最近、マイセカイの『ツルハシの先端』ってアイテムの文字が『ツルハシの先輩』に見えました。ツルハシさん、どこの誰でしょうか?
……皆様も疲労などには気を付けて、ゆっくり休んでくださいね。
失礼しました、それでは奏さん視点をどうぞ。
『その言葉ってさ、本当に奏が思った通りの意味なの?』
今まで絵名にそう言われるまで、お父さんが倒れる前に言った言葉の意味なんて改めて考えようとも思わなかった。
だからこそ、改めて私は原点を見直さなくちゃいけなくなった。
ニーゴの皆だけでなく、望月さんや偶然会った星乃さん、草薙さんとかにも話を聞いてみたので、わたし的には積極的に動いたと思う。
(その中でも、1番付き合ってくれたのは絵名なんだけどね)
ここ数日の間、わたしの気持ちとかについて深堀りする作業に付き合ってくれていたのは絵名だった。
絵名は「まぁ、自己分析は常にやってきたから得意な方だよ」と黒い冗談を交えていたけど、すごく助かったのは間違いない。
そういうこともありつつ、自分と向き合いながら曲を作って数日後。
わたしはやっと、曲を完成させることができたのだ。
本当はすぐにでもお父さんに曲を聴かせに行きたかったけれど、まふゆと瑞希にお願いされて休日に──土曜日に行くことになった。
2人は何故か平日には行ってほしくなかったみたい。
どうしても『その日は絵名の方が都合が悪い』と2人が引き下がってくれなかった。
(絵名は何も言ってないのに、何で絵名のために休日が良かったんだろう?)
お父さんの病院に行くのだって3人は同行しないらしいし、休日じゃないと困る理由がやっぱりわからない。
(まぁ、1日2日ぐらいなら大丈夫だろうってお医者さんが言っていたから、平気なはずだけど……やっぱり落ち着かないな)
本当は今日、行くつもりだったけれど、明日になった決戦の時。
──この時はお父さんとのことが人生最大の決戦だと思っていたけれど。
まさかその決戦が連戦する形になってるなんて、この時のわたしが予想できるはずもなく。
「……落ち着かないし、もう寝ようかな」
この時のわたしは何もかも知らないことを自覚しないまま、通院に備えて眠りについた。
……………………
朝、起きて何とか病院まで辿り着いた。
担当医の人は『お父さんの様子は酷く悪化していないけれど、良くもなっていない』と言っていたけど、まだ時間はあるらしい。
(この曲で起きなくても、作り直せる余裕はあるかな)
そんな弱気な気持ちが出てきて、首を横に振る。
(次とか、考えないようにしよう。気持ちで負けてたら協力してくれた皆に申し訳ないから)
この曲にはわたしができる限りのものを詰めてきたのだ。
お父さんに聞かせる前から気持ちで負けるわけにはいかない。
気負い過ぎてると瑞希に言われそうなぐらい考えている間に、わたしはお父さんが眠っている病室の前まで来ていた。
(あっ。もう目の前まで来ちゃったんだ)
前回とは違って、今回は曲を流す許可をちゃんと貰っている。
不安も怖さもまだ残っているけれど、それは前のような見えないものじゃない。大丈夫だ。
「……よし」
目を閉じて自分の状態を確認し、わたしは病室の扉を開けた。
「お父さん、来たよ」
数日ぶりのお父さんは前回と変わらず、青白い顔で眠っていた。
体は枯れ枝のようで、辛うじて聞こえてくる呼吸音がないと、本当に目を覚ます可能性があるのか疑ってしまいそうな寝顔だ。
「……」
そんな寝顔を見ていると、今まで見ないようにしてきた弱いわたしが『どうしよう』って泣き出しそうになる。
スマホを片手に落ち着くためにもう一度、目を閉じて深呼吸。
『……やっぱり、怖いわよね』
お父さん以外に誰もいない病室に声が聞こえてきた。
「ルカ?」
目を開いたわたしの前にルカがいる。
心配して見にきてくれたのか、わたしのスマホにいるルカは細めた目をこちらに向けた。
『怖いのは当然だと思うわ。それがあなたの罪の意識の原点となれば余計にね。だから……怖いことは、悪いことじゃないのよ』
「うん……そう言ってもらえると気が楽になったよ」
怖いことは悪いことじゃない。それはそうかもしれない。
「でも、今は何故か逃げたらいけない気がするから。この先がどうなっても進んでみるよ」
ニーゴの皆にセカイの皆だけでなく、他の人にも協力してもらってここまできた。
ニーゴとして活動して、リアルで皆に会ってからちょっとずつ余裕が出てきて。
そう思ったら今みたいにお父さんが大変なことになって。
「セカイで皆と会ってから目が回っちゃうぐらい色々と変わったけど。わたしはここで振り落とされたくないんだ」
『……確かに、あなた達はよく頑張ってるわ。1年も経たない間に様々な出来事を乗り越えて来たんだもの』
ルカが苦笑してしまうのがわかるぐらい、わたし達の状況はどんどん変わっていっている。
瑞希はずっと苦しんできたことに少しだけ向き合って、わたし達にも話してくれた。
まふゆもまだ自分がわからないことが多いけれど、家庭のことでは1歩だけ進んだ。
絵名は……シブヤアートコンクールとか大変なこともあったけれど、それは何か違うような。
「あれ、絵名は?」
『……今、気が付いてしまうのね』
「気が付いてって、どういうこと?」
ルカはいつものように、何か知ってそうな笑みを浮かべている。
わたしが知らないだけで、やっぱり何かがあるみたいだ。
「絵名に何があったの?」
『あったというか、今もあってるというのが正しいわね。でも、奏は今、目の前のことに集中して』
「え、でも……」
『そうすることを絵名も望んでるはずよ。ちゃんと終わらせた後に絵名の力になる方が、あの子も素直に助けられるはずだから』
「……わかった」
絵名も大変だってわからなかったから力を借りたけれど、もしも知ってたらそっちを優先して欲しいってわたしも思う。
それなのにわたしが似たようなことをすれば、絵名も遠慮してしまうのは目に見えている。
ルカの言う通り、進まなくては。
いつまでも躊躇っていてはダメだ。
「うん。わたしも進むよ」
『生き急ぐように物事を進めている今のあなた達に、冗談でも壊してしまえって言う余裕がないのが残念だわ……だから、こんな余裕のない状況なんて、早く駆け抜けてちょうだい』
「うん……ありがとう、ルカ」
ルカの言葉通り、あまりにも急に変わっていった状況だけど……ここまで来たらもう、進むしかない。
わたしは静かにこちらを見ているルカがいるスマホを脇に置き、曲の入った音楽プレーヤーを操作した。
静かだった病室にわたしが作った曲が流れる。
(あ……)
期待しているせいか、ほんの少しだけお父さんの体が動いた気がする。
けれど、それ以降の反応はなくて、浮つきそうになった気持ちが一気に急降下した。
(そう簡単に起きるわけがないよね)
まだ曲はイントロが始まったばかりでサビにも入っていない。
大丈夫、大丈夫だと言い聞かせている間に折り返し地点を通り過ぎ、言い聞かせている言葉が空虚に聞こえてきた。
(お父さん)
眠るお父さんの骨ばった手を握ってみたものの、当然のように握り返されることはない。
(お父さん……)
作った曲が終わりに向かっている。
時間にすると数分程。それなのに凄く長い間祈っているように感じて、気を張っていないと足から力が抜けてしまいそうだ。
「──お父さん」
思うよりも口に出した方が願いは叶いやすい。
そんなどこかで聞いたような話が頭の中に蘇り、口にも出してみた。
それでもお父さんの瞼は全く動いてくれず、曲は余韻を残しながらゆっくりと終わってしまった。
もう一度お父さんの顔を覗き込んでも、その顔は変わらず目を閉ざしたまま。
お父さんは眠ったまま、目を覚ましてくれない。
「おとう、さん……」
やっぱり、曲でお父さんを目覚めさせるのは無理だったのだろうか。
「……ふっ、うぅ」
──応援してくれた皆に、なんて言ったらいいんだろう?
想像したくなかった現実を前にすると足に力が入らなくなって、お父さんが眠っているベッドを支えに座ってしまった。
頭の中で嫌な言葉がぐるぐると回って、勝手に目から涙が出てくる。
(ダメ。泣いたら、ダメだ)
泣いたところで何も変わらないのだから、わたしはわたしができることを……曲を作らないと。
(泣いたらダメ、なのに……!)
そう思っていても涙が溢れ出して止まらなくて、何とか堰き止めようと目を閉じる。
そうして涙が枯れてしまうまで耐えようとしていたら──閉じていた目をそっと、誰かの手が拭った。
「……ぁ……かな、で?」
涙が出ているのも構わずに目を開けると、滲んだ視界が辛うじて骨ばった手を捉える。
それはわたしが待ち望んでいたものであり、どれだけ掠れていた音でも聞き間違えない声だった。
「……え?」
固く閉じられていたお父さんの目が、開いている。
お父さんが過去でもお母さんの面影でもなく、わたしをちゃんと見ている。
「……お父さん?」
「ぉ……おおきく、なったね。奏」
「そんなに大きくはなってないよ」
「……いいや、大きくなったよ。とても、立派になった」
そうなんだろうか。
お父さんが言うのなら、そうなのかな。
「流れていた曲は奏が作ったのかい?」
「うん、わたしが作ったんだ」
答えてからふと、中学生の時のことを──お父さんを追い込んでしまった日々のことを思い出して、胸の中が騒つく。
嫌なことばかり浮かんでは消えていくので、抑えようとしても手が震えた。
「──随分と、長い夢を見ていた気がするよ」
「えっ?」
「その中で急に『目を覚まさなくていい』と、真っ暗な底に引き摺られるような感覚があってね。もう少しで飲み込まれるんじゃないかって、そう思ったんだ」
掠れた声が紡いだ言葉は想像していたものとは違っていた。
「そんな時に優しい音が聴こえてね。それを頼りに上に行ったら、目の前に奏がいた」
「そう、なの?」
「ああ……大変な中でも、奏は奏の音楽を──優しい音楽を、続けてくれていたんだね」
お父さんはゆっくりと骨ばった手をわたしの手に重ねて、薄っすらと微笑んだ。
「ありがとう、奏。優しい曲のお陰で、僕は目が覚めることができたよ」
「あっ……うん、うんっ!」
ダメだと抑え込んでいた
わたしの泣いている声を聞いて病室に入ってきた看護師さんが悲鳴を上げて、いつもお世話になっている先生を呼びに行き。
バタバタと騒がしくしている間にわたしも落ち着いてきて、お父さんも検査を受けることが決まっていた。
☆★☆
「奏」
「どうしたの、お父さん?」
少し自分の行動を振り返って羞恥心に内心で悶えていると、お父さんが声をかけてきた。
「さっきから奏のスマホがずっと光っているけど、見なくてもいいのかい?」
「わたしのスマホが? ごめん、ちょっと確認するね」
お父さんに指摘されて、スマホに手を伸ばす。
たぶん連絡相手はニーゴの誰かだろうけど、お父さんが気になるぐらい連絡してくるなんて、何だろうか?
「……え?」
マナーモードにしていなければ鳴り止まないスマホが出来上がっていたであろう、メッセージの連投の数々。
「絵名が、いなくなった……!?」
まふゆと瑞希のアイコンで埋め尽くされた連絡。
頭はお父さんの件に触れるところから始まって、最後の方には『絵名がいなくなった』とか『時間とか余裕があったらできればセカイに来てほしい』という文章が並んでいる。
絵名からの連絡は最初の1つのみだ。
「奏」
呼ばれて視線を上げると、微笑むお父さんと目が合った。
「いっておいで」
「でも」
「友達が大変なんだろう? 僕は検査もあるし、まだまだ病院生活でベッドの上での生活が続く。でも、その連絡は急ぎの連絡なのだろう?」
「……うん」
「なら、こっちよりもその子を優先なさい。お父さんとはまたいつでも話せるんだから」
今のままだとお父さんよりも絵名と話せなくなって後悔する未来の方が、現実になってしまうのはわたしもわかっている。
だからこそ、お父さんからも強く言われるとわたしも頷くしかない。
「お父さん、ごめん。本当はもっと話したいんだけど」
「帰って来てから、また沢山話をしよう。ほら、いってらっしゃい」
「うん──行ってきます」
お父さんに見送られたわたしは病室を出るのと同時に走り、人気のない場所を探す。
絵名から送られていたメッセージは『約束した場所に行くから。お願い、た』と『て』で切れていた。
(たぶん、助けてって打ちたかったんだと思うんだけど)
約束の場所もわからないし、わたしでは知らない事が多過ぎるから、知ってそうなまふゆと瑞希に聞くしかない。
(行こう、セカイに)
絵名にはまだ、ちゃんとお礼を言えていないのだ。
早く曲を再生して、絵名を探しに行かなくちゃ。
これにて奏さんサイドのオリジナルイベントが完了しました。
えななんの因縁への決着もあと僅か。
本作のラストイベントを最後までお付き合いくださいませ。