イラスト担当は記憶を無くしました   作:大森依織

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サブイベでも何でもない日常のお話です。




240枚目 意外な組み合わせ?

 

 

 

 夕方。

 部活が終わって夕陽に照らされた廊下を歩いていると、紫色とピンク色という目立つ髪色の頭が並んで前から来た。

 

 

「あれ、まふゆとえむちゃん?」

 

「絵名さん! こんにちは!」

 

「こんにちは、えむちゃん。えっと……まふゆとえむちゃんって珍しい組み合わせじゃない?」

 

「珍しいって、鳳さんとは同じ委員会だからね。今日は委員会があったから、一緒に歩いてたんだよ」

 

「へぇ、そうなんだ」

 

 

 えむちゃんに挨拶してからまふゆに事情を聞くと、そこまで意外でもないような話が出てきた。

 

 まふゆは今年も先生直々に学級委員会指名を受けていた。

 そんなの断ればいいのに『他の委員会よりも慣れてるから』って引き受けちゃったおバカさんの委員会は知っていたけれど、えむちゃんも学級委員なのは知らなかった。

 

 

(誰が学級委員かなんて把握してなかったけど、えむちゃんが学級委員なのは想像できるなぁ)

 

 

 えむちゃんなら自分から手を挙げて立候補しそうなイメージがあるので、この1年はまふゆとえむちゃんの組み合わせは意外でも何でもない2人となった、と。

 

 並んでいるえむちゃんも逃げ出す気配はないし、案外進級してから上手くやれるようになったのかもしれない。

 

 大きな赤ちゃんだったまふゆの進歩にちょっと感動しているのがバレたのか、まふゆがニッコリと笑う。

 

 

「……絵名、変なこと考えてない?」

 

「ご、ごめんって。2人が仲良くやってるのが嬉しかっただけだから許してよ」

 

 

 笑っているのに圧があって怖い。

 この時初めて、青ざめて「ヒェッ」と小さい悲鳴を出してるえむちゃんと同じ気持ちがよくわかる。これは怖い。

 

 私とえむちゃんが揃って震えている間に、嵐は過ぎ去ったようだ。

 

 

「そういえば、絵名はこの時間まで遊んでたの?」

 

「はぁ? 部活だっての。あんたは私のことを何だと思ってるのよ」

 

 

 いや、過ぎ去ってないな。仮面で隠そうとしてるけど毒が漏れてる。

 折角慣れてきたみたいなのに、こんな姿を見せたらえむちゃんがもっと怖がってしまうんじゃないだろうか。

 

 

(あれ?)

 

 

 私の予想とは違って、まふゆの隣にいるえむちゃんはニコニコと笑みを浮かべていた。

 

 

「朝比奈センパイも絵名さんも、ニコニコ元気になって良かったですね!」

 

 

 血の気も良さそうだし、えむちゃん的にはこのやりとりは良いこと判定だったようだ。

 まふゆの優等生モードの下側を見抜いてそうな節もあるし、えむちゃんにはお見通しなのかもしれない。

 

 

「とりあえず、一緒に帰る?」

 

「うん、鳳さんはどうする?」

 

「あ、じゃあ途中まで一緒に帰ります!」

 

 

 私もまふゆも言い合うような毒気が抜かれてしまって、一緒に帰ることにした。

 

 まふゆのことばかり考えていたけど……私の事情も普通に見抜いてそうなのが、ちょっと驚いたっていうのは内緒だ。

 

 

 

 

 

 

 

☆★☆

 

 

 

 

 

 

 

「──朝比奈センパイ、絵名さん、お疲れさまでしたっ!」

 

「鳳さん、お疲れさま」

 

「暗くなってきたし、気をつけて帰ってね」

 

「はい! 朝比奈センパイ達も気をつけて帰ってくださいね!」

 

 

 えむちゃんが大きく手を振ってくるので、私達もその姿が見えなくなるまで手を振り返す。

 えむちゃんの姿が見えなくなった瞬間、すんとした顔のまふゆが首を傾げた。

 

 

「そろそろいいんじゃない?」

 

「あんたねぇ……言い方を考えなさいよ」

 

「? よくわからない」

 

 

 優等生のフィルターがあれば気遣いの鬼になるのに、どうしてフィルターを外せばこうなってしまうのか。

 

 それだけ、あのモードでは背伸びしていると考えた方が自然か。

 ……しょうがないから、私の前で言ってる分には見逃そう。

 

 

「にしても、えむちゃんって本当によく見てるよね。あんたの猫被りだって普通に見破ってるし」

 

「鳳さんは絵名のことをよく見てるんじゃない? あまり心配をかけるようなこと、しちゃダメだと思う」

 

「いやいや。こっちは誰かさんとは違って、爆発寸前まで溜め込まないからね?」

 

「私も誰かとは違って、他人の為に自分を賭けるようなとんでもないことはしないよ」

 

「……やめとこうか」

 

「そうだね」

 

 

 不毛になりそうな争いを寸の所でやめて、私達は帰り道を歩いた。

 えむちゃんがよく見ているだけだと、言葉を交わさずとも同じ結論に至ったのである。

 

 

「絵名、ちょっとそこで待ってて」

 

「え、うん。いいけど……」

 

 

 そう言ってまふゆが向かった先はなんとビックリ、スーパーである。

 

 一体どうしてスーパーに寄ったのか、何故、私は外に待機しなくてはいけないのか。

 

 何もわからないまま固まっていると、いつの間にか時間が過ぎていたらしい。

 結論を導き出す前に、大袋を持ったまふゆが出てきた。

 

 

「おまたせ」

 

「全然待った感覚がないから大丈夫」

 

「そうなんだ?」

 

 

 相変わらずよくわかってなさそうな顔で首を傾げるまふゆの隣に並び、私達は再び歩き出す。

 

 

「で、何買ったの?」

 

「お菓子とか、ミク達が好きそうなものを色々と」

 

「お願いされたの? 言ってくれたら手伝うのに」

 

「されてない。ただ、何となく……買いたいなって思ったからしただけ。だから荷物を持とうとしなくてもいいよ」

 

「そっかぁ」

 

 

 したいからやるだなんて、まふゆも私が知らない間に成長したようだ。

 勝手に感動していると、まふゆから湿度の籠った視線を向けられた。

 

 

「変な目で見ないで。絵名だって似たようなこと、してるでしょ」

 

「それはそうだけど……まふゆがやってたらまた違うっていうか」

 

「何が違うのかわからないよ。絵名だって、何となくしたいと思ってやってるんじゃないの?」

 

「……そんな純粋じゃないっての」

 

「なら、絵名はどういう気持ちでプレゼントしてるの?」

 

 

 首を傾げるまふゆの理由は眩しいぐらい純粋なのは明らかで。

 不純な動機で始めた自分が浄化されてしまいそうなぐらい透き通った目を向けられて、咄嗟に目を逸らした。

 

 

「あんまりよくない理由で始めたんだけど、聞く?」

 

「聞く」

 

 

 即答である。これは逃げられない。

 もう終わったことだからあまり掘り返したくないけれど、できる限り明るくなるように頑張ろう。

 

 

「怖かったんだよね、色々と。だから、手伝いとかプレゼントとか、少しでも周りに良いことをしたかったの」

 

「……そうなんだ」

 

「反応しにくいでしょ? ま、そういう理由だから話したくないなーって思ってさ」

 

 

 ソレは周りには『覚えてない』って言ったけれど、思い出そうと必死になれば思い出せるぐらいの記憶だった。

 

 それが奴らしい嫌らしさで、思い出してみれば病院の担当医の人やお母さん、弟の静止を振り払って狂ったように絵を描く自分を思い出してしまうのだ。

 

 覚えている限りでは割り込んでくるのをさけたり、手を払いのける程度だろうけれど……外でこんな状態になってしまったら?

 おかしいと止めようとしてくれた人を、傷つけてしまったら?

 

 そういうことを考えてしまうとどうしても怖くて、迷惑料の前払いのような気持ちがなかったとは言えない。

 

 

「なら、今は?」

 

 

 苦笑いで誤魔化そうとする私に向けられたのは、あまりにも真っ直ぐな目だった。

 

 

「スケッチブックもなくなったけど、今も怖いからやってるの?」

 

「違うよ。まふゆ達のおかげで元凶も無くなったから怖くはないし、今はその……癖になってるっていうか」

 

「なら、絵名のそれは怖さじゃない。馬鹿みたいにお人好しで世話焼きなのは素だよ」

 

「ちょっと! 言い方!」

 

 

 途中、感動したのに一気に引き戻されてしまった。

 余計なことを言わないと気が済まないのか、まふゆなりの気遣いなのか……今回は気遣いの方が近いのかもしれない。

 

 

(励ましてくれたのはわかるけど、馬鹿みたいは余計でしょ!?)

 

 

 頭では気遣いを理解していても、心が少し反発してる。

 

 まふゆは相変わらず首を傾げているので、これ以上何かを言う気にもなれず。

 なんとも言えない気持ちに苛まれている中、隣を歩いていたまふゆが急に立ち止まった。

 

 

「どうしたの?」

 

「……あげる」

 

「飴? なんで?」

 

「怒らせたみたいだから」

 

 

 赤と緑の飴を差し出して、じっと見てくるまふゆの目は待てをしている犬のよう。

 差し出された飴を受け取った私は、こちらの反応を待っているまふゆとちゃんと向き合った。

 

 

「ごめん、過剰だった。あんたはいつも通りなのにね」

 

「私も悪かったんだと思う。ごめん」

 

「ふーん。じゃあ、馬鹿みたいにお人好しとかは言わないんだ?」

 

「そこは絵名が改めてくれたら考える」

 

「……あー、そう」

 

 

 これはお互い、無理そうである。

 早々に見切りをつけた私は、再びまふゆと肩を並べて帰路についた。

 

 

「それで。この飴って何味なの?」

 

「緑が爽やかグリーンアップル味で、赤はジューシーアップル味だって」

 

「それ、両方林檎じゃん。何で?」

 

「ミクの目の色だから。違うのはちょっと」

 

 

 よくわからないけど、味のチョイスにもまふゆなりの拘りがあるらしい。

 

 

「ミクの目の色かぁ。その発想はなかったわ」

 

「飴玉みたいに綺麗だから、口に入るサイズだったら食べられちゃうんだって」

 

「えぇ……誰よ、そんなこと言ったの」

 

「ルカらしいよ」

 

「あー、ルカね。確かに言いそう」

 

 

 流れはわからないけれど、ルカなら言う。私の頭の中でも簡単に想像できた。

 

 まふゆが『らしい』とつけているにも関わらず、他にそんなことを言うような存在がセカイにいるとも想像できない私の頭は勝手に犯人を決めつけた。

 

 

「袋の中は飴ばっかり? それにしては大きい気がするけど」

 

「選べるように好きそうなものを色々と買ったよ。アイスとかも買ってる」

 

「へ? アイス!? それ、急がなくちゃいけないんじゃないの!?」

 

「そうだね。ドライアイスはちょっと入れてるけど、呑気にしてたら溶けそう」

 

「そうだねじゃないでしょ!? 早く帰るわよ!」

 

 

 そこまで暑くないとはいえ、冬じゃないんだからゆっくり帰るのはよろしくないだろう。

 呑気に歩こうとする元凶(まふゆ)の手を掴み、私達は早歩きで家へと帰るのだった。

 

 

 






なかなかお話が書けずにズルズルしちゃってます。
夏バテですかね……湿度の伴った暑さは恐ろしいものですので、皆様もお気をつけください。

そんな感じでひぃひぃしている作者がいますが、本作の方はのんびり更新していきます。


次回の更新:いずれ、どこかの25時で。

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