イラスト担当は記憶を無くしました   作:大森依織

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そろそろ今年も終わりですからね、色々と準備中です。


35枚目 みんな、似たもの同士

 

 

『ねぇねぇ、えなな~ん』

 

 

 Kの寝息をBGMに、Amiaが声をかけてきた。

 

 時刻は5時40分。

 遮光カーテンの隙間が少し明るくなっていて、太陽が顔を出しているのだろう。

 清々しい朝と言うべきなのだろうが、私には少々眩し過ぎる土曜日の朝だ。

 

 

「何よ、改まって」

 

 

 カーテン越しの太陽を睨みつけつつ、今日は外出するつもりがない私は、まだまだ元気なAmiaに付き合うことにした。

 

 

『ピクシェアに投稿されてた《夜空のゼリー》見たよ〜。ゼリーの深い色から淡い色へのグラデーションがキレイで、星型のフルーツがとっても可愛かったね。ボク的に高得点だったよ!』

 

「本当? お月見兎シリーズより反応が悪かったから、あまり評判良くないのかなーって思ってたけど……Amiaがそう言うなら、嬉しいわね」

 

 

 あのゼリーも自信作だったけれど、まふゆの反応が兎の時よりも悪かったので、少し自信を無くしていたのだ。

 お月見兎が謎のバズを引き起こしたと考えた方が、精神的にも優しいのかもしれない。

 

 Amiaの言葉のおかげで、ちょっと自信が戻ってきた。

 

 

『ただ、問題があってさ……えななんの写真が流れてくる度に、ボクも食べたくなるから困っちゃうんだよねぇ』

 

「あぁ、そういえば。ニーゴで私のピクシェア投稿料理を食べたことないの、Amiaだけだっけ?」

 

『そう! 悲しいことに、ボクだけ『仲間外れ』という意地悪をされてるんだよ〜!』

 

「そんな失礼なことを言われてもねぇ……Amiaとの繋がりはナイトコードしかないし、どうしようもないでしょ」

 

『諦めないでーっ、そこは気合いを入れなきゃ! ボクのお腹と背中がくっ付いても良いの〜?』

 

「熱意や元気があっても、何でもはできないし。くっ付いてもしょうがないよね」

 

『そんなぁ、酷いよえななーん!』

 

 

 そこで『オフで会おう』と言わない辺り、Amiaにとってはまだその時期ではないのだろう。

 

 残念無念と揶揄いながら話を流していると、ふと、Amiaが何かを思い出したように、急に話題を変えてきた。

 

 

『そういえば、えななんってKとかに寝ろ寝ろ寝ろビームしてるけどさ』

 

「そんな知育菓子みたいな名前のビームはしてないけど、気絶するぐらいなら寝て欲しいとは言ってるわね。それがどうしたの?」

 

『Kに寝るように言ってるえななんは、ちゃんと寝てるのかなーって思ってさ』

 

 

 ……何故か頭に過ぎる中学時代と『東雲絵名サイボーグ説』というワード。

 唐突すぎる話題変換に頭がついていけないのか、中学時代の噂が今、疑惑となって私に襲いかかってきた。

 

 

『ほら、えななんって雪と同じ学校に行ってるって話じゃん? そこから頻繁に絵画教室に行って、バイトもしてるんだよね?』

 

「高校に行ってからバイトとか部活もあるし、中学の時よりも絵画教室の頻度は下がってるけどね」

 

『そこで毎日行ってたら、えななんはイラスト担当じゃなくて忍者担当になるよ。ニンニン』

 

「ニンニンって言いながら、影分身の術なんてしてないわよ?」

 

 

 漫画みたいに経験値を回収できる分身が印を結んで生えてくるのなら、いくらでも結ぶけれども。

 残念ながら、私はそういう不思議パワーの使い方は知らない。

 

 

『ほら、今のだってボクが勧めたアニメとか見てくれてるから、普通に反応してるでしょ』

 

「何よ。Amiaがオススメって言うから見てるのに、見ない方がいいわけ?」

 

『ううん、そこは嬉しいんだけどさ。どう考えても、えななんの生活から錬金される時間がおかしいんだよ! 実はえななんの時空だけ時間が30時間とかだったり?』

 

「そうだったら嬉しかったんだけど、私も24時間の時の流れの中で生きる人間よ」

 

 

 サイボーグ、忍者の次は、時空が歪んだ世界の住人扱いをされていて笑うしかない。

 

 ニーゴや部活、バイトや絵画教室で絵を描いて、学校や家で勉強して、夕飯当番の日やまふゆへの作戦の前日には台所に立つ。

 基本的な行動は3つなのに、Amiaが別の生き物扱いしてくるのだ。笑わずにはいられなかった。

 

 

『そもそも、この前だって雪が学校だからって早めに落ちてるのに、えななんは7時ぐらいまでイラスト描いてたでしょ?』

 

「あー、あったわね、そんなこと」

 

『で、その後は学校行ってくるねーって普通に落ちちゃうし。Kと2人で寝る時間は!? ってなってたんだよー?』

 

「あの日は作業前に寝たから十分だったし」

 

『それで睡眠時間足りるの? Kに寝なさいって言うのに、えななんも割と寝てない族の住民だよね〜』

 

 

 目の前にいたら、やれやれだと言わんばかりに肩を竦めていそうなAmiaの声。

 深い睡眠に入ったのか、Kの寝息はいつの間にか消えていて、余計にAmiaの声が大きく聞こえた。

 

 確かに睡眠時間が6時間の人は常時飲酒状態と同じ頭だと言われるぐらいだし、寝不足が良くないことは知っている。

 だが、私の場合は推定だが、スケッチブックの仕業でその辺りの問題は解決してしまっていた。

 

 

「私、所謂ショートスリーパーって言われる体質だから。3、4時間ぐらい寝たら大丈夫なのよね」

 

『はー、えななんの時間は睡眠時間から来てたんだ。Kが聞いたら羨ましがりそ〜』

 

『……うん、寝る時間が短く済むのはいいよね。ずっと曲を作れるし』

 

『うわっ、K、起きてたの!?』

 

 

 さらりと乱入してくるKの声の後に、Amiaの驚きの声が鼓膜を貫いた。

 不意打ちである。ハウリングのような変な音が聞こえていて、耳が痛い。

 

 

「Amia、朝からバカみたいな大きい声を出さないでくれる? 鼓膜は売られてないのよ?」

 

 

 どこかの通販サイト的なところでまとめ売りされているのなら話は別だが、そんな近未来的なところまで現代の技術は到達していない。

 

 冗談を交えつつクレームを入れると、Amiaは慌てて『ごめん!』と謝罪を入れた。

 それも煩かったのだけど、まぁそこは良いとして。

 

 

『Amiaは今日も元気だね。わたしは曲を作るから、またミュートにするけど……2人はどうするの?』

 

「私はAmiaが飽きるまで会話に付き合うつもり」

 

『飽きるって酷いなぁ……というわけで、ボクとえななんはもうしばらくお話かなー』

 

『そっか。なら、また用事があったら呼んでね。今日はナイトコードに繋いでるけど、曲を作る予定だから』

 

 

 つまり、いつも通りということである。

 

 そんな宣言をしてミュートにしたKを2人で見送って、改めて会話が再開された。

 

 

『えななんの時間は睡眠時間から来てたんだねぇ。それでも、えななんの時間の使い方は上手だなぁって思うけど』

 

「そう? 人と比べたことがないからなんとも言えないけど」

 

『だって、えななんの話を聞いてたら人の倍以上の時間の中で過ごしてるみたいに聞こえるんだもん。こう、時間をグググ〜って濃縮還元した感じ?』

 

「還元したら意味ないでしょうが」

 

 

 語呂がいいからって還元をつけたら意味がないだろうに。

 

 こんなバカみたいな話をKや雪とすることなんてないし。

 愛莉とはどちらかというと最近の流行であったり、写真のことについての話が多いから新鮮だ。

 

 

「結局、絵のことばっかり考えてるんだけどね」

 

『あー、わかる。えななんってたまにKみたいだなって思うもん』

 

「え、なにその過大評価」

 

 

 私はあんな飛び抜けた天才でもないし、あんなに静かにもできない。

 どちらかというと反対になりそうなタイプだと思うのだが、Amiaにとってはそうでもないらしくて。

 

 

『ほら、ボクが勧めたアニメの感想とか言ってもらう時あるじゃん』

 

「この間も聞かれたわね」

 

『その時、Kはずっと音響とかBGMの話しかしないでしょ』

 

「同じアニメを見てるはずなのに、どのシーンも全く覚えてないのは逆に凄いと思うわ」

 

『その点、えななんは物語の話もしてくれるけど、最初は絶対に作画とか表現。後は場面の見せ方とか、Kの絵バージョンみたいな話じゃん』

 

「1番印象に残ったシーンで、あの場面の作画や描き込みが〜っていう感想を話しただけよ?」

 

『そうだねぇ。殆どのアニメの印象に残ったシーンがセリフとか感動的な場所じゃなくて、あのシーンで何枚描いてるとか、背景の描き込みとか言い出すのはえななんらしいなって思うかなー』

 

 

 Amiaが置いてきぼりにならないように意識していたつもりが、どうやら私の感想が漏れ出してしまったらしい。

 

 音のK、絵のえななん。

 なんてAmiaの中では分類されてるようで、天才と同列に扱われるのはちょっと恐れ多かった。

 

 

『えななんって、見ないとか知らないとか言いつつも、話題に出したアニメとか履修してくれるよねー』

 

「まぁ、BGM代わりにしか見れてないけど」

 

『それでも知ろうとしてくれているのって、結構嬉しいんだよね。だから、ありがとう』

 

 

 Amiaが好きなものを知れば、顔も名前も知らない相手に少しは歩み寄れるかなーなんて、思い上がりからの行動だけど。

 

 絵に集中しすぎて見逃している時もあるし、Amiaに言葉に出して言われるほど、真剣には見れていない。

 それでも声から嬉しいって気持ちが伝わってきたので、悪くはない選択だったのだろう。

 

 

「別にお礼なんていいわよ。Amiaが勧めてくるアニメ、絵の参考になるし」

 

『あはは……結局絵なんだね〜。アニメ見てても、SNS映えするご飯作ってても、最終的には絵に繋げてそうでえななんらしいや』

 

「そういうAmiaだって、私やKのことを笑えない時があるからね?」

 

『えぇっ、嘘でしょ!? どこが同じなのー?』

 

「あー、やっぱり。自覚なかったのね」

 

 

 私のことを絵一辺倒だと笑う割に、AmiaはCMとか広告を見て、文字のフォントがカワイイとか言い出すような子なのだ。

 

 雪も何やかんや目的の方に繋げてるし、このサークルはやっぱり、似たもの同士が集まっているのかもしれない。

 

 

(だから居心地がいいのかもね)

 

 

 どこだどこだと共通点を探し始めるAmiaの言葉を、右のイヤホンから何もつけていない左へ受け流しつつ。

 

 途中からバイトの絵を描き始めながら、Amiaの会話に付き合うのだった。

 

 





まだ原作始まらないの……? ってなるかもしれませんが。
残念なことに、メインストーリーさんがやってくるのは、クリスマスが過ぎてからになるんですよね。メインまで後4話、間に投稿します。

年末年始あたりの週でメインストーリー編は完結させる予定ですので、お付き合いいただけると幸いです……
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