イラスト担当は記憶を無くしました   作:大森依織

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えななんの後天的なカバー力vs雫さんの素のお力

はたして、勝つのは……?







214枚目 防げないこと

 

 

 

 

 

 百鬼夜行パレードというだけあって、会場の人はかなり多かった。

 流れの早い川でも見ているような気分になるぐらいの人の数だ。

 

 少しでも気を抜けば周りには誰もいませんでした、なんて展開が容易に想像できる。

 そう考えるのは私だけではないようで。

 

 

「雫、逸れないように気をつけなさいよ?」

 

「そうね、愛莉ちゃんの後ろにくっ付いていくわ!」

 

 

 愛莉の言葉に雫が素直に頷いた。

 こんな人混みの中で迷子になったらほぼ見つからないだろうし、私も気をつけなければ。

 

 愛莉達の方ばかりに気を取られていた私にとって、突然右手を握られる行為は不意打ちにしか受け取れなくて。

 反射的に手を振り払い、下手人がいるであろう方向へ振り返った。

 

 

「ひゃっ!? って、まふゆか。どうしたのよ?」

 

「人が多いし、逸れないようにしようと思って」

 

「言い分はわかるけど、別に手を繋ぐ必要はないでしょ」

 

 

 それこそ愛莉と雫みたいにすれば良いと思う。

 が、まふゆはゆるゆると首を横に振る。

 

 

「付いていくだけだと、飲み込まれたら終わりだよ」

 

「まぁ、そうね。飲まれたら大変だろうけど……」

 

 

 思わず頷いてしまうぐらい、真剣な言葉だった。

 冗談? と揶揄うこともできない真顔だ。

 

 四苦八苦しながらノーを叩きつけている間に、天馬さん達の友達も合流したようだ。

 相手は雫達の方が気になって、こちらはあまり気にしていない様子。嫌がられていないようで何よりである。

 

 無事に待ち人とも合流したということで、イベントに集中できるようになったものの……本当に人が多い。

 神代さん曰く『この時期の名物イベント』というだけあって、観光客も沢山集まっているのだろう。

 

 チラシによると一般枠の行列が通った後、プロも参加している本格的な行列が参加。

 一般枠ではレンタル衣装で飛び入り参加も可能……らしいのだが、残念ながら貸し出しは終了してしまっていた。

 

 私は参加しようという流れにならなくてホッとしていたのだが、天馬さんや神代さんは残念そうだった。

 流石はショーキャストをしているだけあるのか、私とは違う感性である。その辺は見習おうとは思わないけど。

 

 

「しかし……こうも人が多いと落ち着いて見れないな。もう少し人が少ない所へ移動しないか?」

 

「それもそうね。じゃあ……あっちの方に移動しましょ!」

 

 

 飛び入り参加を見送って見学側に回ることになった私達は、天馬さんと桃井さんを先頭に人が少なさそうな所へと移動する。

 

 

(あれ。神代さんと……雫? どこに行くの?)

 

 

 人の波に飲み込まれないように付いて行く間にふと、神代さんが別の方向へと駆けて行ってしまった。

 神代さんを追いかけるように雫も愛莉のそばから離れてしまい、私も追いかけようとして。

 

 

「ひゃっ!?」

 

 

 ぐいっと腕を引っ張られてしまい、神代さん達を追いかけるのは叶わなかった。

 半強制的に私を列に戻した手の袖は黒い。

 

 ……何ということでしょう。

 手を繋ぐのは断った筈なのに、まふゆの手が私を繋ぎ止めているではありませんか。

 

 頭の中で変なナレーションが流れてしまうぐらいの衝撃。

 予想外の展開になすがままにされた私は、借りてきた猫の様に人が少ない所まで連行された。

 

 

「絵名、勝手に逸れようとしないでほしいな」

 

 

 まふゆの顔はにっこりと笑っているのに、目が全く笑っていない。

 氷点下。手を繋ぐのを断った癖に逸れようとしたことを咎めるような目をしている。

 

 

「いや、だって! 神代さんと雫が別の方向に行っちゃうのが見えたから!」

 

「……え?」

 

 

 私の言葉にまふゆはゆっくりと周囲を見渡す。

 身長が高い2人の姿がないのを確認してから、そのままバッと愛莉の方へと振り向いた。

 

 

「桃井さん、日野森さんと神代さんが逸れちゃったみたい!」

 

「えぇっ!? 雫はともかく、神代くんまで!?」

 

「何ぃーっ、類も逸れただとっ!? とりあえず連絡を……むむ。こういう時に限って繋がらんっ!」

 

「こっちも全く繋がらないわ! そろそろ充電できててもおかしくないのに!」

 

 

 天馬さんも愛莉も連絡を取ろうとしているが、スマホはそれに答えてくれない。

 神代さんの方は心当たりがないものの、何故か雫の方は頭の中に声が再生された。

 

 

 ──ありがとう、絵名ちゃん! いつもの充電器とはちょっと違うみたいだけど……おかげでまた、動画を撮れそうだわ。

 

 

 気がつきたくなかった。フラグは立っていたのだ。

 

 

「愛莉、言いたくないことに気がついちゃったんだけど」

 

「……聞きたくないけど、何かしら」

 

「雫ってスマホを買い替えたって言ってたでしょ」

 

「ええ、言ってたわね」

 

「もしかしたら、充電器の端子が違うせいで充電できてないんじゃないかなぁって」

 

 

 私のスマホは中学の事故で買い替えた時から現役だ。

 そして、私の記憶違いでなければ、雫のスマホは恐らく……

 

 

「スゥーッ……」

 

 

 長い、深呼吸。

 愛莉の行動はもう、肯定の言葉を言うよりも雫のスマホの状態を語っていた。

 

 

「雫ー! 聞こえたら返事してー!」

 

 

 愛莉はすぐさま作戦を切り替える。

 電話が繋がらないなら叫ぶ。そして、その作戦で1番力強いのは──天馬さんだ。

 

 

「類ー!! 雫ー!! どこだァーッ!!!」

 

「神代くーん! 日野森さーん!」

 

「「どこだ〜!」」

 

 

 お友達3人も声を出してくれているが、やっぱり人が多いせいで声が掻き消されてしまう。

 

 

「神代さん! 雫ー! ……ごほっ、ごほっ」

 

「絵名、そろそろやめた方がいいよ。普段から大声を出し慣れてるわけじゃないんだから」

 

「はぁ!? そんなわけ……こほっ」

 

「……それでなくても喉を酷使してるみたいだし、やめた方がいい」

 

 

 私も何度か声を出してみたものの、同じく声を出しているまふゆに止められた。

 まふゆの前で喉の調子が悪そうな態度をしてしまったせいで、心配されているのかもしれない。

 

 これはスケッチブックのせいなんです、と言えれば現状が少しでも変わったのかもしれないが……意地でも許してくれない性悪がいるので無理だ。

 それなので、大声を禁止された私は雫のスマホに連絡を入れてみるしかなかった。

 

 残念ながら、まだ繋がらなかったのは置いておくとして。

 

 

「人も多いし、音楽も鳴ってるから声が消されちゃうみたいだね」

 

「……そうね。この調子だと、イベントが終わってから合流することになりそうだわ」

 

「はぁ、はぁ……このオレのでっかいデシベルをもってしても、届かないとは」

 

 

 まふゆが眉を下げると、愛莉と天馬さんも追従するように困った顔をする。

 愛莉の言う通り、1番確実で楽な方法はこのイベントが終わるのを待って、2人を探すことだろう。

 

 ただ、神代さんに連絡がつかないという点が心配なところだ。

 2人が何かに巻き込まれていないといいのだが……私が周囲を見渡していると、特徴的な笛の音色が聞こえてきた。

 

 

「この音……もしかして、パレードが始まるんじゃ」

 

「拙いわね。始まったら益々、2人が見つからなくなっちゃうわ!」

 

 

 2人の連絡は繋がらず、居場所も人が多過ぎて不明。声も届かない。

 こんな状況だけども、天馬さんは意を決した様子で口を開く。

 

 

「──パレードが終わる前に、何としても2人を見つけ出すぞ」

 

「確かに……雫はともかく、神代くんにも連絡がつかないのは心配だものね」

 

「桃井愛莉の言う通り、2人が心配なのもあるが……折角の修学旅行だ。最後に皆でパレードを見て過ごしたいではないか」

 

 

 折角というか、修学旅行なんて行事は高校で最後。つまり、今日が人生最後の修学旅行の日でもあるわけで。

 そんな最後の日に選ぶ行動として、『パレードが終わってから』なんて安易な選択肢は消えた。

 

 

「じゃあ、頑張って探そうよ。もちろん、逸れないようにね」

 

 

 そうして、私達はパレード会場を移動しながら周辺を探すことになった。

 

 

 

 

☆★☆

 

 

 

 

「──そっちはどうだ!?」

 

 

 だけど、流石の人混みだ。

 天馬さんの声は近くにいるので聞こえてくるものの、神代さんや雫の姿は中々見つからない。

 

 パレードも半分終わったらしく、私達の中でも諦めるような空気が出てきてしまっている。

 

 

(いくら探し回っていたとしても、それは相手も同じ。わかりやすい目印で合流したりできたらいいんだけど……)

 

 

 未だに神代さんとも雫とも連絡は繋がらず、目印を決めることすらままならない。

 

 

「まだだ! まだパレードは終わっていない! 最後まで諦めずに探そう!」

 

 

 天馬さんがそういうものの、八方塞がりの中、2人を見つけるにはどうしたらいいのか。

 全員が頭を悩ませている中、突然、周囲の人々が騒ぎ出した。

 

 

「わぁ、何あれ! 綺麗〜」

 

「あの子の周りだけ雪みたいなのチラついてるよ! どうやってるんだろうね!?」

 

 

 興奮気味の観光客は皆、同じ方向を見ているようだ。

 

 

「雪だと?」

 

「雪を降らせるって、一体どういう……?」

 

 

 天馬さんやまふゆも他のパレードとは異なる演出に首を傾げつつ、観光客が指差す方へと視線を向ける。

 

 

「あぁ!! あれって、雫!?」

 

「うん、神代さんもいるみたい!」

 

 

 同じく視線を向けた愛莉が雫を発見し、私も近くで機械を触っていた神代さんを見つけることができた。

 どうやら2人とも一緒にいたらしい。別々になっているという最悪の状態でなくて何よりである。

 

 

「ハーッハッハッハッハッ!! 流石はオレ達の演出家! 雪を降らせるとは、やってくれるではないか!!」

 

「それに雫もね! 雪女っぽい冷たい表情も雰囲気出てるし、やるじゃない!」

 

 

 天馬さんが嬉しそうに手を上げて「オレ達はここだぞ〜っ!」と声を出すのに合わせて、愛莉も大きく手を振った。

 

 

「ふふ。これなら、誰だって見つけられそうだね……後々大変そうなぐらい目立ってるみたいだけど」

 

「まふゆ、それは野暮だからね?」

 

 

 探し回って疲れているのか、お茶目なのか。

 優等生の仮面の下から毒舌が飛び出しているので、野暮な指摘を引っ込ませた。

 

 ご指摘の通り、ここまで雫が目立つような行動をしたら、後々周りの人に囲まれそうだけれども……それは後の自分達がどうにかすればいいわけで。

 

 

「とりあえず、合流してから考えればいいでしょ」

 

「それもそうだね」

 

 

 愛莉がゴールで待ってると声をかけているので、私達も移動することにした。

 

 

 

 ……そうして、合流後はまふゆの懸念通り、雫に声をかけようとする人が多数現れたものの。

 タイミング良くプロ部門のパレードが始まったので、人混みに紛れて楽しむことができたのだった。

 

 

 終わりよければ全て良し、だ。

 

 この後のことを──私も、頑張ろうって。

 そう思えたから。

 

 

 

 

 






その道中に受けるダメージを考えていないのが、えななんの甘い所です。

後1話、修学旅行編が続きます。
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