イラスト担当は記憶を無くしました   作:大森依織

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2回目の神高の文化祭前に、まふゆさんの困りごとに巻き込まれるえななんです。
しれっと宮女の中に瑞希さんも紛れ込んでたので、えななんを放り投げてもまぁ良いかなと。
(範囲としてはイベスト『わんだほら〜!?な肝だめし!』です)







245枚目 その根は深い

 

 

 

 

 ……今日もまた、教室から美術準備室に逃げてきたまふゆが近寄り難い雰囲気を醸し出している。

 

 原因はたぶん、家とは無関係のものだ。

 委員会の後からどんどん険しい顔をしてそうな空気を発していたし、私の直感的には『委員会関係』が怪しいと思う。

 

 

「……」

 

 

 トントントントン──と。

 

 細長い人差し指が規則正しく机を叩き、リズムを作る。

 別にこれを放っておいても私に実害はないけれど、構わないと人差し指が煩くなりそうだ。

 

 気になって絵も描けないし、そろそろ触れようか。

 

 

「それで、何があったのよ? 話ぐらいなら聞くから、トントンしてないでとっとと吐きなさい」

 

「吐きなさいって、汚いね」

 

「はいはい、比喩に突っかかって来なくていいから。ほら、白状する!」

 

「……絵名は、草むしりに興味ある?」

 

「草むしり? そんな時間があったら絵を描きたいなーって思うけど」

 

「そう」

 

 

 声が途切れたかと思いきや、まふゆの指が再び机を楽器にしてリズムを刻みだす。

 

 バッドコミュニケーション。欲しい言葉ではなかったらしい。

 ……そうだとしても、私の反応は一般的な反応に近いと個人的には思うわけで。

 

 

「まふゆに『どうしても』って頼まれたら、しょうがないから草むしりに付き合ってあげるけど。普通、草むしりなんて参加しないからね」

 

「だろうね」

 

「委員会でボランティアするんだっけ。それ関係だろうけど、そんなに人手が足りないの?」

 

「うん、全然足りてない」

 

「ほんの少しの内申点ぐらいじゃ、草むしりの労力と見合ってないと。魅力不足も大変ねー」

 

「魅力か……絵名が来てくれるなら、それ目的の人を何人か引っ張れそうだけどね」

 

「は? それ目的って?」

 

「絵名も知らない世界があるんだよ」

 

 

 フッと遠い目をして息を吐くまふゆの顔は、聞いて欲しくなさそうに見える。

 この話題は脇に置くことにして、話を元に戻そう。

 

 

「足りないならさ。体力仕事で大変な草むしりでも、思わず参加したくなる魅力を作るしかないんじゃない?」

 

「魅力って、例えば?」

 

「例えば……うーん。参加したら美味しいチーズケーキが貰えるとか?」

 

「それは絵名以外、釣られないんじゃないの」

 

「し、しょうがないでしょ。私だってそういうのを考えるのは得意じゃないんだから、その辺はまふゆが考えてよね!」

 

「それもそうだね……」

 

 

 口では肯定しているのに、目が捨てられた子犬のようだ。

 言われてないはずなのに『一緒じゃないんだ』と落ち込んでるような幻聴が聞こえてくる。

 

 いつの間にそんなズルい術を身に着けたのか、天然モノなのか。

 放置できない自分の性格がほんの少しだけ憎かった。

 

 

「はぁ……草むしりの運営関係って、部外者が関わっても問題ないヤツ?」

 

「! うん、人手はボランティアも運営も多い方がいいよ」

 

「運営は人が多ければ良いってわけでもないでしょ。正直、私が参加しても戦力外だろうし」

 

「大丈夫。ショーやパレードとかじゃなければいいよ」

 

「……はい?」

 

 

 何でそこでショーとかパレードの話が?

 

 首を傾げる私に、まふゆは珍しく優等生らしい綺麗な笑みを浮かべて追及を躱すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後。

 私は優等生の皮を被ったまふゆとわんだほーいしてるえむちゃん、急遽参加してくれた微笑みの穂波ちゃんという、冒険でも始まりそうな4人組で道を歩いていた。

 

 

(手伝うとは言ったけど、まさかこうなるなんて予想外ねー)

 

 

 えむちゃんの提案で草むしりの現場を実際に見て、考えることになったのはまだ、理解できる。

 ただ──まふゆとえむちゃんは委員会繋がりだからいいとしても、穂波ちゃんもボランティアに参加している理由がわからなかった。

 

 わからないのであれば、聞くのが私の流儀である。

 前でまふゆとえむちゃんが話しているのをいいことに、私は穂波ちゃんに目を向けた。

 

 

「私はまふゆの応援できたんだけど、穂波ちゃんはどういう経緯で参加することになったの?」

 

「わたしもえむちゃんと朝比奈先輩の話を聞いて、お手伝いできたらなって思ったんです」

 

「えむちゃんは兎も角、まふゆも?」

 

「はい。実は、宵崎さんの家で朝比奈先輩とお話したことがありまして。委員会のお話を伺ったことと、えむちゃんとの話も聞いた上で、わたしも何か手伝えたらって思ったんです──」

 

 

 そうして穂波ちゃんの口から語られる内容は、あまりにも衝撃的だった。

 

 

(えっ? まふゆが奏の家に遊びに行くのも珍しいのに、表情筋が仕事放棄状態のまま穂波ちゃんに対面しちゃってるの? 嘘でしょ?)

 

 

 頭の中に浮かぶのはクエスチョンマークばかり。

 

 あのまふゆが奏の家に遊びに行ってるだけでなく、穂波ちゃんの前でも優等生モードをオフにしているなんて……ニュースになりそうなぐらい衝撃的な話だ。

 

 しかし、こんなことで穂波ちゃんが嘘をつくはずもなく。

 驚きの事実に頭を殴られたような衝撃を受けたけれど、なんとか気持ちを立て直して穂波ちゃんに声をかける。

 

 

「穂波ちゃん、まふゆのことは……」

 

「宵崎さんからある程度は聞いてますから。気になりますけど、触れるつもりはありません」

 

「そっか。奏のこともまふゆのことも、ありがとう。草むしりの運営、一緒に頑張ろうね」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

 

 2人でそんな話をしていると、先行していたえむちゃん達が先にある信号の前で立ち止まっていた。

 

 

「穂波ちゃん、絵名さーん! 信号変わっちゃうから、早く行きましょー♪」

 

「うん、すぐ行くよー! ……っと、ごめんね穂波ちゃん。長話に付き合わせちゃって」

 

「わたしもつい話し込んじゃいましたから、謝るようなことじゃないですよ」

 

「なら、お互い様ってことで。まふゆやえむちゃんを待たせるわけにもいかないし、追いかけよっか」

 

「そうですね、急ぎましょうか」

 

 

 お互いに頷き合って穂波ちゃんと私は前にいる2人の元へと駆け出した……んだけども。

 

 

「絵名さんと穂波ちゃんとで競争? 楽しそう! アタシも参加したいなー」

 

「ふふ、私達も次の目的地まで走ってみる?」

 

「いいんですか!? じゃあ……よーい、ドーン☆」

 

 

 何を思ったのか、悪ノリし始めたまふゆと純粋な動機で走り始めたえむちゃん。

 

 

「えっ、何で!?」

 

「わかりませんけど……追いかけないと追い付きそうにないですね」

 

 

 そして、追随するのはこれまた運動神経抜群族の穂波ちゃんなわけで。

 残されるのは当然、文化部運動しない族の私1人。

 

 

(いやいやいや、待って! これは死ぬ! 私が死んじゃう!)

 

「絵名先輩? えっと、どうしたら……」

 

「ひぃ、できるだけ頑張るけど……ふっ。力尽きたら、その……倒れるかも、はは」

 

「え、絵名先輩ーっ!?」

 

 

 気を遣って振り向いてくれる穂波ちゃんがいなかったら、危うく力尽きてしまう人間が1人、爆誕してしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

☆★☆

 

 

 

 

 

 

「ほんっと、信じられないんだけど」

 

「……まだ言ってるの?」

 

「はぁ? まふゆがえむちゃんを焚き付けた節があるし、いくらでも言ってやるけど?」

 

 

 その場を解散してえむちゃん達もいないってこともあり、いつもの無表情ですっとぼけるまふゆを睨みつける。

 しかし、今日は何故か弾けているまふゆはどこ吹く風だ。

 

 

「でも、走ったおかげで鳳さんが『肝試し』を思いついた」

 

「ああ言えばこう言って。走らなくてもえむちゃんは思いついてたでしょ、あれ」

 

「……そうだね」

 

「そうだねって、もう」

 

 

 これは何を言っても聞かないのは明らかな態度だ。

 

 

(はぁ……ほんっと、厄介な方向に成長してくれちゃって)

 

 

 厄介だがまだ分別はあるようで、その矢印は私以外には仕掛けていないらしい。

 これも一種の甘え行動なのだろう。仕方がないので、ここは私が大人になってあげることにした。

 

 

「それにしても。現地に来たらパッと思いつくなんて、えむちゃんったら凄いよね」

 

「凄いけど、パッとではないと思う」

 

「普段から皆の笑顔のことを考えてるからってこと? あんたも良いこと言うじゃん」

 

「私はそこまで言ってないよ」

 

「はいはい、そうねー……ま、でも、まふゆも肩の荷がちょっとは降りたんじゃない? 私が参加しなくてもよかったかなぁ、これ」

 

 

 正直に話していると、まふゆが隣から消えていた。

 ……正確にはまふゆが1人だけ止まったせいで、消えたように見えただけだろう。

 

 

(もう、何やってんのよ)

 

 

 文句を言うために振り返ると、不貞腐れたような雰囲気でこちらを見ている目と目が合う。

 

 これは、あれだ。

 私の思考が答えを導き出すのとほぼ同時に、まふゆが不満を口に出した。

 

 

「そういうこと、言わないで」

 

「……今のは私が悪かった」

 

「うん。だからもう、言わないでね」

 

「ごめんってば」

 

 

 どうにかしよう、治そうと考えてはいるものの。

 長年の思考も汚れ並みにしつこいのか、中々取れてくれそうにない。

 

 

「はぁ……草むしりみたいにアイデアがポンッと飛び出て、どうにかできたらよかったんだけどね」

 

「その草むしりだって抜いてもまた生えてくるよ」

 

「何それ。私の考えは雑草並みに根深いってこと?」

 

「草むしりも、本当は根本からどうにかしないと繰り返すだけだから」

 

「うわ、それじゃあ治んないじゃん」

 

「そうかもしれないし、種を見つけたらまた違うかもしれないね」

 

 

 隣に並んだまふゆはこちらをじっと見ながら、少しだけ口角を上げた。

 

 

「絵名ならきっと、その種も見つけられると思う」

 

 

 言いたいことだけ言って、今度は私を置いて歩き出してしまうまふゆ。

 振り返ってもくれないバカの隣に慌てて並び、聞こえるぐらい大きくため息をついてやった。

 

 

「ほんっと、まふゆって無茶苦茶なことをするし、とんでもないことを言ってくるよねー」

 

「そうなの?」

 

「そうなの。的外れなことを言ってないのも、無性に腹が立つんだよね」

 

「八つ当たり?」

 

「その場合、グーが飛び出るけど良いの?」

 

「いらない」

 

「あっそ」

 

 

 とりあえず、雑草のボランティアの方は目処が立ったのだけれども。

 

 ……私の方の目処は、まだまだ先になりそうだってことだけはわかってしまった。

 






・遠い目をするまふゆさんの心当たり
もちろん、ファンクラブの人のことである。えななんも存在は噂程度に知っているものの、冗談だろう程度にしか思っていない。
家庭問題が解決して余裕のあるまふゆさんの方が実態を知ってるからこその反応の差である。


・ちょっと裏話
実はイベストは今回の範囲も含めて残り3つとなりました。(2つ目はちょっと別イベストも絡んでますので、4つとも言えるかもしれない)
最後の1つはえななんの地雷になるなぁと読んでて思ったので、〆に相応しいなと思ってます。


更新予定:どこかの日曜日の25時です。


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