イラスト担当は記憶を無くしました   作:大森依織

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1番信じられないのは、いつも1人。





220枚目 信じられないのは

 

 

 

 

 

『絵名なら大丈夫だと思うよ。瑞希もまふゆも救える絵名なら』

 

 

 ……まさか、奏の口からあんな言葉が出てくるなんて思わなかった。

 

 それだけ奏が追い詰められていたってことだろう。

 その原因の1つに私がなってしまっているだけに、胸の痛みは治ってくれそうにない。

 

 

(でも、私よりも奏の方が痛いよね)

 

 

 私はまだいいのだ。良くも悪くも暫くの間は忘れるだろうから、そこまで引き摺ってしまえばいい。

 

 でも、今の奏はその痛みや絶望から逃げることができない。

 時間もそこまで残されていないから、折れそうでも綱渡りを続行するしかないのだ。

 

 

「奏の言う通り、私も絵は描き続けてたと思うよ……今みたいに楽しいって思うことも、作って良かったって思うこともなく、外からの強制力とか義務感でだろうけど」

 

「義務感って……」

 

「冗談じゃないからね? 今の私が絵を描き始めた理由って『記憶を無くす前の絵名が画家になりたいから』だし。それが、出会う人の運に恵まれて、偶然ここまで上手くいっただけで」

 

「……あっ」

 

「このまま何もしなかったら、今度は奏がそうなっちゃうかもしれない。だから私は、怖くても曲を作って欲しいなって思うんだよね」

 

 

 奏の申し訳なさそうな顔を見ると、改めてズルい言い方をしたのだと実感する。

 

 ズルいかもしれないせれど、嘘は言っていないから許して欲しい。

 厄物に付き纏われている分、人との縁には自信があるし。

 

 

「わたしにできるのかな」

 

「やってみなくちゃできるものもできないんじゃない? それに、奏は勘違いしてるよ」

 

「勘違いって?」

 

「奏は瑞希もまふゆも私が救ったとかすごい評価をしてくれてるけど、奏だって私達皆を救ってるから」

 

「えっ?」

 

 

 私が言うのもアレだが、奴の精神攻撃のせいで奏の自己評価が落ちているのではないだろうか。

 

 

「奏の曲がきっかけで、私達はニーゴとして集まれたの。その時点で奏は皆を救うきっかけを作ってるってわけ」

 

「いや、でも」

 

「でもも何もないの。いっつも私に自己評価云々って言ってるのに、そんなに頑なだと瑞希から『第2のえななん』とか『自己評価えななん』って呼ばれちゃうからね!」

 

「ふ、ふふ……第2のえななん、自己評価えななんって」

 

 

 偶然ツボにヒットしたらしく、奏は肩を震わせて笑っている。

 

 人生が終わった人の様にしか見えなかった雰囲気と比べると、かなり良い変化に見える。

 マッチポンプの様になっていることを自覚しているせいで胸が痛いこと以外、今の状況は良い方向に進んでいた。

 

 私がこっそり自傷ダメージに苦しんでいる間に、奏は落ち着いたらしい。

 眞元を拭いつつも、まだ弱々しくも感じる青い瞳をこちらに向けてきた。

 

 

「ごめん、笑い過ぎちゃった」

 

「暗い顔でいるよりは笑いを提供できたようで良かったよ、うん」

 

「うっ。本当にごめんね?」

 

「考えを改めてくれたら、許そうかなぁ」

 

 

 瑞希を見習ってわざとらしく笑うと、その意図を汲み取ってくれた奏が頷く。

 

 

「そうだね。絵名が肯定してくれているのに、私がそれを否定したらいけないよね」

 

「そうそう。奏は十分すごいんだから、自信を持ってよ」

 

「……自信、か」

 

 

 奏は目を伏せたまま、海の方へと視線を向ける。

 

 

「お父さんを救えるような曲はやっぱり難しいかもしれない」

 

「それって、自信が足りないってこと?」

 

「ううん。曲のイメージができないんだ」

 

 

 首を振った奏の横顔は苦しそうに歪んでいる。

 

 

「あの日のわたしはお父さんの為にって、そう思って曲を作ったつもりだったんだ。でも、それがお父さんを苦しめた。わたしの曲には、お父さんを幸せにする力が足りなかったんだよ」

 

「それは今も一緒だって思ってるの?」

 

「どうだろう。少しは変わったって思いたいけど、お父さんを幸せにできるほどかって言われると……」

 

「そういう意味では自信がないってことね」

 

 

 頷く奏は海を眺めているようで、どこか遠くを見つめている。

 昔のことを思い出しているような遠い目だ。今の私では真に奏に寄り添うのは難しいかもしれないけれど、それでも伝えられることはあるはず。

 

 

「それってさ、思いつかなくても当然じゃない?」

 

「え、当然って……」

 

「だってそうでしょ。曲であれ絵であれ、相手を『幸せな気持ちにする』ことはできるかもしれないけど、幸せにするというか……相手が『幸せになる』のはまた別問題じゃん」

 

 

 勢いよくこちらに振り向いた奏の目をじっと見て、私は想いが伝わるように願いながら口を開く。

 

 

「瑞希のことも、まふゆのことだってそう。2人がそれぞれ動いたから、少しは幸せになれそうな今があるの。曲も絵も、何なら私だってきっかけの1つでしかないよ」

 

「きっかけって。それは言い過ぎだと思うけど」

 

「ありがとう、でも、私はそう思ってるってことだから。それだけは知って欲しいなって思って」

 

 

 そう、これは私自身にも言い聞かせていることだ。

 

 今もどこかで嘲笑っているであろう奴の力なんてなくても、瑞希やまふゆのことは時間はかかったかもしれないけれど、絶対に前に進めているはずだ、って。

 

 

「だからこそ、奏に聞くよ。奏はこれから先、どうなりたい?」

 

「わたしが、なの?」

 

「そう。奏が今、どういう風になりたいか、どうしたいのか。考えて、曲に向き合ってくれたら……私は嬉しいかな」

 

「わたしは……」

 

 

 こちらの言葉を咀嚼するように、奏はゆっくりと目を閉じる。

 胸に手を当てて考えている様子を見るに、波の音すら聞こえてなさそうなぐらい集中していた。

 

 

「わたしは、お父さんに目が覚めて欲しい」

 

「それが奏の答え?」

 

「うん。そのためにできることはやっぱり、曲を作るしかないんだと思う」

 

 

 両手じゃ足りないぐらいの波の音を聞いている合間に、奏が考えて出した結論はこれだった。

 

 

「だったら、作ろう。奏のお父さんの目が覚めちゃうぐらいの曲を、作れるまで」

 

「……わたしにできるかな」

 

「そこは今まで通り、時間が許す限り作るしかないかもね。奏の想いや伝えたいことは沢山あるだろうし、それを詰め込んで形にするしかないよ」

 

「想いや伝えたいことを……」

 

 

 胸に当てられていた手が、ぎゅっと握り締められる。

 

 

「そうだね。怖がっていたとしても、わたしは作り続けるしかない」

 

「じゃあ……?」

 

「絵名、ありがとう。わたし、作るよ──お父さんが目を覚ましてくれるまで、作る」

 

 

 そう力強く言い切った奏の目には、いつもの頼もしい光が戻っていた。

 この目なら、きっと大丈夫だろう。そう思うような不思議な力を感じた。

 

 

「それなら、今日は皆にも早めに集まってもらおうよ。私は曲を作れないけど、奏の力になりたいし!」

 

「今でもすごく力になってるよ、ありがとう」

 

「もう、お礼はまだ先だって。お父さんが目を覚ましてからにしてよね!」

 

「……そうだね。その為にも、絵名の力も貸してほしい」

 

「うん、私の力で良ければいくらでも」

 

 

 スマホを確認すると、海に来てからかなりの時間が過ぎているのを認識してしまった。

 

 

「うわっ、もうこんな時間!?」

 

「病院に行ったのが朝だから、結構時間が経っちゃってるね」

 

「家に帰る頃にはちょっと暗くなってそうだし、送って行くよ」

 

「えっ。そこまでしなくてもいいよ」

 

「奏、自分がどんな状態でここまで来たのか知ってて言ってるの? 心配だから送らせて」

 

「……うっ。わかった、甘えさせてもらうね」

 

 

 奏を上手いこと言い包めて、私達は帰路につく。

 

 来た時と比べたら奏も前向きになったので、帰る途中や家の中でちょっかいを出されなければ大丈夫だろう。

 

 

【大丈夫って、曲だけで目が覚めるって思ってるの?】

 

(煩い、元凶は黙ってて!)

 

 

 騒がしい奴の声を聞きながらも私は奏を家まで送り、自分も赤みがかった空の下を帰宅した。

 

 

【奇跡をタダで起こすわけがないのにね】

 

(……わかったから、黙ってなさいよ。この詐欺紙束)

 

 

 

 

 

 

 

…………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 早めの時間にセカイに集合すると連絡した張本人なので、集合時間よりも早くセカイに来た。

 

 

「あら。今日は絵名だけかしら?」

 

 

 セカイに来ると、珍しくルカが1人で佇んでいる。

 

 

「そういうルカこそ、1人なの?」

 

「ミク達に用なら、あっちであやとりをしてるわ」

 

「あぁ、大丈夫。今日はセカイで集まる約束をしてて、少し早めに来ただけだし」

 

「そうなの……早めに、ね」

 

 

 そう呟いたルカの口角は弧から直線へと変わる。

 

 

「なら、1つだけ聞いてもいいかしら?」

 

「皆が来るまでならいいけど」

 

「その道を進んで、本当に壊したいものを壊せるの?」

 

「!」

 

 

 ビックリしてしまったけれど、リンが知っているのであれば、ルカも把握していてもおかしくはないか。

 

 咄嗟に喉に手を当てた所を見られてしまったのもあって、ルカから牽制される。

 

 

「あぁ、直接的な言葉で答えなくてもいいわよ。私はただ、あなたの意気込みを知りたいだけだから」

 

「それもそれで難しいんだけど」

 

「ふふ。頑張って教えてね」

 

 

 ルカは愉快そうに笑っているけれど、寄り添ってくれているのは明白。

 そんな相手を無碍にはできないので、ルカの要望に応えられそうな言葉を脳内から探し出した。

 

 

「私はいつでも壊すつもりでいたよ。ただ……残念ながら、今の状況だと直接私が壊すのは難しいみたい」

 

「そう。その言い方だと、こちら側の出番があるようね。壊したいものを壊す前に、あなた自身が壊れてしまうんじゃないかと思ったけど……そうでもないのかしら?」

 

「……どうかな。ルカが期待する展開とは違うと思う」

 

 

 今もなお、言えることは少ないし、皆を傷付けて勝手にことを進めているのだ。安心されるような要素はどこにもない。

 

 それなのに、ルカは余裕のあるような所作で笑みを浮かべる。

 

 

「自分のやれることをやったのであれば、後はあなたが信じる人達を信じればいいのよ」

 

「いや、信じるって言われても」

 

「あの子達はあなたが何かを言わなくても、近付いてくれてるのでしょう?」

 

「あっ……」

 

 

 そう言われて、リンやまふゆの顔が頭の中に過ぎった。

 

 

「なら、信じたらいいんじゃないかしら。私はあなた達が壊すその先を、楽しみにしてるわ」

 

 

 言うだけ言って満足したのか、ルカはそのまま何処かへ姿を消した。

 

 

(……信じればいいって言われてもね)

 

 

 難しいことを言うだけ言って去って行くのだから、困ったものだ。

 

 

(皆は信じられるよ。でもさ)

 

 

 1番近くに操り人形になってしまいそうな信用できない存在がいるのに。

 皆を信用しても、私が裏切ってしまったら意味がないではないか。

 

 

 

 






東方Projectコラボ第2弾、来ましたね。
古代スタート系東方二次創作にハマった時期がありまして、この話もそんな個人的な好みによって過去からじっくりと更新してきました。
進級後の問題も先取りしてここまで来ましたが、改めてちゃんと宣言します。進級後のイベストはやりません。

終わりも目前となりましたが、最後までえななん達とのお話をよろしくお願いします。


次回は奏さん視点です。
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