最近、文字数が本当に多くなってますので。
いい加減、今回で悔やむと書いてミライ〜させます。
Kって、お父さんに呪われてるんだね──なんて。
(こいつ、何で平然と地雷の上で踊ってるわけ!?)
まふゆはKの曲を聴くとも聴かないとも言わず、ただ淡々と感想を並べていく。
まふゆの対応はスマホを叩き落としたりしていないだけ、まだマシな方なのだけど……返す言葉の1つ1つの攻撃力が必殺技並みだ。
最近はほぼ毎日、まふゆの口撃に晒されていた私でも目から涙が出ることもあるぐらいの切れ味である。
そんなものをK達に向けるなと、叫んでいいのなら叫びたい。
だけど、私の内心なんて全く察知していないまふゆは、さらに言葉の刃を投げつける。
「消せない呪いがあるなんて、Kはかわいそうだね。自分が救われたいから、私も自分の曲で救いたいのかな? そういうの、お互い苦しいだけだと思うけど」
「そうかもしれないね。けど、わたしは呪われていても、雪を救う曲を作りたい」
「──へぇ? 認めるなんて、潔いんだね。でも、その曲は本当に私を救ってくれるのかな。今までだって誰かを救う為の曲を作っていたのに、それで私は救われなかったよ?」
まふゆはKを見下ろすように近づいて、じっと見つめながら小首を傾げる。
なんというか、私の話を聞いてくれていたのかと、改めて問い詰めたい。
……いや、いっそのこと言ってやろうか。腹が立ってきたし。
Kには悪いと思うものの、私も我慢の限界だ。
私は2人で見つめ合っている間に割って入って、まふゆをデコピンの刑に処す。
突然の私刑にまふゆは唖然としながら、少し赤くなった額を右手で覆う。
信じられないものを見るような目をこちらに向けて、まふゆは小さく口を動かした。
「え、えな……?」
「今まで助けて欲しいとも、一緒に探して欲しいとも言ってないのにさ……それなのに、Kに当たったってしょうがないでしょ」
「そんなの、絵名に言われたくない」
「確かに、私はあんたに偉そうなことを言えない立ち位置だけど。今まで黙ってたまふゆが勝手に救われるのが、ありえないってことだけはわかってる」
今まで黙っていたのに、それで誰かに助けて貰えるなんてあまりにも虫が良い話だ。
本当に助かりたいのなら、見つかりたいのなら……声を出して、差し伸べられた手を払わずに掴まなければ難しいのだから。
願うばかりで行動が伴わない人間に、望みが叶うはずもなく。
自分の口から記憶喪失の件を出していない私は、かなり偶然が重ならない限りは目標を達成できないであろうことも理解している。
まふゆとは違って、今更、自分が記憶を取り戻してもどうかと思っているし。
それに……記憶を取り戻した時に、私はちゃんとそこにいるのだろうかと、悩むようになってしまったから。
あの日の絵の答えを知るのが怖くて、先延ばしにしている私が……まふゆに偉そうに言うのは間違っているのも、知っている。
「ねぇ。まふゆはどうして、感情を吐き出す先に曲を選んだの?」
「どうしてって聞かれても……」
「あんたならコンクール取る程度には文章力もあるし、詞を書くことだって良かったでしょ。それなのに、曲を作ることを選んだ理由は何?」
「そんなの、わからない」
「本当に? そこにKの曲とか、ニーゴで作ってきた曲のこととか、そういう影響がないって言い切れる?」
「……わからないよ。それが1番、見つかるんじゃないかって思っただけ」
ぷい、と目を逸らして呟くまふゆに、私は大きく息を吐く。
わかってるじゃん、と私が言うのは野暮だろうか?
私が何を言っても『わからない』と駄々っ子のような返答しかしてこない中、割って入って来てくれたのは、今まで殆ど黙っていた瑞希だった。
「そっかそっか~。雪はわからないって思ってるんだねぇ。そう思いたい気持ちも良くわかるよ。ボクだってそうやって、わからないフリができたら楽だと思うもん」
「瑞希……?」
「ほら、天才だって美人だってカワイイ子だって、誰もかれも悩み事があってさ。知らなきゃよかったって、思うこともあるじゃん。聞きたくないこともあるわけだよ。いっそ、胸の中で秘めていてくれって思うことも、これまた沢山あるんだよねぇ」
うんうん、と瑞希がまふゆを肯定する。
思わず、瑞希が余計なことを言いに来たのかと警戒してしまったが、どうやらそういうつもりでもないようで。
私が「瑞希」と呟く声が聞こえたのか、瑞希はこちらにウィンクを披露しながら笑う。
「だから、ボク個人はわからないっていうのも、良いと思うんだけどね」
「なら」
「でもさ。絵名がここまでずっとまふゆに寄り添って、Kが曲を作ってくれて。2人が一生懸命手を伸ばしてくれているのに、それを見ないフリするのはちょっと寂しいなって思うんだ」
まふゆが反応した瞬間に、瑞希は自分の意見を述べた。
「それにボクも、まふゆと似てるなーって思うところがあるし。探し物でもその他のことでも、絵名と同じぐらい……は無理でも、ボクも少しぐらいは手伝えると思うんだ」
「Amiaも好き勝手言うんだね。Kの曲でもAmiaが協力してくれても、それでも見つからなかったら……今、消えた方が楽なのに」
まふゆは目を伏せた状態のまま、両手で胸を押さえ込む。
間近で見ているせいなのか、小さく震えているまふゆはどこか、怖がっているように見えた。
「皆、勝手なことばっかり……勝手に動いて、勝手に作って、勝手に寂しがって。希望を持たせようとして、大丈夫かもって思わせて。そうやって持ち上げた後、落ちちゃうかもしれないのに……どうして、そんな無責任なことを言えるの?」
まふゆは両手を真っ白になるぐらい握って、まるで感情が決壊したかのように大きな声を出す。
「もう、疲れたの……! 希望を持つのも、大丈夫かもって何の根拠もなく信じるのも、自分を探すのも。嫌になるぐらいに疲れたの。探しても探しても見つからなくて、どんどん捨てられて、絶望して……これ以上失くすぐらいなら、見つからなくて何も変えられないなら、もう全部いらない! 失うだけで救われないのならもう、私はこのまま消えたいの!」
「──なら、わたしが救うよ。たとえこの曲で雪を本当に救えなかったとしても、雪が救われるまで、自分を見つけられるまで、わたしが曲を作り続ける」
「……何を言ってるの?」
Kのことを知っていれば予想できる回答に、まふゆは信じられないものでも見るような目を向ける。
「1度は救われた気がしたって言ってくれたから。これがお父さんの呪いだとしても……わたしはもう、わたしの身近で誰かが消えるのは嫌だよ」
「……そう。絵名が最後の最後までKを頼りたがらなかったのは、そういうところもあったのかもね」
Kの言葉で我に返ったのか。
私の耳で辛うじて拾えるような声で呟いたまふゆは、大きく1息入れてから、改めて問いかける。
「いいの? 今の言葉だと、呪いをもう1つ増やすようなものだよ。私が私を見つけるまで、Kは曲を作らなくちゃいけない。そう言っているの、自覚してる……?」
「うん。わかってる」
「Kは今まで、私の顔も何も知らなかったのに。どうしてそこまで、動こうとしてくれるの?」
「言葉にするなら、わたしの『エゴ』かな」
「……私は今も自分とかそういうの、わからないんだよ。これから見つかるかもわからなければ、見つからないまま終わるかもしれない。見つかるまで、どれだけかかるかもわからないのに……それでも本当に、やるって言うの?」
「うん」
躊躇いなく頷くKに、まふゆは体の力を抜いてしまった。
どうやらもう、言い返す気力も失せてしまったようである。
音楽でお父さんを救えなかったから、その音楽で人を救うことで贖罪としようとしているKだ。
改めて問いかけたところで、平然と肯定の言葉を返してくるだろう。
見えるところに『自分の曲で救える人』がいないと自爆するであろう少女だから、余計にそう思う。
私が2人のやりとりに目を細めていると、まふゆが脱力した状態で言葉を溢した。
「絵名もAmiaも、それからKもそんなに言ってくれるのなら……私も、もう少しだけ信じたいと思う」
「うん、大丈夫だよ。いつか、絶対に雪を救う曲を作ってみせるから」
2人の話が終わったのを見計らって、今まで殆ど空気に徹してたピンクがひょいと手を挙げた。
「──ってことは、つーまーりー? 一件落着ってことでいいよね? 現場の絵名さーん?」
「あー、はいはい。綺麗に纏まったんじゃない?」
付き合うつもりはないので、マイクのように口元に差し出された握りこぶしを追い払った。
瑞希の猛攻をブロックしつつ、私は改めて2人の様子を窺う。
奏の覚悟によって絆されたのか、まふゆの顔色もセカイにやってきた時と比べると良くなっていた。
(私じゃ、力になれなかったし……本当に、良かった)
そう本心から思っているはずなのに、私の心臓は針で刺したような痛みを訴えてきた。
K達が来たらあんなにあっさりと解決したんだから、最初から頼っていれば良かった。
Kだって、身近に自分の曲で救わなくてはいけない人がいれば、無茶もしないと予想できていたのだから、余計にそう思う。
だから、この胸の痛みは遠回りさせてしまった罪悪感のせいなのだ。
……きっと、そうに違いない。
「──良かった。まふゆは本当の想いを認められたんだね」
私が考え事をしている間に、微笑を浮かべるミクがこちらに向かって来ていた。
「まふゆの本当の想いから、歌が生まれようとしてる……これでやっと、一緒に歌えるね」
生まれる、という言葉と共に、どこかから音が聴こえてきた。
これがミクの言う『歌』なのだろうか。耳を澄ませて歌を聴いている中、まふゆの声が響く。
「この歌が私の本当の想い? 私はまだ、自分も何も、見つけられていないのに……?」
「ううん、まふゆは前から1つは見つけてたんだよ。それがわからないって思って、認められなかっただけ。セカイやこの歌がここにあるのが、その証拠」
「認められなかっただけの想いが……ここに」
「うん。だから、まふゆの想いの歌を歌おう。奏も絵名も、瑞希も、皆で」
「「「え?」」」
素知らぬ顔をしていた私達にも矢印を向けられて、疑問の声を揃えてしまう。
……いや、普通に困るし嫌なんだけど。
歌が得意というほどでもないし、できれば遠慮したい。
今から帰るのは無理だろうか? このままスーッと消えたらフェードアウトできる気が……
「絵名ってば、逃げるの〜? 今度から『歌下手なん』って呼び名が増えちゃうかもだけどー?」
「はぁ!? 瑞希にそんな呼び方されるほどじゃないし!」
「じゃあ一緒に歌おうよ。あ、本当に上手く歌えないならいいんだけどね?」
「や、やってやるわよ見てなさいよ!」
……あっ、乗せられてしまった。
そう気がついた時にはもう遅く、瑞希にまんまと嵌められて、4人とミクでまふゆの想いの歌を歌うことになったのだった。
☆★☆
「絵名ってば、歌うのは苦手だとか言ってたのにちゃんと歌えるじゃん!」
「うん、今度からは作った曲を、皆で歌うのもいいかもね」
「は? え、Kまで何を言ってんの!?」
歌い終わってから瑞希に褒められて、Kにもとんでもない提案をされて、私はもうタジタジだった。
勘弁してくれと思っているのに、Kは構わず「あ」と呟く。
「そういえば、わたし、まだえななんの名前を知らなかったっけ。教えてもらってもいい?」
「え? 今!?」
「うん。瑞希も知ってるみたいだし、いいかなって。あ、わたしは宵崎奏だよ。こっちの名前も呼び捨てでいいからね」
「……あ、そう。私は東雲絵名だけど」
「やっと知れて嬉しいよ。ありがとう、絵名」
相変わらず調子を狂わせてくるK──じゃなかった、奏に私はなす術もなく翻弄されてる気がする。
瑞希は楽しそうにニヤニヤ笑ってるし、後は……1番の問題児はどこにいったのだろうか。
ぐるりと首を回して周囲を見渡せば、ボーッと突っ立っているまふゆが視界に入った。
何をしているのだろうか。不思議に思って近づくと、まふゆはこちらへ顔を向ける。
「……絵名」
「何よ」
「私、見つけて欲しかったんだと思う」
「歌ったら、ちょっとは自分がわかったってこと? 知れて良かったじゃん」
「ううん、それは少し違う」
ゆるゆると首を振ったまふゆは右手を胸に手を当てて、ほんの少しだけ眉を下げた。
「私、何も言わなくても私を見てくれてた絵名に甘えてた。私がわからないことも見つけてくれて、教えてくれる絵名がいたから……本当にわからないことも、わかったこともわからないって言ってた」
今まで作ったお菓子や料理、今まで一緒に行った場所。音楽以外にも何か引っかからないかと、絵を描いてくれたこと。その景色。
蹲っていても探し出して手を引っ張ってくれて、黙っていても言葉を引き出そうとしてくれる温かさ。
「何を言わなくても、わからないって言っても。引っ張ってくれる絵名に甘えて、わかってることすら見えなくなってた……セカイに閉じ込めたり、沢山酷いことをしたから……本当に、ごめんなさい」
「はっ、今更? ほーんと、バカね」
──どうやら、私が今までしてきたことは無駄ではなかったらしい。
それがどうしようもなく嬉しくて。
ごめん、なんてバカなことを言うまふゆの鼻先を人差し指で弾き、相手の間抜け面を前に、私は笑みを浮かべた。
「そういう時はごめんじゃなくて、ありがとうって言うのよ。わかった?」
「……ありがとう?」
「そ。少しは自分が見つかったみたいで、良かったじゃん。おめでと」
「うん……ありがとう。KもAmiaもここまで来てくれて、ありがとう」
「……わたしはしたいことをしただけだから、気にしないで」
「ボクの方こそ何にもしてないんだけど……どういたしましてだね」
セカイに来る前よりも明るくなった顔をしているまふゆを見て、私もまふゆと同じように右手を胸に当ててみる。
(良かった……私がやってきたことはちゃんと、まふゆに届いてたんだ)
まふゆの想いは奏の曲から始まって、余計なお世話なことも多かったのだろうけど。
私の行動はほんの少しだけでも、まふゆに何かできていたのだとわかって、胸が熱くなった。
ほんの少し浮かんでしまった目の水滴を袖で拭い、揶揄われる前に破顔しているであろう顔を隠した。
──が、普通に瑞希に見つかって、揶揄われたのは内緒にしておこうか。
スケッチブック「チッ」
スケッチブック君、チャレンジ失敗したみたいですね。
原作との最大の違いは奏さんのスマホが救われたことかもしれません(??)