瑞希「仲間外れは嫌だ、仲間外れ嫌だ……」
絵名「リアルで会えないし、残念だけど──仲間外れ!」
瑞希「やだーっ!」
と、とある組分け帽風のおふざけはここまでにして。
今回はやっと、リアルでも会えるようになった瑞希さんがお願い事をする話です。
『えななん』
「何、どうしたの?」
『実は今、避けられないぐらい重大な問題がボクにはあるんだ』
「重大な問題?」
ニーゴのオフ会から、私もナイトコードに復帰して数日後。
Amiaが酷く真面目な声でそんなことを言うので、心当たりのない私はオウムのように繰り返す。
重大な問題、と急に言われても。
心当たりがなくて、すぐに思いつく出来事が見つからない。
「ごめん、何のことか教えて貰ってもいい?」
『それはね──ボクだけ、えななんのご飯を食べたことないんだよ!』
「……あっそう。作業に戻るわ」
『待って! お願いだから待って!』
Amiaが慌てて弁明しようとしているが、私の興味は既にAmiaの自称重要な話からKのデモへと移っており、イラストを完成させるためにペンが走り出してしまっていた。
いや、だって。
重大な問題って言うから真剣に聞いたのに、予想以上にくだらないことをAmiaが言うのが悪い。
そんな言い訳を脳内で繰り広げつつ、Amiaの弁明をBGMにイラストの形を作っていると、私の耳が2つ目の声音を拾った。
『──だって、雪は頻繁にお菓子とか作って貰ってたんだよね!? 結構おいしそうなヤツ!』
『……さぁ、わからない』
『いーや、わかるね! ボクにはあれが美味しいのがわかるね!』
いつの間にか雪もしれっと会話に参加していて、Amiaのダル絡みに律儀に答えていたようだ。
付き合わなくてもいいよ、と雪に言った方がいいだろうか。
いや、それを言えばAmiaが余計にうるさくなるのは容易に予想できる。黙っておこう。
そうやって私がいつまでも参加しないせいだろうか。
普段は会話に参加してこないKまで、Amiaの駄々っ子行為を嗜めようと不毛な会話に参戦してくる。
『Amia、あまりえななんや雪を困らせるようなことをしちゃダメだよ』
『うぅ、Kまでそんなこと言う〜。だってずるいじゃん。Kも雪も、ミクですらえななんの料理を食べたことあるのに、ボクだけないんだよ? それって仲間外れじゃん』
『あぁ。それは確かに仲間外れかも……その、ごめんね?』
今まで黙っていたKが間に立つものの、Amiaの理由にあっさりと退く。
Amiaは自分よりも後に出会ったミクも食べたことあるのに、Amiaだけ食べたことがないという『仲間外れの状態』なのが嫌だということらしい。
……そう言われると、Amiaを無視するのは申し訳なく感じてきた。
「最初からそう言えば良かったのに。何で重大な問題だとか茶化すのよ」
『ボクにとっては重大だったし、前々から気になってたし。何より、また皆でご飯を食べたい! お金なら出すから!』
「つい最近オフ会したところでしょ……あー、でもごめん。流石に平日に準備するのは難しいから、今週の土日まで待って。後、お金はいらないからね」
『え、作ってくれるの!? なら、えななんが都合のいい日で大丈夫だよ!』
(全部都合が悪いって言ってやろうかな。あぁでも、いつも以上に揶揄われたら面倒だし、やめとこ)
先週にオフ会をしたばかりなのに、もう会いたいなんて、可愛いところがあると思えばいいのか。
私を笑えないなと思ったけど、Amiaにはミクの為という大義名分があるようだ。
……確かに、あのセカイにはつい最近まで私もいたし、1人でいるのは退屈かもしれない。
「はぁ、しょうがないわね。Amiaの口車に乗ってあげるから、リクエスト出して」
『リクエストまでしていいの? やったー♪』
ばんざーい、と両手をあげて喜んでそうなAmiaをあしらって、リクエストをメモしていく。
フライドポテト、唐揚げ、ハンバーグ。ポテトサラダやウィンナーにチキンライス。
最初は弁当の中身かな? と思っていたのだけど、ナポリタンとかもメモしているうちに、違うものが思い浮かんだ。
──これ、弁当っぽいけどたぶんお子様ランチだ。
このままAmiaのリクエスト通りに作ってしまってもいいのだろうか?
今の所、旗でも立てる? って内容のリクエストばかりなのだが、少し不安になってきた。
「そういえば、勝手に皆でご飯を食べるみたいな話が進んじゃってるけど……今回の件、Kと雪も大丈夫なの? ミクもいる場所になるから、集合場所はセカイになると思うけど、無理なら無理って言ってね」
『今週末は家事代行の人も来ないし、わたしはいけるよ。雪は?』
『私も、お昼なら大丈夫』
「え、いいの?」
『うん……夕飯は無理だけど、お昼なら何とか』
Kは辛うじていけても、雪まであっさりと参加を決めてくれるとは思っていなかったので、思わず聞き返してしまった。
去年にそういう誘いをすれば、味がわからないからとか、塾があるからとか。
後はお母さんのご飯を食べなきゃいけないから……と断られることが多かったのだ。
食べる行為そのものが苦手なのかと思いきや、今度は誘わないのかと聞いてくるし。
そろそろ雪との付き合いも1年経つというのに、まだ雪の判断基準がわからない。
味のないものを食べるのは苦痛に感じるとも聞くけれど、今回は雪の是の答えに甘えてしまおう。
「じゃあ、日曜日のお昼に準備するから。よろしくね」
Kや雪から『Amia優先で、後はえななんに任せるよ』と『えななんが作るのなら、何でも』とリクエスト? も聞き取れたので、後は日曜日に作るのみ。
平日中に動画のイラストを完成させて、休みの日はせっせとお昼の準備をするのであった。
……………………
朝から作って詰め込んだ重箱を手に持って、私は自室に戻る。
いつもの曲を再生すれば、あっという間にセカイに到着だ。
集合時間は12時だけど、念の為に10分前に来てみた。
誰もいなくても不思議じゃない……と思ったのだが、セカイにはミク以外の先客が2人いた。
「やっほ~、絵名。首を長くして待ってたよー」
「絵名、今日は早いんだね。いつもギリギリなのに」
「いらっしゃい、絵名」
「瑞希もまふゆも、ミクもおはよ。後、まふゆは余計な一言が多いわよ」
いつも遅いと言うかのようなまふゆの言葉にツッコミを入れて、お昼を気にする瑞希に重箱を見せる。
遠足か運動会の準備をしていたような気分だったので、もう片方の手には大きめのシートを持ってきていた。
重箱をミクに預けてシートを敷いていると、少し離れたところで光が生まれ、奏が現れる。
奏の青い目が私の姿を捉えると、こちらに向かって小走りで駆け寄ってきた。
「ごめん、もしかして遅れた?」
「おはよう、奏。全く遅れてないし、時間ピッタリだから大丈夫だよ」
いつも時間ピッタリで行動していると話していた私がいたせいで、慌てさせてしまったのだろうか。
早く行動したせいだね、と大笑いしている瑞希の鼻を指で弾き、逆襲完了。
鼻を抑えている瑞希にスッキリとした気分になりつつも、私は準備してきた重箱をシートの上に広げた。
「はい、リクエスト通り作ってきたわよ。瑞希のリクエストのモノは全部入れたお子様重箱ね」
「いやいや、絵名さーん? お子様ランチみたいな重箱の名前は何かな? ボクはただ、猫舌だから冷めても美味しいものを上げてただけなのに!」
「……このチキンライスのおにぎりに国旗っぽいものを立てたら、お子様ランチっぽくなりそう」
「か、奏までそんなこと言うなんて。酷いよーっ」
「既視感があって、つい……ごめんね」
よよよ、とどう見ても嘘泣きなのに、奏もミクも純粋だから泣かせてしまったのかと慌てている。
そんな寸劇を瑞希が披露している間にも、マイペース魔神のまふゆがシートの上に乗りながら脱いだ靴を並べ、念の為に用意しておいたおしぼりタオルで手を拭いてから重箱に箸を伸ばした。
……わからない、という割には真っ先に兎の形に切ったウィンナーに手を伸ばすあたり、本当は自分のことをわかっているのではないのだろうか?
呑気にしていたらまふゆに全部食べられそうなので、私もまふゆの隣に座ってから揚げに手を伸ばした。
うん、我ながら美味しくできた。今日のご飯も自己採点花丸印だ。
「まふゆ、パクパク食べてるけど、味とかわかんないって言ってなかった?」
「うん。味はわからない」
「それなのに食べてくれてるの? 無理しなくてもいいからね?」
「絵名のご飯は雰囲気で食べてるから、大丈夫」
「ふーん……うん?」
──いや、雰囲気で食べてるって何?
納得しそうになったけど、訳のわからない返事に私は頭を悩ませる。
雰囲気で食事って、味じゃなくて匂いとか見た目で楽しんでるってこと? それも全く別のこと?
まふゆの感覚が全く理解できなくて首を捻っていると、こちらに合流しに来たミクがまふゆの横に座る。
パクパクと重箱の中身を胃の中に収めているまふゆを見て、ミクは小首を傾げた。
「まふゆ、もう食べてるの?」
「うん……ミクも食べる? この卵焼き、見ただけでもわかるぐらい葱が沢山入ってるみたい」
「葱……! うん、いただきます」
まふゆが我が物顔で卵焼きを取り分け、ミクはパクリとひと口。
その瞬間、キラキラと輝く2色の瞳。
こちらを見ておいしい、もう1個と喜んでくれる姿を見れただけでも、作ってきた甲斐があるというものだ。
「あぁー! もう食べ始めてる!? とりあえずボクのフライドポテトは死守しなきゃ。いただきまーすっ」
「絵名、今日はありがとう。わたしもお弁当、いただくね」
「うん、奏は沢山食べてね。瑞希ー、あんたは慌てないの。家にもまだ残ってるから、安心して食べなよ」
「はーい、ママなーん」
「瑞希の母親になった覚えはないから。ママなんって言うな」
瑞希に釘を刺してから、今度はミニハンバーグに手を伸ばす。
変わらぬペースで黙々と食べるまふゆ、周りを見て微笑みながら食べてる奏。
美味しいね、とまふゆに話しかけているミクや、紙皿に一通り取り分けて食べていく瑞希の姿を見て、私も笑ってしまう。
……偶にはこんな時間も悪くないって。
皆も、そう思ってくれてたらいいな。
瑞希さんって割と子供っぽいところがあるんじゃないかと個人的に思ってますので、料理のリクエストもそういう願望です。
次回はチラッと出てきてた子達と再会したり、初対面だったりです。