イラスト担当は記憶を無くしました   作:大森依織

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雑っぽいですが、2回目の文化祭だからということで。
前の文化祭回は64話だったらしいですね。随分前で驚きました……





247枚目 神高フェスティバル・リターンズ

 

 

 

 

 

 ──お祭りというのは、日常を非日常へと塗り替える不思議な力がある。

 その不思議な力にかかれば、神山高校も学び舎から文化祭の舞台に早変わり。

 

 出店から香る独特な匂いと校舎を飾る旗や幕。

 校門付近に並ぶ出店と喧騒、大きな看板を横切って大きな時計を仰ぎ見ると、丁度、針が待ち合わせの時間を指し示していた。

 

 

(うわ、時間前に来たと思ったのにギリギリじゃん。早く皆を探さなくちゃ)

 

 

 1回目は1人で乗り込んだけれど、今回は最初からニーゴの皆で回る約束をしているのだ。ゆっくり見回っている余裕はない。

 慌てて誰かいないかと周囲を見渡すと、すぐに探し人──奏とまふゆは見つかった。

 

 

「奏、まふゆ、おはよ! 待たせちゃってごめんね」

 

「おはよう、絵名。全然待ってないよ」

 

「……絵名は今日もギリギリだね」

 

 

 サラッと喧嘩を売り込んできたまふゆの言葉を受け流し、私は改めて周囲を見渡す。

 

 

「あれ、瑞希は?」

 

「えっと」

 

「……」

 

 

 言い淀む奏と、じっとこちら側を見てくるまふゆ。

 おかしな2人に首を傾げていると、突然、視界が何かで覆われて真っ暗になった。

 

 

「だーれだっ」

 

「ちょ、やめてよ。誰だって言われても、瑞希しかいないでしょ!」

 

「あは、だーいせーいかーい!」

 

「だからやめてってば! 正解かなんてどうでもいいっての!」

 

 

 目隠しという馬鹿なことをしてきた瑞希の魔の手から何とか逃げ出し、睨みつける。

 だが、瑞希にはノーダメージのようで、けらけらと楽しそうに笑った。

 

 

「まぁまぁ。正解した絵名にはこれをプレゼント〜」

 

「え、プレゼント?」

 

 

 ニッコリ笑う瑞希から差し出された赤い服。

 もしかして、瑞希はこれを渡すためにあんなことをしたのだろうか?

 

 そんな風にちょっとだけでも気持ちが上向いてしまったのが、よくなかったのかもしれない。

 

 

「何これ」

 

「本気のイカ焼きTシャツだよ」

 

「は?」

 

「だから、本気のイカ焼き──」

 

「聞こえてなかったわけじゃないわよ、ばーかっ!」

 

「あっはっはっ!」

 

 

 瑞希から手渡された赤いTシャツには、達筆な文字で『本気のイカ焼』と書かれていた。

 

 小さく書かれた『3-D』の文字から、神山高校の夜間クラスの3年生がこのシャツを着てイカ焼きを売っていることは理解した。

 ただ、どうしてこのシャツを瑞希が持っていて、態々それを私に渡したのか。その辺の理解を脳が拒む。

 

 

「もう……知らないクラスのTシャツを渡されても困るから。はい、クーリングオフ」

 

「残念、無料の品なのでクーリングオフはできませ~ん」

 

「はぁ、ムカつく反応するわね」

 

 

 にやーっと笑って、両腕で×印を作る瑞希。

 そもそも無料のモノってクーリングオフできなかったのかそんなことなんて覚えていないし、笑顔も相まって余計に腹立つ。

 

 

「ねぇ、まふゆー。クーリングオフって……って、どうしたの?」

 

 

 クーリングオフ云々の話は家庭科の授業やテストで出てきたような気がするけれど、思い出せない。

 こういう時はと横に視線を向けると、何故か反応に困るTシャツをじっと見ているまふゆが目に入った。

 

 

「何でもない」

 

「嘘でしょ。明らかに何かあるって顔してるんだけど、そんなに言いにくいことなの?」

 

「そこまでじゃない。ただ……本気のイカ焼きって、どこまでが本気なんだろうって思って」

 

「え?」

 

 

 ゆっくりと首を横に振ったまふゆの呟きは、周囲の喧騒で聞き間違えてしまったのかと思うぐらいの内容で。

 思わず聞き返してしまった私の目に合わせて、まふゆはゆっくりと口を開く。

 

 

「仕入れ先を厳選したのか、釣りに行ったのか。どこまで本気なのか気になった」

 

「あぁ、うん。そうなんだ、ありがとう」

 

 

 少なくとも、対瑞希にまふゆは頼れないということだけは理解した。

 諦めて視線を瑞希の方へと戻すと、こちらが対応する前に沈没寸前のピンクが視界に入る。

 

 

「くふ、くふふっ。お腹痛い、ふふ。笑い死んじゃうかも」

 

「えっと……話題に出てるし、とりあえずイカ焼きから行ってみる?」

 

 

 何が面白いのか瑞希は大笑いしていて、1人だけ静観していた奏は苦笑している。

 方向性は全く違う笑みを見ていると、頭の中で考えていたあれやそれやが陳腐に感じた。

 

 

(はーあ。なんだか、もうどうでもいいや)

 

 

 何とも言い難い絶妙な赤いシャツは笑い死にそうになっている瑞希の頭の上に乗せて、軽くなった肩を竦める。

 

 

「そうねー。まふゆも気になってるみたいだし、イカ焼きから回ってみよっか」

 

「……別に、イカ焼きそのものは気になってないけど」

 

「はいはい、本気かどうかを気にしてるのは事実でしょ。余計なことは言わないの」

 

 

 ひと言多いまふゆの言葉を受け流し、私達はイカ焼きの屋台へ向かうことにした。

 ……もちろん、笑い死にそうになっている瑞希はそのまま放置である。

 

 

「げほ、げほっ……って、ちょっと! 待って、置いてかないでよ~っ」

 

「瑞希、さっさとシャツを回収して追いかけて来なさいよ」

 

「ちぇー、絵名へのプレゼントは失敗かぁ。似合うと思ったんだけどなー」

 

 

 ……馬鹿瑞希はまだ、ふざけたことを言う余裕が残っているようだ。

 懲りていないのであれば、こちらにも考えがある。

 

 

「瑞希はまだ忙しいみたいだし、3人で文化祭を回ろっか」

 

「えっ? い、いいのかな……」

 

「私はどっちでもいいけど」

 

 

 私は態とらしくニッコリ笑顔をお馬鹿さんにプレゼントして、奏とまふゆを連れて行く。

 

 

「あーっ、ちょっ。ごめんなさい、反省してますから! だからボクを置いてかないでーっ」

 

 

 お祭りで浮かれているのかは知らないけれど、調子に乗っている奴は少しぐらい反省すればいいのだ。

 ……逸れたら大変だから、反省の為に置いていくのもほどほどにしてあげるつもりだけど。

 

 

 

 

 

 

☆★☆

 

 

 

 

 

 

 最初に太い釘を刺したおかげで舞い上がっていた瑞希も、いつもより少しだけテンションが高いまま学校を回ることができた。

 

 出店から始まって、去年は参加しなかった体育館のクイズ大会に4人で行ってみたり。

 彰人達のクラスの出し物や天馬さんがかなり印象に残ったクラス劇を見に行った後は、瑞希達のクラスが準備した謎解きにも挑戦してみた。

 

 こっちにはまふゆもいるし、瑞希と冬弥くんが謎を考えたって言うし、瑞希の癖から謎を解いた……つもりだったのだけど。

 

 

「いやぁ。残念だったねー、惜しかったねー」

 

 

 ニヤニヤと笑いながら煽ってくる瑞希を見れば誰でも理解できるだろう。

 私の予想はものの見事に外れて、瑞希にウザ絡みされていた。

 

 

「……なぁに? 瑞希ってば、私の気持ちの籠った握り拳を受け止めてくれるの?」

 

「あっ、いや。それは遠慮しておこうかなーって」

 

 

 当然のように煽ってきた瑞希を暴力をチラつかせて撃退し、溜め息を1つ。

 見事にしてやられたのでほんの少し、ほんとーに少しだけ悔しかったのだけど、私は心が広い方だし? 今回は瑞希に勝利を譲ってあげよう。

 

 

(あれ、奏とまふゆは?)

 

 

 近くにいない焦りを胸に周囲を見渡すと、少し離れた場所で2人揃って立っていた。

 私と瑞希が言い合うと思ったのか、巻き込まれないように避難したらしい。

 

 

(私を何だと思ってんのよ……まぁ、ちょうどいいか)

 

 

 2人がタイミングよく離れてくれたし、もういいだろう。

 

 

「それで。今日は随分と浮ついてるみたいだけど、何かいいことでもあったの?」

 

「えっ、そう見える?」

 

「まぁね……でも、言いたくないなら言わなくていいから」

 

 

 念の為に予防線を張ると、瑞希は慌てて首を横に振る。

 

 

「言いたくないってわけじゃないんだ。ただ、そんなにわかりやすかったかなって」

 

「そりゃあね、いつも以上にウザかったし」

 

「それは……ごめん」

 

「その辺は私も仕返したからおあいこね。それで、どうするの?」

 

 

 話のバトンを投げると、本当に抵抗がなかったらしい瑞希はあっさりと口を開いた。

 

 

「別に周りの状況も何も変わってないんだけどさ。今年の文化祭は準備も当日も純粋に楽しくて、それがすごく嬉しかったんだ」

 

「ふぅん、そっか。瑞希が楽しめてるのならよかったよ」

 

「うん。これも皆のおかげだよ、ありがとう」

 

「気持ちは受け取るけど、瑞希も逃げずに向き合ってくれたからってことは忘れないでよね」

 

「絵名……本当に、ありがとう」

 

「はいはい、どういたしまして。私はもう十分だから、あんたがお世話になってる人達にも言ってあげてよ」

 

 

 スッキリとした綺麗な笑顔でお礼を言われると、なんだか照れ臭くなってしまう。

 何となく顔を手で煽っていると、瑞希が意を決したように震えた声を出した。

 

 

「あのさ、絵名にお願いがあるんだ」

 

「お願いねぇ……それ、無茶振りじゃないよね?」

 

「違う違う! フェスが終わった後、後夜祭前にちょっと付き合って欲しいんだよ! ……それが無茶だって言うなら、あれなんだけど」

 

 

 最後には消えそうなぐらいのトーンや眉を下げる顔から、ひしひしと申し訳なさを感じる。

 

 

「それって、どうしても今日の方がいいの?」

 

「できる限り早い方がいいかな。2年生になって同じクラスになってからもそうだけど、文化祭でもお世話になりっぱなしだったから、どうしてもね」

 

「ふぅん……話を聞いてる感じ、クラスメイトが困ってるんだよね? それ、私がどうにかできるかなぁ」

 

 

 瑞希に頼られるのは悪い気はしないけど、私はお悩み相談のプロでも何でもない。

 できないこともあるんだけども、瑞希はそうは思っていないようで自信ありげに頷いた。

 

 

「大丈夫、だいじょーぶ。絵名の得意分野だから」

 

「得意分野? 絵とかの悩み事?」

 

「違う違う。弟くんのことで話を聞いて欲しいんだよ」

 

 

 弟くん。

 私の弟、といえば1人しかいないけど。

 

 

「いや、何で瑞希が彰人のことを?」

 

「ボクというか、冬弥くんが弟くんのことで悩んでるみたいでさ。相談に乗るなら、専門家の意見も聞きたいなーって」

 

「はぁ……?」

 

「そういうことで、時間をもらってもいいかな?」

 

「話を聞くぐらいなら、聞いてあげなくもないけど」

 

 

 頭の中には未だにクエスチョンマークが列を作って、大縄跳びよろしく飛び跳ねているけれども。

 

 ただ1つだけ、敢えて言えることといえばだ──私はあいつの姉なだけであって、専門家ではないってことだけである。

 

 

(というか、彰人のことなら冬弥くんの方が専門家でしょ)

 

 

 彰人の相棒であり、数々の困難を乗り越えてきた冬弥くんが外野に相談したいぐらい、彰人のことで困ってるなんて。

 

 ……あいつってば、何をやっているのやら。

 

 自分から首を突っ込む気は無いけど、今回は持ちかけられたのでノーカウントということで。

 ほんの少しだけ、いや、爪の先ぐらいは気になってしまったし、瑞希の話に乗ってみることにしよう。

 

 

 

 

 

 

 







余裕があれば、視野も心も広くなる。



・瑞希さん
解放されて時間が経っているので、今年の文化祭はそれはもうエンジョイしていた。
その間に冬弥君とよく話す機会があり、文化祭の準備でも授業のノートもお世話になってるし、絵名みたいに何かできないかなーと思って動いてみたものの。
悩み事の内容が弟くん案件だったので、専門家のえななんにヘルプを求めた。

・えななん
ちょこちょこ触れていたことからわかるように、実は弟がぼーっとしてるのを気にしていたツンデレさんなので、すぐに話に乗った。
本人は『あいつの専門家ではないし!』と強く否定しているけれど……?

・冬弥君
相棒の不調には思うところがあるらしく、今回は距離感があるのに懐に入るのが上手な瑞希さんにぽろりと溢してしまった。
えななんによると『冬弥くんが真の東雲彰人専門家』とのこと。



更新予定……25時、日時は未定で。
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