イラスト担当は記憶を無くしました   作:大森依織

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投稿日的にクリスマスの方が近いんですけど、この話ではハロウィンです。



37枚目 かぼちゃの日

 

 

 10月31日。

 

 文化祭の準備も始まって、準備が大変なクラスやまだ出し物が決まっていないクラスは忙しそうに準備をしている。

 

 ウチのクラスは『フルーツ飴と動物飴細工の販売』とあっさりと決まり、内容が内容だけに比較的暇になった。

 

 私は手先が器用な子達と一緒に動物飴細工係で、まふゆや他の子達は販売係。

 何気なく提案した私もビックリなぐらいとんとん拍子で決まって、文化祭まで余裕はある。

 

 私は美術部だから文化祭用の絵も必要なのだけど、それは前々から準備しているので今日遊んだってどうこうなるようなものではない。

 

 

「──というわけで、今日こそ学校外で遊ぶわよ!」

 

「何がというわけなの?」

 

「前々からゲームセンターに行こうって言ってたでしょ? 今がその時ってことよ」

 

 

 生徒の大半はまだ校舎で文化祭の準備に勤しんでいる中、私とまふゆは揃って校門前まで来ていた。

 

 まふゆには前もってお母さんに『文化祭の準備で暫く遅くなるかも』と連絡してもらっている。

 文化部系統の部活なら兎も角、運動部も文化祭の準備で自粛気味だ。

 

 それなので、塾や予備校のない日のまふゆはフリーなのである。

 流石に毎日連れて行くわけにはいかないものの、1日ぐらいはそのチャンスをモノにしたい。

 

 

「10月も今日で終わりでしょ。それなのに今までまふゆと学校の外で遊んだことないじゃん」

 

「そうだね。私には必要のないことだから」

 

「は? そんなこと、誰が決めたのよ。私がまふゆと遊びたいの。だから今日の私の予定にはまふゆが必要なのよ!」

 

「……絵名って毎回、強引だね」

 

 

 短く息を吐くまふゆは表情を貼り付けておらず、その目もぼんやりとしていて何を考えているのかわかりにくい。

 

 どうせ『私には必要のないこと』という言葉の前に『優等生の朝比奈まふゆ()』がついているのだろうと思って誘ってみたものの、嫌な相手を引き摺るのは本意ではない。

 無理矢理話を進めてしまおうと思ったものの……計画を変えるべきかと考えつつ、まふゆの変化を見逃さないように横目で見た。

 

 

「嫌ならやめるけど?」

 

「どうだろう、わからない」

 

「わからないって、あんたねぇ……今はムカムカしたり、ズキズキしたり、イライラしたり、冷たかったりするわけ?」

 

「してるのかな?」

 

「いや、聞かれても困るんだけど。うーん……嫌そうな感じには見えないし、とりあえずゲームセンターの前まで行ってみる? 辛かったら予定を変更するから」

 

「どっちでもいい」

 

「あっそ。じゃあ行くわよ」

 

 

 まふゆが本当に嫌な時は胸を抑えて黙るか、笑みを貼り付けるのが今までの傾向だ。

 どうでもよさそうに呟くまふゆの姿を見るに、まだ許容範囲のように見える。

 

 

(まふゆ自身もよくわかってないみたいだし、私の方でも変化がないか、確認しよう)

 

 

 私だって絵名(わたし)のことを全くわかっていないのに、他人のことに首を突っ込むのはどうかと言われたら、その通りなのだけど。

 

 知ってしまったら放っておけないし、他人とか以前にまふゆはサークル仲間で、私の友達なのだ。

 全部わかるなんて烏滸がましい事は言えなくても、少しぐらいは歩み寄りたい。

 

 

(まずはゲームセンターまで連れていくこと。そこからどういう反応をするか1つ1つ確かめるしかないかな)

 

 

 隣を歩くまふゆの様子を窺いつつも、私はゲームセンター初心者を連れて校門を通り抜けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………

 

 

 

 

 

 

 

 

「絵名」

 

「なによ」

 

 

 無機質な青が台の向こう側からこちらを見ている。

 こちらは必至になっていたのに、相手は何事もなかったかのような涼し気な顔を見せてくるので、かなり悔しい。

 

 ちょっとぐらいその牙城を崩せたら良かったのに、私はあまりにも無力だった。

 

 

「エアホッケー、弱いね」

 

「あんたが強すぎるの! 何で初めてなのにそんなに強いわけ!?」

 

「絵名が弱すぎるだけだと思う」

 

「はぁ!? もう怒った、怒りましたー。これから本気出すし、その余裕も今のうちだから! 今すぐにでもぎゃふんと言わせてやるわよ!」

 

「ぎゃふん?」

 

「こ、この、馬鹿に……しやがってぇ……っ!」

 

 

 すまし顔で煽られて、その怒りをエネルギーに変えて勝利……できたら、どれほどよかったか。

 

 文武両道と言われて、その期待通りの姿を見せる努力をしてきたまふゆが相手なのだ。

 私が遊び感覚から本気でやったとしても、悔しいことに全く歯が立たなかった。

 

 

 エアホッケーはもちろんのこと、モグラ叩きも最高記録を叩きだすわ、パンチングマシンも私の倍の記録で恐怖させてくるわで何1つ勝てない。

 ふっと短く笑われて、私の頭が瞬間湯沸かし器のように沸騰しそうになったけれど、敗者が文句を言っても負け犬の遠吠え。

 

 身長でも負けている私はよしよしと頭を撫でられて、敗者としての屈辱を甘んじて受け入れることになってしまった。

 

 

 ──いや、おかしいでしょ。

 

 

 ゲームセンター初心者であるまふゆに、ゲームセンター2回目*1の私が教える側だったはず。

 

 それなのに、気が付いたら陥没するんじゃないかと思うぐらい、ボコボコにされている。一体どうして……?

 

 ゲームですら蹂躙されている現状に軽く絶望していると、次が最後のゲームになりそうな時間帯になっていた。

 最後に何で遊ぼうか。物色しつつもまふゆを追いかけていると、前を歩いていた紫色が吸い込まれるようにとある機械の前で立ち止まった。

 

 まふゆの前には動物のぬいぐるみが積まれたクレーンゲームがある。

 どうやら最後のターゲットが決まったようだ。

 

 

「アニマル吸血鬼シリーズ・ハロウィンバージョンねぇ……やるの?」

 

「ゲームセンターなら、クレーンゲームはやるべきだって」

 

「どこ情報よ、それ」

 

 

 ハロウィン仕様なのか、犬の吸血鬼、猫の吸血鬼、兎の吸血鬼、ひよこの吸血鬼と動物を吸血鬼っぽく見立てた手のひらサイズのぬいぐるみ。

 

 心なしか目の輝きが増したように見えるまふゆを横目に観察しながら、私はお金を入れている彼女の隣に立つ。

 

 

「えーと……まふゆはどれ狙い?」

 

「なんでもいい」

 

 

 お金を入れて気合十分といった様子でクレーンを動かし、直接ぬいぐるみを掴みに行くまふゆ。

 クレーンはぬいぐるみを少し持ち上げるものの、位置を変えただけで落とすまでには至らなかった。

 

 

「……」

 

 

 まふゆは黙ってもう1度、2度とクレーンを動かす。

 が、ぬいぐるみはくるくるとその場を回転するだけで最初の時と同じ位置に戻ってしまった。

 

 

「ま、まふゆ?」

 

「……」

 

 

 ポーカーフェイスのままだけど、何となくムッとしているようなオーラを感じる。

 

 これはもしかしてご立腹なのだろうか? まふゆにも簡単にできないこともあるんだな、と当たり前のことを再認識しつつ、まふゆの横から手を伸ばした。

 

 

「じゃ、今度は私がやろっかな~」

 

 

 呆然としているようなまふゆを隣に移動させて、お金を投入。

 思い出すのは中学3年ぐらいからちょくちょく家にも遊びに来て、ゲームセンターの景品を彰人経由でプレゼントしてくれる相棒くんのことだ。

 

 

(又聞きしたアドバイスでどうにかできるとは思わないけど……確かこういう配置の時は──)

 

 

 丁寧な口調で説明してくれた言葉を思い出しつつ、前や横から獲物の位置を確認して、クレーンを動かす。

 

 

(爪に引っ掛けたら落とせそうかな)

 

 

 1度目で整えて、2度目でトドメ。

 

 引っ掛かっていたのか、兎の子以外に猫の子もついてきたけれど、何とかぬいぐるみをゲットすることができた。

 

 

「よし! はい、兎の方はまふゆにプレゼントね」

 

「……え?」

 

「何よ、欲しかったんでしょ。そこは喜んで受け取って欲しいんだけど?」

 

 

 差し出したぬいぐるみと私との間で視線を彷徨わせ、まふゆはゆっくりと手を伸ばしてくる。

 それが焦ったくなって、兎のぬいぐるみをまふゆに押し付けて両手で握らせた。

 

 

「絵名、ありがとう」

 

「別にいいわよ。私の戦利品もあるし」

 

「うん、クレーンゲームは絵名の勝ちだよ。よかったね」

 

「……余計な言葉が多いのよ、バカ」

 

 

 ほっこりとした気持ちを爆破で吹き飛ばされたような気分になりながらも、私達はゲームセンターを後にする。

 

 最後まで嫌がられることなく、まふゆと遊ぶことに成功した。

 今日のことで兎はまふゆの好みに含まれそうだと確信したし、持ってきていたコレを渡してもいいかもしれない。

 

 

「まふゆ」

 

「何?」

 

「今日は何の日か知ってる?」

 

「ハロウィンでしょ。学校でもゲームセンターでもそれ一色だったのに……絵名は知らないの?」

 

「いや、知ってますけど!?」

 

 

 もしかして、問題を出したせいでハロウィンを知らない女扱いされてるのか。

 とんでもない風評被害に声をあげつつ、「そうじゃなくて!」と別の袋に入れて持っていた分を押し付ける。

 

 

「別にイタズラも何もするつもりないけど、お菓子ね」

 

「これは?」

 

「カボチャまるごとプリンよ」

 

 

 味がわからないまふゆのためにかぼちゃとカスタードの香りを強めに、食べやすいように滑らかな感触を目指した。

 器もかぼちゃ丸ごと使っているこだわりはもちろんだが、かぼちゃの器は白色のかぼちゃにして、耳と顔をつけてハロウィン仕様の兎に仕立て上げた。

 

 本人はわからないというけれど、兎を前にすると反応が良いのである。たぶん、好きなのだろう。

 そういう理由もあって手間暇かけて作った、見た目も香りも楽しめる拘りの1品を渡せば、まふゆも鞄から小さな包みを取り出した。

 

 

「手持ちにお菓子があまりないから……これ、あげる」

 

「これは……オレンジ色の飴?」

 

 

 手の上に乗せられた飴は、見た目的にオレンジ味だろうか。それかハロウィンだし、かぼちゃの味とか?

 匂いも特にないし、警戒することなく封を開けて、口に入れたその瞬間──警報を鳴らすように全身が震えた。

 

 

「あああ、あんた、これまさか!?」

 

「うん、にんじん味」

 

「お菓子あげたのにイタズラしてんじゃないわよ!?」

 

 

 信じらんない信じらんない信じらんない!!

 

 にんじん特有の嫌な甘さが口に広がって、慌てて取り出したティッシュの上に吐き出す。

 そのまま袋ごと近くのゴミ箱へシュート。

 まふゆが拍手しつつ紅茶のペットボトルを差し出してくるので、受け取って飲んだ。

 

 

「ふぅ、ありがとう……って、元はと言えばあんたのせいでしょ!」

 

「絵名、味もダメなんだね」

 

「……っ」

 

 

 感情のままに怒ろうとしたのに、いつも通りの無表情でありながらも、どこか楽しそうな雰囲気のまふゆに、怒りの感情が萎んでしまって。

 

 

「次、似たようなことしたら怒るからっ!」

 

「怒ってるけど」

 

「うっさい!」

 

 

 やっぱり前言撤回してやろうか、こいつ。

 

 

 

 

*1
自分自身も愛莉さんと1回、ゲームセンターに行っただけのほぼ初心者なのは無視してます。





記憶喪失えななんにも絵名さんの名言(?)を言ってもらったので、個人的には満足です。
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