修学旅行、2日目です。
修学旅行2日目は愛莉と雫とも合流し、4人で京都の清水寺周辺を探索する。
昨日はまふゆに止められたので、今日こそは思う存分写真を撮ると決めていた。
幸いなことに雫も写真……というか、動画を頻繁に撮っている仲間同士。
足を止める要因が私だけではないという安心感もあるせいか、写真撮影が捗って仕方がない。
「そうやってスマホで写真ばかり撮ってると、すぐにバッテリーが切れるよ?」
カシャカシャとシャッター音を響かせながらあっちこっちと彷徨っていると、優等生の仮面を貫通するぐらい呆れた目をまふゆから向けられる。
「そこは対策済みだから大丈夫。大容量モバイルバッテリー3本体制だから、今日1日は余裕だし」
「……重くないの、それ」
「見てわかんない? 重たいに決まってるでしょ」
正直、今日みたいな日じゃなければこんな重たいものは持ち歩かない。
馬鹿を見るような目を隠さなくなったまふゆの視線は痛いが、スマホを使えなくなる心配をするぐらいなら、これぐらいは必要な犠牲だと割り切っていた。
「それにしても……どこを撮っても綺麗だよね。写真を撮る手が止まらないかも」
「本堂の造りもしっかりしてるし、世界遺産だから綺麗なんだろうね。それでも絵名は撮り過ぎだけど」
「いやいや、雫だってずっと撮ってるじゃん。動画と写真の違いはあっても撮ってるのは私だけじゃないんだから、そんなに言わないでよ」
私はまふゆに向かって言っていたつもりだったのだが、近くで「眺めもすっごく素敵ね」と山の方を眺めていた愛莉も反応する。
綺麗な景色から視線を逸らした愛莉は雫の方へと視線を向け、その姿に目を丸くした。
「えっ。雫ったらまた動画を撮ってるの?」
まさか私が言った通り、本当に動画を撮っているとは思っていなかったのだろう。愛莉の声を聞いただけでも驚いている感情が伝わってくる。
そんな風に愛莉を驚かせた雫はというと、思う存分動画が撮れて嬉しいのか満面の笑みで頷く。
「ええ! 後でみのりちゃん達にも旅行の様子を伝えたいなーって思って撮ってるの……って、あら?」
ニコニコと本堂を動画に収めているはずの雫はふと、スマホをじっと見つめながら首を傾げた。
「急に画面が真っ黒になったわ。どうしたのかしら?」
「えぇっ。雫、もしかして朝から撮っていたのは全部、動画だったんじゃ……!?」
心底不思議そうにスマホを眺める雫の行動に思い当たる節があったのか、喉を絞めたような声を出す愛莉。
愛莉の顔は目に見えて引き攣っているのに、それでも雫はピンと来ていないのか小首を傾げる。
「そうだけど、ダメだったかしら?」
「ダメに決まってるでしょー! そんなことしてたら、バッテリーがすぐに尽きるっての!」
境内に愛莉のツッコミが響き渡る。
傍から見ている分には拍手を送りたいぐらい切れ味抜群のツッコミだ。拍手ができない代わりに、100点満点を送りたい。
「……絵名、感心してないで備えの出番だよ」
「あれ? まふゆもモバイルバッテリーは持ってなかったっけ?」
「私のは朝、クラスの子に貸しちゃったから」
こういう時に備えてスマートに渡しそうなまふゆの手には、その備えが無いと。
愛莉も置いてきたみたいだし、本当に私の出番らしい。呑気に点数をつけている場合じゃなかった。
「雫。こっちは軽い方だから、これなら手で持ちながら充電できるよ」
「助かるけど、いいの?」
「もちろん。予備もあるし遠慮しないで」
「ありがとう、絵名ちゃん! いつもの充電器とはちょっと違うみたいだけど……おかげでまた、動画を撮れそうだわ」
「今までみたいにずっと撮ってたらすぐになくなっちゃうと思うから、ちょこちょこ撮るようにしてね」
「ええ、そうするわ。動画に残せない分はみのりちゃん達にお土産話ができるように、この辺りをよく見て覚えるようにしなくちゃ」
周囲の景色を見逃さないようにと、ぐるりと周りを見渡す雫の目が明後日の方向にピタリと止まる。
「あら?」
一体、視線の先には何があるのか。雫は視線の先のモノをまじまじと見つめている。
何があったのか気になった私もそれを確認しようと振り向いた、その瞬間。
「えぇっ……!?」
「何ぃ~~~っ!?」
……タイミングが悪かったようで、私の耳は大声の犠牲になった。耳が痛い。
痛いけれども、この不意に聞くと鼓膜へのダメージがあるこの声は聞き覚えがある。
(具体的にはフェニランで聞くことが多かった『天馬さん』の大音量鼓膜貫通ボイスだよね、これ)
その予想通り、叫び声が聞こえた方向には驚いた顔の天馬さんと神代さんが並んでいた。
シブヤからは遠い京都の地でも制服姿であるのを鑑みるに、もしかして神高も修学旅行先は京都だったのだろうか。
近くの高校が同じ場所を同じようなタイミングで旅行先に選ぶのも驚きだが、他校の顔見知りとこうやってばったりと会うのも驚きである。
そうやってこちら側が驚いていると、神代さんと天馬さんが反応した。
「おや? あなた達は……」
「マスクをしてるから人違いかと思ったが、やはり雫か! 隣にいるのは桃井愛莉と東雲さんだな! と、そちらの方は……えーと」
「朝比奈さんだよ、司くん」
「おお、そうだ。朝比奈さんだったな!」
思い出せてスッキリとした顔をしている天馬さんには申し訳ないが、こちらとしても気になることがある。
本当に修学旅行の行き先が重なったのか、それが気になって仕方がないのだ。
「こっちは宮女の修学旅行で来てるんだけど、天馬さん達も修学旅行か何かで来てるの?」
「何と!? 宮女も同じ日に修学旅行だったのか!」
えむちゃんにも負けないぐらいコロコロと表情と動きが変わる天馬さんが面白い。
愉快さの方向性が違うけれども、彼のような人がいれば神高も楽しそうだなーとは感じる。
……四六時中一緒にいたらその輝きに目が焼かれそうだけど。
「それにしても、すごい偶然ね。同じ日に同じ場所に来てるとはいえ、まさか司くん達に会うなんて思わなかったわ!」
私が勝手に目を眩ませている間に、雫は嬉しそうに天馬さんに話しかけていた。
どうやら天馬さんと雫は親しい間柄のようだ。
そういえば、妹である咲希ちゃんと志歩ちゃんは幼馴染だったか。
そう考えると、兄と姉である2人が親しいのもおかしくはないだろう。
(雫と天馬さんの関係はともかくとして……気になるのは愛莉との関係だよね)
雫との組み合わせは予想できる範囲内だったが、個人的には愛莉と天馬さんの組み合わせが気になる。
どういう関係性を築いたら咄嗟にフルネームで呼ぶようなことになるのやら。どちらかというと、そっちの方が知りたい。
「フフ、これは不思議な縁だねぇ……それで、皆さんはこの後、どこに行かれるんですか?」
「わたし達はこの後、芸能神社に行く予定なの」
私がくだらないことを考えている間にも、神代さんと愛莉の話が進む。
愛莉と雫だけでなく、サークル活動をしている私達にも関係があるでしょということで、自由時間は芸能の神様を祀っている芸能神社になっていた。
私は修学旅行のことを考えるどころではなかったので、愛莉達に任せている行き先だったけれど、特に反対することもないので流れに身を任せている。
「芸能の神様か、それはいいな! オレ達はお土産を買いつつ散策をした後、夕方頃から『百鬼夜行パレード』を見に行く予定だ!」
愛莉達も面白い所に行くなと思っていたが、天馬さん達も面白そうなイベントを見つけていたらしい。
スマホでさっと調べた情報によると、百鬼夜行パレードというのは妖怪の仮装パレードのようだ。
京都らしいイベントだし、調べただけでも面白そうだと思う。
こういうイベントをピンポイントで見つける能力は素敵だと思うし、見習いたい。それが将来に活かせるかは微妙だけれども。
頭の中でくだらないことを考えつつもお互いの行き先や予定の話をしているうちに、天馬さんが何かを思いついたような顔で口を開く。
「む。雫達は今から芸能神社に行き、夕方にはお土産を買う時間を。逆にオレ達は今からお土産を買う時間を取り、夕方からパレードか……これは、今から一緒に回ることができるのではないか!?」
こちらの予定とあちらの予定。
私達にはその発想がなかったものの、予定を照らし合わせてみれば天馬さんの言う通り、一緒に回ることができるだろう。
「ふむ。それは皆さんと一緒に観光するということかい?」
「ああ、類の言う通りだ! ここで会ったのも何かの縁。もしよろしければ、同行させてもらえないだろうか? 勿論、難しい場合は断ってもらって構わないぞ!」
「それは大丈夫だけど……」
神代さんから天馬さんへと渡った会話のバトンを受け取った愛莉が、まふゆへと目配せする。
そこでまふゆが答えるのかと思いきや、何故かまふゆは窺うような目をこちらに向けた。
(……いや、何でそこで私を見るわけ?)
今回の修学旅行は愛莉達とまふゆが何かを企んでいたのか、予定はほぼお任せである。
そんな中で私の意見を求められても、3人に合わせるとしか答えを持ち合わせていない。
大丈夫だという意味も込めて頷いたのだが、まふゆは一瞬だけ残念そうに目を伏せてから、すぐに「こっちは大丈夫だよ」と綺麗な笑みを浮かべた。
今の、絶対に何かあっただろうに。あれでよかったのか。
「よし、決まりだな! 雫、朝比奈さん、東雲さん、それと桃井愛莉、よろしく頼む!」
「ええ! ……って、何で私だけフルネームなのよ!?」
まふゆのアレがどういう意味の顔なのか問い詰めたかったものの、愛莉が相方を天馬さんに変えてコントをし始めたので機会を逃してしまった。
私のツッコミの素養を育てたと言っても過言ではない愛莉のツッコミが天馬さんに向けられている間に、6人で移動することが決まる。
私は周囲に合わせつつ、隣に並んだまふゆに小声で問いかけた。
「あんた、さっき不満そうだったけど、これでいいわけ?」
「うん、まぁ」
「煮え切らないわねぇ」
「……同行者が増えても増えなくても、難易度は変わらないかなって」
予想外の返答に、私は首を傾げる。
「難易度って、ゲームか何かの話?」
「ゲーム……なぞなぞとか推理系なら、部分的にはそうかもしれない」
「えぇー?」
私じゃあるまいし、そんな遠回しに言われても困る。
……逆に言えば、私はいつもこんな意味深なことばかり言って困らせてることになるので、それ以上の追求はできなかったのだけど。
えななんの攻略難易度は確実に天井付近だと思います。