イラスト担当は記憶を無くしました   作:大森依織

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細々と章分けしても……思うので、ここから全部まとめてイベスト編です。
まずはマリオネットから。


イベントストーリー編
54枚目 コマンド入力の仕方


 

 

 ──25時。

 

 

『やっほっほ〜♪ 皆、元気してるー?』

 

 

 久しぶりに徹夜してダメージが残っている体に、嫌になるぐらいAmiaの明るい声が響く。

 

 

『よーし。今日も元気に曲作り、頑張るぞー! おーっ!』

 

「もう、うるさいわね……Amiaぐらいよ、そんなに元気なの」

 

『もー、えななんってばテンション低いなぁ。今日からまた、新曲作るんだよ? テンション上げてこーよぉー』

 

「何? Amiaは太陽が西から東に昇ると思ってんの?」

 

『えぇ……テンション上げるだけなのに、急に難易度不可能級になるじゃん』

 

 

 それぐらい無理だと言っているのだ、察してほしい。

 ショートスリーパーでも徹夜が楽なんてことはなく、鈍い痛みを訴えてくる頭を手で押さえ、ふと気が付いたことを口にする。

 

 

「それにしても……何で一緒に徹夜したはずのAmiaは元気なわけ? 体力バカなの?」

 

『体力バカ!? こんなカワイイ子相手に、えななんはほんっとーに失礼だな~!』

 

「じゃあ、体力オバケにしておく?」

 

『え、それならまだカワイイかも……? しょーがないから褒め言葉として受け取っておくよ~♪』

 

「はいはい……」

 

 

 バカもオバケも意味は変わらないのに、すぐに態度が変わるのだから不思議だ。

 私はバカもオバケも嫌なのだけど、Amiaの機嫌が良くなったのだから、今回は気にしないことにした。

 

 こういう時のAmiaは単純で助かる。

 そんな失礼な感想を胸の中に浮かべて画面を眺めていると、Kのアイコンがキラリと輝く。

 

 

『あれ、そういえば雪は?』

 

『ん~? ログインはしてるみたいだけど……』

 

「喋る必要がないからって黙ってるのかも。声をかけてみたら、返事するんじゃない?」

 

『……雪、いたら返事して』

 

 

 Kはどうしても心配のようで、雪に声をかける。

 

 優等生モードなら兎も角、普段の雪は受け身で相手の様子を窺っていることが多いのだ。

 声をかけたら出てくるだろう……という私の予想通り、淡々とした雪の声が聞こえてきた。

 

 

『──いるよ』

 

『そっか、よかった』

 

 

 Kはいることを確認できればそれでよかったのか、それ以上は何も言わない。

 ただ、このままだと毎回誰かが点呼しないと喋らなさそうだったので、声をかけておこう。

 

 

「雪、いるならさっさと声を出しなさいよ。学校じゃないんだから、毎回点呼なんてやってらんないわよ」

 

『次からはそうする』

 

「ん、ならよし」

 

 

 ちゃんと言葉に出したので、今度からは返事して〜とか言わなくても反応してくれるだろう。

 ナイトコードに集まった理由もすっかり頭から抜けて、頷いている私にAmiaが声をかけてきた。

 

 

『じゃあ、ひと段落ついたところで、そろそろ新曲に入ろうよ! 早くデモを聴きたいな~』

 

『わかった、今送るね』

 

 

 ポコン、と送られてくる圧縮ファイル。

 いつものように中身を再生すれば、Kらしい優しくて温かい曲が鼓膜を揺らす。

 

 Kらしい曲なので、個人的には嫌いではない。

 

 

「すごく良い曲だね。さすがはK」

 

『うんうん。聴いてるだけで色々とイメージが浮かんできたよ! サビの所とか、エフェクトでいっぱい遊びたいなぁ』

 

『そっか、良かった。それで、雪はどうだった?』

 

 

 ……だが、Kが作っているのは『雪を救う曲』だ。

 私やAmiaが褒めても、肝心の雪が何も言わなければ意味がない。

 

 

『どうって、何が?』

 

『この曲、どういう風に感じたのかなって』

 

 

 だけど、そう上手くいくほど、雪も単純ではないわけで。

 

 

『どうって……奏の曲だなって、思ったよ』

 

 

 たっぷり間を置いてから、雪は要領を得ない言葉を吐き出した。

 

 ──違う、そうじゃない。

 

 雪に慣れてなければ思わず突っ込んでいただろうが、こっちは雪と1年間、対面してきたのである。

 落ち着くために一呼吸を入れても、K達は黙ったままだ。このままでは埒が明かないので、私はいつものように問いかけた。

 

 

「ねぇ、雪。今回のKの曲は好き? それとも嫌い?」

 

『……嫌いじゃないと思う。でも、好きでもない』

 

「あー……良いか悪いかで言えば?」

 

『いつも通りで、良かったと思う』

 

 

 これはあれだ。本当に素通りしてしまったような手応えだ。

 

 引っかかることもなければ、何かを重ねることもなく、世間一般的に良いと思われそうだから良いと思う。

 

 Kに失礼な発言のまま終わりそうだったから軌道修正を試みてみたものの、この手応えはあまりにもよろしくない。

 

 Kもそれを感じ取ったのか、そっか、と小さく呟いた。

 

 

『雪。率直に言ってくれて、ありがとう』

 

『……うん』

 

 

 そこから暫く、気まずさからなのか無言で作業が進み、数時間。

 雪も寝なければいけない時間となり、先に抜けるのを見送ってから、私は改めて声を出した。

 

 

「K、大丈夫?」

 

『大丈夫って、何が?』

 

「デモの件。雪の感想を聞いて、困ってないかなって。ほら、あの感想だと雪が何を考えていて、どう感じたのかとかわからないでしょ」

 

『それは……』

 

『どうだろうねぇ。ボクは素を見せてくれてると思うけどねー』

 

 

 Kが言い淀んだせいか、Amiaのフォローがキラリと輝いた。

 

 空気を悪くしたくなかったのか、ほんの少しズラした話題がAmiaから投げかけられた。

 

 

『それにしてもー。雪がいなくなった途端に雪の不満を引き出そうとするなんて、えななんってばコワーイ。陰険自撮り女~!』

 

「何、その妖怪みたいな名前。というか自撮りしてないし」

 

『自分専用のサーバー作って自撮りを1人で投下してるんでしょ? ボク知ってるも~ん』

 

「はぁ!? 何で知ってるのよ!?」

 

 

 それを知っているのは愛莉だけの筈だ。

 自撮り写真だってサーバーにアップしているのは自室や美術準備室、後は良い写真が撮れた時ぐらいで、Amiaの前で撮った記憶なんてない。

 

 

『え、やってるって雪が言ってたよ?』

 

「あいつの方が陰険じゃん、ばかぁっ!!」

 

 

 机の空白地帯と私の額が勢いよく衝突した。

 

 そういえば、私がサーバーにこっそりアップしている時、雪が素知らぬ顔でこちらを見ていたし、知っていてもおかしくなかった。

 だとしても、だ。

 

 

(あのバカ! 顔面偏差値の暴力! 必殺《わからない》の使い手! すまし顔でとんでもないことをやらかす無敵女!)

 

 

 よりによって、どうしてあのカワイイ大好き人間にタレコミしたのか。そのせいで嬉々としてAmiaが揶揄いに来ているではないか。

 

 雪がリークするのはアリなのに、私がKと雪の話をするのが許されないのは納得いかない。

 もうAmiaを無視してKに話しかけてしまおう。構ってやるものか、と鋼の決意で机に突っ伏していた顔を上げた。

 

 

「というか、本人の前で言えるわけないでしょ。雪にはどうしようもないことを、責めるわけないし」

 

『へぇ、えななんはそう思ってるんだねー』

 

「まぁね……ただ、今のままだとKが頑張って曲を作っても梨の(つぶて)だから、もどかしくて」

 

『──えななん、それってどういうこと?』

 

 

 全く見えなくても、画面の向こう側で首を傾げているのが想像できる声が耳に届く。

 

 曲を作れない私がKに意見するのもどうかと躊躇ってしまったが、Kに『教えて欲しい』と言われてしまうと答えないわけにもいかない。

 

 

「Kに任せっぱなしな私が言うのもあれだけど……Kの曲には救いたいって純粋な想いがあっても、どう救いたいのかとか、雪にどうなってほしいのかとか……そういうのが、私には見えなかったのよね」

 

『どう救うか、どうなってほしいか?』

 

「うん。雪もきっとKの『救いたい』って気持ちはわかったから、Kらしい曲だって言ったんだと思う。でも、曲を作ってるKもどう救うのかわかってないのなら、雪も見つからないんじゃないかなって……そう思ったの」

 

『……そっか』

 

「えっと、その……ごめん、作曲とか何もわからないのに、偉そうなことを言って」

 

『ううん。ありがとう、えななん。わたしもちょっと……1人で考えたいから、今日は落ちるね』

 

 

 ボイチャから出ていく音が響き、嫌な静寂が訪れる。

 

 やらかした。もっとオブラートというか、遠回しに伝えたら良かったのに、結構ハッキリ言ってしまった。

 

 体から血が無くなっていくような、嫌な震えが私に襲い掛かってくる中で能天気な声が聞こえてくる。

 

 

『やーっちゃた、やっちゃった~』

 

「……今は、Amiaの揶揄いすらも癒しに感じる」

 

『わーお、これは重症だね』

 

 

 地を這うようなテンションの私に対して、Amiaは困ったような声を出しただけ。

 こういう時のAmiaはこちらを責めることもなく、ラインを見極めながら揶揄ってくるのだ。

 

 

「Amiaがこの前オススメしてきたゲーム実況あるじゃん」

 

『突然だねぇ。確か、コマンドバトル系のヤツだったよね』

 

 

 数日前にナイトコードにて、オススメだよーって送られてきた実況者の動画。

 

 どこにでもある『たたかう』とか『どうぐ』とか『にげる』とか、そんなコマンドを選んで、物語を進めるゲームを思い出しつつ、私は両手の甲に顎を乗せた。

 

 

「あの動画のゲームってさ、選択肢にない行動はできないでしょ。コマンドをもらってないのが今の私とAmiaで、唯一雪から『救う』ってコマンドをもらったのがK。つまり、そういうことよ」

 

『……ごめん、どういうこと?』

 

 

 私とAmiaには『救う』というコマンドがないのは、Kのこととは関係がないので置いておくとして。

 

 

「例えば、イベント戦だと、体力を半分以上減らさないと話が進まなかったりするじゃん」

 

『あー、うん。それで?』

 

「今のKは例えるなら、体力を減らすとか、そういう途中経過の作業もせずにずっと同じコマンドを連打してる感じがしたの。だから、イベントが進まない」

 

 

 雪のことを詳しくわからないまま、雪をどのように救いたいのか、どこに連れて行きたいのかも不明。

 過程も何もかもすっ飛ばして、今のKはとりあえず与えられた『救う』というコマンドを押し続けている。

 

 

「そうやって一方的に曲を作るだけで、本当にいいのかなって……思ったのが言葉に出ちゃった」

 

『……その、えななんの言いたいこともわかるよ。Kの曲はとっても良いけど、雪にとっては今までと変わらないってことでしょ』

 

「うん……もうちょっと言い方があったなって思うけど」

 

『って言ってもねぇ。こればっかりは難しい話だと思うよ。ボクにもどうすればいいかなんて、全くわかんないもん』

 

 

 結局、その後も2人だけで作業をしようという気分にもなれず。

 

 Amiaとほんの少しだけ喋ってから、その日のナイトコードからは人がいなくなったのであった。

 

 

 





今回から囚われのマリオネットを少し。
あまりストーリーから大幅には変わってないんで、飛ばしてもいいかなーって思っていたのに……やってもいいじゃんと囁く悪魔がいたのでやります!
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