イラスト担当は記憶を無くしました   作:大森依織

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宮女でのお話。
前半はわんだほーい。
後半は再会したり、初対面したりします。



51枚目 偶然の再会

 

 

 ある日の選択授業の後。

 いつも通り廊下で待ち合わせして、まふゆと合流しようとしていた時のこと。

 

 

「ひぃいーっ!?」

 

 

 悲鳴のような声が聞こえてきたので、慌ててそちらに向かうと……まふゆの後ろ姿が見えた。

 まふゆの体に隠れるようにピンクのカーディガンが見えるし、その子が悲鳴を出したのだろう。

 

 勘違いの可能性もあるけれど、あの悲鳴を聞けば第3者からすると脅かしているというか、怖がらせているように見えなくもない。

 まふゆは同級生や先輩なら名前を知ってます、と言われる程度に有名だし、悲鳴を出した子は後輩だろうか。

 

 まふゆはいつもの優等生っぽい笑顔を見せながら、内心では(何でこんなに怖がられているんだろう……わからないな)なんて、考えていそうである。

 もしくは全く興味がなくて、何も考えてない可能性もあるが……どちらにしても放置するのは愚策だ。

 

 私は動かない2人に近づいて、時間を進めるための一石を投げかけた。

 

 

「まふゆ、何やってんの?」

 

「あぁ、絵名。廊下を走ってたその子が私にぶつかってきたから、危ないよって声をかけただけ……なんだけど。なぜか怖がられちゃって」

 

 

 学校内なのでまふゆの声のトーンは高いし、被っている猫は完璧だ。

 だけど『走ってはいけない廊下を走っていた』ということが気になるのか、少しムッとしているように見える。

 

 

(まふゆって、家庭の教育の賜物なのか、マナーとか気にしがちだもんねぇ……そう考えると、不機嫌にもなるか)

 

 

 走っている所にまふゆとぶつかるなんて運が悪いと言えばいいのか、少女漫画的な展開を考えると運が良いと言えばいいのやら。

 

 何時までも相手を放っておくわけにもいかず、顔が真っ青になっているであろう女の子の方に視線を向けると、見覚えのあるピンク頭が目に入った。

 

 

「──あれ、もしかしてえむちゃん?」

 

「あーっ、絵名さんだ!」

 

 

 ニッコリとした笑みに、キラキラと輝く瞳。

 セーラー服姿の彼女は初めて見るけど、間違いない。南雲先生の無茶振りの中、フェニックスワンダーランドで出会った女の子、鳳えむちゃんだ。

 

 

「えむちゃん、久しぶり。元気にしてた?」

 

「絵名さん、お久しぶりですっ。あたしは元気いっぱい、わんだほーいです!」

 

「ふふ、そっか。わんだほーいなんだね。でも、走ったら今みたいに誰かにぶつかって危ないよ。気をつけた方がいいかも」

 

「……うぅ、はい。ごめんなさい」

 

 

 えむちゃんはペコリとまふゆに頭を下げる。

 

 それで少しは溜飲が下がったのだろう。不機嫌そうだったまふゆの雰囲気が和らいだ気がした。

 

 

「絵名の知り合いなんだ。すごい偶然だね」

 

「フェニランで偶然、知り合ってさ。そこからちょくちょく連絡してる仲かな」

 

「へぇ、そうなんだ」

 

 

 まふゆがキラキラオーラを幻視させるような笑みを浮かべると、えむちゃんが首を傾げる。

 

 不思議そうなその視線は、もしかしたら表面だけを見ているものではないのかもしれない。

 

 

「あっ、そうだった! ごめんなさい、あたし、急いでるので! また今度お話ししてください!」

 

「そうなの? 足止めしてごめんね。急ぐならぶつからないように、気をつけてね」

 

「はい! 絵名さんと先輩さん、ありがとうございましたっ」

 

 

 えむちゃんは早歩きでその場を立ち去る。

 ピンクを見送ってから、改めてまふゆの方を見た。

 

 

「一応聞くけど、本当にいじめてなかったの?」

 

「……うん、走ったら危ないよって言っただけ」

 

「そっか」

 

 

 誰もいないことを良いことに、まふゆは笑みを消して首を横に振る。

 

 なら、どうして人懐っこそうなえむちゃんが怯えていたのか。

 そう考えてから、1つの可能性が頭に思い浮かぶ。

 

 

「もしかしたら、えむちゃんはあんたのことをよく見てるのかもね」

 

「そう?」

 

「まぁ、私の勝手な感想だけど」

 

「ふぅん、そうなんだ……それよりも、早く教室に戻ろう」

 

 

 私の提供した話題に興味がないのか、まふゆはスタスタと廊下を歩いていってしまった。

 

 

(もう少し、興味を持ってもいいと思うけどねぇ)

 

 

 そんな彼女に苦笑して、私は早足で進む紫髪を追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──今日はただでさえ活動が少ない美術部の部活の日だった。

 

 いつもは美術室か、隣の準備室と室内でばかり描いていたのだが……たまには風に当たりながら、絵を描くのも良い。

 

 新鮮な気持ちで絵を描いていたら、ふと、誰かの会話が耳に入ってきた。

 

 

「いっちゃん、あの人って美術部の活動中なのかな?」

 

「そうだね。放課後にキャンバスの前で絵を描く部活なんて、美術部ぐらいだと思うよ。個人じゃ中々ないんじゃないかな」

 

「そっかぁ。アタシ、あぁいう姿を見ると、今更だけど美術部も良かったんじゃないかなーって思うんだよね」

 

「あれ、咲希って絵を描くのとか好きだっけ?」

 

「ちょっと絵に思い出があって。宮女の美術部って本格的だから遠慮してたんだけど、あんな絵を描けたらいいのになーって思ったの」

 

 

 落ち着いた声と明るめの声。

 何か聞き覚えのあるような、ないような。

 

 主に初めてのナイトコードで感じたことのある感覚に従って顔を上げれば、前から「あぁ!?」という叫び声が聞こえてきた。

 

 

「病院のお姉さん!」

 

「いや、別に私は病院勤めでも、病院そのものでもないからね?」

 

 

 とんでもない呼び方に思わずツッコんでしまったが、その特徴的な髪色は私の記憶に引っ掛かるものがあった。

 

 毛先の方がピンクっぽい綺麗な金髪。病院というワード。

 初めて誰かに絵をプレゼントするために描こうとして、よく観察した対象だから覚えている。

 

 確か、あのネームプレートには──

 

 

「えぇと、間違いじゃなければ、天馬さん……だっけ?」

 

「そうです、天馬(てんま)咲希(さき)です! アタシの名前、知ってたんですね、病院のお姉さん!」

 

「あはは、その……私は東雲絵名っていうの。だから、病院のお姉さんはやめてくれると嬉しいかな」

 

 

 どうやら間違いではなかったようで、入院していた時に出会った女の子──天馬さんが笑った。

 その1歩後ろにいた黒い長髪の女の子は、話についていけないのか目を白黒させている。

 

 

「えっと、その先輩は咲希の知り合いだったの?」

 

「うん。いっちゃんには話したことあると思うけど、絵をくれた病院のお姉さんだよ!」

 

「……あぁ! あの病院のお姉さんがこの人なんだ」

 

 

 どうやら2人の私への共通認識が『病院のお姉さん』らしく、やめてほしいと言ったつもりなのに、名前が会話に出てくることはなかった。

 

 ……それよりも、あの病院のお姉さんって何だろうか。

 自分がすっかり病院の人扱いされていることよりも、何の話をされていたのか気になって仕方がない。

 

 

「えぇと、改めまして。病院のお姉さんって呼ばれてるけど、東雲絵名です。別に病院の関係者ってわけじゃないから、名前で呼んでほしいかな」

 

「あっ、すみません。東雲先輩ですね。私は星乃(ほしの)一歌(いちか)です」

 

「改めて、よろしくお願いしますっ。しののめ先輩!」

 

 

 落ち着いているように見える星乃さんと、元気いっぱいの天馬さん。

 

 ……あの今にも倒れそうだった女の子が、今では元気いっぱいで学校に来ていると考えると、少し目頭が熱くなる。

 

 

(皆と一緒に学校に行きたいって言ってたけど……星乃さんもその1人なのかな。学校に行けて、良かったね)

 

 

 あの過去から今の元気な姿を見て感動していると、天馬さんが「あぁっ」と声を出して頭を下げてきた。

 

 

「しののめ先輩、部活中なのに邪魔でしたよね? ごめんなさい~っ」

 

「会話も楽しめないような時間の使い方はしてないし、大丈夫だよ。天馬さん達さえ良ければ話さない?」

 

「……わぁぁ。やっぱりクラスの皆から聞いた通り、しののめ先輩ってかっこいいですねっ!」

 

「え、話って何のこと?」

 

「あれ、先輩は自分の噂話とかは知らないんですか?」

 

「うん。天馬さん達が良ければ、聞いてもいい?」

 

 

 もしかしたら炎上事件のような噂かもしれないし。

 何事かと警戒していたら、私の予想の斜め上をいく言葉が星乃さんから返ってきた。

 

 

「東雲先輩といえば掲示板の大会受賞者の名前一覧とか、学年末テストの成績でも名前があったので、内部生なら知ってる子が多いと思いますよ」

 

「アタシもいっちゃんから聞いて知っていたんですよっ。あさひな先輩としののめ先輩。2人はよくいるし、顔も頭もいいってクラスメイトも言ってました!」

 

「そ、そうなんだ……」

 

 

 芸能関係者が多い単位制にも負けない顔の良さに、上位陣に名前を連ねる頭の良さ。

 大会で好成績だったり、コンクール受賞だったりで職員室前に名前が載るのが多く、先生からの覚えも良いと、ほぼ初対面の後輩から褒め言葉が飛び出てくる。

 

 ……全部、まふゆの仕事を分担したり、まふゆの母親へ対抗するためのカードを手に入れる為の行動だったのだが、知らない人からはかなり良い方向に解釈されているようだ。

 悪評よりは良いかもしれないが、こうも持ち上げられるとむず痒い。

 

 

「話し難いことなのに、話してくれてありがとう」

 

「アタシもあの時のお姉さんとまた、お話しできて良かったです!」

 

「私も、あの時の子がこうやって学校に来ていて嬉しいよ。すごく無責任なことを言ってた自覚があるから……天馬さんが学校に来れて、幼馴染の子達と楽しく過ごせてるみたいで良かった」

 

「はい! ちょっと大変だったけど、今は皆で楽しく音楽やってますっ!」

 

「咲希、そこはバンドじゃない?」

 

「あぁっ!? そうだった~っ」

 

「──そっか。楽しく音楽やってます、か。本当に良かった」

 

 

 皆と学校に行きたいと願っていた女の子が、学校に来て楽しそうに過ごしている。

 それだけで、今日は学校に来てよかったと思えるのだから、私もまだまだ大丈夫なのかもしれない。

 

 

 その後、学校生活のこととか聞いている間に余所余所しいのはちょっと……となって、お互いに苗字呼びから名前呼びをすることになった。

 

 

「えな先輩、また話しましょーねー!」

 

「お邪魔しました、絵名先輩」

 

「ふふ、はーい。また時間があったらよろしくね、咲希ちゃん、一歌ちゃん」

 

 

 

 美術部の後輩がいないってこともないのだけど、どこか距離を取られているから、こういう親しめの後輩が増えるのは嬉しいものだ。

 

 ニコニコとしている顔がなかなか治らず、部活帰りにバッタリ出会ったまふゆに「変な顔」と言われるまで、その日の私は上機嫌なのだった。

 

 

 

 





記憶喪失えななん、自分から名乗れる程度には進歩してます。

次回は愛莉さん経由でモモジャンの皆と顔合わせです。

2/11
プロセカの主人公である星乃一歌様の名前を間違うという致命的なミスをしておりました。
この場を借りて謝罪させていただきます。申し訳ございませんでした……
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