イラスト担当は記憶を無くしました   作:大森依織

229 / 254


今回は本文も増量してますが、後書きも長めです。
(途中のながーい文字は読み飛ばして問題のない文字列ですと、先に宣言しておきます)

それでは、奏さん視点をどうぞ。







229枚目 【宵崎さんと画廊のセカイ】

 

 

 

 

 

 お父さんが目を覚まして記憶も戻った!

 

 ──そんな幸運に、何も知らなかったわたしは無邪気に喜んでしまった。

 

 

 自分も苦しかったはずなのに、ずっとわたしのことを気に掛けるどころか、身を削ってくれていた人がいるなんて想像もできていなかった。

 

 ルカに話を聞くまで何も知らなかった自分が恥ずかしくて悔しくて、呑気なことを考えていた自分への怒りで頭がどうにかなりそうだ。

 

 

(自分のことばかり優先してなかったら、絵名に何かできたんだろうか?)

 

 

 ……そう思っていても、やっぱり過去はどうにも変られなくて。

 意地悪な存在以外は喜ばない現状をどうにかするために、わたし達はセカイにできた扉を開いた──はず、なのだけど。

 

 

(ここは……?)

 

 

 扉を開いて辿り着いたのは、穴だらけの場所だった。

 

 木製の廊下には人が1人分ぐらいはありそうな穴が疎らに開いていて、壁にかけられた額縁も絵画の部分が中身がくり抜かれたように空っぽ。

 画廊なのだと思うけれど、断言できないぐらい何もかもがボロボロだ。

 

 穴が開きつつも辛うじて残っている絵もひび割れていて、絵の具部分を触ったら崩れてしまいそうである。

 床だって穴があるせいか、無事に見えるところも抜け落ちそうで落ち着かない。

 

 そんな、見ているだけでも胸が痛くなる景色に暫くの間、全員が無言で周囲を見ていた。

 

 

 

 

 

 ──そうして一通り周辺を見渡した後、瑞希が両手を叩いて注目を集める。

 

 

「うんうん、穴だらけだけど歩けそうだね! この先も行けるみたいだし、とりあえず進んでみよっか!」

 

 

 顔は強張っているのに、瑞希はわざとらしい明るめの声を出して足を前に出す。

 額縁や床を具に観察しているまふゆも、黙ったまま瑞希についていく。

 

 ここでわたしも2人に続けば良かったのに……どうしてか少し、立ち止まってしまった。

 

 

(この床の穴ってどうなってるんだろう?)

 

 

 ほんの少しの好奇心。

 だけど……それは今、出して良いものではなかった。

 

 

「これって」

 

 

 足の下を蠢くクロ、くろ、黒。

 

 

 ──いいなぁ。

 

 

「ぅぁっ……!?」

 

 

 人の体のような、顔のような、口に見える蠢く何か。

 1度認識してしまったせいで、ダイレクトに何かが叩きつけられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【いいな。羨ましい。私も好きだったのに。お金欲しい。頑張りたくない。怠いな。めんどくさい。あいつがいなくなれば良いのに。変わりたくない。100万円落ちてないかなぁ。家族を戻してください。どうしてわかってくれないの。急にモテ期来ないかなぁ。努力とかしなくても1番になりたい。生きてるだけなのにさ、なんで金がかかるんだよ。あれができたら良いのに。大っ嫌いなやつは皆消えろ。何もしたくない。チヤホヤして欲しい。環境が悪い。俺は悪くない。好きなことだけして生きていたい。誰にも迷惑かけずに消える方法。遊んで暮らしてたっていいじゃん。才能があれば。余裕が欲しい。また無駄に生きてしまった。受験勉強せずに合格できたらなぁ。生まれたくて生まれたわけじゃないのに。人間関係滅びろ。現実にチートが欲しい。綺麗事なんて消えてしまえ。寝て起きたら夢が叶わないかな。全部人生台無しだ。幸せだったあの頃に戻りたい。人生のリセットボタンがあればいいのに。辛いんだ。フリじゃない。どうしてわかってくれないの。構って欲しいんじゃないんだ。ただ、わかってほしくて。最短。効率。楽して。返して。愛して。わかって。理解して。無理だ。苦しい。飽きた。消えたい。消したい。憎い。恨めしい。妬ましい──】

 

 

 

 

【願いを叶えてくれ】

 

 

【もっと叶えてくれ】

 

 

【もっと】

 

 

【もっと】

 

 

【もっと!!!!!】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──チッ。おい! 下を見るな!」

 

 

 誰かに引っ張られて、手放しそうになっていた意識を取り戻すことができた。

 

 引っ張られた方を見ると、いつも以上に険しい顔をしたカイトがいる。

 どうやらカイトがわたしを助けてくれたようだ。もし、引っ張られていなければどうなっていたか、想像しただけでも恐ろしい。

 

 どくどくと煩い心臓の音に気持ちも落ち着いてきて、わたしはカイトに頭を下げた。

 

 

「……ありがとう。カイト」

 

「ふん、下を見て歩くな。お前まで飲まれるぞ」

 

「カイトは穴の中のものを知ってるの?」

 

「……さぁな。少なくとも、あれはお前達との関係を断ち切らなくてはいけないものだ。わかったらさっさと進め」

 

 

 何か知っていそうだけど、穴を睨みつけるカイトは気が立っているみたいで、詳しい話を聞き出せそうにない。

 呑気にしている余裕もないだろうし、今はカイトの言う通りにこの廊下を進もう。

 

 

(それに、気をつけないと穴に落ちそうだし)

 

 

 あんなよくわからないものが蠢く穴には落ちたくない。

 わたしは一層、気を付けながら廊下を進んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──お。ちょっと景色が変わってきたね」

 

 

 暫くの間、足元に気を付けて歩いていると、前から瑞希の声が聞こえてきた。

 灰色の壁と穴だらけの廊下は変わらないけれど、額の中の絵が黒塗りが多いものの何かわかるものが増えてきている。

 

 絵の殆どは黒く塗り潰された物体が、部屋の中で何かをしている絵だった。

 だけど、たまに違う絵が混ざっていることがある。

 

 学校の階段っぽい所で2つの黒塗りが座っている絵や、絵画の前に並ぶ2つの黒塗りの絵、噴水の前で黒塗りが2つ座っている絵。

 顔が黒塗りにされた少女が男の子っぽい手に手を引かれていたり、机の下から黒い何かが出てくる絵だったり。

 

 後は生活の風景っぽい絵や荷物を持って歩く人っぽい何かの絵とかが、部屋の絵の中に混ざっているのだ。

 

 

(見覚えのある景色もある。これはたぶん、シブヤなのかな?)

 

 

 景色も(ぼか)されているので自信はないけど、どの絵も見覚えのあるような気がする。

 進めば進む程、既視感のある黒塗りの絵が増えてきて、胸が騒めくのを無視できなくなっていた。

 

 

「……あっ」

 

 

 部屋の絵が並ぶ中に、確実にあそこだとわかる絵が視界に飛び込む。

 

 

「えっ!? ボクの間違いじゃなければこの絵の場所って、まふゆのセカイ……だよね?」

 

「うん、わたしにもそう見えるよ」

 

 

 瑞希が指差すのはわたしが見ていたのと同じ、誰もいないセカイの絵だ。

 

 今までは気のせいだと思い込もうとしていたけれど、進めば進む程、部屋の中の絵に混ざっている絵に既視感を覚えた。

 

 人形展の絵、どこかの高校の文化祭っぽい絵、大きな桜の絵や山の中の絵だったり、夏祭りの絵が混ざっている。

 ファンフェスタの時や夕暮れの学校の屋上、フェニランの中もシブフェスの絵も。

 見覚えのないものもあったけれど、印象に残っているものは大体、黒塗り付きの絵になっていた。

 

 

「ここの絵って全部、絵名の記憶なのかな?」

 

「……違って欲しいけど、奏の予感は正しいと思うよ」

 

 

 外れて欲しかった予想は、険しい顔をしたまふゆに肯定されてしまった。

 できれば否定して欲しいのに、皆同じ感想なのかその後の言葉が続かない。

 

 

「ここは見てて気分がいい場所じゃないけど、きっとこの先に絵名がいるはずだよ。頑張って進んでみよう」

 

 

 瑞希もいつもの明るさを感じさせない真剣な面持ちでこちらを見た後、再び先へと進み出す。

 

 

(確かに、じっと見ていたら落ち込み過ぎて進めなくなりそうだな)

 

 

 廊下や絵画が穴だらけで、無事な絵も黒塗りされているのが絵名の想いだとしたら……自分を責めないのはすごく難しい。

 

 

(トイレっぽい場所で蹲ってる黒塗りとか、部屋のものをぐちゃぐちゃにしちゃってる黒塗りとか。絵名的にもあまり見てほしくなさそうな絵もあるし)

 

 

 まふゆはじっくりと見ているようだったけど、わたしは瑞希の姿勢に合わせて、絵を見るのは程々に進むことにした。

 

 

 

 

 

☆★☆

 

 

 

 

 

 そうして黙々と前に進んでいくうちに、周りが少しずつ明るくなってきた。

 前からほんの少し聞き覚えのある声が聞こえてきて、わたし達の足が自然と早くなる。

 

 

「「「絵名!」」」

 

 

 穴を飛び越えて最終地点まで駆けつけたわたし達を待っていたのは、行き止まり。

 大きな絵画が3枚並べられた部屋で、鼻歌交じりに真っ白なスケッチブックの前に立つ絵名がいた。

 

 

「絵名、ね。それって私の名前なんだっけ? ってことは、私のことを知ってる人なの?」

 

 

 絵名は持っていた鉛筆をくるりと回して、こちらに振り返る。

 その目は初対面だった時の絵名にそっくりで胸が痛くなったものの、その後の反応はわたしの予想と違っていた。

 

 

「んー? ……あっ、ちょっと待って。あなた達、あの便箋の中で見たことある気がする!」

 

 

 じっとこちらを見ていた絵名は手を前に出し、慌てた様子で部屋の端まで走る。

 ぐちゃぐちゃに折られた紙を広げ、それとこちらを見比べるように目を細めた。

 

 

「やっぱり! あなたが宵崎奏さんで、そっちが朝比奈まふゆさん。隣が暁山瑞希さん、だよね?」

 

「うん。その通りだけど」

 

 

 さん付けで胸が痛くなるけれど、ビシッと指差し確認してきた内容はどれも正しいものだ。

 どういうことなのだろうか? 困惑するわたし達に、絵名は勝手に納得して口を開く。

 

 

「名前があってるってことは、この便箋の内容は正しいのかもしれないわね……ま、どうでもいっか。それよりも」

 

 

 絵名は白紙のスケッチブックを持って、瑞希に駆け寄る。

 口調も動作もそこまで絵名と変わらないことに油断していたのか、瑞希は言葉の刃物で不意打ちを受けた。

 

 

「──瑞希さん、何か願い事はない?」

 

「え?」

 

「私、自分の名前もあなた達のこともなーんにも覚えてないんだけど、このスケッチブックに絵を描く役目だけは残ってるんだって! もう3枚は描かれてるみたいだけど、前の私の大事な人リストの中であなたの絵だけ描いてないって気がついてさ。なら、最後のページを描くのは瑞希さんだって思ったの!」

 

 

 絵名は嬉しいことを報告するように、明るい口調で理由を言ってくれるけれど。

 嬉しそうに話している内容が、光が見えない伽藍堂な瞳が、声の明るさなんて表面上なものでしかないことを突きつけている。

 

 

(絵名は本当に全部、無くしちゃったんだ)

 

 

 それをちゃんと理解した瞬間、胃の痛みを感じて吐きそうになった。

 

 わたしでこれなのだから、今、対面している瑞希はどんな気持ちで絵名と向き合っているのだろう?

 そう思って何も読み取れない背中を眺めていると、瑞希の体が動いていた。

 

 

「ありがとう。でも──もういいんだよ」

 

「もういいって、何が?」

 

 

 ポカンと口を開く絵名を瑞希は抱き締める。

 それと同時にさりげなくわたし達も距離を詰めて、絵名の包囲網を少しだけ縮めた。

 

 

「ボクのお願いは1つだけ。これから先も、君と一緒にいること」

 

「それをスケッチブックに描けばいいの?」

 

「ううん。もう、そのスケッチブックに絵を描かなくていいんだ。そっちに進まなくても、ボク達は一緒にいることはできるから」

 

「じゃあ、私は何をしたらいいの? 私、これに絵を描かなきゃいけないって、言われてるのに」

 

「君がボクのお願いを叶えてくれるって言うのならさ。君はただ、ボク達と一緒にいてくれたら、それでいいんだよ」

 

「ただ、一緒にって……描いてもいないのに、それでいいのかな?」

 

 

 瑞希の言葉が届いたのか、絵名の頬に一筋の涙が伝う。

 

 

「絵を描けって頭の中で今もすごく煩いの。それなのに、瑞希さんは描かなくてもいいって言うの?」

 

「少なくとも、ボク達は描いてほしくないからここに来たんだよ」

 

「私、あなた達のことも何にも覚えてないんだよ? それなのに一緒にいたいの?」

 

「うん、それでも一緒にいたいよ」

 

「ずっと進まなきゃって思ってたけど、もういいのかな?」

 

「いいよ、今まで1人ですっごく頑張ったよね。もう止まっていいんだよ」

 

「……そっか。もう、進まなくていいんだね」

 

 

 瞳にほんの少しの光が戻った絵名はゆっくりと瑞希から離れて、雑に目元を拭う。

 服のポケットから取り出した便箋を広げ、こちらを見た。

 

 

「奏さんとまふゆさんも、瑞希さんと同じなの?」

 

「うん。わたしはついさっきまで何も知らなかったけど、絵名を止めに来たんだ」

 

「私も、絵名がやろうとしてることを手伝いに来た」

 

「……わかった。って、そうだった。これ!」

 

 

 絵名が差し出してきたのは慌ててポケットの中に突っ込んだのか、ぐちゃぐちゃな折り目がついた便箋だった。

 近くにいた瑞希が受け取り、わたしとまふゆも両隣から便箋を覗き見る。

 

 

「それ、記憶を無くす前の私が伝えたかったものみたいなの。私にはよくわからなかったけど、皆には必要だと思ってさ」

 

 

 絵名から渡された便箋の内容は瑞希とまふゆにとってはかなりのヒントなのか、2人は食い入るように見ている。

 わたしはというと、2人とは違ってスケッチブックという存在についてはあまり上手く飲み込めていない。

 

 そういうこともあり、遺書にも見えてしまう文章から目を離したのだが……それが、逆に良かったみたいだ。

 

 

「っ、絵名!」

 

 

 偶然、絵名の手に持っているスケッチブックから、穴の中で見た黒い靄のような何かが出てきているのを目撃して。

 リンの声が後ろから聞こえてくるのとほぼ同時に、わたしの体は動いていた。

 

 

「……ごめんっ」

 

「え? ひゃっ!?」

 

 

 絵名の手にあったスケッチブックを払うように遠くに飛ばし、靄から絵名を庇う。

 幸か不幸か、靄はスケッチブックを浮かすだけでこちらに攻撃してくることはなかった。

 

 異変を感じ取った瑞希とまふゆも宙に浮くスケッチブックを睨みつける。

 スケッチブックは黒い靄を撒き散らし、周辺に耳を劈くような雑音を響かせた。

 

 

【くそ、クソ、くそ! あぁもう! 困るんだよね! こんなところに閉じ込めてきたり、絵を描かないように誘導したりしてさぁ!】

 

 

 子供のように高めのトーンだけど、ノイズのせいで不気味な印象が引き立っている音。

 

 

(この声、どこかで聞いたことがあるような……?)

 

 

 どこでなのかは思い出せないけれど、あまり良い時ではなさそうなのは確かだ。

 

 

【あと少しなのに! 持ち主に1枚描かせたら終わりなんだ。私の邪魔をするなっ!】

 

「──こっちこそ、皆の邪魔はさせない」

 

 

 今にも突撃してきそうな雰囲気のスケッチブックとわたし達の間に、距離をとっていたミク達が割って入ってきた。

 靄がこちらに来ないように遮るリンは、首だけをこちらに向けて声をかけてくる。

 

 

「奏、絵名を助けてくれてありがとう」

 

「偶然だけど良かったよ。でも、リン達は大丈夫なの? この靄って穴の中のものと同じだよね?」

 

「うん、だから触れちゃダメ。わたし達なら兎も角、奏達が触れたら大変なことになる」

 

 

 リン達はわたし達の身に危険が降りかからないよう、黒い靄の壁役を買って出てくれたみたい。

 

 

(でも、リン達への害はどうなんだろう?)

 

 

 わたし達に害があるってことは、リン達にも害がありそうだけど……

 その辺りが不安だけど、どちらにしても今はリン達を頼るしかない。

 

 こちらに向けられていても届いていない靄を視界に収めつつ、わたしは改めて周りを見渡す。

 

 

(出てくる靄の量は増えてるみたい。ゆっくりしてる余裕はなさそうだな)

 

 

 精神的な問題なのか、空気が重く感じる。

 恐怖で震える絵名の背中を撫でながら、わたしは黒い靄と空気が軋むような重圧を放つ物体を見た。

 

 

(あれが皆が言う『呪いのスケッチブック』か。対策はまふゆと瑞希が考えてるらしいし、わたしができることは絵名を守ることかな?)

 

 

 ……体を張って守れるのならいくらでも頑張るつもりだけど、曲作り以外となると不安だ。

 それでも気持ちでは負けないように、わたしは宙に浮くスケッチブックを睨みつけた。

 

 

 

 






記憶を無くしたっぽいのに面影のあるえななん。
色々と謎なことが多いですが、何とか絵を描く前にその歩みを止めることに成功しました。

やっと、今まで姿を見せなかったスケッチブック君と対面した奏さん達。

この後、最後の仕上げとしてやらなくちゃいけないのは──たった1つです。
もうわかりますね?

というわけで、次回のまふゆさん視点でやってもらいましょう……!





《便箋の内容》

皆へ


 これを見てる頃には、残念ながら皆が思っている東雲絵名はいないと思う。ごめんね。
 今の私や周りがどうなってるのかは想像できないけど、奴のことで皆を巻き込んでるのは謝らせて欲しい。
 特に奏は急だったよね、本当にごめん!


 さて、奏と奏のお父さんの絵を描き終わったせいか、ちょっと制限も緩んだみたいだし、長くなるけど(したた)めます。

 本当は私1人でどうにかできたら良かったんだけど、その方法が思いつかなくて、皆を頼らせてください。


 ──まず、前提として。
 私の意識としては記憶を無くす前の東雲絵名が本物で、私は偽物っていう感覚がどうしても抜けなかった。
 中身が全てなくなったとしても、立場も姿も全部本物から引き継いだものだから、乗っ取ったような形でここにいるのが申し訳ないなって思ってたんだ。

 だから、少しでも本物を知ってるのなら。友達も親も弟も、途中からは親友にも、執着しないように気をつけてた。
 いつでも本物にこの立場を譲れるようにって。

 だけど、時間が経つにつれて偽物にも……私にも、大切な場所や本物ができちゃった。
 その大切な場所が、本物の人達と過ごしていくうちにどんどん大切になって、誰にも譲りたくないなって、気がついたらそう思ってた。

 画家になりたいのは前の絵名の想いで、私はどちらかというと引き継いだもの。
 私が自分から抱いた願いはたぶん、この1つだけ。


『少しでも長く、皆と一緒にいたい』


 皆と一緒にいられない状況を作り出したら、私は奴に願わずにはいられないって思ったんだろうね。
 それをアイツは狙って、皆を巻き込んでしまったんだと思う。ごめんなさい。


 今までいいようにやられて、皆も巻き込んじゃったけど、だからこそアイツにやり返すことができる目処ができた。
 私がこれを指摘しても効果がないかもしれないから、まとめられるだけまとめておく。


 ☆そもそも、前の絵名が描いた願いはなんだろう?

 私、最初は才能を願ったんだと思ってたんだ。
 だけど、私も絵名であるのなら、私がそんなの願うわけがないんだよね。(お父さんもそう言ってたし)
 病院で検査したような後付け体質も、絵の才能かと言われたらちょっと微妙だし……
 たぶん、そうしなきゃいけない理由があったんだろうね。


 ☆どうして、アイツは今まで私以外に干渉してこなかったんだろう?

 アイツの性格は終わってるから、干渉するのに制限がなかったら、絶対に身内を狙うでしょ。
 それなのに4年間無事だったから、そういうのはないんだって油断してたのよね……
 そんな中、急に3人に手を出して、急いで事を進めるなんておかしくない?
 実はこれ、アイツ的にもやりたくない手段だったのかもね。


 私はこれぐらいしか思い浮かばなかったけど、ルール、ルールって煩い奴に一泡吹かせてやりたいって思ってる。

 我儘だってわかってるけど、助けてくれると嬉しいな。

 ……ううん、これじゃ違う気がするから書き直す。

 今更だけど、助けて。


 

 
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。