イラスト担当は記憶を無くしました   作:大森依織

56 / 254

ハッピーバースデー、まふゆさん。
お誕生日おめでとうございます。

というわけで、話の続きのようなそうでもないような、まふゆさん視点です。




56枚目 【朝比奈さん家のニゴぐるみ】

 

 

 

 明日はとうとう、人形展の日だ。

 

 朝は予備校に行って、お昼の時間までに待ち合わせ場所に直行。その後はニーゴの皆で人形展に行く予定である。

 何故か、絵名が遠足のしおりみたいな予定表を用意してたので、当日の行動予定は予習済みだ。*1

 

 夜に強い人間が多いのに昼間から集合するという理由で、今日のニーゴの活動は1時間も経たずに解散したから、睡眠時間の確保も万全。

 私も早く寝ようとベッドに潜り込み、明日に備えて目を閉じていた……が。

 

 

「……眠れない」

 

 

 2時間近く横になっても眠れないなんて、不思議なこともあるなと目を開く。

 目を閉じていても睡魔は襲ってくれないので、仕方なく体を起こした。

 

 机の上に置いていたスマホに手を伸ばし、いつもの曲をタップする。

 そこから光に包まれて、セカイに行ったはず──なのだが、ここでも予想外のことが起きた。

 

 

 

 

 

 

「なによ」

 

 

 どうして私の部屋の机の上に、手のひらサイズまで小さくなった絵名みたいなぬいぐるみがいるのだろうか。

 

 そもそも、セカイに行った私が自分の部屋に戻っている理由もわからない。

 デフォルメされた絵名のぬいぐるみが動いている上に、じとりとした目で睨んでくる理由も不明だ。

 

 自分だけじゃなくて、周りの状況すらもわからないシチュエーション。

 

 何事かと首を傾げていると、絵名のぬいぐるみは机から私の頭へ、ぴょんと飛び移ってきた。

 

 

「まふゆ、また寝てないんでしょ。もう、それなのにセカイに行こうとして。まふゆが行く場所はベッドでしょ! ほら、早く戻るわよ!」

 

 

 綿が詰まってそうな手でてしてしと私の頭を叩き、ベッドへ向かえと誘導される。

 言われるがままにベッドの中に潜り込めば、何故か温かいぬいぐるみの手が子供を宥めるように私の額に触れた。

 

 

「寝るまでそばにいてあげるから、早く寝なさいよね」

 

「……何故か眠れないから、セカイに行こうとしたのに」

 

「何故か眠れない、ねぇ。ふふ、あんたも可愛いところがあるじゃん」

 

 

 今の絵名はぬいぐるみなのにどこか意地悪に笑っているように見えたので、何となく顔を鷲掴みにした。

 

 絵名はぬいぐるみらしい小さな手をパタパタと動かして「離しなさいよ~っ」と抵抗しているが、ちっとも怖くない。

 むぎゅむぎゅ、ぎゅっぎゅと頭をこねくり回して口封じ。

 

 私が満足して解放した頃にはもう、絵名はベットの隅にぐったりと倒れており、くぅぅーっと変な唸り声を上げていた。

 

 

「ひ、酷い目にあった」

 

「絵名が悪いと思う」

 

「はいはい、私が悪うございましたー。これで満足したでしょ。ほら、さっさと寝なさいよ」

 

「……うん」

 

 

 絵名に言われなくても明日は予備校もあるのだ。寝なくてはいけないのはわかっている。

 

 あぁ、そうだ。お母さんにまだ人形展のことを伝えていなかったっけ。

 別にゲームセンターとか遊びに行くって話でもないし、大丈夫だと思うけど……反対されたらどうしようか。

 

 無理な時は皆に行けないって言えるのだろうか。何とか行けるように説得できるだろうか。

 

 グルグルと頭の中で考えてしまっていると、綿毛が詰まってそうな柔らかいものが、私の眉間を伸ばしてきた。

 

 

「絵名が寝ろって言ったのに邪魔するの?」

 

「あんたってば眉間に皺を刻み込んでるから、寝ようにも寝れないかなって思って」

 

「寝れるよ」

 

「本当かなぁ。今は最初とは違う理由で眠れなさそうだけど」

 

「違う理由?」

 

 

 それって何だろう?

 尋ねてみても、絵名は答えてくれなかった。

 

 それどころか「ちょっと待っててね」と言ってから、ベッドの下に潜っていってしまう。

 

 ……誰もいなくなったいつも通りの部屋なのに、何故か寒く感じる。

 肌寒い季節なんて終わった筈なのに、どうして寒いと感じてしまうのか。

 

 ベッドに寝ころんでいる体を三角座りの体勢に変えて、丸くなってみた。

 布団の中に潜っても胸の中の寒さは変わらなくて、モヤモヤする。

 

 

「あれ。あいつ、どこにいったの?」

 

「……もしかして、この布団の山がまふゆ?」

 

「おっ。確かに奏の言う通りかも! おーい、まふゆ~。鎖国してないで開国しようよ~♪」

 

「あっ、瑞希。まふゆが寝てるのなら、起こしに行くのは……」

 

「って言う割に、奏もくっ付いてるよね。私も飛び込んじゃお」

 

 

 軽い衝撃が3つ分。

 何事かと掛け布団から顔を出せば、絵名のぬいぐるみが別のぬいぐるみを2つ分、増殖させている。

 

 涼しげな白とピンクっぽい白の髪のぬいぐるみ。

 どこから連れてきたのやら、絵名の他に奏と瑞希のぬいぐるみが増えていた。

 

 

「……なにこれ」

 

「あはは! まふゆが困惑して固まってる! めっずらしー!」

 

「瑞希、あんた笑い過ぎよ」

 

「でも、ここまでわかりやすいのは初めてかも」

 

 

 私の体から3つの塊が落ちてきて、顔の横に並ぶ。

 

 瑞希は爆笑していて、絵名が呆れて、奏は1歩離れて微笑んでそうだ。

 ぬいぐるみなので顔はニコニコと笑っているだけなのだけど、なんとなくそんな感じがする。

 

 この中では、ぬいぐるみよりも人間である私の方が感情がわからないのではないのだろうか。

 ……だから、皆と違って私だけ人の姿なのかな。

 

 

「まふゆ、大丈夫だよ」

 

 

 私の心の中でも覗いていたのか、奏が私の頬に張り付いてくる。

 

 

「どうせ、自分だけ私達と違う理由とか考えてたんでしょ。今の状況って、そんなに深い理由なんてないからね」

 

「そうだねー。まふゆが人形展っていう言葉から、連想しただけだろうし」

 

 

 絵名がやれやれと言わんばかりの声音で、瑞希は楽しそうに言いながら、頭の上に乗ってきた。

 

 その言葉を聞いて、私は漸く今の状況を察した。

 

 

(これ、夢なんだ)

 

 

 ……夢だとわかったところで、私にできることなんてないのだけど。

 

 

「で、あんたはまだ寝ないの?」

 

「……夢の中で眠るなんて、変だよ」

 

 

 頭上で問いかけてくる絵名に答えてから、枕に頭を沈める。

 一向に眠くならないし、衝撃も感触もあるように感じたのに、目覚める気配もない。

 

 

(本当に、変な夢だな)

 

 

 よくよく考えれば、何も見えないぐらい真っ暗な部屋にいるはずなのに、絵名達の姿をはっきりと認識できる時点でおかしい。

 

 少し観察すればわかるのに、絵名達がぬいぐるみになっていたことですら受け入れそうになっていたのだから、本当に変な夢だ。

 

 横向きから仰向けへ寝返りを打てば、絵名と瑞希が「わーっ」と声を出してベッドの上を転がる。

 プリプリと苦情を訴えてくる2人を無視して、望み通り眠る為に目を閉じた。

 

 

「やっと目を閉じたわね、ゆっくり休みなさいよ」

 

「寝るまでボク達も一緒にいるからね」

 

「……そうだ、歌も歌おうか」

 

 

 3人の声が聞こえてくる。

 聞いていたら眠たくなりそうな奏の声が、夢の中でも私の眠りを誘う。

 

 奏の歌声に合わせるように奏では出ないような瑞希の声と、はっきりと聞こえる絵名の声も邪魔しないように混ざってきた。

 

 何も見えないし、そばにいるかもわからないのに、さっきの時みたいな胸の寒さは感じない。

 それどころか体も心もポカポカしているようで、軽かった瞼も重たくなってくる。

 

 

(夢の中で寝たら、どうなるんだろう)

 

 

 3人が歌っているだけなのに、どうしようもなく眠たくて、疑問について考えることすらできない。

 睡魔の誘いに抵抗せず、夢の中でありながらも私は意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 目を開くと、カーテンの隙間から薄っすらと光が漏れていた。

 目だけを移動させて時計を見れば、時刻は6時前を指している。

 

 

(少し早く起きたな……)

 

 

 2度寝ができるほど眠気もないのでベッドの上にいる理由もない。

 だが、時間的にまだお母さん達も寝ているだろうし、まだ部屋にいてもいい時間だ。

 

 なんとなくナイトコードを開いて、ニーゴのサーバーを見てみる。

 Kはいないようだが……人形展に行くのは昼からだと聞いていたのに、絵名と瑞希がボイチャで盛り上がっているようだ。

 

 どうして25時に集まって、すぐに解散したはずのメンバーが数時間後には集まっているのか。

 チャットの方に『朝から何で集まってるの?』と書き込み、2人の反応を待つ。

 

 絵名からはすぐに《おはよ》とだけ返って来て、瑞希の方は《おっはよ~。えななんと喋ってるよ! 雪もおいでよー》と見たらわかる事実が送られてくる。

 

 このまま書き込んでいても、望む答えは返ってきそうにない。

 打ち込んでいた文字を消して、私はボイスチャットに乱入した。

 

 

『わっ、Amiaが書き込んだら本当に来たんだけど』

 

『あはは。おっはよ〜、雪は寝起き?』

 

「おはよう。さっき起きたところ」

 

『じゃあビックリするよねー。実はボクもえななんがずっとボイチャにいたから、さっき入ったばかりなんだけどね!』

 

『はぁ!? 私のせいだって言うの!?』

 

『わー、こわーい。誰もそんなこと言ってないのになー』

 

 

 朝から賑やかである。音量を最低まで下げていて良かった。

 言い合う2人の音声を指標にして、イヤホンから音漏れしてないかも確認する。

 

 

(問題なさそう)

 

 

 絵名が隣にいれば即座に見抜いて、失礼な! と怒りそうなこと頭の片隅に追いやり、私はイヤホンを装着し直した。

 

 そこから2人としばらく話していると、あっという間に時間が溶けていく。

 

 

『雪はこの後、予備校だっけ?』

 

「……終わったらちゃんと、待ち合わせ場所にいくよ」

 

『そこは心配してないわよ。ま、顔色が悪いくらい無理してるのなら、問答無用で追い返すから。覚悟しなさいよね』

 

「うん。じゃあ、もう出るね」

 

『気をつけていってらっしゃーい!』

 

『あんたもほどほどに頑張りなさいよ』

 

 

 ボイチャから退出し、予備校用の服へと着替える。

 よくわからないけれど、ふわふわと浮いているような気分のまま、準備を進めた。

 

 

(このよくわからないのも、聞いたら見つけてくれるのかな)

 

 

 夢の中のぬいぐるみの時ですら、私の気持ちの違いをわかったらしい絵名だ。

 この何処か飛び立ってしまいそうな浮いた気持ちの名前も、答えてくれるかもしれない。

 

 

(ギュッて苦しくもないし、息もできる。たぶん、嫌なものじゃないんだろうな……なら、気にしなくても大丈夫)

 

 

 扉を開けば説得が待っているかもしれないけれど。

 

 それでも、不思議と夢の中のような『嫌な感じ』はどこにもなかった。

 

 

 

 

*1
とあるイラスト担当「あんたが『予定表とかないの?』って聞くからこっちは用意したんだけど!?」






ニゴぐるみのイメージ的には寝そべりぬいぐるみの寝そべってない状態、でしょうか。
原作よりも人形展にウキウキしてるまふゆさんでした。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。