イラスト担当は記憶を無くしました   作:大森依織

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全部で2話程度。
記憶喪失えななん視点の『走れ!体育祭!〜実行委員会は大忙し〜』です。
(ただし、えななんは実行委員じゃないので、すっ飛んでます)



60枚目 体育祭は今年もやってくる

 

 

 25時より少し前。

 鬼の居ぬ間に洗濯と言うべきか……丁度、雪だけがいない時間ができたので、私はこっそりとAmiaとKに相談していた。

 

 

「ねぇ。指定した日にピンポイントで風邪をひいて、翌日には元気になる方法を教えてくれない?」

 

『うーん、そうだなぁ……あっ、漫画みたいに氷風呂に入るとか、いけそうじゃない?』

 

「いけそうって……仮に氷風呂っていう、体張った芸人みたいなことをやったとしても。ただ寒い上に、体中痛い思いするだけで終わりそうなんだけど?」

 

『かもねぇ。でも、漫画でよく出てくる古典的な手法だから、いけるかなーって』

 

「ねぇAmia、現実と創作は違うのよ。ちゃんと区別しないと、人前で恥をかくのはAmiaだからね」

 

『えななんがどうしてもって言うから提案しただけなのに、どうしてボクは可哀想な人みたいに心配されてるのかなー?』

 

 

 それはそんなバカみたいな提案をしたAmiaが悪い……とは直接言わないけれど。

 こっちはあの学校では優等生様が来る前に、良い案を考えなければいけないのだ。戦力外のAmiaは頼れない。

 

 

「Kは何かない?」

 

『えっと、何日も徹夜するとか? いや、でもそれをする前に雪が止めそうだよね……』

 

 

 Kは一生懸命考えてくれているのは伝わってくるのだが、1人で呟いて1人で却下しているのでちょっと無理っぽい。

 

 いつも1番良い絵を描けるように体調管理をしてきた自分が憎く思う日がくるとは、予想もしていなかった展開だ。

 どのアイディアも前日に罰ゲームみたいなバカな行動をした後、体育祭にも行くことになりそうな夢物語ばかりで、私は奥歯を噛む。

 

 本当に何もないのかと紙に案を書き写していると、聞きたくなかった音が耳に木霊した。

 

 

『ごめん、遅くなった』

 

『お疲れ、雪』

 

『雪、おつかれ~。大丈夫だよー、今、えななんの体育祭不参加計画を考えていた所だし~』

 

「ちょ、Amia!?」

 

 

 雪がボイスチャットに入って来て、Kが言葉をかけるまでは良いとしても、その後が大変よろしくない。

 面白そうだとでも思ったのか、Amiaが平然と裏切ってきたのだ。私の口から悲鳴のような声が出てしまうのも当然だった。

 

 

『えななん、今年も嫌がってるの?』

 

「そもそも体育全般が苦手だし。できるなら開催してほしくないって思うのはタダでしょ」

 

『……確か、知り合いだっていう後輩の子。あの子や1年の子が今年の体育祭は去年とは違って、皆が楽しめるものにするんだって奮闘してるらしいけど』

 

 

 クラスの体育委員から聞いたという情報に、私の頭が該当者を探し出す。

 雪が知り合いだと知っていて、後輩といえば……該当人物はえむちゃん1人しかいない。

 

 確かに、宮女の体育祭はありふれたものだ。

 えむちゃんが知ったら、皆で楽しめるような体育祭にしたい! 的なことを言いだしてもおかしくなかった。

 

 

『折角、皆が楽しめる体育祭にしようとしているのに、先輩が不参加なのはその子もどう思うんだろうね?』

 

 

 淡々と、されど追い込むような言葉選びで雪は語りかけてくる。

 

 私の脳裏に浮かぶのは──いつも『わんだほーい』ってしてる子が、珍しくしょんぼりしてる顔。

 ……ずるくない? 私が悩むようなワードを並び立てて、追い込んでくるなんて卑怯だ。

 

 

『ずるいって、こうでも言わないとサボりそうだし』

 

「いや、怖いから。心読むような言葉を返さないでよ」

 

 

 実際にサボるつもりで相談してたぐらいなので、苦しい反論しか出てこない。

 そんな私に対して、雪は更に新情報を告げてきた。

 

 

『後、出場種目決めの時にえななんは病院で休んでたから、ちゃんと私と同じ種目にしておいた』

 

「……一応、種目を聞いてもいい?」

 

『学年混合二人三脚と学年対抗リレー』

 

「バッカじゃないの!?」

 

 

 私と雪の漫才のようなやり取りに爆笑するAmiaの声が聞こえてくる。

 ヤツにとっては他人事なので、目の前にいたらぶん投げたくなるぐらい楽しそうだ。

 

 ……まぁ、100歩譲って二人三脚はまだ良しとしよう。

 だけど、リレーって。私が1番選ばないであろうことはわかっているのに、リレーに選出するってどういうことだ。

 

 

「絶対にクラスの皆にも文句を言われたでしょ」

 

『別に。リレーに出たがるのは意外だ、とは言ってたけど』

 

「でしょうねぇ!!」

 

 

 クラスメイトよ、意外だと思ったのなら止めて欲しかった。

 

 私の渾身のツッコミに『ひ、ひーっ。しぬ、わらいしんじゃう』と机を叩くような音と共に死にかけているピンクのバカが1人。

 

 唯一静かだと思っていた我らがニーゴのリーダーはというと、ふと何かを思いついたように呟いた。

 

 

『自分と同じ種目に決めちゃうって、雪は随分と合理的なんだね』

 

「K、それってどういうこと?」

 

『えっと。てっきり、今年は途中で抜け出すことも許さないぐらい、付きっきりになるのかなって』

 

「はぁ!?」

 

 

 確かに同じ種目ならば雪の目を盗んで抜け出す……とか、難しいかもしれないけれども。

 

 

(ま、まさかぁ……そんなことはないよね?)

 

 

 一縷の望みで雪の言葉を待ってみたけれど。

 

 

『Kが言うなら、そうなのかな』

 

 

 残念なことに、私の耳には肯定の言葉しか入ってこなかった。

 

 こうして、私は病院に通院している間に今年もサボれないように道を塞がれたのだ。

 

 まずは現実逃避のためにも、簡単にできることから。

 ずっと笑ってひーひー言っているAmiaをセカイに呼び出して、懲らしめることから始めようか。

 

 Amiaから「八つ当たりだよーっ」とか言われそうだが、これは大爆笑バカの因果応報だ。

 ……途中でやめてれば許したのに、最後まで笑ってるヤツなんて絶対に許さない。それ相応の罰を受けさせてやる。

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 セカイに呼び出した猫舌の瑞希に熱々の料理を押し付け、逆襲を成し遂げた翌日。

 

 

(はぁ、やっぱりそう上手くはいかないか)

 

 

 結局、冷まして美味しく夜食を頂いた瑞希から「リレーが得意な子に話して、交換してもらったらいいじゃん」というアドバイスを貰って、動こうとしたものの。

 

 本日はなんとビックリ、事前練習日らしい。

 今更変更するのはちょっと、と渋られて誰も首を縦に振ってくれなかった。

 

 

「あー、どうしよ」

 

「絵名、残念だったね」

 

「おい張本人。その言葉、喧嘩売ってるでしょ!?」

 

「どうして?」

 

「いや、そこはわかりなさいよ!」

 

 

 心底不思議だと言わんばかりに、まふゆはポーカーフェイスのまま首を傾げる。

 いくら自分がわからないとはいえ、惚けすぎではないだろうか。

 

 不満を訴えるようにキッと睨んでみても、相手はどこ吹く風だ。

 何を考えているのかわからない顔のまま、まふゆはじっとこちらを見ている。

 

 

「奏の言葉、半分は間違いだったのかも」

 

「間違いって、どういうこと?」

 

「さぁ?」

 

「だーかーらー! なんで言ってる本人がわかってないのよ!?」

 

 

 お得意のわからないの変化球で流されている間にも、事前の合同練習が始まってしまう。

 まふゆもペアの子を探すためにサッと優等生の仮面をつけて、どこかに行ってしまった。

 

 

(あぁもう。タイミング悪いわねっ)

 

 

 そう思うものの、文句ばかりも言ってられない。

 確か、私のペアは1年B組の子だ。

 

 

「名前は、ええと……」

 

「すみません、貴女が2年の東雲先輩でしょうか?」

 

 

 きょろきょろと周りを見渡していると、不意に後ろから声をかけられる。

 振り返って声の主を確認すれば、私よりも10センチまではいかないものの、それに匹敵するぐらい高い女の子が微笑みかけていた。

 

 まふゆよりも更に高い身長なのに、おっとりとした雰囲気からなのか、空色のタレ目だからなのか。威圧感は全くない。

 パッツンと切られた前髪も可愛らしいし、ふわりと1つにまとめられた茶髪は私よりも柔らかくて明るい色なので、優しそうな印象を受ける。

 

 まふゆのような裏表はまだわからないものの、私の観察眼が『相手も優等生タイプ』と判定を下していた。

 

 勉強もできそうという印象は偏見かもしれないが、見たところ、運動神経は悪くなさそうだ。

 運動神経壊滅的な私のペアなら申し訳ないし、できればやる気のなさそうな人の方が気楽なんだけど……念の為に確認しようか。

 

 

「うん、私が東雲絵名だけど……もしかして、あなたが望月さん?」

 

「はい。二人三脚のペアになっている望月穂波です。よろしくお願いしますね」

 

 

 にっこりと笑ってる顔は、私の観察眼が正しければ本物の『優等生』だ。

 というか、これぐらい見抜けない笑顔であれば、おとなしく騙されてしまっても良いぐらい優しそうな顔である。

 

 これが強制優等生ではなく、真の優等生の姿……

 まふゆのように実は裏側がある優等生という可能性も捨てきれないものの、私の感想も大外れではないと思う。

 

 

「よろしくね、望月さん……といっても、私はよろしくできるほど運動神経が良くないし、望月さんに迷惑をかけちゃうだろうけど」

 

「そんなことないと思いますよ。二人三脚は歩調を合わせることが大事ですから。わたしが東雲先輩に合わせますね」

 

 

 胸の前にある右手をギュッと握り、頑張りましょうね、と微笑む望月さんは年下でありながらも落ち着いていた。

 

 

(同学年とかにも頼られそうな子だよね)

 

 

 年下の子に母性を感じる、というのも変な話なのだけど。

 大樹のような、チームの重心といえばいいのだろうか。

 

 目標を決めて、人を集めて引き連れるようなリーダーではない。

 しかし、彼女がいればチームプレイとかがあれば精神的にも安定しそうだ。

 

 

(まふゆに決められたけど、二人三脚についてはまだ大丈夫そうかな)

 

 

 1番の問題は学年対抗リレーだけど、今は二人三脚の方が大事だ。

 気を取り直して体育委員の子から紐を貰って元の場所に戻ると、望月さんが別の組を見つめていた。

 

 

「望月さん、どうしたの?」

 

「え? あっ、すみません。あっちにわたしのクラスメイトの子と、2年生の先輩がいたので気になっちゃって」

 

 

 望月さんが見ている方へと視線を向けると、ピンクと紫の髪が並んでいる。

 鳳えむと朝比奈まふゆという、二人三脚にて理論上最強タッグが組まれていた。

 

 

(なんであそこだけ二人三脚ガチ勢になってんの? あの組とは絶対に一緒に走りたくないわ。走ったら周りが漏れなくハイペースになって、私が死ぬ)

 

 

 えむちゃんもとんでもない身体能力持ちで、まふゆもビックリするぐらい運動神経が良い。

 

 誰がこのチーム分けをしたのか、問い詰めたいぐらい組み合わせたらヤバい2人組だ。

 鬼に金棒。勇者と魔王が手を組みましたと言わんばかりの、恐怖のタッグ。

 

 

(あれ、えむちゃん、顔色悪くない? もしかして……まふゆのことが怖いのかな)

 

 

 望月さんは何故か微笑ましそうな目で真っ青なえむちゃんのことを見ているけれど……えむちゃんが怖がっているように見えてしまうのは、気のせいではないはず。

 

 私だけが間違った解釈をしているのか、正しく認識しているのか。

 私の視線に気が付いたまふゆの目がこちらに向くので、口パクで何とか『怖がらせるな』と伝えてみたものの。

 

 こちらに手を振った時だけはえむちゃんの強張った顔も緩和したのに、すぐにえむちゃんの体が恐怖で跳ね上がった。

 

 

(ごめん、えむちゃん。物理的な害はないだろうし、強く生きて)

 

 

 こっちも練習しなくてはいけないし、と心の中に言い訳を添えて、私は怯えていたえむちゃんからそっと目を逸らした。

 

 

 





学年対抗リレーにまふゆさん強化パッチが追加されました。

これで遭遇済みでも名前を知らないベーシストが1名、すれ違い演出家が1名、未遭遇のカナリアが1名、全く遭遇してないスターが1名ですね。
ワンダショの未遭遇率があまりにも高過ぎますね……
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