イラスト担当は記憶を無くしました   作:大森依織

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続く言葉は想像にお任せします。







248枚目 本気の……

 

 

 

 

 一般来場者が帰る時間が近づき、ポツポツと解散していく中。

 まふゆや奏と別れた私は、合流した瑞希に連れられて屋上に来ていた。

 

 

「……まさか、このTシャツを着ることになるなんてね」

 

「ふふふ。絵名、似合ってるよー。ナイス、本気のイカ焼き!」

 

「ぜんっぜん、嬉しくないんだけど!」

 

 

 悩み相談をしている間に一般来場者が滞在できる時間は過ぎるだろうということで、今回も神高生に紛れるために服装から誤魔化すことになった。

 

 その結果、返したはずの赤色のTシャツが私の元に戻って来たのである。

 ……実は呪いの装備だったりする、これ? と、思わず言いたくなるほどだ。

 

 

「はぁ。で、私はここで待ってたらいいの?」

 

「そうだね。クラスTシャツにスカートも貸したから、そう簡単に部外者バレはしないと思うけど……冬弥くんを連れてくるまで、隠れて待っててよ」

 

「了解、私もバレたくないから早くしてね」

 

 

 こんな絶妙な服を着ているところを誰かに、しかも知り合いに見られるなんて……考えたくもない。

 私が早まってしまう前に、瑞希には冬弥君を連れて来てもらわないと。

 

 

「って、あれ?」

 

 

 声を出してから訪れる遅過ぎる気付きと、ツーッと汗が流れるように冷たくなる背中。

 

 

(このままだと冬弥くんに、このシャツを着た私を見せることになるよね?)

 

 

 今更、悪い未来が頭の中を駆け巡る。

 見知らぬ男子生徒達が入って来て、息を潜めている間もぐるぐると巡るのは同じ思考ばかり。

 

 引くこともできず、進むことすら地獄行き。

 気がついた時にはもう遅く、今更逃げようにも人がいてどうしようもない私は、残された時間で覚悟を決めるしかなかった。

 

 

「──おーい、絵名ー。連れて来たよー」

 

(えっ、もうそんな時間!? ……うぅ、どうにでもなれ!)

 

 

 この服は私が選んだものでもないし、冬弥くんなら服装には触れてこないはず。

 頭の中では言い訳を並べ立てていたけれど、瑞希達の前に出た私は殆ど自棄だった。

 

 

「久しぶり、冬弥くん。屋上まで来てくれてありがとう、瑞希が無理矢理連れて来たとかじゃなければいいんだけど」

 

「そんなことはありませんよ。話を聞かれた時はその、少し迫られましたが」

 

「……瑞希?」

 

「あー、えっと。えへへ?」

 

「はぁ。えへへじゃないでしょうが」

 

 

 てへ、と瑞希は可愛らしく誤魔化そうと試みているけれども。

 冬弥くんがストレートにこんなことを言うなんて、少しとは表現し難い強引さがあったのではないだろうか。

 

 どこまで根掘り葉掘り聞いたのやら、思わず瑞希を半目で見てしまう。

 

 

「冬弥くんが悩んでるみたいだし、ボクだって絵名みたいにズバッと解決したかったんだけどね……」

 

「私が言うのもアレなんだけど。参考にする相手を間違えてるわよ、それ」

 

 

 私の解説方法なんて基本は『強行・突破・爆破』みたいな力技である。

 瑞希の持ち味を殺すような真似をしたら、瑞希も冬弥くんも不幸だろう。

 

 

「冬弥くん、本当にごめんね。このバカの暴走に巻き込んじゃってさ」

 

「いえ……暁山に言われてから考えたので。お言葉に甘えて、少し相談に乗ってもらってもいいでしょうか?」

 

 

 今回の冬弥くんの件には運良く瑞希の暴走が噛み合ったようだ。

 神妙な顔で話し始める冬弥くんに、私と瑞希は素直に耳を傾けた。

 

 

 

 

 

☆★☆

 

 

 

 

 

「ふんふん、なるほどねー。それにしても、いつもやる気満々の弟くんが調子悪いなんてね」

 

 

 冬弥くんが話してくれた内容を最後まで聞き、瑞希は目を丸くした。

 最近、気の抜けた彰人の姿を見ている私からすると答え合わせみたいなものだけど、普段の彰人の姿しかしらない瑞希からすると意外だったらしい。

 

 ──彰人の不調は『あの日の夜』とたまに彰人が漏らしていた凄いライブを越えるようなモノを、彰人達がついに成し遂げてからだという。

 

 外野の私から見てもかなり気持ちが傾いていたみたいだし、冬弥くん達が『さぁ、次は世界を見に行くぞ!』と目標を掲げても上手く気持ちが切り替わらないようで、本人も周りもわかるぐらい調子が狂ってしまったようだ。

 

 そんな様子を1番近くで見ている冬弥くんはというと、彰人が自分で乗り越えることを信じて待つことを選んだ。

 そこまでは特に問題がなさそうに聞こえるのだけど……冬弥くんは何やら悩んでいるらしい。

 

 

「浮かない顔だけど、冬弥くんは何を悩んでるの?」

 

「それは……彰人を信じて待つことを選んだのに、これでいいのか迷っている自分にです」

 

 

 待つことも待たないことも間違いではないと、個人的には思う。

 だけど冬弥くんはそう思っていないらしく、へにゃりと眉を下げて苦しそうな顔をしている。

 

 

「うーん。これでいいのかなって迷うのは、普通のことだと思うけど」

 

「絵名さん、ありがとうございます。ですが、信じて待つと決めたことに悩む理由なんて、俺が彰人が立ち直れないと疑っているんじゃないかと──」

 

「いやいやいや! ボク、それは違うと思うな!」

 

「……暁山?」

 

「待ってもらうのは申し訳なくもあるし、焦っちゃうこともあるけど……凄くありがたいことなんだよ。でも、それは待ってもらう側の話であって、待つ側の人の話じゃない」

 

 

 瑞希が被せるように発言するなんて珍しいと思ったが、後の言葉でその理由に思い至った。

 

 待つことと、待たないこと。

 それは瑞希にとっても私にとっても、すごく大切なことだ。そのことで冬弥くんに否定の言葉を使って欲しくないのは同意である。

 

 

「私も、冬弥くんは彰人を疑ってるわけじゃないと思うな。冬弥くんにとってもあいつは相棒ってヤツなんでしょ? だったら、待つなんてまどろっこしい真似なんてしないで、素直に頼って欲しいし自分が力になりたいよね」

 

「……まどろっこしいなんて思うのは絵名だけだろうけどね~」

 

「瑞希、うるさい」

 

 

 揶揄ってくる瑞希を黙らせて視線を戻すと、ポカンとした顔の冬弥くんが目に入った。

 

 何か……いや、相談に乗ってるのに意図せずにいつものやり取りをしてしまったけれども。

 それが良くなかったのか。恐る恐る「冬弥くん」と名前を呼んでみると、急に頭を下げられた。

 

 

「暁山、絵名さん、ありがとうございます」

 

「おっと、その様子だと答えは出たのかな?」

 

「あぁ、暁山達のおかげだ。俺はどうやら──彰人の力になりたいし、頼って欲しいと思っていた自分の気持ちを無視してしまっていたらしい」

 

 

 瑞希の問いかけに冬弥くんは薄っすらと笑みを浮かべる。

 

 

「俺が待っていてもきっと、彰人は今回の件も乗り越えていける強さがある。それが事実だったとしても、音楽をやめようとした時も俺を引っ張ってくれた相棒に、俺は頼ってほしいと思っているようだ」

 

「うんうん、答えは出たみたいだね~。じゃあ、後は突撃の天才から助言を受けちゃお~」

 

 

 じゃじゃ~ん、と言いながら瑞希の両手が指し示すのは私だ。

 ……誰が突撃の天才か。そうツッコミたいところだけど、今は真面目な話の途中である。

 

 抗議の視線と咳払いを瑞希に送りつつ、期待するような眼差しを向けてくる冬弥くんへ視線を向けた。

 

 

「天才云々は知らないけど、とりあえず前提の話をするよ?」

 

「よろしくお願いしま~す♪」

 

「ごほん! えっと、彰人の状態なんだけど、冬弥くんが話してくれた内容と家でのあいつの様子を見るに……イベントの後で燃え尽きちゃったような状態に近いんだと思う」

 

「燃え尽きてるって、じゃあ弟くんが調子を取り戻すには……」

 

「うん。冬弥くんには彰人が復活できるぐらい、盛大に放火してもらわなきゃいけないわね」

 

「放火、ですか。彰人を本当に燃やすわけにもいかないし、どうしたら……」

 

 

 えぇー、と呆れた目をしている瑞希は無視して、私は天然なことを考え込んでいる冬弥くんに声をかける。

 

 

「新しい環境に飛び込んだら、彰人のことだし……放っておいても勝手に目標を見つけて、それに向かって燃え上がるよ」

 

「ええ、俺もそう思います。ですが」

 

「力になりたい、だよね。だったら、冬弥くん自身が彰人にぶつかって、火をつけるしかないと思う」

 

「彰人に火を……俺に、できるでしょうか」

 

「冬弥くんが力になりたいというのならやるしかないよ。俺が燃やしてやるって気持ちで、彰人に火がつくまで諦めないで」

 

 

 ……もしかしたら、冬弥くんは自分から彰人に強くぶつかりに行ったことが少ないのかもしれない。

 こういうのは性格的に向き不向きもあるし、彰人が私に似ているならば相棒である冬弥くんが不得意分野であるのも無理はないか。

 

 

「まぁ。あくまで私ならそうするってだけであって、別に他の方法を探しても──」

 

「いえ、やります」

 

 

 いいんだよ、と言う前に食い気味に言い切られてしまった。

 

 どうやら、気を遣い過ぎだったらしい。

 彰人の相棒としてずっと歌ってきた冬弥くんの目は力強く、私が何かを言わずとも覚悟を決めていた。

 

 

「歌によって鎮火してしまったのなら、また歌で火を付ければいい。今度は俺が、彰人にしてもらったように」

 

 

 ここまでハッキリとしているのであれば、もう私ができることは殆どない。

 

 ミッションコンプリート、お疲れ様でした。

 そんな気持ちだったのに、何故かやり切った私の両肩を握る手があった。

 

 

「……あの、瑞希?」

 

「絵名、作戦会議はこれからだよ」

 

 

 振り返れば、にっこりと笑う瑞希の姿が。

 どうやら私はまだ、このシャツから逃げられないらしい。

 

 

「……また後日ってことにはできない?」

 

「どうせなら今、熱いうちにやった方が良いと思うけどな~」

 

 

 それはわかる。いつもなら私の方から動いていただろうし、瑞希の言葉も間違いではない。

 だけどやっぱり、このシャツを着たままっていうのが気になってしょうがない!!!

 

 

「絵名さん」

 

「うっ、せめてシャツだけ変えられない?」

 

「えー。身バレリスクを下げたいし、鉄は熱いうちに打てって言うじゃん」

 

「言うけど。言うけどぉ……」

 

 

 冬弥くんの視線と瑞希の口車に乗せられて、最終的に私が折れた。

 ……その結果起きた最悪の出来事なんて、もう言わなくてもわかるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──お、おう。色々と言いたいことがあるが、何でそのシャツを選んだんだよ……?」

 

「ぅぅ、お願いだから見ないで。この服のことも触れないで……」

 

 

 階段を降りて真っ先に彰人()に見られるなんて、穴があったら入りたい。

 穴がなくても今すぐ掘ってでも穴の中に入りたかった。

 

 

 







・冬弥君
誰よりも近くで相棒を信じてるからこそ待つことを選んだものの、相棒だからこそ相手のことを考えてしまうのは当然のこと。
そこを瑞希さんに見破られて、自分も自覚していなかった本心を引き出された……今回はそんな形です。

・瑞希さん
悩み事も何もなくなったスーパー瑞希さんが、文化祭の準備という長い時間一緒にいる相手のちょっとした悩みを見逃すわけもなく。
よーし、ボクも解決しちゃうぞ〜と意気揚々と話を聞こうとしたところ、難しそうな香りがしたのでえななんにヘルプを求めた。てへ。

・彰人君
何でこんな時間に姉貴(こいつ)がここに、とかも思ったけど1番気になったのはシャツだったらしい。
お前、何やってんだよ……

・えななん
見ないで、(こんな状況)理解できないでしょう?
本気のイカ焼きの運命からは逃れられなかったよ……



次回更新:どこかの25時に彰人君と冬弥君が……?

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