イラスト担当は記憶を無くしました   作:大森依織

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光あれば影もある。





249枚目 光ある未来に進むということは

 

 

 

 

「あ、弟くんも挑発に乗ったみたいだね。よーし、冬弥くん、頑張れーっ!」

 

「えぇ……?」

 

 

 絵画教室の帰り道に、小声で何かを呟いている不審者がいた。

 

 しかも昨日も顔を合わせた同じサークルのメンバーである。

 正直、知らない人だった方が嬉しかったのだけど、よく知るピンクだったのだから仕方がない。

 

 

「何やってんのよ、瑞希」

 

 

 何かから隠れている不審者──もとい、瑞希に声をかける。

 すると瑞希は慌てて口元に人差し指を当てながら、激しく手招きしてきた。

 

 

「ちょ、絵名!? 今いいところなんだから早くこっちにきて隠れてよ! あと小声でね!」

 

「……小声なのに叫んでるのがわかるなんて、器用なことするわねー」

 

 

 こっちが呆れているのにも気が付いていない瑞希に従って、私も隣に身を顰める。

 言われるがままに視線を向けると、そこには彰人と冬弥くんが向かい合っていた。

 

 

「で、あの2人は何してるの?」

 

「この前話してたこと、もう忘れたの? 冬弥くんと弟くんの一騎打ちの歌合戦だよ!」

 

「少なくとも、一騎打ちとは言ってなかった気がするけど」

 

 

 私がいないところで話をしているのなら知らないが、それはいいとして。

 

 

「冬弥くん達が歌ってる理由は理解できたわ。で、何で瑞希は不審者みたいなことをしてるのよ?」

 

「不審者っていうのには異議があるんだけど、強いて言うなら……敵情視察?」

 

「はぁ?」

 

 

 もっとマシな言い訳がなかったのだろうか。

 そんな思考が漏れていたのか、瑞希は「まぁまぁ」とこちらを宥めつつ、スマホを差し出してくる。

 

 瑞希のスマホには見慣れた──というか、彰人達がどこかのライブハウスで歌っている姿が流れていた。

 

 何かのイベントを撮影して投稿した動画らしい。

 再生回数は3桁万回。音は出ていないけれど、引き込まれるものなのだろうというのは何となく感じる。

 

 

(とはいえ、いくら素材がいいからってMVでもない動画で、投稿1本目からこの再生数は出来過ぎだし……余程導線が良かったとか?)

 

「絵名?」

 

「ごめん、ちょっと考えてた」

 

「ってことは……絵名もコレ、気になった?」

 

「気にならないとは言わないけど、あんたの敵情視察ってのも言い過ぎでしょ。冬弥くん達が気になってるのは別の理由じゃない?」

 

「あはは、バレた? この動画の歌を聴いてちょっとファンになっちゃったから、聴きたくなったんだよねー」

 

「そんなことだろうと思った」

 

 

 敵扱いするにはニーゴとこの動画の条件も状況も違うし、聴きたくなったと言われた方がミーハー気質のある瑞希らしい。

 

 

「あんたらしい理由だけど、覗き見していい理由にはならないわよ」

 

「でも、とある界隈の有名人の歌勝負だよ。絵名だって気になるでしょ?」

 

「有名人であろうが気になろうが、後は冬弥くん達の問題でしょうが。ほら、そんなところで野次馬してないで帰るわよ」

 

「えー……って、あれ? なんか人が増えてない?」

 

「公園なんだから人の1人や2人ぐらい増えるでしょ」

 

「それもそうなんだけど、顔が洋風というか。ジャパニーズピーポーじゃないというか」

 

「はぁ。言い訳するならもっと賢い言い訳にしなさいよ……って」

 

 

 瑞希の指先を伝って視線を前に向けると、彰人達の前に絵画や洋画に出てきそうな金髪男子2人組が増えていた。

 

 

「……確かに、洋風って感じね」

 

「でしょでしょ! それにしても、あの2人と弟くん達ってどんな関係なんだろ」

 

「さぁ……歌ってるところに乱入する仲っぽいけど」

 

「それは見たままの状況を説明してるだけだねぇ」

 

 

 瑞希が肩を竦めているけれど、私が弟の交友関係を詳しく知っているわけがない。

 4人が歌っている所を見て私がわかることなんて限られている。

 

 

「彰人って、本当にスランプなんだね」

 

「え? でも周りの人達に負けてないぐらい凄いよ?」

 

「不本意だけどそこは私も認める。でも……思うように歌えてないのか、1人だけ苦しそうなんだよね」

 

「苦しそう、かぁ。流石はお姉ちゃん、弟くんのことをよく見てるね~」

 

「その言い方、ムカつくからやめて」

 

 

 瑞希とじゃれあいをしている間にも、4人が互いに歌っている声が聞こえてくる。

 

 最初はタッグ戦に聞こえてきた歌合戦だけど、よく聞くと四つ巴状態らしい。

 耳だけでなく目も公園の方に向けて見えるのは、やっぱり思うように歌えてなさそうな彰人の姿で。

 

 

(まだ道の先を進むつもりなら……そんなところで燻ってんじゃないわよ、彰人)

 

 

 部外者である私には、どれだけライブとやらに想いを込めていたのかも、歌への気持ちの大きさもわからない。

 ただ──ここで対抗できないのであれば、近いうちにサッカーみたいになるかもしれないと、外野の私も思ってしまって。

 

 瑞希が見せてくれた動画のライブで終わるつもりがないのなら、彰人がまだ先に進むつもりならば。

 冬弥くんや2人組に煽られてもなお、燻ってる彰人の姿は見たくないっていうのが本音だ。

 

 

(まぁ、でも……これも余計なお世話だったみたい)

 

 

 気が付けば、苦しそうだった彰人の瞳に火がついていた。

 それはほんの少しの小さな火かもしれないけれど、不思議と消えないだろうなと感じるぐらいしっかりと燃えているように感じる。

 

 相棒か、新たなライバルか。それとも何か目標でも見出したのか、私にはわからない。

 私がわかるのは──もう大丈夫ってことだけだ。

 

 

「瑞希、帰るわよ」

 

「えーっ。弟くんも盛り上がってきて今、良い所なのに?」

 

「だからこそでしょ。私達は場違いすぎるし……そろそろ、描きたくなってきたからね」

 

「……へぇ、そっか。それならしょうがないよねー、うんうん。早く帰ろっか♪」

 

 

 急にニヨニヨと笑い始めた瑞希の額を指で突き、私はその場から離れる。

 後から小声の抗議が聞こえてきたものの無視し、彰人達にバレないように公園付近から抜け出した。

 

 

「それにしても。弟くん達もすごかったけど、海外組っぽい2人も涼し気な顔で対抗してたよね。有名人だったりするのかなぁ」

 

「さぁね。ネットで話題になってたら出てくるんだろうけど、検索するヒントもないし」

 

「はは、だよねー。本当に世界って広いなぁ」

 

「そうねー」

 

 

 特に考えることもなく瑞希の会話に応じている視界にふと、見知った2人の背中が見える。

 

 

「あれ、奏とまふゆじゃない?」

 

「うん、ボクもそう思う。こんなところでばったり会うなんて、世間は狭いねぇ」

 

 

 世界は広いけども、世間は狭いと。

 

 ……一体何を考えているのやら。

 くだらないことを考える頭を切り替えて、前を歩く2人に声をかけた。

 

 

「奏ー、まふゆー」

 

「おーい、2人とも。後ろ、後ろだよ〜っ」

 

 

 瑞希も声がけしてくれたおかげで、並んでいた背中が立ち止まる。

 

 

「あれ、絵名と瑞希? こんなところで会えるなんて思わなかったな」

 

「奏がそれを言うんだね。どちらかというと、それはあっち側の感想なんじゃない?」

 

「えっ……」

 

 

 声をかけただけなのに、奏が言葉のナイフで刺されているのは何故なのだろうか。

 おかげで2人の元へすぐに辿り着けたけど、瞬きする回数が増えた奏を見ていると少し可哀想だった。

 

 

「ボクらはちょっと野次馬してきたんだけど、奏とまふゆは何してるの?」

 

「朝練が終わって帰ってたら、荷物を持ってフラフラの奏に会っただけ」

 

「わたしは買い物帰りにまふゆに助けてもらってたんだ。それにしても、野次馬って?」

 

「私は野次馬してないから。瑞希に巻き込まれただけだからね?」

 

 

 何か言いたげな視線を向けてくる奏とまふゆに、首を振って否定する。

 絵画教室の帰りで偶然居合わせただけなのに、野次馬仲間にされるのは嫌だ。

 

 

「そうそう、2人はこの動画を見たことある? 絵名の弟くんとかが歌っててすごいんだよ!」

 

「確か、ストリート音楽だっけ? 結構再生されてるんだね」

 

「実際、生歌も凄かったよー。奏には馴染みのないジャンルだし、新しい刺激になるかもね」

 

「そっか……えっと、まふゆは興味ある?」

 

「私は……皆となら聴いてもいい」

 

「お、じゃあ決まりだね! 帰ってからセカイに集合して、皆で動画の観賞会だー♪」

 

 

 急に決まった予定に、瑞希以外の3人で顔を見合わせたものの。

 まぁそんな日もあるかと頷いて、この日はそのままこの場を解散したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《???》

 

 

 

 ──誰もいないセカイの湖にて。

 

 偶然、バーチャルシンガーすらいなくなった瞬間に、開かなかったはずの扉がゆっくりと動いた。

 

 扉から吐き出されるように現れたのは、輪郭すらボヤけていて何者かわからない真っ白な人影だ。

 セカイに現れた人影は扉が閉まるのと同時に倒れ込み、暫くの間、地面に伏していた。

 

 

【……んん。あれ?】

 

 

 数分か、数十分か。

 誰かがやって来ない程度の時間で体を起こした白い人影は首を傾げる。

 

 

【えっと、あー、俺? それとも僕? ううん、違う……あぁ、そう。わたしは、わたしだったね】

 

 

 悩ましげな声を出していた白い人影は1人で納得し、また唸る。

 

 

【うーん。あの日、わたしはやっと終われたはずなのに。どうしてあの子の大切な人のセカイにいるんだろう?】

 

 

 白い人影は周りを見渡して、今度は反対側に首を傾ける。

 あっちへウロウロ、こっちへフラフラと湖の周辺を歩いていた人影はふと、小さな木の前で足を止めた。

 

 

【あぁ……わたしの存在が許されているのは、これのせいかな】

 

 

 木にはほんの少し黒い欠片がついていて、白い人影が何をしても払えないどころか、ほんの少しずつ増えてしまっている。

 黒い欠片に触れた人影は、その欠片の本質にすぐに思い当たった。

 

 

【もしもだとか、やり直せたらとか……そんなことをちょっと考えてしまったのかな。本当に、何で人間ってどうしようもないことを考えるなぁ】

 

 

 白い人影は悪態をついてから、慌てて首を横に振る。

 

 

【あっ……ダメダメ、悪いところが出ちゃった。光なんてあればあるほど、ふとした瞬間に暗闇が気になる時もある。人間だもの、しょうがない】

 

 

 すでに人影のようなイレギュラーが発生しているのだ。

 この黒い欠けらは容赦なく、良い方向に進んでいる4人を巻き込んでしまうだろう。

 

 

【でも、大丈夫だよね。だって、君達はあの時のわたしを終わらせたんだから】

 

 

 これは、ほんの少し……光に進む彼女達を羨んだ小さな暗闇が手を伸ばしているだけだ。

 散々、手を出してきた側の存在が心配するようなことではないだろう。

 

 

 

 

【終わりの時間が来るまでっていう、ほんの少しの間だけど。また、キラキラした人のことを見れるんだね。また間近で見れるの、嬉しいな……】

 

 

 

 

 








・???
何だか知らないけどまた近くで見れるらしいし、今度は特等席で応援しなきゃ……!
わたし以外に負けるなんて許さないんだからね!


・えななん
どう考えても地雷イベストです、ありがとうございました。



次回より、オマケ・後日談最終イベスト・ワールドリンクイベント2回目の範囲が始まります。

254話でオマケ更新も終了予定ですので、残り5話ほど。
どうぞ、よろしくお願いします。


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