それでは、瑞希さん視点をどうぞ。
(後書きが増量してますが、本編はいつも通りです)
奏の呼びかけでセカイに集まった後。
解散して部屋に戻ってもまだ、時間は0時を跨いだぐらいしか経っていなかった。
いつもなら作業の準備とかしている時間なので、眠る気にもなれない。
ちょっと見てなかったアニメでも見ちゃおうかな~って企んでいるボクの目に、光り輝くスマホの画面が映る。
『瑞希、いるかしら?』
「え、ルカ? こんな時間にどうしたの?」
さっき顔を合わせたばかりなのに、ルカがボクの部屋に来るなんて。
何事かと首を傾げるボクに、ルカは用件を言ってきた。
『少しね。瑞希の時間を貰ってもいい?』
「こんな深夜に予定なんてないから、全然
『ならよかったわ。私はまふゆにも声をかけに行くから、準備してちょうだい』
「いや、だからどうしたの? ……って。もういないし」
一方的に用件を言ったルカは消えてしまった。
きっと、宣言通りにまふゆの所に行ったのだろう。何が何だかわからないまま、置いてきぼりは困っちゃうな。
待つにしても微妙に空いた時間だし、通話の準備なんてすぐにできちゃう。
スマホを机の上に置いて、心構えさえあればおしまいだ。後は……待つ時の姿勢は正座でって言うし、正座で待機しちゃう?
『……瑞希、何をしてるの?』
「あ、あはは……待機って話だから、正座で待ってようかなって」
椅子の上で姿勢よく正座していたら、瞬きするルカに首を傾げられてしまった。
ボクも誰も見ていないからって好き勝手してたのが悪いね。恥ずかしいから普通に座ろう。
「それで、もういいの?」
『ええ。私は通話でもセカイでもどちらでもいいんだけど……瑞希はどちらが良いと思う?』
「どうって言われても、話したいことによるかな」
『そうね……場合によっては叫ぶわ』
「叫ぶ!? じゃあセカイの方が良いんじゃないかな」
いくら何でも夜中に叫ぶのはボクの家でもダメだし、まふゆの家でもアウトだ。
何より、ボクのお母さんだけでなく、まふゆのお母さんにも怒られそうなのがね。
ボクも自分の身が可愛いのだ。まぁ、ボクはいつでもカワイイんだけどね!
☆★☆
──そういうわけで、ボクは自分の部屋からセカイへと再び戻って来た。
数分遅れてまふゆもやって来たので、ルカは早速と言わんばかりに口を開く。
「2人に集まって貰ったのは絵名のことについてよ」
「絵名のこと?」
あれから1時間程度で何があったというのか。首を傾げるボク達にルカが爆弾を投げ込んできた。
「絵名が奏に『奏と奏のお父さんの絵を描く』と態々許可をもらっていたわ。これを聞けば、知ってるあなた達ならピンとくるんじゃない?」
ボクは思わず横を見て、隣にいたまふゆと顔を見合わせた。
まさかと思うけれど、すごく嫌な予感がする。
「これってやっぱり、リンとも話したあれだよね?」
「……だろうね」
まふゆも同じ気持ちらしく、顎に手を当てながら頷く。
ボクとまふゆの想像通り、本当に『スケッチブック』という存在のせいだとしても。
「……いくら何でも早過ぎない? 修学旅行から帰って来たばかりじゃん」
「絵名からすればそうでしょうね。でも、奏からすればどうかしら?」
ボクの呟きをルカが拾う。
奏からすれば、前の話でもあるのか。
奏のお父さんが目を覚まさなくなってから時間が経っているらしいし、今日はお父さんの為に曲を作るからニーゴの方での曲はもう少し待ってほしいと言っていた。
「あれ? そういえば、何で奏はお父さんの為に曲を作るつもりになったんだろう?」
「その出来事が今日、起きていたのよ。だから、奏からしたら『急な話』じゃないの」
少し気になっただけの疑問が、ルカが欲しかった答えらしい。
「今日の朝からレンに奏の様子を見てもらっていたの。かなり追い詰められていたのでしょうね、奏は病院に行った後、海に向かったわ」
「……何で海に行ったの?」
「口では『曲を作る為』って言ってたそうだけど……レンに呼ばれた絵名が海に行かなければ、海に落ちてたそうよ」
「「っ!?」」
そんなに、ギリギリだったのか。
その時間、ボクは何も知らずにバイトに勤しんでいたから……絵名が間に合っていなかったらと思うと、ゾッとした。
「奏が、そんな……」
まふゆは下を向いている。
まふゆにとっての奏は救ってくれるかもしれない人だったし、ヒーローみたいに思ってたのかな。
ボクだって衝撃的だったんだから、ショックを受けるのも納得だ。
(ルカの話を聞く限り、奏はギリギリなんだろうな。その原因になっちゃってる奏のお父さんも、ギリギリなんだ)
長い間、目を覚ますことなく、お医者さんが覚悟を決めた方がいいって言うぐらい、弱っているという。
そんな状態をどうにかする方法なんて、そんなの──
「絵名は仕組まれた奇跡を起こすために、絵を描くつもりなんだろうね」
ボクが考えるよりも先に、まふゆが声を出していた。
「たぶん、あのスケッチブックは絵を描くことによって記憶を代償に願いを叶えるものなんだと思う。奏のお父さんが目を覚ますぐらいの奇跡の代償はきっと、安くない」
いつもより低い声が、嫌なぐらいセカイに響いて聞こえる。
体の奥が冷えていくような感覚。頭だけは茹でられているように熱くて、クラクラしてきた。
「絵名を止めなきゃ」
考える余裕もないのに、自然とその言葉が漏れ出た。
そうだ、止めなくちゃ。こんなところで話してる場合じゃない。今すぐにでも絵名に連絡して。
震える手でスマホを取り出そうとして、落としてしまった。
落ちたスマホは地面を滑り、まふゆの足元へと移動する。
緩慢な動きでスマホを拾ってくれたまふゆはじっと、ボクの顔を見てきた。
「止めて、どうするの?」
「どうするのって、何を言ってるのさ? スケッチブックに絵を描いたら、記憶を全部なくしちゃうかもしれないんだよ!? 止めるに決まってるよ!」
「なら、奏は? 見捨てるつもり?」
「見捨てるって、何でそうなるの?」
「これはそういうことなんだよ。瑞希は少し、考えた方がいい」
そう言うまふゆは何故か、他人事のように見えた。
自分には関係ない。いや、自分は関わってはいけないと自制しているような。
ボクがもう少し冷静だったのなら、その機微から別の答えを導き出せていたのかもしれない。
でも、今のボクは自覚がないぐらいカッとなっていた。
「考えてる間に絵名が絵を描いてしまうかもしれないのに、考えた方が良いって? まふゆは絵名のことがどうでもいいの!?」
「どうでもいいなんて思ってない! ……でも、私には言う資格もないの」
「資格って。今してるのはそういう話じゃないじゃん!」
一体どういうことなのか、わからないボクにまふゆは首を横に振った。
「私は既に絵名にスケッチブックのことで助けてもらってるから、言う資格がない」
そんなの、本当に絵名が描いてるかなんてわかんないじゃんって、言えたら良かったのに。
顔をくしゃりと歪ませたまふゆを見ると、そんな言葉も吹き飛んだ。
「絵名のノートを見てから、ずっと考えてた。最後のページにある『あの話が拗れたのはこれ』っていうのは、何を示してるんだろうって」
ボクは文言まで暗記してないから予想でしかないけれど、たぶんまふゆが言ってるのは紫色で書かれた文章のことだ。
「後悔の感情が増幅されてるって話の流れ的に、多分拗れた原因は『感情を増幅されたせい』だと思う。じゃあ、誰のって考えたら……私のお母さんだろうなって」
まふゆのお母さんはズレてしまったところもあったけれど、確かに娘を愛していた。
それはどう拗れたって、夫がいない間に娘を閉じ込めようなんて発想になるような気持ちじゃなかった。
「お母さんはどうしてかわからないけれど、そうしなきゃいけないって気持ちでいっぱいだったんだって。今でも、何で私を閉じ込めようとしたのか、わからないって言ってた」
「わからないって」
「それぐらい、おかしくなってたんだと思う。そんなことができる存在なら……私のお母さんも、お母さんを通して私自身も、好きにできたんじゃない? 例えば──無理心中させる、とか」
「え? そんなのできるのなら、人質みたいなものじゃ……!?」
例の存在がまふゆのお母さんを通して、まふゆの命を握っていたとして。
人質のことを知ってしまったら、絵を描かないと命は保証しないとでも言われたら。
(絵名なら自分の記憶がなくなるってわかってても、やる。東雲絵名は自分よりも他人を選んで、描いちゃう女の子だ)
まふゆの言いたいことが理解できてしまった。繋がって、しまった。
それと同時に奏のことも考えなくてはいけないっていう意味も理解した。
「今度は奏のお父さんを通して、奏も人質に取られてるってまふゆは言いたいんだね?」
「或いは、2人共って可能性もある」
「それを絵名が考えてないはずはない、か」
予想してるのか、直接元凶から情報を得ているのかはわからないけれど、絵名が知らない可能性は限りなくゼロだ。
(奏と絵名、どちらか選べだって? そんなの……ボクには決められないよ)
そりゃあ、まふゆが軽はずみに動くなと止めてくるわけだ。
まふゆには強く言っちゃったし、本当に申し訳ない。
「当たっちゃってごめんね、まふゆ」
「ううん。私もごめん、言い方が悪かった」
「そう言ってもらえると助かるよ……でも、どうしたらいいんだろうね」
資格があるとかないとか以前に、八方塞がりな気がして考えが纏まらない。
絵名には絵を描いてほしくないけど、そうしたら奏の方がどうなるかわからないなんて。
こっちはちょっと変わったセカイにお邪魔できるだけの高校生だよ? どうしろっていうんだろうか。嫌になるね。
「どうすればいいかはわからないけど。絵を描くのを止めるとしたら、その権利があるのは瑞希だけだよ」
「ボクだけって」
「私は既に絵名の記憶を消費して、助けてもらった。それなのに奏は助けないでとも言えない」
だから何もいう資格がないのだと、まふゆは最初に言った言葉の意味を説明してくれた。
……そうやって資格だとか権利だとか、難しいことをあれこれ言われたってさ。
「うあー! あぁもう、そんなの決めれるわけないって! まふゆ、もう1回絵名と話そう! そうじゃないと頭がおかしくなっちゃいそうだよ!」
考えても考えても答えが出なかったボクは結論を先延ばしにした。
「そうしたいならそれでもいいと思う。ただ、絵名と話せたら、だけど」
まふゆが何かありそうなことを言っていたけど、やってみないとわからないから受け流す。
そもそも大事な結論を出すのに当事者2人がどっちもいないのがおかしいのだ。
せめて1人だけでも話を聞かないとやってられない。
「ルカ、ありがとね! 絵名にも話をできるだけ聞いてみるよ」
「これぐらい構わないわ。あなた達が困難を壊すのを楽しみにしてるわね」
今日のところは一旦解散して、絵名が来れるタイミングで呼び出そう。
それで──止められるなら、絵名を止めるんだ。
次回はえななん視点です。
《以下、ちょっと長め》
感想の方で『スケッチブック君を消す願いを描いたら消えるのでは?』っていう面白いご質問があったので、改めてこちらでもお答えさせていただきます。
結論から言うと、願ってもスケッチブック君は消えます。消すという目的だけに注目したら、素晴らしいアイデアです。私は元ネタを知りませんが、人のアイデアは素晴らしいですね。
ただし、スケッチブック君は皆様ご存知の邪悪さがありますので、消える代償として今までの記憶を全部、取られてしまいます。
その結果、空っぽえななんができあがってしまいます。命は取られないのでオッケーです! と考えられる玄人向けですね。
更に、スケッチブック君が干渉した状態は消えません。
現時点で消える絵を描いちゃうと、奏さんのお父さんは何をしても目覚めず、衰弱して……って状態に固定されます。
嫌がらせの置き土産、えげつないですね。
なので、スケッチブック君を消すだけならば、最適なタイミングは事故にあってスケッチブック君が手元に現れてからすぐ、スケッチブック君消滅の絵を描くこと。
記憶は2度と戻ってきませんが、確実にスケッチブック君はえななんの前から消えることでしょう。ゲームなら最速エンドですね。
今描いちゃうと、やっぱりえななんは記憶を全部無くしちゃうし、奏さんのお父さんは目覚めないので最悪過ぎるバッドエンドに突入です。
取られた記憶も諦めず、全部掬い上げるという欲張りえななんルートだと、やっぱり現状が1番近いんですよね。
(ただしその過程で生じる周囲や自分の心の傷は無視するものとする)