イラスト担当は記憶を無くしました   作:大森依織

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今回も後書きにまふゆさん視点があります。
(まふママが登場してますが)


45枚目 取捨・選択

 

 

 Kを見ていたまふゆはいつもより数倍暗い無表情のまま、口を開く。

 

 

「初めてKの曲を聴いた時は少しだけ、救われたような気がしたの。だから、Kのそばで探せば、見つかるかもしれないって思ってた……でも、それじゃ足りなかった。1年経っても見つけられなかった」

 

「……雪」

 

「私にはもう、K達に付き合うような時間は残されてない。K達とやって見つからないのなら……自分で見つけるしかないんだよ」

 

 

 このまま話が続くのかと思いきや、ほんの少しだけ語ったまふゆはミクに「KとAmiaを追い出して」と会話をシャットアウトしてしまった。

 

 いや、もう少し話すことがあるでしょうに。

 

 ミクが言葉を尽くして説得しようとしても、聞く耳を持たず。

 ……まふゆにそのつもりがないのなら、2人を帰してしまう前に私が2人にお願いしよう。

 

 

「ミク、ちょっと待って。私も2人に話が──」

 

「絵名は黙ってて」

 

「!?」

 

 

 お願いする間もなく、背後を取ってきたまふゆによって、ペシーンと顔を叩く勢いで口を塞がれてしまった。

 

 鼻も痛いし、上唇も痛い。鈍い痛みに私の目尻から生理的な涙が溢れたのがわかった。

 まふゆによる突然の暴力と、それに涙を流す私を見たAmiaは素っ頓狂な声で抗議する。

 

 

「えぇ!? ちょっと雪、急にえななんを叩いて口封じするなんて……やっぱり変だよ! 一度話し合った方がいいって!」

 

「変? 私が変なら、2人だって変でしょ? だって本当は……私もえななんも、KもAmiaだって──誰よりも消えたがってるくせに」

 

 

 私が顔面平手打ちの痛みに悶絶している間にも、まふゆは堂々と全員の地雷を踏み荒らしていく。

 

 ……このままだと、まふゆのことを止めて欲しいとお願いできる状態ではなくなってしまう。

 

 共倒れをするわけにはいかないと脱出を試みるものの、どこにそんな力があるのか、まふゆの手はびくともしなかった。

 私がジタバタしている間にも、まふゆはAmiaに声をかける。

 

 

「──それなのに、どうして私だけが変だなんて言えるの?」

 

「ねぇ、雪。ホントにどうしちゃったの? ボクが消えたいとか、どういうことかな。ボクは毎日がすっごく楽しいし、消えたいと思ったことなんて……」

 

「いいよ、そういうの。Amiaはいつも楽しそうにしてるけど、私が言ってる意味ぐらい、わかってるんでしょ?」

 

「…………へぇ?」

 

 

 ナイトコードで1度も聞いたことがないAmiaの低い声が、静かなセカイに響く。

 1番リカバリー能力の高そうなAmiaまでドカンと踏み抜かれて、本格的に余裕がなくなってきた。

 

 

(やばいやばい! 馬鹿力だけど、ちょーっと口を押さえてるだけなんだから、こんなの私が大きく暴れたら……!)

 

「絵名、2人がここに来て嬉しいの? でも、いい子だからおとなしくしてね」

 

「っ!?」

 

 

 まふゆは私に囁きつつも、器用に片手で口を塞ぎ、もう片方の腕を首を絞めれそうな位置へと回す。

 

 少しでも動けば苦しくなってしまうような、絶妙な位置。

 頭には豊満な胸が押しつけられているし、誰かにとってはご褒美ですと喜びそうなシチュエーションだが……今の私はそれどころではないのだ。

 

 KもAmiaも、やっとセカイに来てくれたのだ。チャンスはそう多くない。

 だからこそ早く抜け出さないと、まふゆの思惑通りになってしまうのに!

 

 

(あぁもう、このバカまふゆ! 早く離してよ!)

 

 

 私が抜け出そうと四苦八苦している間にも、Amiaがミクによってセカイから追い出される。

 その後、Kもミクに追い出されて、腕から解放された頃には私とまふゆ、ミクの3人だけしか残っていなかった。

 

 ……結局、私は何のためにセカイにいたのかもわからなければ、ただ、まふゆの腕の中でジタバタ暴れていただけの女になったと。

 

 いくら何でもこれは酷い。

 顔面平手打ちも含めて文句を言わないと気が済まなくて、私は振り返って不届き者をキッと睨みつける。

 

 

「まふゆ、あんたどういうつもりよ!?」

 

「どうせ何もできない相手なんだから、声をかける必要なんてないよ」

 

「それはあんただけで、私にはあるの! なのに勝手に追い出しちゃってさぁ!」

 

「……話さなくていい。どうせ期待したって、もっと辛くなるだけだよ」

 

 

 口ではとんでもないことを言ってるのに、手は弱々しく袖を握ってくるだけなのだから、堪らない。

 吐き出しそうになった言葉を飲み込んで、咀嚼して。できる限り柔らかくしてから言葉にした。

 

 

「この理不尽大王め……そっちの言い分はわかったけど、私も同じ意見だと思わないでよね」

 

 

 さっきまでの何も感じてなさそうな顔じゃなくて、見ただけでわかるぐらい苦しそうに眉を潜めている顔。

 そんなのを見てしまうと強く当たることもできなくて、私は仕方なく振り下ろしかけた手を下ろす。

 

 が、1つだけ、どうしても言いたいことがある。

 

 

「後、黙殺するのに平手打ちはないと思うんだけど?」

 

「……忘れてた課題があったから、勉強しに戻るね」

 

「あ、こらっ。都合が悪くなったからって逃げんな!」

 

 

 せめて謝罪ぐらいはしていけと詰め寄ってみるものの、さらりとこちらの手を躱し、まふゆは逃げてしまった。

 

 

「よしよし?」

 

「ありがとう、ミク」

 

 

 ──この日、最後の最後までセカイに残されたのは、ガックリと膝をつく私と、私の頭を撫でてくれた優しいミクだけである。

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから7日が過ぎてしまい、何とかまふゆが部活でいない時間を確保できたものの、私はKと連絡を取れずにいた。

 

 ピクシェアもナイトコードも全部送ってみたものの、反応はゼロ。

 唯一連絡が取れたのがAmiaだけで、それでも約束できたのは今日という短い時間のみ。

 

 まふゆを救えるとしたらKの曲しかないと思っていたのに、Kとはあの日から全く連絡が取れない。

 

 

(K、どうしたんだろ。もしかして折れちゃったとか? ううん、そんなわけないよね。そんなわけ、ないって思いたいけど……)

 

 

 まふゆを深い水底から掬い上げられるのはKしかいないのに、嫌な想像だけが頭の中に広がっていく。

 

 まふゆが自分から動いて反応したように見えたのはKの曲であり、その他のことついては『何も見つからなかった』と言っていた。

 結局、私がやってきたことはまふゆにとって、余計なお世話だったのだろう。まふゆに必要なのはKの曲であり、それ以外は必要なかった。

 

 それをもっと早く認めていれば良かったのに、今の今まで1人で頑張ろうとして、私もまふゆに偉そうに言えるような立場ではなかったのである。

 

 

「1人でも止めれると思いあがって無駄に動いて……今までの行動とかも、意味がなかったのかな」

 

「──そう? ボクはそんなことないと思うけどね」

 

 

 そんな言葉と共に、小さく「やっほっほ~」と手を振りながら隣に座ってきたのは、待ち人であるAmiaだった。

 流れるように私の隣を占領したAmiaは、鞄から2本の飲み物を取り出し、片方を私に差し出す。

 

 

「どんよりえななんの為に、気の利くボクが買ってきたよ~」

 

「なにこれ……『飲むチーズケーキ』?」

 

「うん、チーズケーキのドリンク。好きでしょ?」

 

「確かにチーズケーキは好きだけど、飲むほどまでじゃないというか……いや、先にお礼よね。ありがとう」

 

「うんうん、存分に感謝したまえ~」

 

「は? 調子乗んなっての」

 

 

 両手を腰に当てて胸を張るAmiaをジト目で睨み付けると、相手は何が面白いのか笑い出した。

 

 

「うん。そういう強気な態度の方が、えななんらしいってボクは思うな」

 

「私らしいって、今はそんなにらしくないわけ?」

 

「ボクにとってのキミは、困ってた時に強引に手を引っ張ってくれて……「好きを貫け、甘えたことを言ってたらグーパンチだぞ~」って言うぐらい、強引な子だからねぇ」

 

「……大事な記憶の容量を何年も昔の、それも数時間程度のことに使っちゃうとか。そういうところ、ほんっとーにバカね」

 

「はは。それはお互い様じゃない?」

 

 

 無視していた既視感が、記憶を無くしてから初めて迎えたあの夏の日と重なる。

 世の中に絶望しきっていたようなリボンの子は今、悪戯っぽく笑っていて私の横に座っていた。

 

 

「ねぇ、えななん。雪は本当に消えたいと思ってるの?」

 

「違うと思う。自分が見つからないなら、消えるしかないってここ1ヶ月ぐらいで慌て始めたみたいだし……この意見はミクも同じだって」

 

「消えたくないと思ってるって感想は同じねぇ。えななん、1つ確認してもいい?」

 

 

 私の話を聞いた瞬間、Amiaが片手をあげた状態で人差し指を1本だけ立てた。

 

 

 

「雪がえななんをこのセカイに連れてきた理由って、えななん自身を隠す為……なんだよね?」

 

「らしいわね」

 

「ボク、雪がいなくなっちゃった日に雪と雪のお母さんとの話を聞いたんだけどさ……勉強できない友達とは付き合うな〜みたいな、自分の価値観をナチュラルに押し付けるような感じに聞こえたんだよね」

 

「は?」

 

「もしかしたら雪、えななんと遊ぶなとか、それに近いことを雪のお母さんに言われたんじゃないかな?」

 

 

 冷や水をかけられたみたいに冷たくなる心臓。

 嫌な想像に逃げ出しそうな自分を押さえつけて、私は必死に頭を回す。

 

 

「あいつが私を隠した理由は自分探しの為じゃなくて、自分の母親に見つからないようにする為だったってこと?」

 

「たぶんね。雪にとってのえななんは、切り捨てたくない友達だった。だから、見つけられない場所──セカイにえななんを隠したんだ。でも、それじゃあ問題は解決しなかった。当然だよね、根本的な原因である雪のお母さんの考えは変わってないんだから」

 

「お母さんは変えられない。だから、急いで自分を変えようとした。『自分がわからないまふゆ』から、『自分がわかるまふゆ』に変わらなくちゃいけないから、時間がなかった……ってことね」

 

 

 人間関係の相談をした時に『他人を変えたければまずは自分から変わろう』なんて、無責任なことを言う奴がいるけれど。

 もしかして、まふゆはそれを馬鹿正直に実行しようとして、私をセカイに隠して、自分を探そうと必死になっていたのだろうか。

 

 なら、私がやらなきゃいけなかったのは、彼女を肯定して寄り添うのではなくて──もっと根本的な、私が本来、実行しようとしていたこと。

 何があってもそばにいると、味方だと手を伸ばすことだったのだ。

 

 

「ねぇ、Amia。Kが再び、セカイに来るように説得することってできる?」

 

「あー、どうだろ。頑張ればKなら話を聞いてくれそうだけど……肝心な雪から、ボク達は拒絶されてるよね?」

 

「そこは私がなんとかする」

 

「……あっ。でも、ボクの方も約束を守ってもらってないしなー。再会できたら名前、教えてくれるって言ってたのになー」

 

「今、それを言うの? ……あんたならあの炎上とか、流出写真も見てそうなのにね」

 

「それとこれとは話が別かなぁ」

 

(つまり、知っていると)

 

 

 思わずジト目でAmiaの顔を見ると、相手はいい笑顔を寄越してきた。

 腹が立つぐらいニッコリ笑っているとはいえ、約束は約束だ。

 

 

「じゃあ改めて……えななんこと、東雲絵名よ」

 

「ボクの名前は暁山瑞希、瑞希って呼んでよ。改めて、よろしくね」

 

「うん、Kの方も含めてよろしくね」

 

「うわー。しれっとお願いしてくるなんて、ズルっ子なんだ〜」

 

「うっさいわねぇ……こっちは今から家までダッシュしなきゃいけないんだから、分担よ、分担!」

 

 

 まふゆとの約束を反故にする形になるけれど、終止符を打つ為だ。今日ぐらいは約束を破らせてもらおう。

 

 

「ということは、作戦はすでにあるってコト?」

 

「ええ、当たって粉砕よ」

 

「いや、粉砕したらダメじゃん」

 

「「あははっ」」

 

 

 久しぶりに声を出して笑った私は、Amiaと別れてからスマホを操作してUntitledを停止する。

 

 

(仮に予想が外れてたとしても、瑞希もKもいるし、大丈夫。頑張ろう)

 

 

 まふゆが家に帰って、セカイに行ってしまう前に、私は家に向かって走り出した。

 





瑞希さんカワイイやったー!
はい、瑞希さんの頼もしさがすごいですね。安心しちゃいます。

さて、メインストーリーでかなーり問題の場面をどうぞ……


《side.まふゆ》


 家に帰ると、私の部屋にあったはずのシンセサイザーが玄関付近に置かれていた。


「どうして、私のシンセサイザーがここに?」

「さっき、まふゆの部屋を掃除してたら見つけたのよ。使わないのに部屋にあっても邪魔でしょう? 明日回収してもらうから」


 とても良いことをしているかのように、お母さんは微笑む。
 勝手にいらないと決めつけて、勝手に部屋のものを捨てていく。


「……なんで、使わないって言うの?」

「え? だって、お医者さんを目指して毎日、勉強を頑張っているまふゆには、こんなものは必要ないでしょう?」

「……っ。その、勉強の息抜きで触ってたんだよね。それに、音楽の勉強は将来にきっと役に立つと思うんだ。だから、捨てないで別の場所に置くとかじゃ……ダメかな?」


 嫌だ、嫌なの。だから、お願い。
 そう祈っても、糸の先には全く響かない。


「ねぇ、まふゆ。よく聞いて、後悔しないように考えてね?」

「ぁっ……」

「まふゆは今、大事な時期でしょう。なら、今は誘惑しそうなものは断ち切らなきゃ」

「……でも」

「ねぇ、これはまふゆの為なのよ」

「……」

「まふゆなら、お母さんの言ってること……わかってくれるわよね?」

「……うん」


 お母さんの全く悪気のない微笑みに、ふと、文化祭の時に見ていた絵を思い出した。

 東雲絵名というネームプレートが吊るされた1つの作品。
 大事そうに少女が抱えている箱に、無数の手が伸びてきて、箱の中身を勝手に持って行ったり、中にモノを入れたりする絵が記憶に蘇る。



 ──まふゆはもう中学生だもの。兎のぬいぐるみなんて必要ないわよね。
 ──絵本も子供向けだから小学生になったし卒業しましょう? お母さんが捨てておいてあげる。
 ──まふゆはお医者さんになるんだものね、参考書は必要でしょう?
 ──まふゆにはこの腕時計とかどうかしら?



 絵名に貰った2つのぬいぐるみも捨てられて、今はシンセサイザーも必要ないと捨てられそうで。


 絵名がどういうつもりで描いたのかわからなかったけど、まるで私を描いてるみたいで目が離せなかった絵と、今の自分がピッタリ重なったような気がした。


「じゃあ、お母さん出かけてくるから。お留守番お願いね」

「……いってらっしゃい。お母さん」


 ……ねぇ、お母さん。

 お母さんはいらないって言うけれど、今まで捨てたものは本当に全部いらないものなのかな?
 ぬいぐるみだけじゃ足りなくて、私から音楽(シンセサイザー)も奪って、最後には友達すらも切り捨てられてしまったら……私に残るのは何?

 勝手に決められて、勝手に判断されて、勝手に追加されて、勝手に捨てられて。
 私の為になる、私を想ってくれる愛情によって……壊されて、砕かれて、踏み躙られる。

 ──私が捨てられていく。

 見つからないし、何も変えれないし、何をしても意味がないというのなら──私は。


「もう、いいかな……」


 私はもう、頑張らなくてもいいよね。
 私、理由ができるぐらい頑張ったよ。頑張ったのに……なのに。

 これ以上、捨てられるぐらいなら── 大切なモノが増えてしまう前に……消えたいよ。


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