イラスト担当は記憶を無くしました   作:大森依織

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前回の続き……なのですが。
イベストと被るところはバッサリカットして、奏さんとのやり取りを入れてます。
寧々さんやみのりさんとのやり取りを期待してた方はすみません……






244枚目 白に想い描く

 

 

 

 

 フリーズした穂波ちゃんが復活するのは予想よりも早く、1分もかからなかった。

 

 

「す、すみません! 変な反応をしちゃって失礼でしたよね……っ」

 

「大丈夫だよ、望月さん。慣れてるから気にしないで」

 

 

 顔を真っ赤にした穂波ちゃんは復帰して早々、深く頭を下げた。

 対面している奏はというと、菩薩のような笑みを浮かべている。

 

 ……散々、私も含めたニーゴの面々で過剰な反応をしてしまったせいだろうか。

 

 穂波ちゃんの反応では動じないぐらい、奏は達観してしまったらしい。

 成り行きを見ている志歩ちゃんも「慣れてる?」と困惑しているのに、奏はそれすら気にしていない様子。

 

 

(ごめん、奏)

 

 

 思わず内心で謝ってしまったけれど、思うだけでは本人に聞こえるはずもなく。

 奏は静かな笑みを浮かべたまま、穂波ちゃんと話をし始めた。

 

 

「幼馴染の人と行くって聞いてたから、4人で行くのかなって思い込んでたよ」

 

「行けたらいいなって程度の予定でしたけど、宵崎さんは絵名先輩と一緒に行く予定だったんですね」

 

「……そうだね、そんな感じかな」

 

 

 実際のところは『邪魔するのはちょっと』とでも思って断ったのだろうけど、奏も馬鹿正直には言わないらしい。

 

 

「ちょっとバイト先でウェディングドレスの資料が必要になって、奏に案内してもらう約束をしてたんだよね」

 

「へぇ、そうなんですね。って、資料集めということは……」

 

「すみません、あまり良くないタイミングで話しかけてしまったみたいですね」

 

「あぁ、気にしないで。もう資料集めは終わってるし、これからは遊ぶ時間だからさ」

 

 

 態々訂正するほどの内容でもないので、奏に話を合わせた私は穂波ちゃんと志歩ちゃんに会話を振る。

 

 

 ……お互いに見て回った場所の感想を話している間に、かなり時間が経っていたのだろうか。

 

 周辺の状況が変わっているのに、気が付くのがほんの少し遅れてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

「──あ、あったよ! ドレスの試着コーナー!」

 

 

 単位制に移ったと聞いてから更に忙しそうだったので、直接聞いたのはかなり久しぶりのこと。

 聞くだけならば、瑞希がよく見ている動画から頻繁に聞いていた声が耳に届く。

 

 その声が聞こえてくる方へと目を向けると、棒付きのスマホを片手に喋っているみのりちゃんと、ウェディングドレス姿の寧々ちゃんが歩いていた。

 

 アイドルのみのりちゃんと、ショーキャストの寧々ちゃん。

 宮女生と神高生という、そこまでご縁がありそうにない組み合わせの2人が動画撮影か配信らしきものをしているようだ。

 

 

(ってことは、あまり近付かない方がいいかな)

 

 

 動画撮影ならまだカットしてもらえばいいけれど、配信だった場合はみのりちゃん達に迷惑をかけてしまう可能性がある。

 

 そう考えて成り行きを見守ろうとしていたのだけど、やっぱり世の中は自分が考えているようには進まないらしい。

 

 

「って、あれ? 穂波ちゃん達は?」

 

「望月さん達なら草薙さんが困ってそうに見えたから、花里さんに声をかけてくるって」

 

「あちゃー」

 

 

 私の予想を超えていく展開に、思わず瑞希みたいな反応をしてしまった。

 私がこんな反応をしている理由がわかっていないようで、奏は小首を傾げる。

 

 

「何か躊躇う理由でもあるの?」

 

「あの棒付きスマホなんだけど。みのりちゃん達、配信してると思うんだよね」

 

 

 頭の中に思い浮かぶのは、自分の個人情報の惨状と、つい最近も現実に突撃してきた危ない人。

 対策として宮女に行っていたはずなのに、それでも変な人間が出てくる実例が足を竦ませる。

 

 あれさえなければ。

 スマホを片手に目を回す寧々ちゃんを見て、離れた場所で心配そうにしているみのりちゃんの元に『駆けつけない』という選択肢なんて出てこなかったのに。

 

 

「配信か。それは絵名が躊躇っちゃうのもわかるな」

 

「薄情な話だけどね」

 

「絵名には絵名の理由があるんだから、薄情は違うと思うよ」

 

 

 奏は苦笑いを浮かべつつ、穂波ちゃんの方へと視線を向ける。

 

 

「でも、薄情だなって思うぐらい気になるのなら……望月さん達みたいに、花里さんに声だけでもかけてみる?」

 

 

 現在、スマホを持っているのは寧々ちゃんで、配信に出ているのも寧々ちゃんだとすると……奏の案はかなりアリだと思う。

 

 

「……ごめん、奏。付き合ってもらってもいい?」

 

「もちろん。花里さん達の所に行こう」

 

 

 音楽でもそうでなくてもそっと背中を押してくれる奏の力もあって、私もみのりちゃんの元へと足を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

☆★☆

 

 

 

 

 

 

 ──その後は野となれ山となれ。

 流れるように寧々ちゃんのサポートをして、穂波ちゃん達と行動することになった。

 

 みのりちゃんのヘルプを受けて、声だけで寧々ちゃんの配信のサポートをしたり。

 特に私と奏の話題にも上がっていなかったショーを見たりと、予定とは違ったものの楽しいイベントを過ごせたと思う。

 

 

「今日は付き合ってくれてありがとね、奏」

 

「付き添っただけだし、お礼を言われるほどじゃないよ」

 

「奏がイベントを教えてくれたからいい感じの資料も集まったんだよ? お礼ぐらい言わせてよ」

 

「そっか。それじゃあ、受け取っておこうかな」

 

 

 みのりちゃん達や穂波ちゃん達とも別れた私と奏は、帰りの道をゆったりと歩む。

 

 話すこともなくなって暫くの間、黙って歩いていると、奏が「ウェディングドレス、か」と呟いた。

 

 

「ウェディングドレスがどうしたの?」

 

「ごめん、着る機会があるなら先のことかなって考えてたのが声に漏れちゃった」

 

「えっ、着る機会って。その、そういうご予定がおありですか?」

 

「? 急に敬語になってどうしたの?」

 

「え、いや……本気で心当たり、ないの?」

 

 

 首を傾げる奏に私も鏡のように同じ動作をする。

 急な話をし始めたのは奏だと思うのだけど、どうやら私がピックアップするところを間違えていたらしい。

 

 ウェディングドレス云々よりも奏には『先のこと』の方が大事だったようで、しどろもどろになっている私に真剣な目を向けた。

 

 

「先のことの話なんだけど……絵名って大学に行くつもりなんだよね。どうして進学しようと思ったの?」

 

「どうしてって、人脈作りの為とかだけど」

 

「『とか』ってことは他にもあるの?」

 

 

 目を覚ましたというお父さんと何か話したのか、奏の目はまっすぐにこちらを見ている。

 ウェディングドレスの話を掘り返して誤魔化すのは、奏が望む反応ではないだろう。

 

 できれば皆には言いたくなかったけれど仕方がない。正直に話してしまえ。

 

 

「才能がないから、大学に行くんだよ」

 

「才能って。でも、絵名は」

 

「確かに、私には誰も体験したことのないような『経験』っていうアドバンテージはある。でもさ、残念ながら胡坐をかけるほどの才能はないんだよね」

 

 

 ……過去に思い至っていたら良かったのだけど。

 そもそもの話、いくらリサーチして相手に合わせたからとはいえ、中学生の浅知恵程度でコンクールの賞をとれるほど、絵の世界は甘くないのだ。

 

 調べて売り出した絵という要素だけでなく、あのスケッチブックによって齎された特異な経験が見え隠れしていたからこそ、審査員の目に留まって運よく受賞が重なった。

 

 あのスケッチブックとの経験なんて私ぐらいしか経験していないだろうし、それも『才能』だというのであればそうなのだろう。

 だけど、あくまでこれは地獄で足掻く私に垂らされた1本の蜘蛛の糸。スタート地点に立つための武器でしかない。

 

 いくら武器が業物であっても、持ち主が使い熟せなければ宝の持ち腐れ。

 手入れをしなければすぐに鈍らになるのだから、使い熟せるように先人に学ぶしかないのである。

 

 

「だからこそ──私は学校に行って、私が欲しいものを全力で吸収しようと思ってるんだよね」

 

「……そっか。絵名らしいね」

 

「そういう奏はちょっと、らしくないかもね」

 

「そうかな?」

 

「だって、奏はやめてって言ってもすぐご飯抜くし、徹夜するし、無理するじゃん」

 

「それは絵名だって負けてないと思うよ」

 

「うっ」

 

 

 見事なブーメランに自傷ダメージが痛いけれども、今はそうじゃなくて。

 

 

「奏がやりたいことに大学が必要なら行けばいいし、不要なら時間とお金の無駄だからやめればいいじゃん」

 

「いいのかな、それで」

 

「個人的にはいいと思うけど、私は奏じゃないからね。納得するまで考えるしかないと思うよ」

 

 

 奏はまだ納得しきれていないようで、難しい顔をしている。

 

 しっくりくる答えを出せたら良かったのだけど、こういうのは自分で考えるしかないだろう。

 私ができることなんて、話すこと以外に何もなかった。

 

 

「時期的なこともあるんだろうけどさ。そもそも、何で大学とかを気にしだしたの?」

 

「実は……お父さんとおばあちゃんと話している間に大学に進学するのかしないのか、ちゃんと考えた方が良いって話になって」

 

「その話だけで奏がそこまで悩むとは思えないけどね」

 

 

 普段の奏なら『そんなことより』と思考を切り替えて、曲のことを考え始めそうだ。

 そんな私の失礼な感想に、奏も自覚があるのか苦笑いを浮かべる。

 

 

「わたしも普段ならそうしたんだろうけど……お父さんが、音楽に向き合えなくなった時の逃げ場は作っておいた方が良いんじゃないかって」

 

「ご尤もねー。でも、その『逃げ場』っていうの、こっちの捉え方次第じゃない?」

 

「どういうこと?」

 

 

 ピンと来てなさそうな奏に私はパッと思いついたことを口に出す。

 

 

「傍から聞いてた感じ、奏のお父さんって『自分みたいに苦労してほしくない』って思ってるんだと思うの。そんな感じのことを言ってなかった?」

 

「……そう言われてみたら、言ってたような気がする」

 

「だったら、まずはそう解釈して考えてみてもいいんじゃないかな。ウチの父親も似たようなことを言ってたしさ」

 

 

 あっちは言葉も足りなければ、気持ちは父親視点なのに発言が画家視点過ぎた結果、ノンデリ発言が出力されていたけれど……最終的に残っていたのは『心配』だった。

 私達親子と奏の親子関係では状況が色々と違うけれども、気持ちという面では同じだと思うのだ。

 

 

「そうだね……もう少し考えてみるよ」

 

「話を聞くぐらいならいくらでも聞くし、また行き詰まったら話してよ。きっとまふゆや瑞希も同じことを言ってくれるだろうし!」

 

 

 それでも将来という悩みは中々解決できないだろうけど、できる限りのことはするつもりだ。

 

 そういう意味も込めて横を見ると、目を瞬かせた奏が呟いた。

 

 

「あ、わかったかも」

 

「何が?」

 

「とりあえず……また今度、ウォーキングに付き合ってもらおうかなってことかな」

 

 

 にっこりと笑う奏の口からは、私が望む答えが返ってきそうにない。

 

 

「もう……それぐらい、いつでも付き合うよ」

 

 

 複雑な気持ちだけれども、奏の悩みが少しは解決したのならそれでいいか。

 早々に白旗を上げた私は、奏が望んでいるであろう答えを差し出した。

 

 

 

 

 







・奏パパ
作者の色眼鏡による解釈的に人や状況、環境など含めて逃げ場がなかった末に娘である奏さんの才能がトドメとなり、あんなことになったのだろうと考えた結果。
起きた奏パパは娘も自分のようにならない為に、色々と心配しているらしい。


・奏さん
お父さんの心配も知っているからこそ、将来について考えていたものの。
えななんの言葉で『逃げ場』という意味では大丈夫だろうと判断して、向き合うことにした。


・えななん
何も知らないえななん。



次回更新:来週は確実にお休みの、日曜日25時更新です。


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