イラスト担当は記憶を無くしました   作:大森依織

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今回はえななん以外。
瑞希さん、奏さん、まふゆさん視点です。よろしくお願いします。





237枚目 【手厚過ぎるキミ】

 

 

 

 

《side.瑞希》

 

 

 リビングのソファに座っていると、珍しい声が聞こえてくる。

 

 

「そういえば、瑞希と絵名ちゃんって友達になってから長いの?」

 

 

 いつもはフランスにいるお姉ちゃんが日本に帰ってきた。

 そのこと自体は嬉しいんだけど、このシチュエーションは聞いてないなぁ。

 

 

「どうだろ。顔を合わせてちゃんと交流したのは高校1年生の時からだし」

 

「えっ、そうなの? もっと長いんだと思ってた」

 

「始まりがネットからだから、そこも含めたら中学からだけど。たぶん、お姉ちゃんが想像するほどの期間じゃないよ」

 

 

 初対面は夏休みにチラッと1回だけ。そこからは全く交流がないほぼ初対面。

 ニーゴとしての活動は2年ぐらいで、何なら皆と顔を合わせたのは1年経ったか怪しいぐらいの期間だけど。

 

 その分、ニーゴの皆との関係の密度は濃いと思うんだよね。

 ここまで踏み込んでるサークルは中々ないって自負があるよ。

 

 

「お姉ちゃん、絵名に何か言われたりしたの?」

 

「言われたっていうか……そうだね。瑞希のことをすっごく気にかけてるなって感じはしたかな」

 

 

 お姉ちゃんが言葉を選んでいるのは明らかだ。

 絵名のことだから変なことは言ってないはずだけど、お姉ちゃんに何を吹き込んだんだろう?

 

 ほんの少しだけ逡巡を巡らせていると、苦笑しているお姉ちゃんと目が合った。

 

 

「お姉ちゃん、どうしたの?」

 

「瑞希は前よりも素直になったなぁって」

 

「えー、ボクはいつも素直でカワイイよ?」

 

「カワイイのは間違いないね。でも、自分にもっと素直になったなって感じるよ。これもサークルの子達のお陰なのかな」

 

「もう……お姉ちゃん、絶対に絵名から変なことを聞いたでしょ」

 

 

 半分は本気だけど、半分は照れ隠し。

 ボクの中での比率はそんなところだったのだけど、お姉ちゃんはそう受け止めなかったらしい。

 

 

「『少し前に自分のことですっごい迷惑をかけちゃったけど、大事な友達だから。何か思い悩んでそうならこっそり教えてください』ってお願いされちゃってね。だから何かあったのかなって思ったけど……杞憂だったかな」

 

「お姉ちゃんでも杞憂だったって思うのなら、きっと大事な友達のお陰だね」

 

 

 絵名のことだから『私の問題は綺麗さっぱり燃えたけど、あんたは燃やしておしまいだーって話じゃないでしょ』とか何とか思って、お姉ちゃんにお願いしたのだろう。

 ああ、何というか。

 

 

「ほんと、ズルいよなぁ……」

 

「それ、絵名ちゃんのこと?」

 

「うん。すっごいズルい子なんだよ」

 

「そっか。いい友達に出会ったんだね、瑞希は」

 

「……優しいお姉ちゃんもいるしね」

 

「嬉しいことを言ってくれるなぁ」

 

 

 へらりと笑うお姉ちゃんの顔はボクの思い込みのせいか、酷く安心してるように見える。

 

 何時かの日に、お姉ちゃんはボクに会いに日本に帰って来ているって溢していたことがあったっけ。

 ボクもちょっとぐらいなら大丈夫だって伝わったのなら、少しは前に進めているのかもしれないな。

 

 

(この話のきっかけも絵名なんだよなぁ……今度、良さそうなものがあったらプレゼントしようかな)

 

 

 気を遣ってくる理由がスケッチブックのことを気にしているせいなのかどうかはわからないけれど、手厚いのには変わりなく。

 記憶が戻っても変わらない絵名へのお礼を考えながら、ボクはお姉ちゃんとの時間を過ごした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《side.奏》

 

 

 

「お父さん、最近はどう?」

 

 

 今日はいつものお見舞いの日。

 今までとは違って目が覚めていて、わたしのことも覚えているお父さんはこちらを見て薄らと笑みを浮かべた。

 

 

「体も動くようになってきたし、このままリハビリを進めて行けば通院に切り替われるみたいだよ」

 

 

 心配なところもあったけれど、お父さんのリハビリは順調みたい。

 

 

(お父さんも元気になって良かったな……うん。お父さんの調子はすごく良いんだけど、ね)

 

 

 少し前にまふゆから『お父さんが帰ってくるのなら、奏の部屋って片付けなくていいの?』という言葉を聞いて。

 お父さんが帰ってくるまでに片づけをしなくちゃいけないという難題が突然、わたしの前に降ってきた。

 

 皆が手伝ってくれるという言葉に、甘えなくちゃいけないかもしれない危機。

 

 お父さんの前では顔に出さないように気を付けているけれど、お父さんの部屋を自分のモノで埋めている罪悪感で胸の中は穏やかではなかった。

 

 

「奏、奏!」

 

「……えっと。どうしたの、お父さん?」

 

「ぼーっとしていたから、心配になったんだよ。何か悩み事かい?」

 

「ううん。悩み事ってほどじゃないよ」

 

 

 お部屋を占領しているからどうにかしなきゃと考えているなんて、お父さんに言えるわけがない。

 

 曖昧に笑ってその場を凌ごうとした罰が当たったのか。

 お父さんが心配そうな目でこちらを見ていた。

 

 

「奏、あまり無理をしてはいけないよ」

 

「大丈夫だよ。無理はしてないから」

 

 

 言葉の前に『最近』とつくけれど、無理をしてないのは嘘じゃない。

 そんなわたしのこともお父さんは見通しているのか、苦笑いを浮かべた。

 

 

「奏の言うことも正しいんだろうね。でも、奏のお友達だっていう東雲さんから話を聞くと、心配になってね」

 

「えっ……」

 

「夢中になるのはいいことだけど、病院に運ばれてしまうぐらいの無理はしてほしくないと思ってるよ」

 

「いつから絵名と話してたの?」

 

 

 お父さんを心配してくれているのは知っていたけれど、いつの間にか絵名が接触していたなんて。

 絵名本人からは心配だから様子を見ていると聞いていたけど、話してるとまでは聞いてなかったので、不意打ちを受けた気分だ。

 

 

「リハビリを始めてから暫く経ってからかな。東雲さんが『奏が慌てて帰った日のことで、迷惑をかけてしまった』って謝りに来たんだよ」

 

「……迷惑だなんて。迷惑をかけてるのはわたしの方なのに」

 

 

 お父さんやわたしを追い込んだのはあのスケッチブックのせいだから、と絵名は思って動いたのだろう。

 

 でも、どちらにしてもお父さんのことはいつかわたしが向き合わなくてはいけなかったことで。

 早まった原因があのスケッチブックだからって、絵名のせいだと言うのは間違っていると、わたしは思う。

 

 

「いい友達ができたんだね。少し、安心したよ」

 

「うん。お父さんが元気になったら、皆を紹介したいな」

 

「なら、僕も頑張って──」

 

「ううん、お父さんは十分頑張ってるよ。絵名達も逃げないし、お父さんはお父さんのペースで進めてほしいかな」

 

 

 何となくあの日を思い出してしまい、思わずお父さんの言葉を遮ってしまった。

 

 

(あっ、やっちゃった)

 

 

 慌てて様子を窺ってみると、目を見開くお父さんがいた。

 

 

「そうだね……あの時にそう思えていたら、違っていたのかもしれないな」

 

「お父さん……」

 

「いや、すまない。少し後ろ向きになってしまったね」

 

 

 お父さんは首を振って仕切り直す。

 

 

「お父さんも自分のペースで進めてみよう。進んでみて、余裕ができたその後に……奏の友達を紹介してくれないかい?」

 

「うん。その時は皆、家に呼ぶよ」

 

 

 わたしやお父さんが後悔しても、過ぎた時間は戻ってくれないけれど。

 

 この先はきっと、似たようなことにはならないんじゃないかと──確証のない希望が少し、見えた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《side.まふゆ》

 

 

 

 

「まふゆ、少しいいかしら?」

 

 

 お母さんも私も、お互いにほんの少しだけ距離を縮めてきた頃。

 どこか落ち着きのない様子で声をかけてきたお母さんに、私は首を傾げた。

 

 

「どうしたの?」

 

「今度、珍しい絵画が見れる特別展があるんだけど。まふゆさえ良ければ一緒にどうかしら?」

 

(絵画、か)

 

 

 ──芸術にコレといった正解はないと思うけどさ。表現したいものを見ていてわかったのなら、それは見てる人にとっては良い絵だと思うよ。

 

 それが何時かに聞いた絵名の意見だけど、お母さんがそういう姿勢で絵を見ているとは限らない。

 どうにも、お母さんと一緒に行った絵画展はどこか『正解』を求められているような気がして……胸が苦しくなった記憶が頭の中に蘇った。

 

 

「……まふゆが忙しいのなら、やめましょうか」

 

 

 少しだけ思い出している私を見て、お母さんは勘違いしてしまったらしい。

 暗い顔をさせるのは不本意だったので、私はすぐに首を横に振った。

 

 

「ううん、忙しいとかじゃないよ。それに、いつ行くかわからないと答えられないから」

 

「あっ、そうよね。今回のチケットは期間の後半だから……」

 

 

 表情を一変させて嬉しそうに話すお母さんによると、その特別展に行くまでの日は余裕がありそうだ。

 少しだけ胸がチクリと痛んだけれど、断る理由はない。窺うような目を向けるお母さんに、私は頷いた。

 

 

「わかった。一緒に行こう、お母さん」

 

「! ありがとう、まふゆ。お母さんも楽しみだけど、無理だったら言ってね」

 

 

 お母さんはお母さんなりに気を遣ってくれているし、歩み寄ろうとしてくれているのだろう。

 普段から進路のことだけでなく、私の大学のことすらあまり口に出さないようにしているのを見ると、余計にそう感じる。

 

 

(お母さん、絵画とか好きなのかな)

 

 

 私は絵画が好きなのかどうかはわからないけれど、お母さんが好きなのであれば……私も何かした方がいいのかもしれない。

 

 

 

 

 

 ──そう思って絵名に相談してみた所、返ってきた返事はこれだった。

 

 

『うーん。まふゆの場合は知識とかそういうのはいらないんじゃない? 今のまふゆに必要なのはチクッとした痛みを包み込む綿だと思うし』

 

 

 絵名の担当はイラストの筈なのに、言い回しが瑞希みたいだ。

 よくわからないと素直に返信したら、すぐにメッセージが来る。

 

 

『絵画を見に行くっていうのに苦手意識があるみたいだし、まふゆにいるのは知識じゃなくて体験でしょ。本番前に皆でどこかの絵画を見に行けば、ちょっとはマシになるんじゃない?』

 

『そうなの?』

 

『意外と思い出の補正って強いんだよね。最近、思い出を沢山思い出した私が言うんだから間違いないよ』

 

 

 さらりと混ぜられる黒めの冗談にため息をつきながら、指を動かす。

 

 

『笑えない冗談だね』

 

『笑わないの間違いじゃない? ま、奏と瑞希にも話してみるから、ちょっと待ってて』

 

(……行くって言ってないんだけど)

 

 

 思ってもメッセージには送らず、スマホを脇に置こうとして。

 

 

「あ……」

 

 

 暗くなったスマホに少し口角を上げた自分の顔が見えて、思わず声を漏らした。

 

 

(笑えない冗談だって、思ったのは本当だったんだけどな)

 

 

 どうやら私は、今のやりとりが楽しかったらしい。

 

 遅れて自覚してしまったせいで、絵名から連絡が来るまでソワソワしてしまったのは1人だけの秘密にしよう。

 

 

 

 

 







えななんも皆への好意はあるんです。記憶が消し飛んでも手を伸ばすぐらいには大好きなんですよね、ニーゴのこと。

え? でも、えななんって鈍感でしょって?
……の、ノーコメント!


次回更新予定:25時、お仕事がちょーっと落ち着いた後で。


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