自覚がないからこそ、余計に。
6人で行動しようと決まり、早速芸能神社へ……行く前にお土産屋さんやお茶屋さんがある大通りを通ることになった。
店がズラリと並ぶそこは観光客を呼び寄せる魔力が宿っていることもあり、誘惑が強い。
「わぁ! この飴、宝石みたい! ……えっ? そのお餅、試食して良いんですか? じゃあ、ちょっとだけ」
「雫、勝手に移動しないの! あんたのスマホだってまだ充電できてないのにっ」
「ふむ。これは舞台の小道具として使えそうだし……あっちの織物専門店も興味深い。織物は衣装に使ってみたかったし、見てみようかな」
「おい、類も勝手に行動しようとするんじゃなーい!」
誘惑のせいか、偶数の魔力の悪戯もあるのか。
自由に移動する2人とそれを引き留めようとする2人。
後はそれを眺めている私とまふゆという2人組に、自然と分かれることが多くなっていた。
「……今日は賑やかな日になりそうだね」
「そうねー。皆で行く打ち上げではああはならないだろうし、新鮮だよね」
「そうかな。瑞希はわからないけど、奏なら逸れたりしそうだよ」
「奏の場合は体力的にやむを得ずでしょ、それ」
私の頭の中には途中で疲れてしまい、人の波に飲まれて「あっ、わっ」と慌てている奏が浮かんでくる。
隣に並ぶまふゆも似たようなことを想像していたらしく、薄っすらと笑みを浮かべていた。
ほんの少しずつでも顔に出るようになって何よりである。
そう思っていたのも伝わってしまったのか、まふゆはこちらの顔をまじまじと見てから真顔になる。
「優等生の顔はいいわけ?」
「誰も見てないし、大丈夫だと思う」
まふゆの言う通り、愛莉も天馬さんも雫と神代さんをそれぞれ引き戻すために四苦八苦しているのは、傍目で見ても明らか。まふゆの言い分は正しい。
「あっそ。あんたが良しとするならいいけど」
「そうなんだ?」
「そうでしょ。何であんたがわかってないのよ」
修学旅行前からまふゆの様子がちょっとおかしい気がするのは、気のせいじゃないのかもしれない。
現に今もじっとこちらを見つめては考え込むように手を口の前に当てているし、もしかすると考え事を優先し過ぎて優等生の仮面なんてどうでもよくなっているのかもしれない。
(自分のことで悩んでるって感じでもなさそうだし……放っておこう)
何を考えているのかはわからないけれど、悪いことでは無ければいいかと思考を放棄して。
「まふゆは何か目当てのお土産はあるの?」
「見てから決めようと思ってるけど、強いて言うならわらび餅だね」
「あぁ、瑞希リクエストか。同じのを買っても何だし、私は別のを買おうかな」
「……桃井さん達との距離も離れてるし、私達もそろそろ移動しよう」
「わ、本当だ。ボーッとしてたらこっちが迷子になっちゃいそう」
ちょっと話していただけなのに、もう4人とも遠くにいる。
これは気を抜いたら迷子が現実になってしまいそうだ。雫を笑えなくなってくるかもしれない。
私が慌ててお土産を選んでいる愛莉達を追いかけている間も、まふゆからの視線はこちらに集中している。
「何?」
「何も」
「……そう」
絶対に何かあるでしょ、という言葉は飲み込んだ。
どこか落ち着かない気持ちのまま、私達は4人が入ったお店に入る。
「えっと、愛莉達は……いたいた」
ピンクや紫、金髪といった目立つ髪の毛はすぐに見つかり、4人と無事に合流する。
4人は生六つ橋が積まれたお土産のコーナーの前に立っていて、定番のお土産から選んでいるようだ。
「グレープフルーツグミ風・生六つ橋……」
「は? 何そのゲテモノ」
「日野森さんが持ってる箱に書いてるよ」
「冗談も程々に……うーわ、ホントだ」
しかも神代さんが草薙さんへのお土産に検討しちゃってるオマケ付き。
奇跡的に意外と美味しい物だったとしても、他人様へのお土産にそんな冒険はしたくない。
(とはいえ、京都土産の定番って抹茶とかほうじ茶とか……お茶系の味が多いよね)
ぐるりと周りを見ただけでもクランチやクッキー、団子やチョコといった定番のお土産の味が大体抹茶というか、緑色のパッケージで彩られている。
他は和菓子あたりが多そうだ。味も苺やさくら餡とハズレには見えない無難なものが揃っていた。
「絵名は無難なのを選ぶんだね」
「どうせなら美味しいのを買いたいじゃん。そういうまふゆは?」
「とりあえず瑞希のリクエストと……後はこれ」
そう言ってまふゆが篭から取り出したのはカップ麺だった。
京都の御当地ラーメンと抹茶そばというカップ麺らしい。どちらも京都限定と大きく記載されている。
いつの間にそんなものを見つけてきたのか、両手に花ではなくて両手にカップ麺だった。
「奏、喜んでくれるかな」
「……まぁ、喜んでくれるんじゃない? 私なら選ばないけど」
お土産にカップ麺はどうなのかとは思うけれど、まふゆが選んだものなら言うことはない。
所々でまふゆの視線を感じつつ、私もお土産を選ぶ。
最終的に、まふゆはカップ麺を選ばずに別のものを奏へのお土産に選んでいた。
……あのやり取りは何だったんだろうか。まふゆの考えていることはわからなかった。
☆★☆
和菓子を食べようとしたら雫が消えるという大事件未遂があったものの、私達は無事に芸能神社に辿り着いた。
ここからは神頼みの時間だが……さて、何を祈ろうか。
(まぁ、芸能の神様なら『画家になるので応援してください!』でいいか)
流石に専門外の神様にあのスケッチブックを焚書してくださいと願うのは、無茶振りが過ぎるだろう。
それに応援してくださいって願っていたら、もしかしたらこの先の運がよくなるかもしれないし。
(使えるものは神様でも使った方が良いでしょ、うん)
相変わらずまふゆの視線が痛いが、別に悪いことはしていないので放置だ。
「それじゃあ、お祈りするわよ!」
愛莉の掛け声と共に、私達も神様へお祈りする。
(画家になるので応援してください)
……応援してもらえるなら、ついでに焚書の手伝いも欲張らせてください。
そんな出来心でちょっとだけ欲張ったせいだろうか。
「オレは世界一のスターに!!!! なる!!!」
不意に聞こえてきた大声に、私の心臓がダメージを受けた。
ただ、驚いたのは私だけではないようだ。
煩い心臓を抑えながら周りを見ると、雫は目を見開いて固まっているし、隣にいる愛莉もギョッとした顔で天馬さんを見ている。
「ちょっ……! そんな大声でお参りすることある!?」
これが常識だとゆっくりお参りもできないので、基本的には無いと思いたい。
一通り周りを見てから最後に隣へ目を向けると、目を丸くしたまふゆと目が合った。
「び、びっくりしたね……」
「うん、ごっそり体力を削られた気がする」
たぶん声以外にも何かあれば、私も釣られて叫んでたぐらいには驚いた。
「……いつものことだから気にしてなかったけれど、お参りの時のお願いは普通、大声で言わないものだね」
「そ、そうか!? 声を出した方が神様にも伝わるのではないか!?」
天馬さんはそう言っているけど、神様も普段は心の中の祈りの声を聞いてばかりいるので、突然の大声にひっくり返ってるのではないだろうか。
驚き過ぎて変なことを考えだした私の思考を現実に戻してくれたのは雫の笑い声だ。
「ふふ……ふふふっ」
「日野森さん、急に笑ってどうしたの?」
「あっ、ごめんなさい。司くんは昔から変わらないなって思ったら、つい」
まふゆの心配から、神代さんも愛莉もちゃんと聞いていなかったという要因もあって、話題は自然と雫と天馬さんの昔話へと移る。
「私と司くんは、小学校の頃からの付き合いなのよ──」
昔話。
幼馴染というほど近くはないけど、小学校2年生の時から遊んでいたという話で盛り上がる周り。
(……雫と天馬さんの昔話。それだけなのに)
困ったことに、どうしても体が勝手に身構えてしまう。
せっかく2人が話してくれているのに、頭の中はすぐに真っ白になってしまって、ショーの話とかも右から左へと流れていった。
(ダメだな。昔話っていう言葉に大袈裟な反応をしちゃいそうになるなんて)
幸いなことに周りは雫と天馬さんの話で盛り上がっていて、たぶんこっちには気がついていない。
(こんな反応を見せたら、心配をかけちゃうだけなのに)
これが助けを求めてどうにかなる問題なのであれば、心配をかけてもそれはそれで良いのかもしれないけど。
スケッチブックに関する問題は現状、奴が仕掛けてきていることに関しての対策や謎のバリア機能によって処分することが困難なこと。
後はそもそも行方不明になってしまったこともあり、今はどうすることもできないのだ。
(昔話ってだけで反応しても仕方がないんだから。切り替え、切り替え)
自分に言い聞かせている間に百鬼夜行パレードの時間が近づいてきていたようで、移動することになった。
神代さんが合流予定の子達に連絡を入れるのを横目に見つつ、芸能神社を後にする。
「絵名」
──前に、まふゆに止められた。
「うん? 何かあった?」
「……少しだけ」
まふゆは小声で答えると、じっとこちらの顔を見つめてくる。
やっぱり今日のまふゆの行動は読み取れない。もう少し出してくれても良いのに、本当に何を企んでいるのだろうか。
「さっきから見てるだけだけど、その『少し』とやらはいいわけ?」
「うん……今は」
歯切れが悪い返事だ。
詳しく聞きたいところだけど、神代さんも既に移動しようとしている。
「絵名、朝比奈さん! 何話してるの? 置いてくわよー?」
「あぁ、ごめん! すぐ行く! ……まふゆもいいよね?」
「……そうだね」
愛梨の呼びかけに返事をして、私もまふゆを連れて神社の鳥居を抜ける。
(うーん……これで何もないって言う方が無理があるでしょ)
その間も痛いぐらいまふゆの視線を感じて、イベント会場に着くまで少し居心地が悪かった。
自分が心配されてると気が付かないせいで、まふゆさんの頭の中にいるかもしれない妄想瑞希さんが「あぁもう、このニブなん!」と頭を抱えています。