相手であれば通じそうなアイデアを日野森さんがあげてくれるが、私も桃井さんも知っている。

 

 

「絵名が言わないのなら、聞いても言ってくれない可能性が高いかな」

 

「わたしも聞いてみたけれど、答えてくれなかったし。正攻法では難しいかもしれないわ」

 

「そっか。じゃあ、言ってくれるのを待つしかないのかな?」

 

 

 確かに、聞き続けたら折れて話してくれる可能性もあるかもしれないが、本当に呪いとやらのせいなら怪しい気がする。

 

 さて、どうすれば絵名がポロリと溢してくれる可能性が高いのか。

 家にいた時間が長いせいでまだ感覚が狂っていた私は思いつかなかったのだけど、桃井さんは違ったらしい。

 

 

「同じ待つなら、丁度いいイベントがあるじゃない!」

 

 

 心当たりがない私と日野森さんが揃って首を傾げると、自信満々だった桃井さんは倒れそうな動作を見せた。

 

 

「最近まで休んでた朝比奈さんは兎も角、雫とは最近、その話をしたでしょ!?」

 

「あぁ! もしかして、修学旅行のこと?」

 

「もしかしても何もそのことよ! 修学旅行なら探るにしてもやりやすいでしょ?」

 

 

 アイドルなはずなのだが、まるで熟練の漫才師のようなコントを披露している2人。

 私も頭から抜けていたが、そういえば来週は修学旅行があったはず。

 

 そろそろコースの決定もあるはずだし、宮女はクラスや班の垣根を無視して組むことができるので、絵名包囲網を作るのにはピッタリかもしれない。

 

 

「修学旅行か……いいかもしれないね。でも、アイドルの活動もあるだろうし、桃井さん達は大丈夫なの?」

 

「ええ! ちょうど仕事がお休みの時と修学旅行が被ったから平気よ。心配しなくてもいいわ!」

 

「私も色んな事情とか関係なく、朝比奈さんや絵名ちゃんと回りたいもの。朝比奈さんさえ良ければ一緒にどう?」

 

 

 私も桃井さんと日野森さんなら断る理由はない。

 

 

「私も2人と回りたいなって思うよ。ただ、絵名がどういう反応をするかわからないから、予めどのコースを選ぶつもりなのか聞いてもいいかな?」

 

「ええ、もちろん! ……ええと、愛莉ちゃん。修学旅行のコースって何があったっけ?」

 

「何でそこで抜けてるのよ? 確か、工芸体験コースと清水寺のコースだったはずよ」

 

 

 自信なさげにこちらに視線を向ける桃井さんに、私は頷きを返す。

 私の記憶でもその2つだったはずなので、間違いないだろう。

 

 

「工芸体験コースは選んでる人が多いみたいだし、清水寺のコースなら4人共一緒に回れるかもしれないね」

 

「私も清水寺に興味があったし、そっちのコースを選んだ方が良さそうだね」

 

「そうね、わたし達は清水寺のコースを選びましょうか。朝比奈さんも大変かもしれないけど、絵名を説得してちょうだい!」

 

 

 私の言葉に日野森さんと桃井さんも同調してくれたので、後はとんとん拍子で決まっていく。

 

 ──そうして話が終わった頃にはもう、絵名に何と言うか決めていないという課題だけが残って少し気が遠くなった。

 

 

 

 






ピンクパワーはあるのかどうか。
大変な時期ですが修学旅行、行ってもらいます。
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