エイプリルフールのMVの絵名さんに無事、召されました。今年も良いMVでしたねー。
というわけで、えななん達が修学旅行1日目を過ごしている中。
一方その頃、瑞希さんの視点です。
(今頃、絵名達は修学旅行を楽しんでるのかな~)
ボクは補習で学校に来てるけどねー、トホホ。
本当に、こうやって机に強制的に縫い付けられていると、色々と考えちゃうから困りものだ。
(一難去ったと思ったら、また一難だもんなぁ)
絵名も気にしていた通り、やっぱり奏の調子は悪いようだ。
昨日、修学旅行に行く前日まで粘ったものの、1つも曲のデモを作れなかったみたいだし。
ナイトコード上では平静を装っているみたいだけど、セカイに行って対面したら顔色が悪いんだもの。あれで何もないっていう方が嘘だと思う。
(まぁ、奏が言い出せないのも無理はないか)
ボクだって誰かが大変な時に自分のことを言うのは難しいから。
理解はできるけれども……まふゆのことはひと段落したのだから、言って欲しいのも正直な話。
(絵名から奏のお父さんのことをちょっと聞いちゃったせいか、心配になっちゃうな)
頼って欲しいとも思うけど、奏のお父さんのことでボクが力になれることがほぼないっていうのも歯痒い。
不思議なパワーで何とかしちゃお〜とかできたら、悩むこともないのかもしれないけど……
(不思議なパワーといえば、絵名のスケッチブックの件はどうなってるんだろう?)
ボクも実物を見たことはないけれど、ミク達はあまり好ましく思っていないらしい『スケッチブック』という存在。
スケッチブックで想像するのは、身嗜みよりも絵に集中したい時の絵名が脳裏に浮かぶ。
絵の具の独特の香りを身に纏い、ただ真っ直ぐに紙や対象に目を向けるあの姿。
ボクも何回か絵のモデルをやったことがあるけれど、チョコレートのような目は恥ずかしくもあり、照れたり揶揄うのも憚られる真剣味を帯びているのだ。
(チョコレートかぁ……もしも、絵名の心の味がするようなチョコがあったのなら、どんな味がするんだろ)
優しいから甘い? それともスケッチブックのことで悩んでるから苦いのだろうか?
頭の中でそんなことを考えながら窓の外へと視線を向けると、空を朱く染める夕日が目に入った。
── 実は私、交通事故より前の記憶が無いんだ。
学校の中で夕日という景色のせいかな。
ふと、絵名の言葉が頭の中に再生される。
(もし……何の味もしなかったら嫌だな)
変なことを考えている自覚はあったけど、どうしようもなく不安になる。
まふゆのこととかがあったし、絵名も最近はちょっと元気がなさそうだからかもしれない。
そんな考えに浸っていたせいだろうか。ボクは今、何の時間に縛られて考え事に耽っているのかも忘れていた。
「──山、暁山!」
「へ? あ、はい!」
「おい、暁山。参加してるのにボーッと空を見るのに夢中とは、補習をまともに受ける気がないのか?」
「あ……あはは。その、すみません」
「はぁ。ちゃんと聞くように」
……あまりにも考え事に集中し過ぎたせいで、自分のことが疎かになっていた。
流石にこの状態で人の心配をしていても、お前が言うなと言われてしまいそうだ。
(色々と考えちゃうけど……まずは目の前のことをどうにかしないと)
2年になれませんでした、なんて言ったらボクの方が心配されるのは間違い無し。
奏のことを気にするためにも頑張ろう。先生に怒られないためにも、ボクは目の前のことに集中した。
☆★☆
今まで後回しにしてきたツケを少し払って、ボクは机の上から解放された。
いやぁ、学生の身分は学生の身分なりに大変だよね。
補習という学生の義務から解放された後はどうしようかな。
ナイトコードに入ったら入ったで奏にプレッシャーになるかもしれないし……ご褒美も込めて、ちょっと寄り道しちゃう?
「……やっと見つけたぞ、暁山」
そうやって色々と考えながら校門に向かっていると、階段を降りる途中で声をかけられた。
嫌な好奇心から声をかけてくる人間は多くても、ボク個人に用事があって声をかけてくる人は限られてくる。
今、声をかけてきた相手──というか、修学旅行に行ってない方の東雲。
絵名の弟くんが駆け足気味でこちらに近づいてきた。
「お前、この後時間はあるか?」
「あるけど……何の用かな?」
「そうか。なら、ちょっと付き合ってくれ」
「……え?」
何? 一体、何なの?
こっちは困惑しているのに、弟くんは気にせずに歩き始める。
「ここで話すのもあれだし、付いてこいよ」
「えぇ……?」
本当に何なのだろうか。
結局、学校を出てからファミレスまで連れて来られる間も、特に用件を言われることなく来てしまった。
ファミレスにはニーゴの皆とはよく来るけど、まさか弟くんと2人きりでくるなんて。
何というか、ちょっと気まずいんだけど。察してくれないかな? ……無理かなぁ。
「暁山は何を注文するんだ? 今回はオレが無理を言ったから奢るぞ」
「えぇっ!? いや、別に奢ってもらわなくてもいいんだけど!」
それよりも早く用件を教えて欲しい。
訳もわからずにファミレスに来て奢るなんて言われたら、何を言われるのかわからなくて落ち着かない。
「オレはプチパンケーキを頼むが、暁山はポテトでいいか?」
「え? 何でポテト?」
「ファミレスに行った時は大体ポテトなんだろ」
これは絵名からのタレコミだな。
弟くんが言わなくてもわかるよ、ボクだってさ。
「暁山」
「何?」
「オレに何か聞きたいことはないのか?」
「聞きたいことって、ここまで連れてきた用件を聞きたいって何回も言ってるけど」
注文した品が届いてもまだ、弟くんはよくわからないことを言っていた。
ボクは何度も用件を伝えているつもりだけど、弟くんの耳には膜でも貼られているのか、中々伝わらない。
「その反応ってことは、そっちは把握してないんだな……オレの気のせいだったのか? いや、そんなはずねぇよな」
なのに、弟くんはボクの反応で色々とわかったらしく、大きな溜め息を漏らしていた。
「いやいや。呼び出して勝手に1人で納得しないでよ。ボク、置いてきぼりなんだけど」
「あぁ、悪い」
「いいけど……今までの話を聞いている感じ、絵名に何かあったの?」
言葉にできない嫌な予感がして、恐る恐る弟くんの様子を伺う。
「ああ。暁山の様子を見ている限り、オレだけらしいけどな」
気のせいだったら、良かったのに。
肯定する弟くんを見てしまって、今度はボクの口から溜め息が出てしまった。
「……ごめん、溜め息しちゃって」
「お互い様だろ、気持ちはわかるしな」
「ありがとう」
それにしても、絵名のことかぁ。
調子が良くないようには見えたけど、『徹夜』っていう理由を言われたら納得できる程度の不調だと思ったし。
思い返しても、明らかに変だと思うところはなかった気がする。
(でも、まふゆが変なことを言ってたな)
確か、修学旅行に行く前に「最近の絵名のこと、どう思う?」って聞かれたんだっけ?
それでボクが「ちょっと思い詰めてるように見えるかな。それがどうしたの?」って言った後に、何故か「ピンクパワーがあるのか気になって」とか変なことを言ってた記憶がある。
修学旅行前に休まれても嫌だから、変なことを言って探ってたのかなって思ったけど……
もしかしたら、まふゆも何か感じ取っていたのかもしれない。
「弟くんは絵名に何かあったのか、心当たりがある?」
「あったら暁山に聞きに来ねえよ」
「……それもそうだね」
弟くんであれば、心当たりがあるなら解決する為に動くだろう。この姉弟、似たもの同士だし。
さて、困ったぞ。
ボクは大きな異変を感じてないけど弟くんは感じていて、手掛かりはまふゆのよくわかんない言葉だけという、ほぼゼロ状態だなんて。
「うーん。できれば何時ぐらいからなのか、わかればいいんだけど……」
「それならわかるぞ、朝比奈さんの家に行った後だ。だから暁山達なら何か知ってんじゃないかって思ったんだしな」
「まふゆの家に行った後?」
まふゆとまふゆのお母さんの問題を解決した後におかしくなったってこと?
え、そんなことある? ボク、弟くんが感じるような異変はたぶん察知できてないんだけど。
「他には何かない?」
「お母さんと親父はちょっと変だって思ってるみたいで心配してたな。だが、神高にいて絵名に最近会った連中に聞いてみても、オレが知りたいことはわからなかった」
「……そっか」
家族だから気が付ける異変ってこと?
それなら、まふゆの発言はおかしいよね。
「ボクはわかんなかったんだけど、まふゆが修学旅行に行く前に気になることを言ってたんだ」
「朝比奈さんが?」
「うん。絵名のことを聞いてきたから、何か知ってるんじゃないかって……振り返ってみると、そう思ったんだよね」
「暁山がわからなくてオレや朝比奈さんがわかるのか。その違いは何だ?」
「うーん、なんだろ。まふゆはピンクがーって言ってたけど」
「ピンクはお前だろ。オレも朝比奈さんもピンクじゃねえよ」
確かにピンクはボクであって、弟くんはオレンジだし、まふゆも紫だ。
(でも、弟くんがピンクか)
萌え袖の衣装とか着こなしそうだし、案外ピンクな弟くんもアリかもしれない。
可愛いフリルな衣装を着せてみたら、似合うんじゃないだろうか。
「おい、暁山。お前、何を想像して笑った?」
「ふふ、特に変なことは考えてないよ」
「いや、絶対に考えてただろ。具体的にはオレの」
「いやいや、どうして弟くん限定なのさ?」
ご指摘通り、考えてましたけれども。
東雲姉弟はこういう時の勘はピカイチだよね。姉の方は自分のことになったら鈍チンなのに。
「まぁいいが。一応伝えたから、暁山の方でも絵名のことを気にかけてくれ」
「それ、絵名には言わないの?」
「あいつは自分のことになるとすぐに素っ惚けるからな。言って聞かないから外付けするしかねえだろ」
流石は弟くん。姉の生態についてよくご存知で。
「弟も大変だねぇ」
「別に、大したことじゃねえよ」
「それを自然とできるんだからすごいよ。ま、絵名はボクの友達でもあるからね。できる限りのことはするよ」
今のところ、そのできる限りがどこまでできるのかはわからないけれど。
とりあえず、修学旅行中のまふゆが帰ってきてから、あの言葉の真意を問い詰めようかな。
それでもわからなかったら絵名に当たって砕けてみるしかない。
「……というわけで、いい感じに冷めたし〜。奢りのポテト、いただきまーす」
「うげ。パンケーキ冷めちまった……いただきます」
方向性は決まったので、ボクと弟くんで正反対の顔をしつつ、口に注文したものを頬張った。
(何となくだけど、絵名に聞いても答えてくれなさそうだし……知ってそうなまふゆから聞いてみようかな?)
修学旅行が終わったらジェットコースターが始まるフラグは建設できたので。
次回は戻って2日目の修学旅行となります。