イラスト担当は記憶を無くしました   作:大森依織

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見直してる……つもりでも誤字はひょっこり出てくるので、いつもありがとうございますと両手を合わせてます。
本当にありがとうございます!



55枚目 チケット2枚、人数は4人

 

 

 昼休みになってから美術準備室に行くと、先客がいた。

 

 備え付けられたソファーをベッドにして、タオルを丸めて枕にしている紫髪。

 学校では滅多に隙を見せないまふゆが無防備に眠ってるのだ。

 

 どうやら昼休みに仮眠を取りたくなるほど、今日のまふゆは疲れているらしい。

 誰も来ないと安心しているのか、来ても私ぐらいだと高を括っているのか。顔を隠すことなく静かに眠っている彼女の前に、私はゆっくりと移動する。

 

 

(うーわ、相変わらず整った顔してるわね……セカイでもないのに無警戒に寝てる姿なんて、初めて見たかも)

 

 

 規則正しく上下する胸に、長い睫毛が綺麗に揃った瞼。

 鼻が通っていて画家も泣きたくなるぐらい絵になるな、なんてことを考えながら観察していたら、悪戯心がムクムクと育ってくる。

 

 高い鼻に手を伸ばし、人差し指と親指で掴もうとゆっくり距離を詰めて──

 

 

「何の用?」

 

 

 海のように青い目と目が合って、あっという間に私の鼻をまふゆの手が掴んでいた。

 掴もうとしていた側が逆に掴まれるなんて、かなり恥ずかしい絵面だ。

 鼻を掴むまふゆをじとりと睨みつけ、私は鼻が詰まったような声で抗議した。

 

 

「何であんたが鼻を掴むのよ」

 

「絵名が楽しそうな顔をしてたから。掴んだら楽しいのかなって」

 

「あっそう……で、感想は?」

 

「全く楽しくない。絵名は変な声出してるし」

 

「鼻声なのはまふゆのせいだから! 後、楽しくないのならさっさと手を離してよ!」

 

 

 鼻を掴む手をペシッと払って、ソファーから離れる。

 悪戯どころかやられる前にやられてしまったので、今回の悪戯は延期にしてやろう。

 

 敗北に適当な理由をつけて弁当を取り出し、私は席に着く。

 いつの間にか起き上がっていたまふゆも真似するように、私の隣に座った。

 

 

「あんた、寝なくていいの?」

 

「うん。弁当箱は空にして渡さないと、後々面倒だから」

 

(それ、食事が作業になってる人間の言い方っぽいよね……)

 

 

 パクパクと黙って弁当を食べるまふゆは黙々と仕事を熟す作業員のようにも見える。

 ……いや、まふゆにとっては食事も作業なのだろう。

 

 

「いただきまーす。うん、今日もおいしくできたわね」

 

「……」

 

「……何よ」

 

 

 私も弁当を食べ始めると、何故か隣から視線を感じた。

 

 熱い視線を向けてくる方を見れば、視線の主であるまふゆは徐に口を開いて私の弁当へと視線を移した。

 それも、律儀に自分が使っていた箸をこちらに差し出して。

 

 食べさせて、ということなのだろう。

 黙ってじっとこちらを見て、口を開くまふゆにまた湿度の籠った目で睨む。

 

 しかし、いつも根負けするのは私の方なのだ。

 せめてわざとらしい溜息で抗議しつつ、まふゆに私の唐揚げを食べさせた。

 

 

「はい。それで、どうなのよ」

 

「んむ……ん、わからない。自分のも絵名のも、どれを食べても一緒だね」

 

「はぁ? それなら何で催促してきたのよ。おかずを1つ無駄にしたみたいで腹が立ってきたんだけど」

 

「何でって、絵名が食べてる時は美味しそうだったから。私も食べたら美味しいのかなって」

 

「~っ。あぁもう、そーですか!」

 

 

 とんでもないことを宣われて、私は急いで自分の弁当を胃の中に収めた。

 

 これ以上弁当の中身を催促されたらどう対応したらいいのかわからなくなりそうで、迷うぐらいなら原因を取り除きたかったのだ。

 

 

「……絵名」

 

「もう弁当は空っぽだからね」

 

「違う」

 

「じゃあ、何よ?」

 

 

 空っぽになった弁当箱を片付けて、私は椅子の背凭れに体を預ける。

 まふゆの方はというと、ピンと背筋を伸ばして顔は壁に向けられたまま、虫の羽音のような声で呟いた。

 

 

「奏の曲の感想は、ダメだった?」

 

「何? まふゆはあの時、嘘ついてたってわけ?」

 

「……ううん。ついてたらもっと良い感想になってる」

 

「でしょうね。あんたの感想は賞状モノだもんね」

 

 

 朝比奈まふゆは読書感想文など、学校から課せられる提出物は大体高評価を掻っ攫う女なのだ。

 そんな彼女が着飾った言葉を使ったのなら、ナイトコードのような感想にはならないだろう。

 

 

「感想にダメも何もないでしょ。言い方とかは、考えて欲しいけど」

 

「でも、奏はそうじゃなさそうだった」

 

「お互いに表面からもっと奥へ、手探りで進んでるんだからしょうがないんじゃない? 何が正解で何が間違いかなんて、私にもわからないし」

 

 

 個人的には誰も間違っていないのだから、悪いと謝る方が良くないと思う。

 

 奏もまふゆを知らないからまふゆから感想を聞きたくて。

 まふゆも自分のことがわからないから曲から自分との共通点を見出せなくて、奏らしいとしか言えなかった。

 

 

「強いて言うなら、私ももっと何かできることがあったと思うし、私も悪かったかもね」

 

「絵名は悪くない、と思う」

 

「なら、誰も悪くないわよ。あんたはもう1人で探さなくてもいいんだから。思う存分、私達を頼ればいいのよ」

 

「……ごめん」

 

「そこはごめんじゃないでしょ、もう」

 

 

 わかってもないのに謝るのは癖なのだろうか。

 とりあえず謝ってそうなまふゆに、私は肩を竦めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな学校生活を終えれば、そこからは私達の時間だ。

 

 今日も25時になれば、Amiaの元気な声がボイチャに響く。

 

 

『そんじゃ、今日もバリバリ頑張ろーっ!』

 

「はいはい、頑張ろー……って、あぁそうだ。K、ラフのパターンを幾つか作ったから、見てもらっても良い?」

 

『何パターンか書いたから、えななんのついでに私のも確認してほしい』

 

 

 私がナイトコードにラフを送れば、雪も便乗して歌詞を送信した。

 

 

『わかった、2人の分を確認するからちょっと待っててね』

 

「はーい、よろしくね」

 

 

 それからというものの、Kは黙々と確認作業に入ってしまった。

 さらりとミュートにされる、Kのアイコン。ミュートせずに残ったのは3人だ。

 

 

「ねぇ。私も歌詞を見ていい?」

 

『ナイトコードに共有してるから、勝手に見ればいいのに』

 

「それでも許可は必要かなって」

 

『……そう。好きにしたらいいと思う』

 

 

 素っ気ない許可を貰ってから、私は雪の書いた歌詞を見る。

 

 相変わらず、胸を突き刺してくるような歌詞だ。

 Kが作ったデモに合っていて、Kの曲に合わせられた言葉選び。

 

 

(──でも、これだと雪の気持ちは見えてこないのよね)

 

 

 OWNの時は、雪1人が作っていたから、雪の気持ちが直接表現されていた。

 しかし、この歌詞はKが作った曲に雪が合わせてしまっているので、OWNとして作った曲と比べると『雪』という人物が見えてこない。

 

 

(このままだと雪とKは平行線なんだけど……どうしようかな)

 

 

 ここで神の視点を持っていて〜とか、そんな便利な力があれば、迷わず動くことができるのだけど。

 

 うんうんと悩みながら歌詞を眺めていると、確認をし終わったらしいKがミュートを解除して、感想を言ってくれる。

 

 

(……とりあえず今は、作業を優先しよう)

 

 

 妙案が出てこなくて、どんどん時間だけが過ぎていく。

 

 勉強している時に掃除が捗るように、延々と考え事をしているせいか、今日の作業はかなり捗った。

 

 ラフだった絵が一気に完成にまで近づいた頃、顔を上げれば自分の肩が悲鳴を上げているような感覚に陥った。

 

 

「あぁー、肩凝ってきた気がする。ねぇ、そろそろ休憩にしない?」

 

『そだねー、ボクも休みたいかも。Kと雪も休んでいいかなぁ?』

 

『いいよ、休憩しようか』

 

『うん、大丈夫』

 

 

 提案があっさり通ったので、その場で肩をぐるぐると回したり、上半身のストレッチしたりしてみる。

 小気味の良い音を肩から流していると、んーっと伸びているような声と共に、Amiaの愚痴が聞こえてきた。

 

 

『のびーっと……うーん、ボクも最近は肩凝りやすいんだよね。なんでだろ』

 

「Amiaって学校のサボり過ぎだし、体育とか出てないでしょ。もしかしたら、運動不足かもよ」

 

『そんなに学校に行ってないけど、行った時は参加してるってば〜。少なくとも、Kよりは運動してると思う!』

 

「いやそれ、自慢にならないからね?」

 

 

 比較対象が低空飛行過ぎて、ハードルを飛び越えなくても良いぐらい、地面に埋まってしまっている。

 

 

『最近はあんまり外行ってないなぁ……必要なものは大体家でどうにかできるし。何か面白いことがあったら、外に行くんだけどなー』

 

「あったらって。それ、絶対に外に行かないじゃん。そういうのって行く理由を作るものでしょ。今度、一緒に服でも見に行く?」

 

『えっ、いいの? ……あぁでも、この前ビビッときた服を買って、そんなに余裕ないんだった。できればお金がそんなにかからない用事が嬉しいです』

 

「えぇ……我儘ねぇ」

 

 

 折角人が誘ったのに我儘を言うAmiaに対して、意外なことに反応したのはKだった。

 

 

『それなら、人形展のチケットいらない? 知り合いから貰ったんだけど、わたしは行かないと思うから』

 

『へぇ、人形展かぁ。それってアンティークドールとかあるのかな』

 

『えーと、うん、そうみたい』

 

『そっかそっか! 面白そうだし、どうせなら皆で行こうよ!』

 

 

 Amiaの提案にKが固まった。

 面白そうだから皆で、というのは良いと思うけれど、根本的な問題がある。

 

 

「Amia、まずはチケットが全員分あるかの確認が先でしょ。それでK、どうなの?」

 

『貰ったのは2枚だから2人だと思うけど……って、1枚で2人まで入れるんだ』

 

『バッチリ4人で行けるじゃーん♪ これも神様の思し召しってことで、皆で行こうよ!』

 

「私は合わせられるけど、勝手に決めて良いわけ? Kとか行かないと思うって言ってたじゃん」

 

『えー、でもボクは皆と行きたいんだけどなー』

 

 

 残念そうなAmiaの声を聞いて、私は少し考える。

 

 Kがどう考えているかわからないけれど、確かにこの人形展は仲を深める良い機会なのかもしれない。

 とはいえ、行く気のないKとどうでも良さそうな雪をどう乗り気にさせようか……いや、前のような建前ならいけるかもしれない。

 

 

「アウトプットにはインプットが必要だと言うし、作曲とか作詞のヒントに皆で行ってみない? 案外、楽しいとか別の発見もあるかもしれないしさ」

 

『……そう、だね。わたしは行こうと思う。雪はどうする?』

 

『塾とか予備校がない時間なら、どっちでもいい』

 

 

 実は乗り気だったのか、あっさりとKが行くことを決めてくれて、雪も消極的な是を返してくれた。

 そこから次の土曜日の昼から人形展に行くことになり、休憩を終えた私達はまた作業に戻る。

 

 

 

 

(今回の件でどうなるかはわからないけど……K達が何か、掴めたらいいな)

 

 





ちょうど次の投稿日がまふゆさんのお誕生日らしいので。
次回は話の続きのような、まふゆさん視点のお話を挟みます。
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