イラスト担当は記憶を無くしました   作:大森依織

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原作では一応、歌の練習をしてるサブストーリーがあるので、記憶喪失えななんにも練習してもらいましたって話です。



29枚目 しんぱいごと

 

 宮女は高校3年生、特に受験生に優しい高校らしい。

 

 その理由は比較的春から夏にかけてイベントが目白押しで、秋から冬は基本的に文化祭以外はないというところから言われている。

 

 つまり、何が言いたいのかというとだ。

 

 

「5月に体育祭、テスト。6月に合唱祭、テスト! その間にも小テスト、抜き打ちテストって……5月から6月までバカみたいに忙しいの! ウチの学校、ちょっとおかしいわよ……!」

 

『わー、えななんがご乱心だ』

 

「そりゃあご乱心にもなるわよ。だって1年生は夏休みを削って臨海学校もあるし、絶対に頭おかしいでしょ、こんなの!」

 

 

 Amiaの揶揄うような言葉に乗っかって、私は不満を爆発させた。

 

 意地でも絵を描く時間を作っているけれど、こんなにイベントが目白押しだと平日を乗り越えた頃には倒れるんじゃないかってぐらい忙しい。

 

 私が病弱だったら倒れていた。風邪ひいて家から出れなくなっていた。

 

 若さに甘えて無理させたらいけない。学校はイベントを見直すべきだ。

 できることなら、議論に出してこいと先生達に直談判したい。

 

 

『雪は文句も言わずに毎日を過ごしているのに、えななんってば我儘だなぁ』

 

『ふふ。でも、えななんの言うこともわかるよ。私は内部進学(エスカレーター)組だから慣れてるけど、高校から入った子達は慣れるのが大変だって聞くし』

 

 

 Amiaの言葉に雪は一応、フォローは入れてくれるみたいで。

 画面越しではあるものの、Amiaの「へぇ」と感心するような声が聞こえてきた。

 

 

『えななん達の高校って結構大変なところなんだね。ボクには無理そうだよ』

 

「Amiaも高校を選ぶ時は気をつけなさいよ。私だって、自分の行ってるところが厳しくなければなぁ……」

 

『えななん』

 

 

 堂々とサボれたんだけど、と言おうとして、雪から声がかけられる。

 

 あれ、おかしいな。

 相手は目の前にいるわけでもないのに、何故か威圧感を感じるような?

 

 謎の感覚を前に、私は自然と背筋を伸ばす。

 すると、優等生キャラを作っている時の雪を考えれば、結構ギリギリを攻めてそうな低い声が聞こえてきた。

 

 

 

『サボりはダメだよ。ね?』

 

「……はい」

 

『わぁお、えななんも雪には形無しかな? 頸を掴まれた猫みたい』

 

「誰が抵抗できない小動物よ!?」

 

『誰もそこまで言ってないんだけどなぁ。えななんの怒りんぼ〜』

 

「こいつぅ……」

 

 

 私が雪の言うことを黙って聞いてるからって、この態度。

 目の前にいたらどんなカワイイ顔でもムニムニと揉んで不細工に変形してやるのに、ボイチャしか繋がりがないなんて。

 

 悔しさで体を震わせつつも、私は本題を話した。

 

 

「本題はそこじゃなくてさ。テストは自分で何とかするとしても、問題が別にあるのよ」

 

『ほうほう。えななんはテスト、どうにかなるんだ? 絵ばかり描いて、雪に泣きついてそうなイメージあるのにねー』

 

「は? そんなのしてないんですけど」

 

 

 Amiaの私への印象が些か悪い気がする。

 

 確かに高校になって勉強のレベルが上がって面倒だとか、宿題増えて小テストも増えて嫌らしいとか色々言っているけれども。

 

 さて、どうやって言葉だけでAmiaを納得させようかと頭を悩ませていると、意外なところから助け舟が出てきた。

 

 

『えななんの中間テストの点数を見たけど、悪くなかったよ。宿題もやらないって言いながら全部揃えてるし、普段から頑張ってるんだろうね』

 

『あんなに宿題とか文句言ってるのに、意外だなぁ。これもまた、ツンデレの一種?』

 

「ツンデレじゃないし。そもそも……テスト見せた覚えないのに、何で雪は私の点数を知ってるわけ?」

 

『あれ、えななんは知らないの? 自分の学年なら他の子のテストの合計点数や順位は職員室で確認できるよ』

 

「えぇっ、そうなの?」

 

 

 そんなの初耳なのだが。

 たまに話を聞いていないことはあっても、そんな話を聞き逃すようなことはないはずなのに。

 

 

『あぁ、外部生は先生か内部生に聞かないと知らないのかな。他にもいくつかそういうのがあるから、今度教えるね』

 

「本当? 助かるー」

 

『はいはい、盛り上がってるところ申し訳ないんだけどさー。話をズラしたボクが言うのもなんだけど、えななんの言う『問題』って何なの?』

 

 

 ボク、それが気になっちゃって、とAmiaが笑いながら軌道修正してくれて、私は自分が考えていたことをようやく思い出した。

 

 

「あぁ、そうそう。私、最初に合唱祭もあるって軽く触れたじゃん?」

 

『テストの間に挟まる合唱祭?』

 

「そ、テストに挟まる厄介な合唱祭。あれが本当に厄介でね」

 

 

 入院前の絵名は知らないけれど、それ以降はずっと絵だけに集中していて、歌のうの字も知らない私だ。

 

 音楽の授業だってそこまで真剣に取り組んでないし、突然、『さぁ、歌いましょ〜』とか《ドレミのうた》みたいに言われても困るわけで。

 

 

『別に学校のイベントなんだから、合唱祭でもほどほどにしたら良いんじゃないの?』

 

「Amiaの言う通りにしたいのは山々なんだけど、なーんかウチのクラスの合唱祭のリーダーが張り切っちゃってて。歌えない子は部活とか関係なく、居残り練習だーとか言ってくるのよ」

 

 

 言うのは勝手だが、こちらとしてはそんなことをされると、堪ったものではない。

 

 しかも、ウチのクラスは音楽系の部活の子が多かったらしく、意外と乗り気の生徒が多かったのだ。

 まふゆが私も含めたやる気のない生徒の嫌そうな顔を見て、何度か軌道修正を試みてくれたものの、流れが強過ぎて優等生パワーも敵わず。

 

 結局、難しめの曲を歌うことになった上に、居残り練習をしてまで頑張ることになってしまった。

 

 

「1億歩ぐらい譲って、自分で練習する為に時間を取るのは良いんだけど。なんか強制されるってなると、途端にやる気が出なくて」

 

『あー、わかるかも。自分のペースを乱されるのって嫌だよね』

 

「そうそう! 嫌なんだけど……絵の時間を削るのはすっっごい嫌なんだけど、暫く自主練しようと思ってさ」

 

『すっごい嫌がるじゃん』

 

「だけどやらなきゃ、もっと面倒そうだし……Amia達が良ければ、私が録った歌の音声とかを聞いて、アドバイスをくれるかなーって」

 

 

 雪は普段から忙しいから付きっきりで付き合ってほしいなんて言い難いし。

 なら、まだナイトコードでの合間で時間をもらえないかと思ったわけだ。

 

 

「面倒事を持ち込んで悪いんだけど……協力してもらえない?」

 

『んー、ボクは作業の片手間でいいなら良いよ』

 

『作業の邪魔にならない程度にしてくれるなら私も大丈夫だよ。曲作りに影響が出るのは、良くないからね』

 

「そこはもちろん、弁えてるから。Amiaも雪もありがとう!」

 

 

 後は今まで話すことなくアイコンだけボイチャに存在しているKのみ。

 勝手に話をして、進めていることにほんの少し緊張感を持ちつつ、声をかけた。

 

 

「それで、その……Kは、どうかな?」

 

『……うん、良いよ。曲作りに役立つかもしれないし、聞くぐらいなら』

 

 

 今までの話を聞いていたらしく、Kからの返事はあっさりとしたもので。

 

 ナイトコードで雪の時は褒めてくれるのに、現実で会えばグサグサ言ってくるまふゆがいること以外、特に問題なく歌の練習が進んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 梅雨入りしたはずなのに、珍しく晴れた日のこと。

 

 今日はどうしても病院の予約がうまく取れなくて、学校を休んで通院していた帰り道。

 コンビニに寄ってお昼ご飯を調達後、ついでに歌を録音しようと公園に来たら、何回か見たことある暗めの色のジャージが見えた。

 

 ベンチの上で同化するかのように溶け込んでいるその姿。

 頭部分が白いのといい、何故ここに倒れているんだと頭が『?』で支配される。

 

 

「やっぱり、Kじゃん!」

 

「えな、なん?」

 

 

 一瞬、名前を呼ばれたのかと体が跳ねてしまったが、HNだと理解して力が抜ける。

 ……いや、それどころではないのだった。

 

 ベンチで休んでいるKのそばに駆け寄ると、真っ青な顔のKが寝転んでいる。

 

 こういう時って下手に体とか揺すらない方がいいんだっけ?

 とりあえず状況確認だ。Kの意識はあるから本人から聞いた方がいいかもしれない。

 

 

「K、何でこんなところで寝てるの?」

 

「帰る途中で急に世界が回ってるみたいになって……気持ち悪くて近くに公園があったから休んでた」

 

「眩暈かな……手とか足が痺れてるってことは?」

 

「大丈夫、目を開けてるのが辛いだけ」

 

「なら無理しないで目を閉じて。ほら、タオル。視界を暗くしてた方が早く良くなるっていうから」

 

 

 鞄から使っていないタオルを取り出して、Kの露草色の目を折り畳んだタオルで隠した。

 

 鞄の中にあった紅茶を飲んでもらおうか、と考えたものの……そういえば眩暈の人にカフェインは厳禁だったっけ?

 

 医者でもないから、頭を悩ませても全くわからない。

 病院も大丈夫だと嫌がられるし、私ができることはそばにいることぐらいだった。

 

 

 そうやって悩みつつも暫く待っていると、Kがゆっくりとタオルを掴み、体を起こした。

 

 顔色もマシに見えるし、目の焦点も合っているように感じる。

 それでも痩せ細った顔を見ているとまだ心配で、念の為に問いかけた。

 

 

「……もう休んでなくて大丈夫なの?」

 

「うん。結構休んだから、帰って作らなきゃ」

 

「そっか……」

 

 

 本当は休んでほしいと言いたいけれど、寝る時間も食べる間も惜しんで作りたいという気持ちも理解できてしまうから。

 

 何も言えないけれど、私だって家族がいなければKのようになっていただろうと想像してしまうと、何かはしたいと思う。

 

 休んでほしい、寝てほしいと言うのは逆効果。

 なら、ここはまだ改善できそうなところから押し付けてしまおうと、頭の中で作戦を組み立てる。

 

 コンビニで調達したお昼ご飯の照り焼きチキンの卵サンドと、野菜ジュースを袋ごと取り出して、Kに押し付けた。

 

 

「K、これあげるから食べて」

 

「え、でも、これってえななんのじゃ」

 

「Kって保存食かカップ麺系ばかり食べてるんでしょ? 偶には炭水化物系以外のものも食べた方が良いと思う。ほら、今みたいに曲作りに支障が出たら、嫌でしょ?」

 

「……そう、だね」

 

 

 Kは頑ななところもあるけれど、曲作りを絡めるとある程度は妥協してくれるってことを知っているから。

 Kに食べ物を押し付けることに成功した私は、ホッと一息つきながら、覚束ない足取りで帰るKを途中まで送った。

 

 これからは彼女の許せないラインを踏み込まないように注意しつつも、病院とかで会ったら片手間で食べれそうな料理を押し付けてやろう。

 じゃないと、今日のことを思い出してしまって、ナイトコードの作業に集中できないかもしれない。

 

 

(……無理してその辺で倒れてたら、遭遇確率が高い私の心臓に悪い。うん、これは私の為でもあるってだけだから)

 

 

 そう、だから押し付けるのだって仕方がない。

 アレルギーの有無とか、好き嫌いは確認してから押し付けてやろう。

 

 誰に弁明をしているのやら。必死に言い訳を考えながら、私も帰路に着くのだった。

 

 

 





記憶喪失えななんが料理を始めたきっかけは勿論、愛莉さんのお弁当。
身近な人がしていることはやりたがりな記憶喪失えななんです。

記憶を無くしても無くしてない絵名さんでも、料理とかお菓子を作るなら見た目とか絶対に拘りますよね、って妄想。
味もあの特技だから、マズいってことはないでしょうし……
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