今回も悪意表現アリです。炎上後の評価が残ってます。
(今回で中学編最後なので、後書きにプロフありです)
「あそこにいるのって東雲絵名じゃない? ピクシェアで見た顔と一緒だし」
「東雲絵名? あぁ、確かズルして賞取った子だよね」
「そうそう。学校とかでも、普段から特別扱いされてるらしいよ。賞もお父さんが有名な画家だから取れたんだって」
「忖度させることもできるなら、裏口入学もできるのかな。だとしたらズルいよね、そんな子と一緒の学校に通いたくないなー」
面接が終わり、南雲先生と別れた後。
コソコソと話していた2人組と目が合い、じっと相手を見つめた後、ニッコリと笑ってあげた。
笑顔のまま2人の目を見ていると、彼女達は「怖、何あれ」と顔を歪ませてどこかへ走り去る。
宮女の入試問題は難しいし、彼女達もストレスが溜まっていたのだろう。
だからといって叩きやすい相手を殴って良い理由にはならないが、去年炎上した私が都合の良い的になっているのは理解できた。
「──絵名!」
「あれ、愛莉じゃん。お疲れさま」
奥から小走りでやってくるピンクの長髪。
単位制の面接会場は奥の教室だったはずだから、急いで来てくれたのだろうか。
見慣れたその姿に声をかけると、2人組がいた方に視線を向けた愛莉が眉をハの字に下げた。
「まさか、ここでも悪口を言われてるなんてね」
「受験シーズンだし、皆ストレス溜まってるんでしょ。で、ちょうど良いところに炎上していた私がいたから、陰口で発散してたんじゃない?」
「あぁもう、自分のことなのにまた他人事みたいに言って……高校でも続くとなると、やっぱり心配になるわよ」
中学では記憶を無くす前の私を知る人が多くて、あまり親しい人を作らなかった。
愛莉と仲良くできているのさえ奇跡で、そんなほぼボッチな状態だからこそ、愛莉は私を心配してくれている。
彼女が単位制で、私は学年制。
同じ学校でも会える時間はどうしても限られてくるから、心配しない方がおかしいとは愛莉の弁だった。
「大丈夫でしょ。中学では愛莉と親友になったのよ? きっと高校でも何とかなるって」
「はぁ……絵名、宮女って中等部があること、忘れてない?」
「あっ」
宮益坂女子学園は中等部と高等部が存在しており、基本的に高等部の生徒は中等部からエスカレーター式で上がって来た子が多い。
つまり、もうグループができていて、自然とハブられるのだ。
外部からやって来た生徒はコミュ力お化けでもない限り、アウェーの中に突っ込んで事故死するのである。
「私、美術準備室に引き篭もる。今決めた」
「それはお世話になってる先生に甘え過ぎでしょ」
「入学したら美術部確定だし許されるでしょ。後で先生に交渉しよ」
実は病院に定期的に通院していることや、体育で見学してしまうこともあり、受験前に挨拶をしていたのだ。
……受験に受かってもないのに気が早いとは言わないでほしい。自覚はしている。
こんなことをしているから裏口入学とか言われるのも、わかっている。
しかし『炎上した件もあるから根回しはした方がいい』と言う南雲先生の提案と、私の絵のファンらしい校長先生の厚意で手配されたのだ。
その気遣いを無碍にはできず、1年を担当するらしい先生方へ、先に挨拶を済ませてしまった。
「絵名って今のままだと教室では幽霊なのに、部活には存在している『逆幽霊部員』みたいな状態になりそうよね」
「単位は欲しいから幽霊になる予定はないわよ?」
「はいはい、美大に行くから内申が必要なのよねー」
私がしつこいぐらい目標を言っているせいか、愛莉は苦笑して発言を先回りしてきた。
愛莉は私のことをよくわかっている。そして、私も愛莉のことを多少は知っているつもりだ。
だからこそ、愛莉の心配もそっくりそのまま返したくなるわけで。
「……でも、私は愛莉が心配かな」
「え、わたしが?」
「うん。顔を合わせる機会が減っちゃうから、愛莉が無理してる時や悩んでる時も、友達なのに気づかないかもしれない」
愛莉がアイドルとして頑張っているのも知っている。
そのためにイメージしているアイドル像と違うと思っても、バラエティに出演して頑張っている姿を見ているし、話も聞いてきた。
彰人も愛莉も、私の周りの人は天性の才能を努力で乗り越えようと、頑張ってしまえる人ばかりだから。
だからこそ──愛莉が私を心配するように、私もそれ以上に心配なのだ。
「愛莉が私を心配してくれているように、私も心配なんだからね」
「絵名……ありがとう」
「ま、お互い様よね」
顔を見合わせて、私達は笑みを浮かべる。
「ところで、愛莉さん」
「……そんなに改まってどうしたのよ」
「入試の数学、最後の問題で何を選んだか聞いてもいい?」
「絵名、わたしのしんみりとした気持ちを返してちょうだい」
「そう言われても。挨拶して回ったのに、落ちてたら最悪じゃん」
「変なところで心配症ねぇ。いいわよ、一緒に復習しましょ」
心配になって試験問題を見直したものの、私も愛莉も合格のラインは超えてそうだった。
その証拠に2月頃には郵送で分厚い封筒が届き、合格と書かれた文字が確認できて、私の肩の荷が降りる。
もちろん、愛莉も合格していたので、片方だけ落ちちゃったなんて話はない。
連絡してからその可能性に気がついたので、2人とも合格できていて本当に良かった。
……………………
──東雲さんの絵って、あの大きなコンクールの賞を取った割に大したことないね。
雪平先生の評価の後に、ふと聞こえてきた言葉。
二葉がものすごく青い顔をして、私を心配していたのが印象的で。
私も自分の絵が酷いと自覚がなければ噛み付いていただろう。
そうなれば二葉が余計にあたふたして、かわいそうな目に遭っていたに違いない。
『東雲さんは普通の高校を受験したのは逃げたから』
『最近の東雲さんの絵には魅力がない。ミライノアートコンクールで受賞したって言ってたのに、残念だ』
勝手に期待して、勝手に落胆して、お前らに好き放題言われる筋合いはないと叫ばなかった私、超偉い。そう思わないとやってられない。
「絵名ちゃん……」
「ごめん、二葉。今、あんまり余裕ない」
「……うん」
私が心配なのか、二葉はギリギリまでそばに居てくれた。
私は雪平先生に用事があったので先に帰ってもらったが、何も言わなければ黙って一緒にいたと思う。
愛莉といい二葉といい、良い友達を持ったものだ。
周りの温かさを噛み締めながら、今日も最後まで残った私は雪平先生に声をかける。
「雪平先生」
「お待たせしました、東雲さん。今日は……聞きたいことがいつもと違うようですね」
「はい。どうしても1つ、気になることがありまして」
今日の絵も技術的には上達しているのに、自分でも物足りない作品になっていた。
アイディアも構図も色も光も影も、何もかも気をつけていても、何かが足りない。
「先生、もしも私が美術系の高校に受験したとして、受かってると思いますか?」
「……正直な感想でいいですか?」
「はい、お願いします」
「正直に答えるのでしたら、無理でしょうね」
正直な感想、と言われた時点で察していたが、言われるとわかっていても痛い。
今のままでは、ズルとか裏口とか忖度といった悪口を言い返しても、負け犬の遠吠えで。
いい絵を描いて見返せたらいいのに、日に日に描く絵の魅力が抜けて、人に見せるのも烏滸がましいものになっていた。
生き生きとしていない。死んでいる。
表面だけ取り繕った絵に、描いた本人ですらダメだと思うのだ。
折角描いた我が子なのに、良い絵が描けなくて。申し訳なくて。
でも、それ以上に──描けないと思って苦しんでるのに、絵を描き始めたら『楽しい』と思っている自分が怖い。
呪われてるかのように、苦しいと思いつつもスランプを楽しんでいるのだ。
それがどうしようもなく違和感があって、その気持ち悪さに耐えきれなくて、トイレを占領してしまう夜もあった。
この気持ち悪さと、ずっと付き合わなければいけないのか?
「──そもそもスランプって、抜け出せるんでしょうか?」
「それは東雲さんと運次第でしょうが……東雲さんはどういう時に描いた絵が1番印象に残ってますか?」
1番印象に残ってる絵。
時間をかけたという意味だと賞の為の絵だ。
でも、私が脳裏に描いたのは病院にいた女の子の為に描いた絵と、公園でリボンの子と話した時に描いた絵だった。
ならば私が印象に残ってる絵は……
「誰かの為に描いた絵、だと思います」
「人の為ですか……東雲さんらしいかもしれませんね。ならば、ファンアートというのを描いてみるのはどうでしょうか?」
「ファンアートって、好きな漫画とかの絵を描いて、SNSとかにタグをつけてあげる、あの?」
ファンアートといえば、他人が創作したキャラや衣装、絵、小説、音楽等……それらを元に作った作品のことだと思うが。
まさか雪平先生の口からそんな言葉が出てくるとは思わず、間違っていないか確認してしまう。
「描いてからの行動はわかりませんが、そのファンアートです」
私の解釈するファンアートで間違いない、と。
私は誰かの為に描いている絵が1番、良いものが描けているように見えるから、そういう絵で練習すればいいのではないか?
……というのが、雪平先生のアイディアらしい。
「私の話もあるでしょうが、南雲からも何か聞いてるでしょう?」
「……違う分野の人と同じ目的のものを作ってみれば? って話は聞いてます」
「私と同じ意見でしたか。誰かや仲間の為に描くサークル活動もまた、方法の1つですね。ただ、これらの方法だと……東雲さんの夢から遠ざかってしまうかもしれないのがネックでしょうか」
「?」
どういうこと、だろうか。
首を傾げる私に対して、雪平先生は告げる。
「東雲さんは画家とイラストレーターの違いはわかりますか?」
「え、っと」
絵の描き方や画風……と答えたいけど、たぶん違う。
改めて言われると、明確な違いなんて考えたことがなかった。
「絵だけで見れば、画家とイラストレーターに違いはありません」
「そうなんですか?」
「えぇ、この2つの違いは『お金の入り方』なんですよ。不安や孤独と闘いながら、売れるかどうかもわからない絵を描いて、その絵を売るのが画家であれば。依頼されて売れることがわかっている状態で、
「……なら、私がアドバイスされた方法は、イラストレーターであると」
「はい。だからこそ画家を目指すのは狭き門なのですよ」
私が画家になりたいと公言しているから、雪平先生は警告してくれているのだろう。
画家とイラストレーターの違いをよく理解していなかったのに、画家を目指したいとは笑ってしまう。
(やっぱり、色々と足りないものが多いな。今じゃ抜け殻みたいな絵ばかり、量産してるし)
口を引き締めて、勤めて真面目な顔を作る。
「雪平先生、ありがとうございました」
「礼を言われるほどではありませんよ。東雲さんがその長いトンネルから、抜けることを祈っています」
「……はい」
まだまだ続く長くて暗いトンネルの中。
トンネルを抜けた先に待っているのは光なのか、雪国なのか。
まだトンネルがあるかもしれないし、奈落に落ちるかもしれない。
それでも筆を折るなんて思考にもならずに、前に進めるのは──この魔法みたいな『楽しい』って気持ちが、あるからなのだろう。
記憶喪失えななんはお父さんと話してからスランプに悩んでますが、まだ抜け出せていません。
次回からはスランプ脱出と絵名さんの願いを探す高校生活が始まります。
高校1年生編……つまり、ニーゴ結成編に移動するということですね。
それなので、今までのリザルト的な内容を載せておきます。
読み飛ばしても大丈夫ですし、今までの話からわかる程度の内容程度ですが。
《記憶喪失えななんのプロフィール》
性別・誕生日は公式と同じ。
身長:157センチ
(公式では158だが、高校1年生なのでまだ1センチ低い)
学校:宮益坂女子学園入学予定
学年:1年生(クラスは次話から判明)
部活:美術部予定
趣味:絵を描くこと・SNS映えする料理やお菓子作り&それらや化粧などの小物をSNSにアップ・エゴサーチ
(公式の趣味である自撮りは炎上での写真流出の為にできなくなった。自撮りをしたくても顔隠し自撮りまでしかしない。
エゴサーチは公式絵名さんとは違い、承認欲求というよりは『成長余地を見逃したくない』という向上心からによるもの)
特技:ファッション小物のリサーチ・料理の食材当て・短時間睡眠
苦手なこと・もの:朝そのもの・早く動くもの・意識外からの刺激や衝撃
(朝以外は大体、事故のトラウマのせい)
好きな食べ物:パンケーキ・チーズケーキ(公式と同じ)
嫌いな食べ物:にんじん(お母さんが作ったものは嫌だし避けようとするが、出されたら仕方なく食べる。しかし、それ以外は絶対に嫌)
《スケッチブックが叶えた願い事と副産物》
☆???(絵キチとか頭のネジが飛んでるとか言われるのはこの願いのせい)
・ショートスリーパー体質(???の副産物)
・自己軽視(記憶が消えたことによる後遺症)
・自制心と好奇心(記憶喪失な為、無くす前と比べると増量中)
《21話時点の目標》
・画家を目指す(公言したので、目標として残っている)
・絵名がスケッチブックに描いた本当の願いを見つける(優先度:高)
・絵のスランプから抜け出す(優先度:高)
・父や先生の言う『居場所』を見つける(2番目と3番目を解決するヒントになる可能性大)