既視感のあるサブタイかもしれませんが、今回はビビバス女の子組回です。
といってもほぼ顔合わせのようなものですが。
「うわー……」
今日は病院の日だったので早めに家に帰ってきたのだけど、リビングで嫌なものを見つけてしまった。
(彰人のやつ、財布とスマホ忘れてんじゃん。どういうことよ、これ)
スマホなんて現代では命並みに大事なものなのに、どうしてあいつは忘れてしまっているのだろうか。考えてみてもわからないことばかりだ。
忘れないと断言できるほど私がスマホに依存しているのか、彰人が
弟の信じられない行動に頭を抱えつつ、されど、放置するのは良心的に難しい。
時計を見てみると、神高もちょうど授業は終わってそうな時間帯だ。
今日も彰人は練習だと言っていたような記憶がある。
しかも、最近は相棒の冬弥くんだけでなく、女の子2人も加えた4人で活動してると聞いた。
(困るよねぇ。絶対)
数分ほど悩んでから、スマホと財布を持って自室に直行する。
とりあえず私服の中から神高の制服っぽく見えるワイシャツや、いつも着ているカーディガン。後はそれっぽいプリーツスカートを履いて、変装完了だ。
校内に侵入するのはともかく、校門前で待つぐらいなら問題ない程度には変装できたと思うし、届けに行こう。
今なら急げば学校にいるであろう彰人の元へ、届けられるはずだと早足で別の高校への道を進む。
通い慣れているとは言えない道を通って神高前まで行くと、ちょうど下校時間なのか、部活動中っぽい運動部の掛け声や、帰宅する生徒の姿が見えた。
(……ここで待ってたら彰人に会えるかな)
学校内に入らないように気を付けつつ、校門近くの壁に背中を預けたその瞬間、夜に聞き慣れた声が私の鼓膜を揺らす。
「あれ、絵名じゃん。わざわざ神高に来てどうしたの?」
「……瑞希? え、何で学校にいるの?」
「いやいや、ボクだって学校に行く日もありますぅー。何でっていうのはこっちのセリフだよ。絵名は他校に侵入するつもりだったりするの?」
「は? 違うから。彰人……えっと、ウチの弟がスマホと財布を家に忘れてたの。流石に大変かなって思ったから、ここまで持ってきたのよ」
「そうなんだ。絵名ってば意外とやっさし〜」
「意外とは余計よ」
とはいえ、瑞希に疑われるぐらいノープランでここまで来てしまったのも事実だ。
残りの手段として知り合いにお願いするのもアリだが、同い年であっても瑞希が弟の所在を知っているとは考え難い。
さて、どうしたものか。
家に置いたままの方が良かったのではないか、と後悔し始めていた私の前に、運良く第三者が現れた。
「──瑞希、門の前で何してるの?」
「あぁ、杏か。ボクの友達が人探しでここまできたんだけど、どうやって呼び出せばいいのやらって、困ってるんだよ」
「探してる人が1年生なら、友達とかに声をかけたら探せるかも。よければ名前を聞いてもいい?」
声をかけてきたのは瑞希の友達のようだ。
下の名前で呼び合っているのを見るに、結構仲が良さそうである。
青のグラデーションが入った黒いロングヘアに、橙色の吊り目。
髪に複数付いている星型のチャームシーズや星のピアスといい、星が好きなのだろうか。小物に星が多いように見える。
瑞希がどうするの? と視線で訴えてくるので、それに頷き返しながら、私は杏と呼ばれた少女の問いかけに答えた。
「弟の名前は東雲彰人で、確か1年C組って言ってたと思うんだけど」
「うんうん、弟でC組の東雲彰人ねー……ってことはあなたが彰人のお姉さん!?」
「え、うん、そうだけど……?」
吊り目を丸くして驚く少女に、私は瑞希の方へと顔を向ける。
──ウチの弟って有名人なの?
──いやいや、ボクは知らないって!
私と瑞希は目だけで会話して、お互いの認識をすり合わせた。
有名人ではないと。ならば、運がいいことに彰人の知り合いを釣り上げたみたいだけど……この子と彰人の関係は何だろう?
「えぇと、彰人を知ってるの?」
「あっ、すみません。私は最近、彰人達ともチームを組むようになった
恐る恐る尋ねてみれば、胸に手を当てて自己紹介してくれる少女、白石さん。
彰人がいるところまで案内してくれるとのことだったので、瑞希とはその場で別れて、白石さんの後を付いて行った。
……………………
今まで外側からしか見たことがなかったビビットストリートに入り、白石さんに導かれるままにカフェっぽいお店に入る。
《WEEKND GARAGE》という看板のあるお店は、今まで私が入った事のあるカフェとも違っているようだ。
「ただいまー。あれ、彰人達、まだ来ていないんだ」
ほんの少しの好奇心で店内を観察していたが、白石さんの言う通り、カフェの中には彰人どころか店の人も表にはいないようだ。
ここに来るまでの白石さんの話によれば、ここでチームのミーティングをするらしいのだけど、それらしい人もゼロ。
念の為に白石さんに一言入れてから家に電話してみたものの、入れ違いにもなっていないみたいで。
「白石さん、彰人ってここに来るんだよね?」
「はい、そう聞いてますけど……」
「じゃあ、白石さんが彰人に忘れ物を渡してくれないかな?」
鞄から彰人のスマホと財布を取り出して、白石さんに手渡す。
本当は直接渡した方がいいと思うけど、仕方がない。チームの仲間だという白石さんを信じて託した。
「えぇ。財布とスマホを忘れるって、致命的じゃない? ……こほん。任せてください、ちゃんと彰人に渡しますよ!」
「ありがとう。じゃあ、ミーティングの邪魔をしたら悪いし、私はそろそろ帰るね」
何も知らない彰人とばったり会ったら、第一声にげっ、とか言われそうだし、白石さんに任せて良かったと考えよう。
そう自分に言い聞かせてさっさと帰ってしまおうとくるりと踵を返すと、私が扉に近づく前に扉を開いた。
「こんにちは」
「あっ、こはね! いらっしゃい!」
「少し遅くなってごめんね。隣の人はお客さん、なのかな……?」
お店に入ってきたのは彰人ではなかった。
小動物っぽい可愛らしい女の子が頭を下げつつ店に入って来て、白石さんと仲良く会話している。
クリーム色の髪を2つに結び、どことなくハムスターが脳裏に過る丸い茶色の目。
宮女の制服だし、第一印象だけなら接点がわからないけれど、彰人と白石さんがチームを組んでいるということは、それ関連──『音楽』で繋がる仲なのだろう。
(咲希ちゃん達も音楽で繋がったって言ってたし、私もKの曲でニーゴの皆と繋がったようなものだし……凄いな、音楽)
そんなことを頭の中で考えていると、白石さんにこはねと呼ばれている女の子が茶色い目をこちらに向けてきたので、私は軽く会釈をした。
「こんにちは。あなたも彰人や白石さんと同じチームの子?」
「え、はい。最近、一緒に歌ってる
「あぁ、ごめんね。私の名前は東雲絵名……あなたと一緒に活動している東雲彰人の姉です」
「えっ、東雲くんのお姉さん?」
「髪の色とか似てないからわからないかもね。今日は彰人が忘れ物しちゃったから届けに来ててさ。今、白石さんに預けたから、お暇するところだったの」
「東雲くんが忘れ物? 珍しいね」
こてん、と小首を傾げて女の子──小豆沢さんが白石さんの方を見る。
「スマホと財布を家に忘れてたんだって」
「えぇっ。それってすごく困るものだよね。東雲くんのお姉さん、ここまで届けてくれてありがとうございました」
「小豆沢さんにお礼を言われるようなことじゃないよ。2人で忘れないようにって、彰人に渡してくれると嬉しいな」
「はい! 杏ちゃんと一緒に東雲くんに渡します!」
小豆沢さんのぎゅっと両手を握って、小刻みに頷く姿は1つ1つが可愛らしい。
白石さんから感じる優しい視線の理由が、この短時間で理解できる動きだった。
「そういえば、小豆沢さんの制服って宮女のだよね。また学校であったらよろしくね」
「学校で? もしかして、東雲くんのお姉さんって宮女の先輩なんですか?」
「そうなの、そっちの意味でもよろしくね。後、東雲くんのお姉さんって長いでしょ。東雲だと彰人とややこしいし、気軽に呼んでよ」
初対面だった時のえむちゃんによると、ただでさえ東雲という苗字は言いにくいらしい。
白石さんのように早々にお姉さんと呼ぶなら兎も角、ずっと『東雲くんの』という枕詞を付けていたら大変だろう。
そういう意味でも提案したのだが、真っ先に反応したのは片手を挙げた白石さんだった。
「はいはい、私も絵名さんって呼んでいいですか!?」
「うん、白石さんも小豆沢さんも、呼びやすいように呼んでよ」
「えっと。じゃあ、私も絵名先輩って呼ばせてもらいます」
その後、小豆沢さんも小さく頷いてくれて、私の交友関係がまた少し、広がったように感じる。
今日は彰人の忘れ物のせいでややこしいことになったと思ったけれど。
彰人のチームの子と顔見知りになれたのだから、結果的には良かったのかもしれない。
「じゃあ、私はそろそろ退散しようかな。彰人が来たらよろしくね」
「絵名さん、今度はゆっくりしに来てくださいね。美味しいお茶とお菓子、用意しますから!」
「絵名先輩、また学校とかで会ったらよろしくお願いします」
カラリと笑って手を振る白石さんと、ペコリと頭を下げる小豆沢さん。
2人に見送られて、私はビビットストリートを後にする。
その日は家に帰ってくるまで彰人と会うこともなかったけれど、新しい出会いもあったし、行動のきっかけをくれた彰人に感謝しよう。
次回からまとめて、イベントストーリースタートです。
更新が止まらないよう、この荒波を乗り越えてみせます……