イラスト担当は記憶を無くしました   作:大森依織

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1ヶ月間残業続きで新鮮なプロセカ二次創作を探索する時間が、色んな時間が。
時間を、ください……!

……失礼しました。修学旅行最終日のお話をどうぞ。








215枚目 傷だらけでも前に

 

 

 

 

「2人とも。お風呂空いたから、次どうぞー」

 

 

 部屋に入ってすぐに声をかけると、部屋の中にいたクラスメイトの2人は慌てて準備をする。

 

 

「ありがとう! それじゃあ入ってくるね!」

 

「東雲さん、ありがとーっ」

 

「はいはい、いってらっしゃい。ごゆっくりー」

 

 

 バタバタと忙しない2人が出て行き、部屋に残ったのはつけたままのテレビのみ。

 まふゆも私以外に誰もいないからか浮かべていた笑みを消し、座椅子に座る。

 

 

「あーあ、テレビつけたままじゃん……って、何でサッカーの試合なんだろ」

 

「さぁ。好きなんじゃない?」

 

 

 まふゆは興味がないと言わんばかりの声色で答えているのに、ぼんやりと画面に映る試合を眺めている。

 だらりと脱力した姿は、今までならセカイ以外で見れなかっただろう。力の抜き方を覚えつつあるようで何よりだ。

 

 

「泊りは今日までだけどさ。まふゆは荷物とか、片付けなくてもいいの?」

 

「大丈夫。絵名とは違ってこまめに片付けてるから」

 

「はぁ。事実かもしれないけど、ひと言余計じゃない?」

 

 

 荷物を整理しているのでまふゆの顔は見ていないけれど、やっぱりひと言余計だと思う。

 そこで『絵名とは違って』という言葉は必要だったのか、少なくとも言われた側からすると不要だと断言できる。

 

 そんな不満を込めた言葉だったのだが、お風呂上がりでリラックスしているまふゆには効かなかったようで。

 あまりにもじっとテレビを見ているので、私も片付け終えてから隣に座った。

 

 

「うわっ。え、急に人が倒れたんだけど」

 

 

 私が腰を下ろすのとほぼ同じタイミングで、テレビの向こう側の男の人が胸辺りを抱えて倒れている姿が映った。

 なんとタイミングが悪いのか、担架で運ばれていく姿は痛々しくて見ていられない。

 

 

「えぇ……担架って何があったのよ」

 

「演技じゃなさそうだし、マリーシアかな」

 

「え? マレーシア?」

 

「……それは国だね。マリーシアはポルトガル語で『ずる賢い』とか『悪知恵』って意味の言葉らしいよ」

 

「へぇ。まふゆってポルトガル語もわかるんだ?」

 

「知ってるものしかわからないよ」

 

 

 聞き間違いをした私に呆れるような目を向けつつも、説明してくれたまふゆによると、だ。

 マリーシアとはサッカーの用語らしくて、ルールを利用したり審判を欺いたりと、審判にバレないようにファウルになりそうなプレーをする戦術のことなんだとか。

 

 瑞希経由のクイズ知識らしいので非常に大雑把な解説らしいが、凡そは間違っていないはずというのがまふゆの言である。

 

 

「はぁ? 何それ。バレなきゃ犯罪じゃないみたいな屁理屈じゃん」

 

「絵名は嫌いだろうけど、実際は戦術とか言ってるぐらいだし。そういうことをする人はいるんだろうね」

 

「私がされたらぶん殴りそう」

 

「その時点で絵名がイエローカードかレッドカードで退場だね」

 

「ムカつき過ぎて天井を越えそうな話ね、それ」

 

 

 自分の視点ではファウルだったりルール違反にしか見えない行為でも、審判が見逃したらセーフだなんて。

 サッカーだけではないのかもしれないが、ズルくてムカつく話だ。

 

 

(……ん? ルール違反でも指摘されないとセーフ?)

 

 

 頭の中に降りて来た閃き。

 もしかしたらと思うけれど、もう少し考えたい。

 

 

「ほぼルール違反でも審判次第で見逃されるなんて、サッカーって世知辛いよね」

 

「それは交通違反とかも一緒だと思う。警察の前じゃなければスピード違反だって捕まらない」

 

「……それもそっか」

 

 

 違反だと指摘する存在がいなければ許される、というのがよくあることであるならば。

 

 

(なら……普通じゃない相手にも、それが通用するかもしれない)

 

 

 もっと考えたいけど、修学旅行中の、しかも隣にまふゆがいる状況で考えるようなことではない。

 サッカーの試合から思考が明後日の方向に飛んでしまったので、再び意識を今に持ってくる。

 

 今に持ってきたせいで、テレビじゃなくてじっとこちらを見ているまふゆの目に気がついてしまった。

 

 

「顔に何かついてる?」

 

「何も見えないけど。私に見えない何かなら、ついてる可能性はあるよ」

 

「それは確かにあり得るかもね」

 

 

 まふゆの修学旅行中の視線の正体は私を探っているものだったようだ。

 

 試合が再開されるのを見ながら、私はテレビから視線を外さずに口を開く。

 

 

「愛莉に聞いたの?」

 

「それと鳳さんだね。幽霊みたいに消えそうだって心配してたよ」

 

「あー。それは悪いことをしちゃったなぁ」

 

 

 彰人に愛莉と来たら、えむちゃんも該当する可能性は確かに存在する。

 

 冬弥くんもそれなら当て嵌まるんじゃとも思うけど、私が中学生の時は家に来る時以外は会ってないから関係値的には低いし。

 

 ……だったら、えむちゃんも感じ取れるのはちょっと怖くない?

 いくら連絡してたからといっても、勘が鋭くてやっぱり怖いかもしれない。

 

 頭の中で馬鹿みたいなことを考えていると、黒いユニフォームを着た選手がアップで映される。

 アップにされた黒のせいで、不満そうなまふゆの顔が目に入った。

 

 

「……すっごい不満そうな顔ね」

 

「絵名ならわかると思うけど」

 

「……そうね。私なら言えって言うよね」

 

 

 散々、人の領域に土足で踏み込んでおいて、自分の番になったら『私は別ですー』って顔をする人間がいたとしたら。

 

 そんな人間が目の前にいたら、私ならふざけんなと掴みかかっているだろう。

 不満そうな顔で済んでる分、まふゆは優しい方だ。

 

 

「調子が良くないのは徹夜だとか言ってたけど、本当は違うんでしょ」

 

「まふゆにはそう見えた?」

 

「うん。芸能神社での天馬さんと日野森さんの昔話の時も悩んでたみたいだし、桃井さんと話す時は無意識だろうけど身構えてたから」

 

「え、嘘でしょ」

 

「ずっと観察してないと気が付かない程度の差だけど、本当だよ」

 

 

 そりゃあ、バレるだろうなと思っていたし、何なら言えた方がどれほど良かったかと思っていたけれども。

 

 

(ここ最近、寝る間も惜しんで暗記した意味って……)

 

 

 せめて、少しでも心配する人が少なくなるように。

 そう思って日記を丸暗記した結果が観察してたらわかる程度の偽装だなんて悲し過ぎる。

 

 余裕が消し飛んでる奏は無理だとしても、瑞希とまふゆには見抜かれると思っていたので、想定内だと思えばいいのだろうか。

 徹夜して埋めた短期間の努力は、ほぼ意味がなかったことに嘆けばいいのか。

 

 例えるならテストの山が外れたような、ちょっと複雑な気持ちだ。

 現実逃避するかのように変なことを考えていると、まふゆが疑問を投げかけてきた。

 

 

「絵名のそれも、やっぱり言えない?」

 

「……ごめん」

 

 

 『イエス』も『はい』も『うん』すら言えない不便な口だ。

 最近ではごめんすら言い辛くなってきていて、自分の体なのに思うように動かないのが嫌になる。

 

 

「言えないのなら、私が一方的に話すけど」

 

「そうね。まぁ、聞くだけなら」

 

 

 それぐらいならできるだろうと、私は油断していた。

 

 

「──絵名が何も言えないのって、スケッチブックっていうモノのせい?」

 

「……っ!?」

 

 

 まさか、そんなど直球で奴の地雷を踏み抜くような言葉が出てくるなんて。

 予想外過ぎて、突然訪れた首が締まるような感覚への心構えが遅れてしまう。

 

 

 

【お前、言ったのか! やっぱり目を掻い潜って言っただろ! 縛ってるんだからわかるだろ!? 何の為の制限だと思ってるんだ!? ルール違反だぞ!?】

 

 

 

 しかも頭の中に煩い小姑よりも厄介なヒステリックな悲鳴つき。

 コイツのせいで助けての『た』の字も言えないのは理解しているはずなのに、動揺が伝わってくる。

 

 

(言ってないっての! あんたが決めたルールなんてこっちは知らないし! 何より自分がやらかして始めた事の癖に、訳のわかんない八つ当たりすんなっての!)

 

 

 心の中では噛み付くように叫んでいるけど、体の方はそれどころではない。

 喉が締め付けられて、必死に空気を求めて。最終的に、私の体は咳が止まらなくなった。

 

 

「かひゅっ、ひっ……かは。げほ、ごほっ」

 

「え、絵名!?」

 

「ごめ、薬……かば。て、まえ、ポケット」

 

「鞄に入ってるの? わかった、待ってて」

 

 

 正直に言うと処方されている薬の殆どは効果がないのだけど、痛み止めとか効く薬もあるので、まふゆに持ってきてもらう。

 

 ……本当に、心配かけるのは嫌だったのに。

 

 

「絵名、持ってきたよ。飲めそう?」

 

「げほ……んん、ん、ごめん。ありがと」

 

「いい。私が、悪かったから」

 

 

 差し出される手に手を伸ばして、顔を見ても。

 まふゆの視線は下を向いていて、全く合いそうになかった。

 

 まるでいつかのリン達の姿を見ているかのような、嫌な表情だ。

 

 

(そんな顔をさせるつもりは、なかったはずなんだけどな)

 

 

 いつからこんな道になってしまったのか。

 本当にこのまま行ってしまってもいいのか。

 

 不安と後悔でどうにかなりそうだけど、止まるわけにもいかなくて。

 他人に『大丈夫』だと安心させるための薬を、今日も服用した。

 

 

「絵名、今の薬って病院で処方されたものだよね」

 

「ん、まぁね。心因性咳嗽(がいそう)じゃないかって、言われてるけど」

 

 

 病院側としても原因も何もわからない病気に名前をつけるのは四苦八苦したことだろう。

 だってどれだけ検査をしても、何の異常もない健康体なのだ。

 超常現象じみたモノに、それっぽい病名を付けれるだけ凄いなと、こっちがびっくりしたぐらいである。

 

 

「そう、なんだ……無理させてごめん」

 

「は、無理なんてしてないし。それに、あんたは何も知らなかったんだから、見えないものを気を付けようもないでしょ」

 

 

 これは私の身から出た錆だ。まふゆはそれに不幸にも巻き込まれただけ。

 それなのに、まふゆは優し過ぎるから酷く傷ついたような目を隠すように、視線を下に向ける。

 

 

「知らないから聞きたいって思ったのが、よくなかったんだね」

 

「そんなわけない! げほっ、んん。あんたは悪くないし、悪いのは全部……私の身から出た錆、部分だから」

 

 

 ちょっと言いにくかったけど何とか言い切ってやった。

 口の中がほんのり血の味がするし、代償はそれなりのようだけど。

 

 それでも、だ。

 

 

「ま……こんな感じで満足に言えないんだけどさ。知りたいなら、リンに聞いてみてよ」

 

「リンに?」

 

「そ。私よりは話になるから」

 

 

 1日目の話ぶり的に、リンはほぼ答えに辿り着いてそうだ。

 話せない私よりも、リンの方が欲しい答えをくれるだろう。

 

 

「ふぅ、落ち着いてきた。じゃあ、そういうわけだからよろしく」

 

「絵名、大丈夫なの?」

 

「心因性っていうのは医者が決めただけで、原因は別にあるから。今はまだね」

 

 

 だけど、この旅行から帰った後は……

 

 

(さっきの奴の焦りを見る感じ、すぐにでも仕掛けてきてもおかしくなさそう)

 

 

 この先を考えると思いやられる。

 

 

「って、人が考え事をしてる時に何してるのよ!?」

 

「何って、喉のケアができるようにって」

 

「喉飴とか1粒でいいから! 何袋も渡されても過剰だし、いらないから!」

 

 

 そんな風に、せっせと世話を焼こうとしてくるまふゆと激しい攻防をすることとなり、新幹線に降りた頃には違う意味で疲れてしまった。

 

 ……何とも締まらない最後だ。

 私らしいのかもしれないけど。

 

 






まふゆさんにも影を落としちゃった修学旅行編、終了です。
ここからはジェットコースターの始まりますので、えななんも時間を欲してることでしょう。


次回は奏さん視点です。




……………………



──イベントストーリー『仮面の私にさよならを』を再生中……

対象の問題が解決している為、失敗しました。

別のイベントを再生します……


──深刻なエラーが検出されました。

──  が混ざっています。再生に失敗しました。別のイベントを生成します。


生成中、生成中。

エラー、エラー。



──『宵空へ溶ける雲に願いを』が生成されてしまいました。



【さて、収穫の時期だね】

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