出た瞬間に「絵名さん小さい! かわいい!」となったので、戻って来ました。
サブストにほんのりと触れながら少しだけ、進級前のお話です。
最近では聞き慣れた着信音で意識が浮上した。
布団から手を出して薄い板を枕元にまで手繰り寄せる。
「……もしもし」
『おはよう、絵名』
「うん……おはよ、かなで……ん? 奏!?」
朝から電話をかけてくるのは高確率でまふゆだったので、油断していた。
中々取れない眠気が一気に吹き飛び、私はベッドの上で正座する。
「え、何で奏が電話を?」
『まふゆは今日、委員会で電話をかけられないから。わたしが朝の電話を代わったんだ』
「別に朝の電話なんて義務じゃないんだから、良かったのに」
『まふゆと瑞希が楽しそうにしてたから、わたしもやってみたかったんだよね。もしかして……迷惑だったかな?』
「う、ううん! 凄く助かる! ありがとう、奏」
『どういたしまして……ふふ、こういうのもいいな』
「え? ごめん。最後の方、聞こえなかったんだけど」
『あぁ、気にしないで。それじゃあ学校、頑張ってね』
「あ……うん。頑張るね」
奏との通話が終わって、無機質な文字を映す画面をじっと見つめる。
「……」
色々と思うことはあったけど、ひとまず飲み込んで学校の準備をすることにした。
☆★☆
「あ。おっはよー、絵名。今日もおねむって感じだね~」
「……何で瑞希が家の前にいるのよ」
家に出る準備を終わらせる頃にはまた睡魔がこんにちはしてきて、カフェイン錠剤に頼るか真剣に脳内議論を重ねながら家を出ると、見覚えしかないピンクが満面の笑みで立っていた。
「しかも珍しく制服姿だし。神高はこっちじゃないでしょ」
「いやぁ。ちょっと個人的な都合で、暫く学校に行かなくちゃいけないんだよねー」
「ふぅん、暫くなんて珍しいじゃん。実は留年しそうになってるとか?」
「ひゅっ……も、黙秘! 黙秘権だよ!」
それ、ほぼ言ってるようなものだけど。
最初から思考を吹き飛ばすようなことを言ってきたせいで、僅かに感じていた違和感も一緒に吹き飛んでしまった。
「黙秘ねぇ、学校に行くだけで大丈夫なの?」
「悲しいことに、月曜日から1週間の補習付きだよぉ」
「うわぁ、きっついわね。瑞希って要領も良いし、その辺はちゃんとやってるタイプだって思ってたんだけど」
「あはは……ボクもそのつもりだったけど、急に数学と英語が入れ替わってアウトだったんだよねー」
つまり、英語か数学の出席日数が足りなかったと。
黙秘権を行使している割にはポロポロと零してくれるので、大体の状況がわかってしまった。
「ふぅん。頑張れとしか言えないけど、頑張って」
「うん、頑張るよ。それとこれは別として、絵名を学校まで送っていくからね」
「はぁ? 私を送ったら遅刻するかもしれないでしょ。いいから真っ直ぐ学校に行きなさいよ」
「ダメで~す。今の時間なら宮女に行ってからでも余裕で間に合うからさ、ね?」
ね? じゃないんだけど。
そう思ったものの、瑞希と朝から言い合う元気もなく、瑞希に押し込められた私は2人で登校することになった。
「絵名って毎朝、まふゆに送ってもらってるんだよね?」
「そうね、あの件があってからは電話と朝の登校が一緒になっちゃってるかな」
宮女の有名人を朝から隣に独占してしまっているせいで、周囲の目が気になるのなんの。
(視線については今もあんまり変わらないか)
何故か神高生と一緒に登校する宮女生なんて目立って仕方がないし、現に今も注目の的だ。
視線で穴が開くならば、今頃体は穴だらけである。
「ねぇねぇ、絵名ー。写真撮っていい?」
「写真って、まふゆに送るとか言うんじゃないでしょうね?」
「ぎくーっ」
「まったくもう、子供みたいなこと考えて。あいつ、拗ねたらめんどくさいんだからやめてよね」
私の体の一部を犠牲にしたくはないので、写真は禁止だ。
「お腹あたりを犠牲にしてる絵名を見たい気持ちもあって困るー」
「困るのはこっちでしょ、もう」
馬鹿なことをしようとする瑞希を引き留めている間に、学校の近くまで来てしまった。
「よしよし。絵名も目が覚めてるみたいだし、もう大丈夫だよね?」
「瑞希のおかげで眠気も吹き飛んだわ」
「それは何より。午前中も学校、頑張ってね~」
「そっちも学校と補習、頑張りなさいよ」
「うん、ほどほどにやり過ごすよ! じゃあね~」
手を振りながら走っていく瑞希に手を振り返し、門を潜る。
1人になったせいだろうか。朝にも感じていて、登校中の会話の衝撃で吹き飛んだはずの疑問がひょっこり返ってきた。
「……気のせいじゃないよね」
……………………
「──最近、私の周りが過保護過ぎると思うのよ」
放課後の中庭に私の声が響いた。
眠たい午前を乗り越え、午後の授業も考えた結論だ。間違いない。
「深刻そうな顔をしてたから何事かと思ったけど、それが相談したいっていう悩み事なの?」
困った時の親友・愛莉の方が、私よりも困ってそうな顔をしている。
困ってるというよりは困惑している顔か。
愛莉からすれば大したことがないことなのだろうけど、個人的には困ってるので許してほしい。
「実際、問題あるでしょ。小学生じゃあるまいし、毎朝誰かと一緒に登校とかさ」
「つい最近、朝の絵名を見たけど。あれ、歩いてる間もほぼ目を閉じてるじゃない。わたしでも朝比奈さんの立場なら同じことをするわよ」
「うっ……やっぱり?」
「ええ、親友が事故に遭うところなんて見たくないもの。せめて歩いてる途中で眠くなくなるまでは同行確定ね」
朝の私は小学生以下と。言い返せる余地もない。
「これは本格的にカフェイン錠か薬を貰った方がいいのかな」
「わたしはあまり無理してほしくないけど。日常生活に問題が出てるし、考えた方がいいかもしれないわ」
やっぱり、何か言う前に薬に頼った方が良いのかもしれない。
「でも、まふゆは私が薬を飲むの、すっごく嫌がってるんだよね。体に良くないかもしれない云々って」
「……それだけなのかしらねー」
「え? 私の健康問題以外に何かあるの?」
「あー、わからないのなら良いと思うわ。わたしも怪我したくないし」
愛莉の言っていることにピンと来なかったけれど、それよりも今は過保護の方が問題だ。
「はぁ……過保護で悩むことになるなんて、ある意味幸せなのかなー」
「ふふ、そうかもしれないわね。最近の絵名、すっかり明るくなったし。睡眠以外で問題はなさそうよ」
「……わかる?」
「もちろん。言いたくないことも多いみたいだから、わかっていても聞いてないだけよ」
ニヤリと笑う愛莉には本当に頭が上がらない。
親友親友と言っておきながら黙っていた罪悪感が今頃、胸を締め付けてきた。
「すっごいズルいんだけどさ。今更でも話さないと気分が悪いから、話を聞いて貰ってもいい?」
「こっちは待ってたから、絵名が話せるのならいつでも聞くわよ」
「私の親友が頼もし過ぎるんだけど。その……ありがとう」
「どういたしまして。それで、絵名は何を話してくれるのかしら?」
どこか期待しているような視線に一呼吸置いた私は、期待するような目から逃げつつ、爆弾を投げ込んだ。
「愛莉も知ってるとは思うけど、私って中学の時に事故に遭ったじゃん」
「まだ顔を知ってるか知らないかって時よね。詳しくは聞いていないけど」
「実は、その事故で記憶喪失になっちゃってさ。記憶を無くす前の私を知ってる人とは距離を取ったりしてたんだよね」
「はい? ……すっごい軽い調子で、とんでもなく重いことを言われたんだけど」
「その前提がないと『最近、記憶戻ったんだよねー』っていう良いことを話しても、よくわからないことになるじゃん」
「現時点でよくわからないことになってるわたしの頭の中を無視されるのも困るわ」
フレーメン反応を起こした猫みたいな顔をしているのに、愛莉のツッコミは惚れ惚れする切れ味だ。
その上、わからないと自己申告しているのに内容の咀嚼スピードは凄まじく、愛莉は苦笑いを浮かべる。
「あぁ、でも。記憶喪失って聞いて、中学の時の絵名と急に距離ができた理由がわかってスッキリしたかも」
「うっ……それは本当に悪かったなって反省してる」
時間を戻しても似たような行動をする嫌な自信しかないけど、ちゃんと反省してるつもりだ。
「仲良くなる前に少しだけ話したことがあるとか、知らずに言っちゃったわたしも悪かったもの。今、こうして話してくれたから気にしてないわ」
「愛莉って天使だったりしない?」
「天使じゃなくてアイドルよ」
仰る通り。
いくら翼と輪っかがありそうな心の広さでも、私の親友は
「後から色々と聞かされたわたしとしては、何とも言えない気分っていうのが正直なところなんだけどね」
「それはそうだよね」
「ええ。それでも、苦しそうだった絵名の姿を見ていた親友から1つだけ言葉を贈るとしたら……良かったわね、絵名」
「……うん。ありがとう、愛莉」
「とりあえず追加で言えることは、中学時代で今も絵名を気にしてくれてる子もいるし、その子には頭、下げた方がいいわよ?」
「え……自然消滅してなかったの?」
「絵名が嫌がりそうだったから伝えてなかっただけで、わたしは連絡してるわよ。その子達だけでも話してみてもいいんじゃないかしら」
勝手に自然消滅したと思っていたので、薄情なのは私の方だったらしい。
これは二葉のことも含めて、精算した方がいいだろう。気が重くなってきた。
「気まずいならわたしもついて行きましょうか?」
「……すごく頼りたくなるけど、愛莉も今は大事な時期でしょ。自分の後始末は自分でやるよ、ありがとね」
「どういたしまして。今回は見てるだけになっちゃったけど、本当に困った時は頼ってちょうだい」
とてもいい雰囲気になったところで、だ。
「ところで、サークル内での過保護ってどう解消すればいいと思う?」
「聞いてる感じ、朝比奈さんが起点になってるみたいだから、朝比奈さんと交渉してみたらどうかしら?」
「相談したらパッとアイデアが出てくるなんて、流石過ぎる……実は桃井
「そのパターンでいくなら、やっぱり『アイドル』の『アイ』でありたいわねぇ」
流石、愛莉。
私の頼れる親友は最後までブレないアイドルだった。
どこでも愛莉さんと絵名さんは親友ですし、えななんと愛莉さんも仲良しです。
ここから254話まで、こんな話を更新したりしなかったりします。
掲示板以外の話も更新しましたので、完結詐欺かなと思って完結は外しました。
実際のところ、完結にしながら更新ってありなんでしょうか……?
(掲示板でできてたので、システム的にはできるみたいですけども)
次回の更新予定:25時、蜻蛉日記を読み終えた後で。