イラスト担当は記憶を無くしました   作:大森依織

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(後書きに箸休めのオマケをつけてます)

ここからセカイが現れたことによって、ニーゴメンバーの呼び方が混乱しちゃう人もいるかもしれないので、まとめておきますね……

名前 ⇔ HN
絵名 ⇔えななん
まふゆ⇔ 雪
奏  ⇔ K
瑞希 ⇔ Amia



44枚目 ニーゴ・エンカウント

 

 

 ピクシェアからDMしてみたものの、Amiaは動いてくれるだろうか?

 少し不安に思いながらも、まぁ大丈夫かと思い直す。

 

 ミクも自分の考えでKに接触しているようだし、私が動かなくてもまふゆの為に行動してくれる人はいるのだ。

 ミクが接触する相手にKを選んだあたり、それだけまふゆにとってKは大切な存在なのだろう。

 

 Kの音楽が溺れるまふゆを掬い上げる鍵になる。

 

 何も知らないKにそんなことを押し付けるのもどうかと思うけど──代役をするには私では何もかも足りてないから。

 

 

(それに……現状維持を選ぶには、まふゆの状態があまりにも綱渡り過ぎる)

 

 

 高校2年生になって顔を出してきた進路の話で、まふゆは今まで受け流せていた言葉もストレスに感じているようだ。

 

 やりたいこと、なりたい夢、自分らしさ、期待。

 

 私の病院通い経歴と人間関係を鑑みた結果なのか、2年生もまふゆと同じBクラスになれたのは幸運だった。

 

 ……問題はその幸運を吹き飛ばすぐらい、まふゆがどんどん追い込まれている点か。

 同じクラスになった幸運を最大限に生かし、学校内でのことは頑張って手を伸ばしたのだ。

 

 だけど、手の届く範囲外である『家の中』まではガードすることが叶わず。

 学校で別れてセカイで合流する頃にはもう、まふゆの顔は酷いものになってしまっていた。

 

 私を追い出していない辺り、まだ消えるつもりはないんじゃないかと勝手に思っているのだが、最近のまふゆは更に読み難い。

 

 さて、これからどうしたものかなと考え込んでいると、珍しくまふゆが隣に座ってきた。

 

 

「ねぇ、絵名」

 

「何、どうしたの?」

 

「どうして、消えたらいけないの?」

 

 

 ……私はあまりにも呑気だったらしい。

 暗闇のような目が私の顔を映しているのが見えてしまって、吐き出した息を飲み込んだ。

 

 まだ慌てる時間ではない、落ち着け。

 こういう時こそ冷静に、言葉を選ばなきゃいけない。

 

 相手がドス黒いテンションなので、勤めて明るく。

 だけど茶化しているようには聞こえないように意識して、声を出した。

 

 

「一般論でいく? それとも自論?」

 

「絵名の言葉で聞きたい」

 

「そうね……私の場合はそれに見合った理由がないと消えれない、かな」

 

「見合った理由?」

 

「そ。でも、理由があってもまふゆには諦めないでほしいなって、個人的には思うんだけどね」

 

「どうして?」

 

「まふゆの消えるは、もう2度と会えなくなっちゃうでしょ。そうなったら私、寂しいし悲しいよ」

 

 

 真っすぐ目を見て話してみれば、今度はまふゆが息を飲む番で。

 ぷいと目を逸らして、まふゆはゆっくりと呟いた。

 

 

「……そんなの、私に関係ないから」

 

 

 その態度があまりにも申し訳なさそうで、言ってることと矛盾しているものだから、ふはっ、と私は思わず吹き出して笑ってしまった。

 

 案の定、何を笑ってるんだと言わんばかりに向けられる青色の視線。

 ごめんごめんと謝っても、25時を過ぎても、まふゆの機嫌は治ってくれず、ご機嫌をとるのに苦戦してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………

 

 

 

 

 

 

 

 あれからまふゆは25時を過ぎてもセカイに留まり、曲を作り続けた。

 

 どんどん量産される曲と、まふゆの心の傷。

 独りよがりで作ったところで探し物が見つかるかどうかなんてわからないのに、まふゆは苦しみながらも曲に全てをぶつけている。

 

 

「絵名、ここの部分の色、混ざってて汚く見えるよ」

 

「そこはわざと混ぜてるんだけど」

 

「じゃあ、この装飾は? ゴチャゴチャしてて邪魔」

 

「それも全部意味あるの!」

 

「そんなに必要なの? いらないと思うよ」

 

「うぐ……」

 

 

 後、私にもぶつけられてる。

 今日もドス黒いオーラを発しながら世界に来て、まふゆは無防備な私に口撃を仕掛けてくるのだ。

 

 雪平先生のところに行くのを自主的にお休みしていたから、油断していた。

 優等生モードならともかく、普段のまふゆの感想は真っ直ぐで絵をよく見ているのだ。

 

 自信のある部分は良いと思うと言われて、ちょっとでも迷ったところは最後、鬼の首でも取ったかのように今日もドカドカと責められる。

 

 正論パンチに感情が昂ってボーダーを飛び越えて、とうとう私の目から水滴がこぼれ落ちた。

 

 

「絵名、泣いてる……?」

 

「違う、これは汗よ。心の汗」

 

「絵名って打たれ弱いんだね」

 

「くっ……弱くて悪かったわね!」

 

「ううん。絵名はそういうのに強いイメージがあったから」

 

 

 動画の酷評も自分から見に行って、学校でも東雲さんへの悪口を言われていても、ノーダメージ。

 まるで何も感じない自分のように、東雲絵名という少女はそういうことに対して強い。

 

 ──というのが、まふゆのイメージだったらしい。

 

 まぁ確かに、そう見えるかもしれないけど。

 

 自分への悪口とかに強いのも、単に興味がないから、何を言われても何とも感じないだけ。

 共感性のない人間に相手の気持ちを想像できない……という状態に、偶然なっているのだ。

 

 ただ、絵の評価はその限りではない。

 興味だってあるし、雪平先生によく泣かされるし、落ち込むことだってある。

 

 スランプの時なんて、どうして自分は絵を描き続けてるんだろうって純粋に疑問に思っていたし。

 彰人の前で筆を折って絵の具を捨てようとご乱心して、止められた時もあったし。

 

 

「……それでも絵名は描き続けるんだ。やめようとは思わないの? そんなの、描き続けたって辛いだけでしょ」

 

「はぁ? そんなの、何回も──」

 

 

 何回、も……?

 

 あれ、そういえば、絵を描くのをやめてやるって言ったこと、あったっけ?

 

 筆を折って絵の具を捨てて彰人に「やめてやるぞ」とご乱心した時も、結局やめるって言う前に心変わりしたし。

 言われてみれば、やめようと言ったことはないような。

 

 頭の中で記憶を漁っても出てこない思い出に、背中に嫌な汗が流れるような気がする。

 

 涙もいつの間にか引っ込んでいて、まふゆに声をかけられるまで嫌な思考がぐるぐると回っていた。

 

 

「どうして絵名は、苦しくても悲しくても、絵を描こうとするの?」

 

「どうしてって……それは楽しいし、好きだからよ。苦しくても泣いちゃっても、結局そこに戻ってくるからやめられないんでしょうね」

 

「ふぅん、そうなんだ」

 

 

 まふゆを説き伏せたものの、私の心臓の音は違和感を主張するように、嫌に響いて聞こえてくる。

 何かがおかしいぞと警鐘が鳴っているのに、何がおかしいのかわからない。

 

 

 

 ──いや、今は私のことよりもまふゆのことだ。

 

 違和感を投げ捨て、私はまふゆの様子を窺う。

 こちらを見ているまふゆの目はガラス玉のように空虚で、その底はまだまだ暗く感じる。

 

 私が乱れただけで、まふゆに変化はなし。

 今の話題を続けたくないので、私は無理矢理話題を変える。

 

 

「まふゆ、そろそろナイトコードから消えて1週間経つらしいけど、もしかして黙っていなくなったの?」

 

「そうだけど……どうして絵名がそんなの気にしてるの?」

 

「AmiaやKから雪の安否を確認する連絡が来てるから」

 

「……面倒だね」

 

「だからちゃんと宣言しなさいって言ってんのよ」

 

 

 バイトであれ何であれ、無断欠勤は面倒ごとの元。

 

 仕事場ならまだ蒸発やら高飛びやら色々と好きに噂されるだけだろうが、親しき仲でそんなことをされたら相手に心配をかけてしまう。

 

 だから私は最初から色々と根回しをしたのだが……まふゆは黙って休んでしまったらしい。

 

 もう、ナイトコードにログインするつもりはないのだろう。

 関係のない相手。だから気を遣う必要はない……と。

 

 

「あんた、身元整理してるみたいね」

 

「そうだね」

 

「1人で頑張ってみても見つからなかったんだ? だから言ったのにね」

 

「絵名に何がわかるの?」

 

「私にも誰にも、あんたのことがわかるわけないじゃん。何のためにあんたには口があって、言葉があるのよ。抱えきれないぐらい辛いのなら、吐き出すしかないでしょうに」

 

 

 待ちに待っていた視界の向こうに映った人影に、私は不敵に笑ってみせた。

 

 

「例えば、向こう側──ミクの隣にいる2人にも話を聞いてみたら、あんたを見つけてくれるかもよ?」

 

 

 ──その相手は、あんたを救ってくれるであろう人だから。

 

 腰まで伸びた長めの白髪の少女とピンクがかった白の髪が綺麗な子、ミクが3人揃って歩いてくる。

 どうやらミクは2人をここに連れてくることに成功したらしい。

 

 私の言葉で振り返ったまふゆが、KとAmiaらしい子を視界に収めると、淡々とした声で問いかけた。

 

 

「ミク──どうしてここに招いていない人がいるの?」

 

「雪?」

 

 

 問いかけるまふゆの声に、Kが反応した。

 それによって、Amiaっぽい子も声を出す。

 

 

「その声……言われてみれば確かに、雪っぽいかも?」

 

 

 聞き覚えのある声といい、少し記憶に引っかかりそうな見た目といい、相手はAmiaで間違いなさそうだ。

 

 私が頭の中で答え合わせをしている間に、まふゆも答えに辿り着く。

 

 

「その声はKとAmia?」

 

「うん、そうだよ。よかったぁ、無事だったんだね、雪! 連絡取れないから心配だったんだ!」

 

 

 Amiaは暗い顔のまふゆに「ずっとここにいたの?」とか「帰り方がわからなかったの?」とか、明るく問いかけている。

 それはAmiaの優しさなのだろうけど……今のまふゆにはあまりにも悪手だった。

 

 

「うるさい……勝手にこのセカイに来ないで。私がここに連れてきたのは絵名だけだよ。あなた達は呼んでない。私は1人で作るから、あなた達と一緒にいるつもりなんてないのに」

 

「1人で……って」

 

「えっと、一緒にいるつもりがないってことは……じゃあ、もうボク達と一緒に曲を作る気はないってこと?」

 

「そう。何度も言わせないで」

 

 

 Kが何かを悟ったように呟き、Amiaは確信を得るために問いかける。

 虚な目を向けたまふゆはこくりと頷き、Amiaの言葉を肯定した。

 

 

 

「……あー、その。そんな急に言われてもさ。奏もびっくりしてるし……って、奏?」

 

「──じゃあ、雪はえななんと一緒にOWNとして曲を作っていきたいの?」

 

 

 心の中でガッツポーズ。スタンディング・オベーションだ。

 Amiaはちゃんと仕事したらしく、私が気がついて欲しいことにKはちゃんと気がついてくれた。

 

 ただ、Kの勘違いポイントはまふゆの曲作りに、私は全く関係ないってこと。

 私は場違いなのだ……申し訳ないことに。

 

 その証拠に、真っ暗オーラを放っていたまふゆの気配が薄くなって、まふゆは何言ってるんだと言わんばかりに小首を傾げた。

 

 

「仮にえななんと作っているとしても……私がOWNだと思う根拠は?」

 

「根拠はないよ。でも、曲を聞いててこれは雪が作ったんだって気がついた。使ってる絵もえななんのだよね」

 

「うん、OWNについては正解だよ。だけど……サムネのことなら、ここで隠れてもらってるえななんの絵を借りてるだけで、一緒には作ってないよ」

 

 

 そう、その通り。

 私が暇潰しに描いている絵を見て、まふゆは隣で文句を言いながら「サムネに使うね」と絵を借りているのである。

 

 なので、私はまふゆの曲用の絵は描いてないし、まふゆもそれを承知で使っていた。

 

 

「隠れてもらってる……って、どういうことなのさ。もしかして、えななんがナイトコードに来なかった理由って」

 

「Amiaも察しがいいね。えななんにはずっとここにいてもらってたんだ。どうせ、ニーゴにいても足りなかったから。えななんだってあそこにいても意味ないもの」

 

「足りなかったとか、意味ないって……」

 

 

 Kは呟きながら、困惑を隠せない様子でまふゆと私を交互に見る。

 

 いや、私は意味ないとか足りないとか、思っていないから。

 別の理由でここにいますと首を横に振っていると、Kは困惑しながらまふゆの方へと向いた。

 

 

(……自分が見つからなくて苦しいんなら、いっそのこと言ってみなさいよ。ここに長時間いても吐き出さなかった、自分の内心をさ)

 

 

 まふゆとKは同系統の色の目で見つめあっている。

 まふゆが求めているのはKの曲だっていうのは、ここで過ごすだけで痛いぐらいにわかるのだ。

 

 

 だからこそ──私を隠したって自分は見つからないんだとわかるまで、全部吐き出してしまえばいい。

 

 






☆記憶喪失えななん勘違いポイント
まふゆさんから経緯を聞き出せてないので、えななんは未だに自分がセカイに隠された理由は『まふゆさんの自分探しの一環』だと思っています。
これも全ては自己評価が低いせいで、まふゆさんの矢印の大きさがうまく認識できてないせいなんですけど……




《オマケ》

 ──これはまだ、K達がセカイに現れる前の話。
 私がお母さんを躱してUntitledを再生し、セカイにやってくると、絵名とミクがしゃがんできゃいきゃいと盛り上がっていた。


「2人揃って何してるの……?」

「まふゆ、おかえり。何って言われても、オムライス作ってるんだけど」

「いらっしゃい、まふゆ。このオムライス、小さくてかわいいよ」


 卓上コンロにお玉を添えて、その中に卵を入れてくるくるーっと混ぜながら、絵名がオムレツを作っている。
 それをあらかじめ用意していたケチャップ味らしい俵おにぎりの上に乗せ、中心を包丁で割れば、とろとろとした卵が現れた。

 ……絵名は随分と器用らしい。
 心なしかミクの目もキラキラと輝いているし、卓上コンロを準備してまでセカイで料理をするものなのかとツッコミ難い。


「はい、これミクの分ね」

「……! うん」


 『ミク』とケチャップで書かれた小さなオムライスを、ミクは嬉しそうに受け取る。
 ……よくわからないけど、あのオムライスがとても美味しく見えてきた。

 じぃっとミクのオムライスを見ていると、何故か絵名が吹き出したように笑う。


「ふふ、まふゆも欲しいの? 作るから待っててね」

「……うん」


 卓上コンロを使っているせいなのか、胸が少し暖かくなった気がした。

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