イラスト担当は記憶を無くしました   作:大森依織

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まふゆさん達がボランティアで頑張る中、わちゃわちゃしているえななん達のお話です。






246枚目 肝試す前に

 

 

 

 

「えーなーなーんっ!」

 

 

 肝試しの準備もして、無事にボランティアの準備も終えていざ、当日。

 まふゆ達が人を集めている中、草むしりの道具の持ち運びをして一息入れる私の背中に、ドンッと何かがぶつかったような衝撃が襲いかかってきた。

 

 

「ぐふっ……って。何してくれるのよ、瑞希!」

 

「ふっ、ははっ。ぐふって、ぐふって! 絵名ってば、変な声出すなぁ」

 

「はぁ? あんたのせいでしょ、あんたの!」

 

 

 振り返って抗議してみても、腹を抱えて笑っている瑞希。

 しれっと雫と一緒に合流して、唯一の他校生であるにも関わらず運営側に回った瑞希は、ボランティアだけでなく私を揶揄うのにも力を入れているらしい。

 

 こっちは真面目に草むしりの準備をしているのに、どうして揶揄ってくるのか。

 

 瑞希は肝試し用の衣装などを準備してくれたらしいし、事前に仕事をしているのは理解しているつもりだ。

 だけど……こちらとしても、瑞希が参加できるようにバイトの助っ人に入ったりと手を貸した事実もあるわけで。

 

 折角最初から参加するのであれば、揶揄わずに手伝ってほしい。

 が、揶揄ってこない瑞希は瑞希なのか、色々と複雑である。

 

 

「もう、笑ってる場合じゃないでしょ。折角バイトも休んだんだから、バリバリ働きなさいよね」

 

「えぇー、そう言われても困っちゃうなぁ。ほら、ボクって絵名の監督に忙しいし」

 

「監督業務が瑞希の仕事だって主張するのなら、今からバイトに戻ってくれてもいいんですけどー?」

 

「あぁ、待って待って。やるやる、ちゃんとむしるよ〜!」

 

 

 今更バイトに向かうのは瑞希も嫌らしく、軍手を嵌めた手で大袋とスコップを持ち、やる気をアピールした。

 

 それでいいのである。

 満足したので少し瑞希から視線を外すと……こちらをじっと見ていたらしいまふゆと目が合った。

 

 

「……」

 

(ひぇっ)

 

 

 ニッコリと笑っているまふゆに血の気が引いた。

 こちらに向けられる『早くやれ』と言わんばかりの笑っていない目と、外向けの綺麗な笑みがプレッシャーを放っている。

 

 

(わ、私は悪くないし! やろうとしてるから!)

 

 

 視線から逃げるように顔を逸らすと、今度は鏡を見たかのように真っ青な瑞希と目が合う。

 哀れ、瑞希もあの笑みを目撃してしまったらしい。きっと私も同じ顔をしているんだろうなと確信してしまうぐらい、しょんぼりしていた。

 

 

「……瑞希、がんばろうね」

 

「うん、そうだね……」

 

 

 真の監督係を認識した私と瑞希は、いそいそと草むしりに励んだ。

 笑顔の監督効果は絶大だったようで、私達の毟った草の量はどのボランティア参加者よりも多かったのはまぁ……当然の結果だろう、うん。

 

 

 

 

 

 

☆★☆

 

 

 

 

 

 公園でお昼ご飯を食べてから、午後からの草むしりも段取り通りに終わらせて。

 ゴミをまとめた袋を片付けた私は、くるりと瑞希の方へと振り返る。

 

 

「よしっと。後は神社の裏山で肝試しだったよね?」

 

「だねー。カワイイお化けのボクの出番だよ!」

 

「別にあんただけの出番じゃないでしょー」

 

 

 何ならメインはえむちゃん辺りだと思うし、私や瑞希はオマケ程度だろう。

 気楽に考えていた私の目に入ったのは、さっきまではしゃいでいたとは思えないぐらい真剣な顔をしている瑞希だった。

 

 

「絵名もさ、まふゆに言えないぐらいお人好しだよね」

 

「は? 急に何よ?」

 

「お昼の時に今回の草むしり、乗り気じゃなかったけどまふゆの為に参加したって話を聞いたよ。これだけでもお人好しだって言う理由がわかるよね?」

 

「残念だけど、私はまふゆと違って人を選んでるから」

 

「けど、内容は選んでないよねー」

 

「うぐっ」

 

 

 図星で胸が痛い。確かに瑞希の言う通り……もしも私がボランティアの内容で選んでいたら、予定を開けてまで草むしりに参加していないのは容易に想像できる。

 そこは瑞希の言い分を認めるとしてもだ。

 

 

「自分で言うのもアレだけど、私のこういう行動はそこまで珍しくないでしょ。急にそれを指摘するなんて、何かあったわけ?」

 

「急というか……最近、弟くんとかが、今度は世界に行くって話してる上に、学校も休むって言ってるよね?」

 

「あー、そういえば。何か色々と準備してたような……」

 

 

 急に英会話教室へと通いだしたり、ふとした時に燃え尽きたようにボーっとしたり。

 やる気があるようで、どこか抜け殻みたいな様子が気にならないといえば嘘になる、けれども。

 

 

「っていうか……あいつがアメリカに行こうがどうしようが、私には関係ない話だから。大学進学する予定はあっても、私の予定に世界進出はないっての」

 

「そっちはなくても大学進学の予定はあるじゃん。内申点稼ぎでもないし、本当は絵名も少しでも絵を描きたいんじゃない?」

 

「つまり、気にしてくれてるってこと? それならそう言ってくれたらいいのに……ありがとね、瑞希」

 

「放っておいたらすーぐ突っ走る誰かさんがいるからねー。お礼を言われることじゃないよ」

 

 

 ちょっと素直になったら、今度は瑞希が素直になれないらしく、照れ臭そうに目を逸らした。

 瑞希が私の自己犠牲気質っぽいところを心配してくれているというのであれば、それは杞憂だと胸を張って言える。

 

 

「あぁでも、このボランティアも絵の練習の一環でもあるから。今回は気にしないでいいよ」

 

「え? それってどういうこと?」

 

「私もつい最近までは分析力や記憶喪失の経験とか、もう習慣化しちゃった絵を描く執念とかさ。そういうのが私の絵を描く武器なんだって思ってたんだけどね……雪平先生によると、私の持ち味は『世界観』なんだって」

 

「へぇ、世界観ね」

 

「そ。で、世界観を広げたりするのって、経験とか情報が大事でしょ。ほら、肝試しもする草むしりのボランティアなんて、まさにうってつけじゃない?」

 

「そう言われてみればそうかも……?」

 

 

 首を傾げていた瑞希は、すぐに思い直したのか傾げていた首を横に振る。

 

 

「って、肝試しするのは後から決まったって聞いたよ? そう考えるとそれ、結果論じゃん」

 

「経緯を把握してるなんて。やるわね、瑞希」

 

「どこかの誰かさんが油断も隙もないからねー。ボクも色々と対策してるんだよ」

 

「心配かけてるのは悪かったてば……とはいえ、結果オーライとも言うし、そろそろ肝試しの開始時間でしょ。許してくれると嬉しいかなーって」

 

「……はぁ。これ以上言ってたらまふゆに怒られそうだし、しょうがないから許してあげよう」

 

 

 上目遣いのコンボも良かったようで、無事に瑞希から許しを得る。

 

 まふゆは……まだ、穂波ちゃんと話しており、こちらを気にしているようには見えない。

 瑞希に許された今、まふゆに怒られてしまう前に移動しておいた方がいいだろう。

 

 

「早めに行こっか、瑞希」

 

「だね」

 

 

 気持ちだけ急ぎながら裏山の指定場所へと向かう私と、それに合わせるように追走してくれる瑞希。

 そうして、絶対零度を圧を受ける前に待機場所まで来た私達は『良い子に待機してました〜』と言わんばかりの顔でまふゆとの最終打ち合わせも乗り越えた。

 

 

「──それじゃあ、驚かし過ぎない程度に頑張って」

 

「そっちも、無理して怪我しないようにね」

 

「まふゆもファイトだよ〜」

 

 

 一通り打ち合わせしてまふゆの背中を見送った後は、ボランティア参加者を驚かせる簡単なお仕事である。

 自分が驚くような展開は嫌だけど、今回は仕掛ける側なのでかなり気楽だ。

 

 

「──気楽なんだけど、暇ね」

 

「うん、誰も来ないから暇だねー」

 

 

 まだ肝試しが始まるまで時間があるし、最初のお客さんはまだまだ来そうにない。

 瑞希も私と同じく暇なようで、周りを見渡しては薄暗い森が視界に入って溜息を漏らしている。

 

 

「瑞希、今のうちに聞きたいんだけど」

 

「聞きたいって何を?」

 

「あのさ。瑞希って最近、将来のことで悩んでたりする?」

 

「へ? どういうこと?」

 

「瑞希が心配してくれたのも本当だろうけどさ。私の進路とか彰人達のこととか、心配してる要因が『未来』に偏ってるっぽいの、自覚してる?」

 

「……あっ」

 

「自覚があるのかないのかは私にはわかんないけど、話ぐらいは聞けるよ。話したくないなら、話せるまで待つし」

 

 

 ちょうど暇だったのと、煩くなるような盛り上がり方をするような話題でもなさそうだから、聞きたくなっただけである。

 私が伝えたいことは伝えたので、後は瑞希におまかせだ。

 

 

「……昔は今が楽しければそれで良いやって思ってたんだけどさ」

 

「うん」

 

「最近、ちょっと余裕が出てきたせいなのか、まふゆとか絵名とか。後は弟くん達の話も色々と聞いてると、眩しいなーって思って。楽しければって気持ちのままでいいのかなって、考えてたのが出ちゃったのかも」

 

 

 思い悩んでる顔をしているから何が出てくるのかと思ったら、健全な悩み事だった。

 さっき揶揄われた仕返しに、ニヤリと笑いながら小声で返す。

 

 

「ふーん。いい悩み事じゃん」

 

「いやいや、悩み事にいいも悪いもないでしょ」

 

「自分で悶々と考えても悪循環にしかならない悪い悩み方があるってこと、瑞希が1番わかってるくせに」

 

「それは……はい、仰る通りで」

 

「でしょ」

 

 

 肩を落とす瑞希が面白いけれど、場所が場所なので我慢して。

 私が言えることはあまりなさそうなので、白旗代わりに右手を振る。

 

 

「ま、それなら悩むだけ悩めば? 瑞希ならちゃんと答えが出せるでしょ」

 

「えぇー、聞いてくれるんじゃなかったの?」

 

「今もこれからも話は聞くよ? でも、答えは私じゃなくて瑞希が出すものでしょ。今のあんたはしっかりしてるし、好き嫌いもわかってるんだからまふゆよりは心配してないわね」

 

「それはありがたいというか、まふゆと比べられるのが不本意というか」

 

「瑞希も比べてきたんだし、おあいこでしょ」

 

「うぐぐ。今回ばかりは負けましたよーっだ」

 

 

 勝った。

 しかも、神様か何かが「今日は勝ち逃げしておきなさい」と告げているようで、遠くから足音が聞こえてくる。

 

 

「第一団体さんが来たみたい。準備はいい?」

 

「心の中の悔しさは、このカワイイお化け姿のお披露目で晴らすしかないよね!」

 

「これ、肝試しだから。可愛いのは認めるけど、あんたも作った衣装のお披露目会じゃないからね?」

 

「どっちでもやることは同じだよ、絵名」

 

 

 瑞希が少々暴走気味だけど、打ち合わせ通りの仕事はするつもりなので放っておこう。

 

 ──そうして、何だかんだで肝試し中は特に何もなく、肝試しが終わった後にトラブルがやってきたものの。

 ボランティアも上手くいったらしいし、瑞希の変化も悪くない方向のようだし、私としては文句なしの1日だった。

 

 

 






・えななんの武器
原作様でも触れられてる絵名さんの武器はえななんにも影響あり。
今日、ちょうどイベストが終わったので出しちゃってもいいですよね……?(震え)

・瑞希さんの悩み事
えななんは変なことで悩んでないかと心配していたものの、何もなかったので後は頑張れーっと放流された。
瑞希さん的にはちょっと複雑らしい。



・(余談)
イベストの感想……苦しいことも悩むこともあるでしょうが、何度も未来を描いて、塗って、絵名さんの望む未来を描けるように願って。
絵名さんの未来に幸あれ!



☆次回更新:25時に神高文化祭(絶望成分皆無、エンジョイ文化祭編)の話です。


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