イラスト担当は記憶を無くしました   作:大森依織

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36枚目 暴力は全てを解決するのか?

 

 

 10月のテストが返却された。

 

 結果はなんと、クラスで5番目という上だけど学年でいえばそうでもないような……そんな数字。

 一応、夏休み前からかなり上昇したのだけど、私の眉間は不満を訴えるように皺を作った。

 

 ──あいつは白鳥のように、1番を取っているだろうから。

 

 

(後2回か。その2回で1番になれるかどうかよね)

 

 

 今の所、まふゆからニーゴの活動の制限やら、友達と縁を切れというような話は聞いていない。

 まふゆのお母さんがニーゴの活動のことを知った時、どういう反応をするのかまだ推測の域を出ないのだ。

 

 最悪のことも考えると、できるだけ早く手を打てるようになりたい……というのが本音だ。

 

 まふゆのお母さんは私の予想通りなら、かなり厄介な相手である。

 だからこそ、時間がある間に相手が反対しにくい材料を集めたい。

 

 

 

 ──まふゆの話の断片をまとめる限り、まふゆのお母さんは良くいえば『教育ママ』だと思う。

 

 

 中学のうちから塾や予備校に通わせ、用事がなければ高校生にしては早い時間に門限を設定して。

 何か用事ができたら事後報告は厳禁。ちゃんと先に許可を得ること。

 

 将来の夢は娘が間違った道に進まないように、娘が望んでなさそうな『医者』に進むことを期待して。

 そのためならば、必要のない量の参考書を山積みにし、いらないとお母さんが判断したものは勝手に片付ける。

 

 クラスメイトに勉強を教えた話をしたら、付き合う相手は考えた方がいいとも言っていたらしいし。

 娘のためなら人間関係にも手を突っ込んで、価値観の押し売り大セールをしてくるような人間がまふゆの母親なのだ。

 

 

 娘の夢を応援しつつ、最大限に娘へ気を遣い。

 仕事で忙しくても毎日、ご飯を作って娘をサポートするお母さん。

 

 部分的に見れば理想的な母なのかもしれない。

 

 ただ、別の視点から見れば、教育ママというカテゴリーに分類される行き過ぎた親──所謂、毒親のように見えるというのが私個人の感想だった。

 まふゆはお母さんが好きみたいだから言わないけれど……私は今のところ、良い印象はない。

 

 

(問題は……今のままだと確実に、私も『片付け』の対象になるってこと)

 

 

 娘には勉強に集中してほしいであろう母親からすれば、私のやろうとしていることは迷惑でしかない。

 

 今の私は娘を悪い道に誘惑する悪魔。

 よく言っても、悪友ポジションだろうか。

 

 今までは学校の中でできることしかしてないものの、次ぐらいからは別の方法も考えている。

 

 ……本当はお菓子とか、Kと同じ方法でアプローチしようと目論んでいたのだけど。

 まふゆはストレスか何かで味覚がわからなくなっているようだし、食べ物でどうにかするのは彼女へのストレスが計り知れない。

 

 いくら見た目を良くしたり、比較的食べやすそうだと思い込んで作ったとしても、味のしないものを胃に流し込むのは億劫だろう。

 

 まふゆ本人は『慣れたから平気』と言っていても、私まで彼女に負担をかけたら本末転倒。

 できれば食べ物以外で、色々と仕掛けたいのが本音だ。

 

 

 それなので、テストが終わったばかりの今とか狙い目なのだが、残念なことにまふゆには予備校という先約があった。

 

 今日は意図して予定を空けていたし、絵画教室も休み。本当に何もない。

 仕方がないので、今日は久しぶりに真っ直ぐ家に帰って、絵に向き合うことにした。

 

 

「ただいまー」

 

 

 今日も誰もいない家に私の声が響く。

 受験シーズンで彰人も最近は家にいないし、お母さんも仕事中。お父さんは当然のようにいない。

 

 誰もいない気楽さでキッチンまで歩き、いつものメモ置き場をチェックする。

 

 

《フライパンにおやつのパンケーキを残しています。仲良くわけること!》

 

 

 今日はおやつがあるらしい。

 2枚あるので1枚もらって、レンジで温めつつバターとメープルシロップを準備。

 

 メモの下に《1枚取った 絵名》と書き残して、冷蔵庫の水出し紅茶を注いでからパンケーキと一緒に部屋へと向かった。

 

 いつもの癖でパソコンを立ち上げたついでにナイトコードへログインすると、珍しくAmiaが1人、ボイチャにいる。

 

 何をしているのだろう?

 不思議に思いつつも、ちょうどいいから私もボイチャに入った。

 

 

「お疲れさま。この時間からナイトコードなんて、サボった?」

 

『えななんお疲れ〜。って、失礼しちゃうよ! 今日はちゃんと学校に行ったし、テストの最終日だから早かっただけですぅ〜』

 

「あぁ、テストだったの。勘違いして悪かったわね……改めて、お疲れさま」

 

 

 イヤホンから今日も元気な声が鼓膜を揺らす。

 パンケーキを脇に置きつつ、Amiaに見せたかったバイト先の参考資料のデータを開く。

 

 どこだったかなーと探している間に、Amiaのアイコンが輝いた。

 

 

『そっちこそ、こんな時間にここに来てるけど……もしかして、えななんの方がサボりなんじゃないのー?』

 

「こっちは学校が早く終わって暇ってだけよ。今日は自分の絵を描こうかなって思ってるの」

 

『へぇ……えななんが早いってことは雪も来るの?』

 

「雪は予備校だって。あぁ、Amiaも受験生なら講習とか、そういうのに行くの?」

 

『ボクはそこまで困ってないからね。このまま受験して高校生活かなー』

 

「ふぅん。ま、ここに来てたせいで落ちましたー、なんて言わないように励みなさいよ」

 

『そこは素直に『頑張れ』でいいじゃん、もう』

 

 

 推定、私よりも要領が良さそうなAmiaには、これぐらいでいいのだ。

 

 私は時間を割きつつ、南雲先生に泣きついてマンツーマンの授業で成績を上げているのから、勉強ができるっぽいAmiaがほんの少し……いや、かなり羨ましいし。

 

 

(多少の努力で馬鹿みたいに頑張ってる雪を抜かせるなんて、思ってないけどさ。それでも、どこでも才能なのは嫌になっちゃうわよね)

 

 

 絵どころか勉強でも才能が出てくるのにほんの少し辟易しつつ、私は私情をパンケーキと一緒に飲み込んだ。

 

 

「そういえば、Kはどうしたんだろ? いつもナイトコードにいるのに、今日は珍しくいないし」

 

『あー、Kならお昼ご飯だって』

 

 

 思わず自分のパンケーキに視線を向けてから、パソコンの画面を見る。

 

 

「……おやつじゃなくて?」

 

『話的に朝と昼、まとめてそうだったけど』

 

「この時間なら夜もじゃない? 断食的な修行中なの?」

 

『はは。ある意味、修行してるのかもねー』

 

 

 昔の人は2食だと言うし、1食だからと目くじらを立てるのは良くないのかもしれないけれど。

 

 自分がおやつを食べている中でそう言われると、押したら折れるんじゃないかと変な心配が頭を過ぎる。

 

 痩せるというよりは『(やつ)れる』という言葉がピッタリになりそうで、今は早く家事代行なり生活改善されそうなイベントが起きてほしいと思うばかりだ。

 

 そんなことを考えていると、やっとAmiaに見せたいイラストを掘り出せた。

 今度は部屋だけでなく、パソコンのファイルも整理しよう。今決めた。

 

 

「ねぇ、Amia。話は変わるんだけど、魔法少女系って詳しいタイプ?」

 

『え? 詳しいとは言い切れないけど、好きだよ』

 

「じゃあ、最近バイトでお手伝いしている漫画について、Amiaに聞いてほしい話があるのよ』

 

『え、もしかしてボクの知らない魔法少女モノかな。それは興味あるかも!』

 

 

 わくわく、という内心が聞こえてきそうなぐらい、喜色を帯びたAmiaの声が聞こえてくる。

 

 そこまで期待されたら申し訳ないというか、なんというか。

 何というか魔法少女系と分類するには中々異色の漫画なので、感想を聞きたかっただけに、ほんの少し申し訳なく思いつつも画像を送信した。

 

 

『えーと、どれどれ〜……おぉっと? ごめん、えななん。ボクの頭がおかしくなったのか、魔法少女みたいな姿の覆面レスラーのイラストが見えるんだけど』

 

「あぁ、うん。その子が主人公なのよ」

 

『魔法少女系の?』

 

「ええ。魔法少女タイガーマスクよ」

 

 

 虎の覆面を被り、彫刻像のような筋肉隆々の男が魔法少女の姿をして、魔法のステッキのようなモーニングスターを握りしめている。

 

 魔法少女タイガーマスク。

 南雲先生が運営するweb漫画の中でも、人気のある漫画の1つだった。

 

 魔法少女に憧れて妖精によって変身した中学男子の主人公が、憧れの魔法少女になるために魔法(物理)を使って敵を粉砕していくバトル漫画なのである。

 

 

『魔法少女タイガーマスクって……覆面レスラーなのか、魔法少女なのか、どっちかにしない?』

 

「どっちかというと魔法少女らしいわよ。魔法少女に憧れて妖精と契約したところ、何故かレスラーみたいな覆面がついちゃっただけ。ほら、服とかは魔法少女でしょ?」

 

『そうだね。筋肉で服が悲鳴をあげてそうだけど、カワイイ魔法少女の服だね』

 

 

 絵を描いた私も困惑してしまったが、まぁ可愛い衣装を着ている子なのである。

 この主人公は日曜日にやってるアニメから魔法少女に憧れて、魔法を使って悪の存在と戦うためにまずは体を鍛えた結果、とても逞しい肉体を手に入れた……と。

 

 

「それでさ、最終的に女体化させるのかそうじゃないのかって、編集の人と言い争ってるらしくて。めんどくさくない? 私の前でするなって言いたいんだけど」

 

『いや、それはボクに言うんじゃなくて直接相手に言ってよねー……ちなみにさ、えななん的にはどっちがいいの?』

 

「え、私? そいつが悩んで決めたのなら、どっちでもいいじゃんって思ったけど。何を選んだって自分は自分でしょ。変わらないんだから、納得する方を選べばいいと思う」

 

 

 男であろうが女であろうが、その人が魔法少女になりたくて進んだ結果、納得しているのならそれでいいと思う。

 

 流石にこの主人公が目の前に現れたらビックリしてしまうだろうが、相手が魔法少女になるにあたって私に迷惑をかけるわけでもないし、頑張ればいいのではないだろうか。

 

 

「うん、目を細めたら似合ってる……気もするし、相手が友達で真剣に悩んでるのなら、そいつが好きな方を応援するかな」

 

『……そう、なんだ』

 

「あぁでも。流石に文化祭のコンテストとかで、こんなのが出てきたら殴りそう。魔法少女になりきる者として服が似合うように服を自分に合わせるか、もしくは似合う服を着なきゃ他の出場者とかにも失礼でしょ。中途半端に妥協すんなって言いたい」

 

『え、えぇー。いい話だなーって思ったのに結局暴力なの?』

 

「それぐらいの覚悟をもってやらなきゃ、憧れの魔法少女に失礼でしょ。あんたの憧れはその程度なのかと、問い詰めなきゃいけなくなるわ」

 

『そうかなぁ……いや、そうかも……?』

 

 

 そこから、何故かこの主人公がどうすればカワイイを追求できるのかという話に飛躍して。

 

 とりあえず筋肉を活かす方向のファッションにしよう、という結論に落ち着いて、夕飯の時間だからと解散するのだった。

 

 





《魔法少女タイガーマスク》
とある日曜日の朝に、敵と殴り、蹴り、2人で手を繋いでビームのようなものを撃つ魔法少女のようなキャラクターが出てくるアニメがあった。
そんな少女達に憧れて、中学生になっても毎日かかさず修行していた主人公──白河大我が、ある日、不思議な妖精と出会う。

『ここに魔法少女に憧れる純粋な子がいるって反応があったぽよー! ……あれ、そんな女の子、いないような……?』
「僕もついに魔法少女になれるのか!?」
『ぽ、ぽよー?!』

タイミングが良いのか悪いのか、襲われる街。大切な妹に迫る怪人の攻撃!
魔法少女に憧れる純粋なエネルギーを力に変えて、今、大我は妖精を鷲掴みにする。
「ミラクルマジカル☆タイガーマスク!」
魔法少女のパワーをメリケンサックと魔法少女の衣装(+タイガーマスク)に変えて、今、少年は魔法少女への1歩を歩み出す──!!


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