記憶喪失えななんが宮女にいて、かつ愛莉さんの相談とかに乗っていたことによって起きた出来事。
えななん混入のモモジャン回です。
セカイへの引き籠り期間もあり、1ヶ月以上、お母さん以外の人間とスマホで連絡を取っていなかったのだけど。
最近、久しぶりに連絡すれば愛莉の状況がガラッと変わっていた。
『絵名、聞いてちょうだい! わたし、またアイドル活動ができそうなの!』
「すごいじゃん、愛莉! おめでとう! ライブをするなら絶対に行くから、教えてよねっ」
『えぇ、もちろんよ! あっ、そうだ。今度、絵名にも一緒に活動する子を紹介するわね』
「わかった、楽しみにしてるから」
確かに、電話でそんな話をした記憶はある。
だけど──どうして私は学校の屋上で、愛莉達と一緒に練習することになったのだろうか?
「東雲先輩、大丈夫ですか!?」
「も、ぅ……むりぃ……」
明るめの茶髪の女の子に声をかけられても、私は情けない声を返すことしかできない。
どんなに辛くても笑顔で歌って踊ってしまうアイドルの練習に、体力底辺値の私がついて行けるはずもなく。
ヘロヘロになりながらも意地で食いついていたが、一通り練習メニューをこなした頃にはゼロゼロと虫の息。
屋上の床と同化した私は愛莉から『動きやすい服で来てほしい』と言われた理由を漸く理解した。
「愛莉……ハメたわね」
「わたしも、絵名がここまで乗ってくれるとは思ってなかったわ」
うつ伏せから顔を横に向け、上から見下ろしてくる主犯を恨みを込めて睨む。
主犯である愛莉はというと、申し訳なさそうに眉を八の字にし、口元を引き攣らせていた。
そう、私が床と仲良くしているのも、半分は私のせいだが、もう半分は愛莉の悪ふざけも原因なのである。
事の発端は愛莉が紹介すると言いながら、何故か私を友達ではなく『5人目の新メンバー』として紹介し、
今も介抱してくれようとしてくれている後輩の女の子──
後、私も言葉で違うと言いつつも、ちょっとアイドルの練習とやらに興味があって、好奇心がブレーキを弱らせた。
……強いて言えば、全部が嚙み合って全部が悪かった。
結果、運動部にも負けない練習に参加した私は早々にダウンし、花里さんにかなり心配されたのだ。
新メンバーという誤解は解けているものの、これは酷い。
とはいえ、何時までも床と仲良くしているわけにもいかないので、愛莉の手を借りて何とか立ち上がる。
「絵名、大丈夫?」
「この姿を見て大丈夫だというのなら、愛莉は凄いわ……ふふ。見て、この足。生まれたての小鹿よ」
「プフッ」
「遥ちゃん!?」
スマホのバイブレーションよりもプルプルと震える足と、私の投げやりなギャグがツボに入ったのか、少し離れた所で桐谷さんが笑い出す。
私に寄り添ってくれていた花里さんは小さな悲鳴を上げて、笑い死にそうになっている桐谷さんの方に駆け寄る。
私は己の体力と足を犠牲に、桐谷さんの腹筋に直接攻撃を決めて、痛み分け。
何もないのは最後まで「東雲さんはアイドル活動をしないのねー」とフワフワとした笑顔を浮かべている日野森さんぐらいだった。
「ごほん。改めまして、東雲絵名です。 5人目でも何でもなくて、愛莉とは中学の時からの友達──というか、親友かな。今日は大切な練習時間を邪魔しちゃってごめんね」
「いえいえ、本当にアイドルをやる予定だったのかなって思うぐらい、上手でしたよ!」
「表現力が高いっていうのかな。拙いところは多いのに、気持ちが伝わってくる良いダンスだったと思います」
「みのりちゃんや遥ちゃんの言う通り、東雲さんのダンスは私も見ていて楽しかったわ」
私が頭を下げれば、花里さん、桐谷さん、日野森さんの順番で好評価をくれた。
あんなに地面と仲良くしていたのに、リップサービスが上手である。
アイドルはそこまで口が上手なのかと感心していると、私の考えを見透かしたのか、愛莉が苦笑いした。
「初めてのダンスだとは思えないぐらい上手、っていうのはお世辞じゃないわよ。アイドルとしてはかなり足りない点があるけど、魅せ方とかわたしも勉強になったぐらいだもの」
「あー、それ。料理の写真とか自撮りとかしてるから、写真映えとかは気になっちゃうのよね」
「いや、絵名ってあの件から自分の写真とか、絶対に上げないって言ってるじゃない。何で自撮りなんかしてるのよ……」
「日頃から自分のコンディションに気が付く為と、SNS見てたら絶対に私の方がバズる自信があるから。その対抗心的な?」
「……それで、SNSで上げることもない写真を撮ってるってこと? いやいや、何やってんのよ。スマホのデータ容量が悲鳴を上げるわよ?」
「その辺りは大丈夫。対策済みだから」
ナイトコードを始めてから、個人サーバーを作って写真を保管するようにしているので、スマホは悲鳴を上げていない。
なんて、コントのようなやり取りをしていたら、日野森さんが両手を合わせて話しかけてきた。
「まぁ、愛莉ちゃんと東雲さんはとっても仲良しなのね。息がぴったりだわ」
「こんなことで仲が良いっていうのは思うことがあるけど……わたしと絵名は親友と言ってもいいぐらいの間柄だもの。当然ね」
「私も東雲さんと仲良くしたいわ。ねぇ、東雲さん。試しにお互い、気軽に呼び合ってみない?」
「えっと、それって下の名前で呼ぶって事?」
「えぇ、ダメかしら?」
ニコニコと笑みを浮かべながら小首を傾げる日野森さんはとても様になっており、流石はアイドルである。
前の日野森さんは透明感のある外見から完璧を象徴しているようなアイドルだったけれど、天然っぽいおっとりとした調子の彼女も良いと思う。
「じゃあ、よろしくね。雫」
「……! えぇ、よろしくね、絵名ちゃん」
「雫だけ気軽に呼び合うっていうのもあれだし、花里さんも桐谷さんも呼びやすいように呼んでね」
私が愛莉と同じグループで活動する2人にも気楽に呼んで欲しいと思って声をかけると、愛莉は意地の悪い笑みを浮かべる。
「あっ、絵名。遥にそんなことを言ったら『じゃあ絵名って呼ぶね』って、呼び捨てにされるわよ~?」
「あれ、もしかして敬って欲しかったんですか? 桃井先輩?」
「……この後輩、喧嘩売ってるわね?」
愛莉と桐谷さんが言い合っている間に、花里さんが小走りで近づいて来た。
「えっと、わたしも絵名先輩って呼ばせて貰ってもいいですか?」
「うん、私もみのりちゃんって呼ばせてもらうね」
「はい!」
みのりちゃんの元気な姿に癒されている間に愛莉と桐谷さんの戯れ合いが終わったようで、桐谷さんが合流する。
「桐谷さんも、みのりちゃんと同じように遥ちゃんって呼んでもいい?」
「はい。では私も、絵名さんって呼ばせてもらいますね」
「ありがとう。遥ちゃんもみのりちゃんも、よろしくね」
そうやって会話で時間を稼いでいる間に、私の足も生まれたての小鹿から成長したようで、震えが消えていた。
これならば屋上の階段を降りている最中に崩れ落ちるような、間抜けな姿を見せることはないだろう。
その場で軽く足踏みしてから、改めて愛莉の新しいアイドルグループのメンバーを観察する。
まず、1人目は私の親友にして事務所と本人の方向性の違いからアイドル活動を休止していた元QTの愛莉。
2人目がCheerful*Daysの元センターで、今は脱退しているらしい同い年の単位クラスの女の子、雫。
水色のロングヘア―や口元の黒子、青色のタレ目がミステリアスで大人っぽいと前のグループでは言われていたが、見ている限りではおっとりとしていて、天然っぽく見える。
もしかしたら今までは頑張ってそういうイメージを作っていたのか。まふゆと同じ弓道部らしいし、雫にも似たようなところがあるようだ。
で、反対にテレビとかで見た時とイメージが全く変わらない3人目は、国民的人気アイドルグループである『ASRUN』に所属していた元トップアイドル、遥ちゃん。
碧眼と青のショートカットが真面目っぽい印象があるせいか、彼女も無理をしないか怖いところがある。
面倒見のいい愛莉もいるし、その辺りは4人で支え合って生きていけるだろう。私が心配することでもあるまい。杞憂退散、考え過ぎだろう。
最後に、アイドル経験無しだけれども、個人的にこのメンバーの重心になりそうだと注目している子、みのりちゃん。
明るい茶髪をボブカットにしていて、短時間見ていただけでもわかるぐらい純粋だし、見た目も中身もとても明るくて元気を貰えそう。
ただ、私がすっごく落ち込んでる時とかに会ったら、たぶん浄化されるか溶ける気がするので、距離感には気を付けた方がいいかもしれない。
そんな4人が組んだアイドルグループの名前は『MORE MORE JUMP!』、略してモモジャンだという。
まだ世にも出ていないアイドルグループ(予定)であるものの、それぞれが引っ張って支え合えそうな雰囲気があって、将来的に良いアイドルになりそうだ。
「よかったわね、愛莉」
「何が?」
「夢、叶いそうな鍵を掴んだじゃん。安心しちゃった」
「事務所とかもなにも見つかってないから、まだまだ先は長いわ」
「でも、将来性抜群なみのりちゃんは兎も角、他の皆は知名度あるじゃん。最悪、SNSで宣伝しつつ動画配信で人を集めたら、ライブもテレビ出演も夢じゃないと思うけどね」
最近、SNSで活動しつつ、ライブやテレビ番組の出演もしているインフルエンサーも多くいる。
そういう人を思い出しながら言ったら、愛莉どころか雫や遥ちゃんは目を見開いてるし、みのりちゃんもやっぱり! と叫んでいてちょっと怖い。
頭の中に『?』を浮かべながら状況の変化を窺っていると、みのりちゃんがグイッと近づいてきた。
「絵名先輩も動画配信とか、良いと思いますか!?」
「え、うん。有名なインフルエンサーなら何十万人も人を集めてライブするし、最近だとバズればテレビよりも人に見られるんじゃないかって思うわよ? それに、愛莉達って無名じゃないし、最初の注目度はあるから、そこから視聴者を掴めば上手くいくんじゃない?」
最初はアイドルというよりも、アイドルを自称する動画配信者みたいな形になるのかもしれないけれど。
私はメンバーでもなければただの外部のじゃじゃ馬だ。他人事なので軽く言ってしまっているが、勝算のない話ではないと思う。
「SNSにしょっちゅう投稿しまくってる絵名の意見なら、いけるかもしれないっていうのが恐ろしいわね……」
「とはいっても、普通に文章を投稿するだけじゃダメだけどね。インプレッション数が多い時間を狙って、愛莉達の名前が検索に引っかかるように文章や既存のファンが使ってるタグを入れつつ、証拠に短めの自己紹介動画を付けて複数投稿したら、初動はとりあえず注目されると思う。そこからネットニュースになれば更にドン、ね」
「絵名、有識者として意見を貰ってもいいかしら?」
「有識者じゃないし……学校とか絵とか、何よりサークルがあるから優先的に、とはいかないけど。それでも良いなら力になれるかな」
「それで良いわ! 絵名の戦略を聞かせてちょうだい!」
「戦略って、大袈裟だってば」
愛莉の勢いに負けて、疲労している体に鞭を打って、南雲先生や今までの自分の所感も合わせた話をこの場ですることになり。
何故か、時たまSNS関連で愛莉の相談を答えるようになるとは、この時の私も想像していなかった。
記憶喪失えななんが小技とか習得してるのは大体、美術部顧問のせい。
次回はビビバスで会ってない2人と顔合わせします。