イラスト担当は記憶を無くしました   作:大森依織

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イベスト連勤だし、今回のイベントに絵名さんはこないでしょー。たぶん次回の混合とかかなー、と油断して刺された間抜けは私です。
油断、ダメ絶対。





208枚目 旅行前日にて

 

 

 

 

 

 

『え~ん。折角雪も夜の作業に復帰できたのに……来週からはまたいなくなっちゃうなんて~』

 

 

 夜。4人揃って作業ができるようになったナイトコードに瑞希(Amia)の芝居がかった声が聞こえてきた。

 何故か「よよよ」という副音声が聞こえてきそうな嘘泣きに、私は自然と半目になる。

 

 

「修学旅行ってだけで大袈裟でしょ」

 

『大袈裟じゃないよ! 折角、久しぶりに皆が揃って活動できてるのに、雪がいないなんてさぁ!』

 

「そこでしれっと私だけ抜くのやめてくれない?」

 

 

 まさか、私は分身的な何かを使える存在だとでも思われているのだろうか。

 当然のように修学旅行のメンバーから外されていることについて、思わずツッコミを入れてしまった。

 

 

『Amiaが心配するようなことはないと思う』

 

 

 ──そしてこのバカ、じゃなかった。まふゆ()は何を言っているのだろう?

 

 首を傾げる私の内心を代弁するように、Amiaが代わりに聞いてくれた。

 

 

『へ? でも、雪達は修学旅行に行くんだよね?』

 

『うん、行くよ』

 

『じゃあ、無理じゃない?』

 

『どうして? 向こうでログインしたらいいと思うけど』

 

「『はい?』」

 

 

 イヤホンと口から出た音が重なった。

 

 どうやら雪は修学旅行中も作業を続行するつもりだったらしい。

 流石にそれはどうなのだろうかと思うものの、雪が良ければそれもまたアリなのか……迷いながらも口を開く。

 

 

「旅行先だとゆっくり作業する時間はないだろうし、環境だって良くないでしょ。別に無理してやらなくてもいいんじゃない?」

 

『前の家と比べたらそこまで悪くないと思うけど』

 

 

 ……その返しはズルくないだろうか?

 言葉に詰まって反論しない私に、雪から追撃が来る。

 

 

『それに、絵名は旅行先で絵を描かないつもりなの?』

 

「え? それは、その」

 

『描かないの? 絶対に?』

 

「……描き、ます。絶対に」

 

 

 嘘でも描かないとは言えなかった。

 文化遺産なんて描かない方が失礼だし。うん、そうに違いない。

 

 その場で描くのをグッと我慢するとしても、写真を100枚以上は残すつもりだ。

 思い出用と日記用と参考資料用には最低でも欲しいし、早速スマホの中を整理しなければ……

 

 

『おーい、えななーん?』

 

「……」

 

 

 Amiaが何か言っているが、たぶん雪に何か言っているのだろう。

 そう判断してしまったせいで、私は黙々とスマホの中身を整理する作業にのめり込んでしまっていた。

 

 

『あーもう。何でいつもストッパーになってるえななんが先に脱落するかなぁ』

 

『Amiaは何が不満なの?』

 

『不満というか、旅行は旅行で楽しまないと損でしょ。折角、絵名と一緒に行けるんだしさ』

 

『確かに、旅行の間は絵名を独り占めできるね』

 

『えっ。独り占めって羨ま──おっほん。誰もそこまで言ってないからね?』

 

『Amia、羨ましいの?』

 

『おかしいな。雪の声はいつものトーンのはずなのに、自慢げに聞こえるんだけど。気のせいかなぁ』

 

『そうかもしれないね?』

 

『くぅっ……ボクは雪の変化に喜べばいいのか、煽られてムカッて思えばいいのか、色々と複雑だよ!』

 

 

 Amiaと雪が話し込んでいる間に、私も写真の整理が終わった。

 ちょっと見ない間にフォルダの画像が千枚ラインを超えていたので苦戦したが、これで暫くは大丈夫。

 

 ……それにしても、2人は何を盛り上がっていたのだろうか?

 気になってしまって、私はナイトコードに意識を向ける。

 

 

「2人とも、結構盛り上がってたみたいだけど……修学旅行の話でそんなに盛り上がることってある?」

 

『あー。雪を説得してただけだよ? ね、雪』

 

『うん。絵名が気にするようなことは話してない』

 

「それ、本気で言ってる?」

 

 

 口を揃えて『何もない』と言う2人を怪しんでいると、ふと、ミュートが外れた4つのアイコンが目に入る。

 

 

(あれ。そういえば今日、(K)の声を聞いていないような)

 

 

 気のせいかもしれないので少なくなった記憶を探ってみても、やっぱり今日は1度もKの声を聞いていないと脳が訴えてくる。

 

 さっきの件もボーッとしていて内容を聞き流していたが、誰が話しているのかは理解していたし。

 今日はかなり集中している日なのだろうか。いつも以上に口数が少ないように感じた。

 

 

「K。余計なことも結構話しちゃってたけど、私とまふゆは来週から作業に参加しないから、次の曲は遅くなっちゃうと思う。ごめんね」

 

『……』

 

「K? Kー?」

 

『……え? あっ、ごめん。何か言ってた?』

 

 

 何か、と言われても。もしかして今まで話していたことは全く耳に入っていなかったのだろうか。

 脅威の集中力に戦慄している私を放置して、雪は己の主張を述べる。

 

 

『修学旅行を理由で私とえななんは来週、ログインしない予定。だけど、暇がある時に詞を考えたい。K、次の曲の進捗は?』

 

 

 話を聞いていないこともそうだけど、雪が指摘している『曲の進捗』もまた、違和感を訴えてくる要因の1つ。

 雪の家庭の事情あたりで曲を完成させてから、時間が過ぎたはずなのに……珍しく1つもデモが上がってきていない。

 

 何となくスランプだった時のことを思い出してしまって、嫌な予感がした。

 

 

『……ごめん、まだデモはできてないんだ』

 

 

 そんな予感通り、Kの口から出てきたのは苦戦を表す言葉だった。

 

 

『作り続けるって言ったのに?』

 

『うっ……』

 

 

 そこにこれまた懐かしい圧を感じさせる雪の言葉がKに炸裂した。

 が、あの頃よりは随分と棘が取れている言葉ではあるので、Kは呻きながらも言葉を続ける。

 

 

『……作り続けるけど、もうちょっと待って欲しいな。雪ならもう、大丈夫だろうし』

 

『? でも、私はまだ自分を見つけれてない。だから、Kには作って貰わないと困る』

 

 

 弱気な言葉が溢れたKに対して、雪はすぐにベストアンサーを返した。

 恐らく雪は無意識の返答なのだろうが、側から聞いている身としては拍手喝采を送りたい。

 

 

(それにしても、Kがあんなことを言うなんて)

 

 

 もう大丈夫だなんて、今までのKを思えば考えられないことだ。

 

 

(それだけ、アレがKを追い込んでるのかな)

 

 

 すぐに逃げて次の手を打っている嫌らしい奴に顔を顰めている間にも、雪はちくちくとKに圧をかけている。

 それを嗜めるように、Amiaが声を上げた。

 

 

『まぁまぁ。今の曲をアップする時間もあるし、修学旅行前にはデモができるかもしれないじゃん?』

 

『できないかもしれないけど』

 

『今日の雪は吹雪かな? まぁ、修学旅行は曲のことも何も考えずに、旅行に集中しておいでよ。そっちの方が楽しいと思うよ』

 

『……そうだね。1つに集中(・・)した方がいいかもしれないね』

 

『うんうん! わかってくれてボクも嬉しいよ!』

 

 

 側から聞いているとAmiaと雪の認識が少し違うようにも聞こえるが……お互いが納得しているのなら黙っておこう。

 

 

『修学旅行のことはわかったよ。2人とも、楽しんできてね。わたしはその間に頑張りたいから、早速作業に戻るね』

 

 

 Kはもう話が大体終わったと判断したのか、真っ先にミュートになった。

 雪も特に話すことはないからとミュートになり、私とAmiaだけが残る。

 

 

(内緒話はこの場でしない方がいいか)

 

 

 内緒話を表に出すなんて馬鹿な真似をするわけにはいかない。

 

 私はキーボードに手を伸ばして『Amia』と個チャに短文を送る。

 するとビックリ。『はいはーい』という短い返信と共にボイチャが来た。

 

 

『こういうことでしょー?』

 

「そういうことね。言わなくてもわかるのが怖いけど」

 

『あは。K……というか、奏のことでしょ? ボクも気になってたから、えななんなら連絡来るかなーって思ってさ』

 

「それが正解だったと。流石ね」

 

『まぁねー』

 

 

 Amiaの察しの良さが何かの能力か超能力者レベルなのは置いておくとしても、だ。

 

 

「私達、来週は修学旅行でしょ。期間が開くこともあって、Kのことが気になってさ」

 

『スランプみたいだしね』

 

「それもあるけど、Kが『もう大丈夫』だって言うなんて、心配なの」

 

『気にし過ぎ……って言いたいところだけど、確かにKらしくもないか。ボクもKのことは無理しないように見ておくね』

 

 

 瑞希も物理的に距離があるものの、京都に行く私達よりは近いだろう。

 

 

「うん、よろしく。もしも何かあったら、セカイには行けるから連絡してよね」

 

『んー、そこまでは大丈夫だと思うけど……そうだね。ミク達にも話しておくし、任せてよ』

 

 

 恐らくこれはあの憎きスケッチブックも関わっているであろう案件だ。

 根本が解決するとは思っていないものの、Amiaに頼んでおけば修学旅行中に手遅れになるってことはない……はず。

 

 

(奴だって私に描いてほしくて仕掛けてる訳だし、手遅れになるようなことはしないと思うんだけど)

 

 

 それはあくまで人間的な感覚であって、性格の悪い人でもない存在の感覚ではない。

 

 悍ましい手段を取るものの、私を下に見ているせいか見積もりが甘いところもあるみたいだし。

 手綱も握れず好き放題する奴を止める手段がない現状、やり過ぎた状態にならない保証はどこにもない。

 

 

(あんな奴を信じるわけがないし、保険は沢山あった方がいいよね)

 

 

 Amiaの方でも声をかけてくれるらしいが、私からも改めてミク達にKのことについて呼びかけよう。

 

 

(何かあるとしたら病院だろうし、ミク達なら何か起きた時に私達よりも早く気が付ける。うん、今できる対策はこれぐらいかな)

 

 

 心配に思う気持ちは消えないけれど、できることをやった後は何とか乗り切るしかない。

 

 

『絵名、心配なのはわかるけど、奏のことは任せて楽しんできてよ。ね?』

 

「うん……ありがとう。瑞希」

 

『どういたしまして。あ、お土産は期待してるよ〜?』

 

「はいはい。ちゃんと選んでくるからね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──そうして、修学旅行に行くまでの間。

 私は瑞希に無理を言いつつも、旅行の準備と並行してセカイの皆に根回しをした。

 

 こちらの懸念通り、修学旅行前日になっても奏のデモを作れない絶不調状態は継続中。

 私も半分記憶を消しとばしているので、人のことを言えない程度に不安な点は残っているものの……皆に任せてこっちは修学旅行を楽しもう。

 

 

 






そういえばここのまふゆさん、えななんのファインプレーで模試もサボってないし、テストの点数も維持したままなんですよね。
それなのにまふママに過剰反応させたスケッチブック君は邪悪ですね。

次回は初のリンさん視点を挟みます。


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