読み終わったので更新します。
一応、さらりと1回目のワールドリンクイベントです。
25時の作業前、セカイにて。
私達をセカイに呼び出した張本人……というか、瑞希は両手をグッと上げたまま、喜びの声を上げた。
「勝った! 1年生完だよ!」
「あぁそう。2年生進学おめでとう」
「そっちも3年生おめでとう! でも、ボクってば危機的状況だったわけだし。もっとおめでとうの気持ちが欲しいな~って」
「そんなに祝って欲しいのなら、彰人と同じようにお祝いしようか?」
「……揶揄う方向はノーセンキューで」
苦虫を噛み潰したような顔をした瑞希が両手を交差させ、私にバッテンマークを見せてきた。
祝って欲しいのかやめて欲しいのか。
我儘な瑞希に苦笑を浮かべていると、隣に立っているまふゆが首を傾げる。
「入学や卒業なら兎も角、進級ぐらいで祝うことはないと思うけど」
「今年も絵名と同じクラスで安心してたりしないの?」
「……別に」
「むー。留年の危機に陥ったことがないまふゆにはわからない喜びが、ボクの胸の中にあるんだよ! ねー、えななーん」
「その言い方だと、私も留年の危機に陥っていたように聞こえるんだけど。それ、東雲違いだからね」
補習を頑張っていたのは彰人であって私じゃない。
そこだけは訂正するためにツッコんでいると、今まで黙って成り行きを見守っていた奏が口を開いた。
「瑞希、そろそろ作業前に呼びかけた理由を聞いてもいいかな?」
「おっと。心配事が消えた喜びからちょっと興奮し過ぎちゃったね!」
瑞希はわざとらしく咳払いをするフリをして注目を集めた。
「おっほん。最近は進級で色々と忙しかったけど、ちょっと落ち着いたでしょ。そろそろセカイにできたアレ、調べてもいいんじゃないかなーって思ってさ」
「あれって、湖のこと?」
「正解だよ、絵名! まふゆはミク達と行ったって聞いたけど、ボクはなんやかんやで行ってないからさ。この際だし、皆で探索してみようよ!」
瑞希の中で探索するのは決定事項だったらしく、先頭をずんずんと歩いていく。
振り返って2人の顔を見たけれど、誰も反対意見がないのか黙って瑞希の背中を追いかけた。
☆★☆
「──へぇ、湖ってこんなところにあったんだ」
瑞希の背中を追いかけてやって来たのは、セカイが大きな水溜まりの中に沈められたような湖だった。
私はあまりここに来たことがないので、ちょっと新鮮な気分。
キョロキョロと見回しているのは流石に目立ったようで、振り返った瑞希が首を傾げる。
「あれ。絵名ってここに来たことなかったっけ?」
「色々あったから、まじまじは見てないかな。ここができた経緯が経緯だし」
「あー、なるほどね」
瑞希に気が遣われたのを感じたけれど、敢えて触れずに観察を続けた。
大きな湖以外に気になるのは……謎の苗木と、何処にも繋がってなさそうな扉か。
「あの扉がアレのせいでできた場所に繋がってたなんてね。うーん、何処に繋がってるんだろ」
「今は開かないよ」
ふとした疑問を拾ったのはリンだった。
「あ、開かないんだ。ドアノブ、回してみたの?」
「してない」
「え、してないの? なら、開かないかはわからないんじゃない?」
「……暇だからって、回してないよ」
「あぁー、うん、そっか。そうなんだ」
……大体状況は脳内再生できてしまったので、頑ななリンの為にこれ以上は触れないようにしよう。
「この湖を探索するって話だけど、瑞希はどこから調べるつもりなの?」
「扉は開かなくなっちゃったし、湖の中がメインになるかなぁ。きっかけはスケッチブックかもしれないけど、どうやらここ、まふゆの想いでもできてるみたいなんだよね」
「え、まふゆの想いで?」
奴の影響の余波というか、事故の現場が湖のように感じていたのだけど。
どうやらそれだけでもないらしく、ミクやまふゆがいる方を見ると、肯定するように頷く。
「きっかけはあのスケッチブックだけど、この湖は間違いなくまふゆの想いからできているよ」
「湖の中に沈んでいるものは私に関係してるものばかりだったし、ミクの言ってることは正しいと思う」
「ふぅん。じゃあ、手を入れたら何かまふゆに関係するものが掴めたりするのかな」
ほんの少しの好奇心。
自分の心に従った私は袖を巻くって湖の中に手を入れる。
「あっ、面白そう! ボクも何かゲットできないかな~♪」
私を真似た瑞希も湖の中に手を突っ込んだ。
2人揃って湖の中を探っていると、湖の中に見覚えのあるものが見えた気がした。
(……あれは、絵?)
届きそうだったので手を伸ばしてみたものの、寸のところで掴み損ねてしまった。
どこかで……というか、まふゆが家に泊まった時の絵にしか見えない。
そうして1度、認識してしまったら何もないと思うぐらい透き通っていた湖に見覚えのある絵がチラチラと、視界の端に見えるような気がする。
まふゆが捨てられてしまったと言っていたぬいぐるみまで見えたような気がして、私は何かを掴むのも忘れて湖の中を見つめていた。
「──あーあ、なーんにもないや。絵名はどう?」
そんな私の意識を呼び戻したのは、瑞希の声だった。
瑞希も何も掴めなかったようで、目がこちらに向いている。
「こっちも何も掴めなかったよ。まふゆの想いでできてるってだけあって、中のものはまふゆじゃなきゃ掬えないんじゃない?」
私も瑞希も空振りだったせいで、自然と可能性が残ってそうなまふゆへと視線が集まる。
「……何?」
「ささ、まふゆ。お手をどうぞ」
「嫌だけど」
瑞希は満面の笑みで湖に手を向ける。
が、相手はまふゆだ。私のように乗るわけもなく、素気無く断った。
「そこを何とか! 1回、いや、2回だけ!」
低姿勢でお願いしているようで、回数を増やす瑞希が厚かましい。
まふゆはなんとも言えない顔で目を細めていたけれど、縋り付くピンクが面倒になったらしく、黙って湖に右手を突っ込んだ。
「ん……あった」
湖から引き上げられた手には真っ赤なもの……というか、林檎が1つ。
何を思ってかまふゆは追加で左手も突っ込み、追加で果物ナイフまで掴み取った。
「はい、絵名」
「え、何で私に渡すの?」
「瑞希よりも絵名の方が上手に切れるかなって」
「おーい。さりげないディスがボクの胸に刺さってるよー」
瑞希の言葉もスルーしたまふゆは「はい」と、私に林檎とナイフの持ち手部分を突き付けてくる。
食べれるかどうかだけは疑問だけど、まぁいいか。とりあえず捲ってみよう。
「リン、袋とかある?」
「あるよ。手伝おうか?」
「ありがと、ちょっと手を貸してほしいかな」
まな板がないのでちょっとやりにくいけど、何とか半分に切り、更にそこから4等分。
芯を取って、皮は全部捲らずにまふゆの好きそうな形に整形していく。
「はい、まふゆ。食べれるかはわかんないけど、これなら目で見ても楽しいでしょ」
「……これって」
「あんた、兎型に切って欲しいから私に渡したんじゃないの?」
もしかして、深読みし過ぎた?
もしかしても何もその通りだったのだけど、結果的にはそれが良かったようで。
「まふゆ、良かったね」
「……うん」
奏が声をかけるのとほぼ同時に、まふゆは薄らと笑って頷いた。
(喜んでくれているのなら良かった)
もう1匹作るか迷っていると、ミクが誰かが持ってきたらしい紙皿を持ってきた。
「絵名。これを使って」
「ありがとう、ミク! すぐに切るから待ってて」
「大丈夫。怪我、しないようにね」
1つ目で大体コツは掴めたので、後は怪我をすることなく林檎を兎の形へ変えることができた。
ちなみにこの林檎、味がしないらしい。
瑞希が微妙な顔で「しゃくしゃくするのに甘くない。というか味がない」とコメントしてたので、嘘じゃないと思う。
そんな瑞希の姿を見ていたので、尊い犠牲によって好奇心に負けるか、危険を避けるかは各々に任せることになった。
私? 私はもちろん食べてない側だ。
ただ、ルカが面白そうだと真っ先に手を出して、微妙そうに食べ終えていた姿を見ていると、その選択肢は間違ってなかったと思う。
そんなこんなで林檎もどうにかしてから、私は瑞希へと目を向けた。
「それで。湖の水では濡れないし、中の何かは掬えないことがわかったけど。まだ何か調べるの?」
「んー、どうしよっか。たぶん、これ以上は見つからないと思うんだよねー」
「瑞希が言い出したのに切り上げが早いわね。その心は?」
「何となくだけど、進展がないと何も見つからなさそうな気がしてさ」
進展か。
そういえば……まふゆの自分探しはともかく、家の方はどうなんだろうか?
「まふゆって、あれからお母さん達とはちゃんと話せてるの?」
「ちゃんと話せてるよ。ただ……ふとした時に医者になる道の話題が出ても、胸は痛くなくなったよ」
「話題が出るって。それ、本当に話せてるの?」
「うん。話して考えてから……いざという時に養うって方向なら、医者の方がいいかなって思えるようになった」
「養うって。どういう基準よ、それ?」
まふゆは苦しそうでもないので、本気でそう思ってるようだ。
本気なのは伝わってきたが、どうしてそんな考えになったのか、私にはわからない。
突然、話の流れが変わって困惑する私に、奏がそっと手を伸ばしてきた。
「絵名」
「奏? どうしたの?」
「作曲家も、いざって時に養えると思うよ」
「……はい?」
ダメだ。私が知らない間に謎の流れができてしまっている。
まふゆだけでなく奏まで乗り始めたせいで、私の頭の中はクエッションマークが円を作って踊っていた。
しかし、私の困惑なんて何のそのと言わんばかりに、目を泳がせた瑞希まで呼びかけてきた。
「絵名、ボクも断言はできないけど。養う覚悟はあるから……!」
「え? あ、うん。そうなんだ?」
どうして皆、将来どころか数段飛ばしてそうなことを、急に宣言し始めたのかはわからないけれど。
記憶が戻ってからは将来のことを考える時間を取っていなかったので、改めて思考をまとめてみるのも悪くはないかもしれない。
「うーん。私は皆みたいに、誰かを養うまでは考えられないかなぁ。とりあえず、自分1人ぐらいで生活できたら嬉しいなってぐらいだし……」
父親かそれを超える画家になりたいと、運や才能を全く考慮しない本心からの目標はこれだ。
でも、その道のりがそう上手くいくとも思っていないし、そもそも絵描きの道すら鳴かず飛ばずの可能性の方が高いのも覚悟している。
ただ……覚悟していても、やっぱり絵で食べていきたいという願望もあって。
それを成就させるために、今は南雲先生の
絵は描き続ければ上手くなるだろうけれど、売れる・食べれるかはもう流れとか私の運でしかない。
先生のコネやフリーランス、企業勤めでもなんでもいいから、
「──って、私なりに考えてるつもりだけど。……どうしても絵空事になっちゃうんだよね。でも、絵以外の心配事はできる限り減らしたいし、現時点ではこの予定で進もうかなって思ってて……って、皆、どうしたの?」
頭の中のことをつらつらと話していると、苦笑している瑞希と奏。ムスッとした顔のまふゆが目に入った。
特にまふゆは顔は全く変わっていないのに雰囲気だけで不満を訴えてくるという、器用なことをしている。
養うとかの話の流れも掴み難かったのに、この反応は一体、どうしろと?
首を傾げることしかできない私に、瑞希は「ふは」と噴き出した。
「やっぱり絵名は自分の足で立っちゃうよね~」
「は? どういう意味よ?」
「ううん。何でもないよー」
そうして、面白そうに笑う瑞希は勿論のこと。
苦笑している奏やムスッとした顔のまふゆも、私が気になっていることは何も喋ってくれなかったのだった。
現在のえななんへの好感度……困った時に養えるよと構えている程度。
……程度とは??
☆こっそり話
(本作は作者判断で「メ、メインは曇らせじゃないから(震え声)」というお粗末な理由で曇らせタグがなかったんですけど。
後日談は既に原因が取り除かれてるので、本当に曇らせ要素はないです。スケッチブック君に不本意ながらも鍛え上げられた鋼メンタルな本作えななんが、才能とかで凹む姿があまり想像できないんですよね……)
次回の投稿:25時、3人視点がいい感じに纏まった後で。